器じゃない (31.01.2017)

2017年、欧州は選挙の年。オランダ、フランスの選挙は予定されていたが、政情不安によりイタリア、オーストリアでも総選挙になりかねない雲行きだ。ドイツでも例外ではなく、3月から地方選挙が始まり(予定では)9月に下院の選挙があり、新しい首相が就任する。もっとも本当に新しい首相が就任する可能性はあまり高く、同じ首相が新首相に就任する確立のほうが高い。

退屈な選挙戦になりそうな原因は、現在の連立政権にある。2大政党が連立政権を組んだため、政権は国会で日本の自民党並みの圧倒的な過半数を有している。結果、野党は政府が決定する政策の「聞き役」になり下がっており、政府の同意なくしては国会調査委員会も招集できない。これに加えてドイツの好景気。20年振りの低失業率を誇る今、政権の交代を望む市民の数は決して多くない。移民(難民)政策に満足していない国民は多いが、だからと言って日本のメデイアが主張しているような、トランプ氏を大統領に選んだ米国のような事態はドイツでは起こりにくい。幸か不幸かドイツには「過去の遺産」があり、右翼政党が大躍進して第一党になる可能性はゼロ。

結果、2017年の新政権も、これまで通りの二大政党による連立政権になる可能性が極めて高い。これでは緊張感のある選挙戦になるわけもない。唯一、選挙民の興味をそそるのは、「誰が首相候補に立候補するか。」という点になるのだが、メルケル首相が前人未到の4期目の首相就任を目指すのは、首相が立候補を正式に表明する前からはっきりしていた。結果、注目は名目上のSPDの首相候補に向けられた。何故、「名目上」なのか。それはSPDは連立政権を組んでから人気を無くす一方で、支持率がかろうじて20%のラインを死守しているからだ。連立政権で首相を出すなら最低でも36%程度の投票率を上げて第一党になる必要があるが、SPDの得票率が30%を超えたのは10年前の話で、今日では「兵度もが夢の跡」でしかない。

はじめから「勝ち目はない」とわかっていても、SPDの首相候補として立候補してみたいものだ。"Brexit"や米国の大統領選が示したように、「予想外の結果」が発生する可能性がある。もっともこの予想外の結果は通常、都合の悪い方向で起きることが多いものだ。にもかかわらず、SPDの党首であるガブリエル氏は首相候補として立候補すべく、氏よりも人気のある外務大臣をドイツの大統領に推すなど、滅多に見ることがない氏の戦略的な政治手腕を見せた。あとはEU議会大統領だったシュルツ氏を外務大臣に就任させれば、自然にガブリエル氏が首相候補になる筈だった。この目的でSPDは2017年1月から来るべき選挙戦の戦術について協議に入った。この協議の最後に、正式なSPDの首相候補が指名されることになっていた。

ガブリエル氏の思惑とは裏腹にSPDの支持率は低迷したまま、さらにガブリエル氏とメルケル首相の支持率の差は狭まるどころか、広がったまま。SPDの内部では、「次回も負け選挙。」というムードが広まり始めた。連立政権を組む政党の宿命だが、政権が成果を出すと、その成果は大きな政党、この場合ではメルケル首相率いるCDUの手柄になる。結果、弟分である政党、この場合ではSPDは支持率を落とし、次回の選挙では敗北を喫することになる。この悪循環を断つ方法は2つある。そのひとつは選挙前に連立政権を解約して、連立政権のパートナーにその責任を負わせる方法。かってFDPはシュミット首相と連立政権を組んでいたが、一方的に連立政権を解約、政権破綻の原因をシュミット首相の責任にすることに成功した。もっともこの方法が成功裏に行くには、政権の支持率が低迷していることが条件だ。政権の支持率が高い場合は、このような策略はブーメランとして帰ってくる。

残る方法は、連立政権と関係のない人物を首相候補として上げる方法だ。新しい顔を見た選挙民は、それが首相候補であれば、まずは好意的に評価する。これにはこの人物が、すでに政治の面で実績を挙げていることが条件だ。SPDにはそのような政治家は二人しかない。ハンブルクをCDUから奪取したショルツ州知事と、同じようにNRW州をCDUから奪取したクラフト女史だ。しかし後者は全国政治には興味を見せていないので、残る候補はショルツ氏のみだ。メデイアはショルツ氏が首相候補に名乗りを上げるか興味を持って動向を見守っていたが、同氏はまだ時期尚早と判断した。結果、ガブリエル氏が立候補して選挙で大敗北、大恥を晒すかどうかという点に絞られた。
          
他の政治家なら、それでも危険を犯して立候補していただろう。周囲を驚かせたことにガブリエル氏は首相候補への立候補を辞退、EU議会大統領だったシュルツ氏を首相候補に推すと発表した。記者会見で同氏は、「私が立候補しても勝ち目がないから。」と驚くほど正直にその動機を述べた。それだけでない。ガブリエル氏は党首の座をシュルツ氏に譲り、産業大臣から(外務大臣の大統領就任により)空席となる外務省に移ると発表した。国民の間では同氏が党首に任命する前から、「ガブリエル氏は首相の器じゃない。」と言われていた。氏が世論に合わせて、風見鶏のように意見、態度を換えるのがその理由だ。しかし同氏の今回の決断は、首相の器ではないけれど、潮時を見て客観的に判断を下す能力が備わっていることを示した。

白羽の矢を立てられたシュルツ氏だが、メルケル首相相手に勝つチャンスは高くない。仮にCDU/メルケル首相の人気を落とす事態が発生してSPDが人気を回復しても、支持率が30%までいけば御の字だ。しかし30%ではCDU/メルケル首相に勝てない。シュルツ氏が首相になる唯一の方法は、SPDが過去10年以上に渡って拒否してきた左翼政党、それに緑の党を加えた3党と連立政権を組む方法だ。左翼政党と緑の党はそれぞれ8~9%の得票率は固い。これにSPDの30%が加われば、ドイツの選挙システムでは下院での過半数を押さえることができる。しかし選挙前に「左翼政党との連立政権を目指す。」と公言すると、党内右派の支持率を失くす。そこでシュルツ氏は党内右派のご機嫌を取りながら、左翼政党との連立政権を視野に入れての選挙戦となる。この絶妙なバランスが取れるなら、シュルツ氏が首相になるのも可能かもしれない。
          


首相候補を断念したガブリエル氏。
589 (1)


SPDの希望を一身に担うシュルツ氏。
589 (2)

マイナス金利の功罪(18.01.2017)

2016年3月、欧州中央銀行(以降EZBと略)は歴史上初めて公定歩合を0%に下げると同時に、保険会社や銀行などがEZBにお金を預ける場合に採用される金利をマイナス0.4%に設定、さらなるマイナス金利の導入に踏み切った。日銀も、「マイナス金利はない。」とそのような政策を拒否していたのに、結局はマイナス金利を導入した。もっともマイナス0.1%という「低金利」なので、EZBに比べればその余波は小さい。

そもそもマイナス金利を導入する思惑は、「銀行はEZBに金をプールして(預けておく)おかないで、事業に融資すべきだ。」という点にあった。マイナス金利を払うくらいなら、銀行は客に金を貸して金利で儲け、社会にも金が出回って、経済活動が活性化するという希望的な観測から下された金利政策だった。ところが欧州の銀行の多くは、2007/8年の金融危機以来、未だに多額の借金(不良債権)を抱えている。しかるにEZBはこの根本的な問題を無視して、将来の金融危機に備えて自己資本率を上げるように銀行に条件を課した。結果、山のような不良債権を抱え、低い自己資本率で悩む銀行は、余剰金を投資に回さないで、自己資本率の改善に使った。マイナス金利を払いたくない銀行は、預金をEZBから引き下ろして銀行の金庫に保管した。まだ大きな金庫を持っていない銀行は、金庫の設置を検討している。毎年、0,4%もの金利を払うなら、数千万円かけて金庫を作ったほうが安い。

こうしてEZBの思惑とは異なり、企業融資の数は一向に改善しなかった。さらには公定歩合をゼロに設定することで、消費をてこ入れして、日本のようなデフレが定着しない事を期待した。しかしそんなに簡単にデフレ退治ができるなら、日本は20年近くもデフレに悩んでいない。実際、ドイツ国内のインフレは0.4%~0.5%にへばりついたままで、EZBの目標の2%には逆立ちしても到達しそうになかった。すでに公定歩合をゼロにして、金融機関に対してマイナス0.4%もの金利を設定していたEZBは、弾をすべて打ち尽くしてしまった。2007/8年の金融危機、それに続き発生したユーロ危機で果敢な金融政策を実施して危機を克服したEZBだが、今度ばかりはその金融政策が効果を発揮しなかった。これを象徴するのが定例の金融政策発表のコメントだ。EZBや日銀は「経済はゆっくりと回復している。」という表現を用い、その政策を正当化することに余念がないが、効果は一向に出ていない。

これがとりわけケチで知られるドイツ人には気に入らない。ドイツ人の大好きな貯金をしても、お金は一向に増えることがない。年金生活者なら、「物価が上昇しなくてすみやすい。」だが、これから年金をもらう世代にはたまったものではない。個人年金に加入しても保障金利は0.9%なので、これでは何年払っても年金の足しにはならない。国が「国民年金では足らないから、個人で年金に加入しないさい。」と推奨しているリースター年金(貯蓄型)も同じ金利を約束しているが、契約成立時に保険会社が取る高額な手数料(コミッション)を差し引くと、実質金利は0.42%になる。これではインフレ率よりも低く、貯蓄ではなく減蓄だ。投資型のリースター年金に加入している人は、高い手数料に加えて、保険会社が投資した株のパ-フォマンスが悪く、年金額がマイナスになっているケースさえある。その一方でEZBの国債買い上げ政策により、10年物の国債の金利さえもマイナス金利になり、ドイツ政府は国債保有者に払う利子を節約するばかりか、マイナス金利で15億ユーロという大金を稼いだ

ドイツには「目の上のたんこぶ」だが、ギリシャ、イタリア、ポルトガル、スペインなどの国では、EZBの金融政策は天の恵みだ。本来なら6~10%の金利を払わないと買ってもらえない国の10年物の国債が、なんと2%未満の金利で完売してしまう。国債が低金利で完売するので、政府は人気のない構造改革をする必要性を感じない。産業の競争率を高めるのに必要な社会保障のカット、増税、労働時間の延長(*1)、解雇条件の緩和などをやると、イタリア政府のように、選挙で負けて政権を失うからだ。こうしてEZBのマイナス金利は、もともと競争力がないために経済の成長率が低い国の政府が、何も対抗策を取らない様に背中を押す結果になってしまった。EZBは国債を買い上げることでこうした国の緊迫した財政事態を緩和、時間を稼いで、その間に構造改革を進めることを期待していたが、結果は正反対となった。マイナス金利は何ひとつとして、目的を果たさなかった。

ここで安値に悲鳴を上げた産油国が生産量をカットすると発表すると、原油価格はほぼ20%も上昇した。これが消費価格を押し上げて、2016年12月、ドイツでは1.7%という数年振りの高いインフレを記録した。EZBや日銀は決して認めないだろうが、EZBや日銀がゼロ金利、マイナス金利を導入しても退治できなかったデフレを、産油国が一気に解消してしまった。このままインフレ率が上昇して2%を突破すると、EZBは金利を上げなくてはならない。ドイツ人は貯金に利子がついて大喜びだが、イタリア、ポルトガル、スペインなどの国では国債の利率が上昇して、借金をするのが難しく(高く)なる。さらに公定歩合が上昇すればユーロが高くなり、ユーロ内で生産された商品は値段が高くなり競争力を失う。これが一番応えるのが、構造改革を怠ってきたイタリアだ。イタリアの国債がまた8~9%もの利率になると、すでに国内総生産の133%という借金の沼にはまっているイタリアは借金を返せなくなる。しかしイタリアはギリシャやポルトガルと違って経済規模が大き過ぎて、EUの金融支援では支えきれない。そうなるとまたユーロ危機、2.0の再来だ。だから前イタリア政府は構造改革を実施しようと国民投票を行ったが、国民はこれを拒否した。イタリア、そしてユーロは今後大きな試練に直面することになるだろう。
          
          
*1
日本では長時間労働が当たり前で、「世界中、どこも同じ。」と信じているが、欧州の事情は全く異なる。労働時間の延長と言っても、おフランスの労働者の労働時間は週35時間と、欧州の中でもとりわけ短い。日本と違って、欧州には残業がない、あるいは残業をしないので、この時間が本当の労働時間になる。当然、フランス産の製品は高くなる。高くてもルイビトンのバックなら売れるが、誰でも買うものではない。労働時間が38.5時間のドイツと比較すると、同じ製品でもフランス製は高くなる。さらにドイツでは派遣を(悪)利用して、労働賃金をダンピング、周辺国よりも安く生産できる。劣悪な労働環境で働いてる日本人が欧州に来たら、目からうろこだろう。

EZBの外壁に描かれた見事な落書き
588.jpg

Ach, Du Scheisse! (11.01.2017)

日本で語られているドイツの姿のほとんどは、「ドイツ伝説」に属するもので、現実(事実)とは関係ない。これはドイツだけに限ったものではなく、「オランダ伝説」というものもある。食事に招かれたら、食後のデザートに麻薬が出たとか、まことしなやかに語られている。個人的によく聞いたのは、「オランダには人よりも牛のほうが多い。」というオランダ伝説だ。調べてみるとオランダの人口は1700万人。牛の数は150万頭で毎年、増加中だ。ざっと見積もって10人に1頭の割合だ。伝説だけあって、事実とは大きくかけ離れてはいるが、牛がとても多い事は事実だ。ところが牛はミルク、これから製造するバターやチーズを提供してくれるだけではなく、糞も出す。それも150万頭の牛が。この糞だが、なんとオランダの隠れた輸出品で、最大のお客様はドイツだ。ドイツは毎年140万トンもの糞をオランダから輸入している。

「糞くらい自前で調達できないの?」と思われた方は鋭い。ドイツにも十分な家畜が居て、十分過ぎる糞を「生産」している。では何故、わざわざオランダから糞を輸入するのか。言うまでもない、"Made in Germany"は高く、オランダ産は安いからだ。オランダは小さい国土に多すぎる家畜が居るため、糞尿の処理に困っている。畑にまいても、まいても、文字通り掃いて捨てるほどある。アジアなら河川に垂れ流しだが、そこは環境保護の厳しい欧州、高い金を払って糞尿を回収してもらい、環境を汚染しないように処理される。ここに目をつけた賢い業者が、糞を販売する会社を作った。酪農家で糞尿がタンクが一杯になるとこの業者がトラックで回収、ドイツの農家まで無償でお届けするのだ。糞尿業者は回収に際して酪農家から料金を取るが、回収費用はオランダで糞尿処理をするよりも安いので、酪農家は高い金を払って処理施設に送らずに、この業者に依頼する。そしてドイツの農家は、高い金を払って糞を注文しなくても、このオランダ業者に頼めば無償で農家まで届けてくれる。まさにかゆいところに手が届くサービスだ。

ところがドイツの農家が畑に安い糞を大量に撒いたために、地下水が糞で、正確には"Nitrat"(硝酸塩)で汚染されてしまった。EUの規定では、1リットル当たり50ミリリットルを超える硝酸塩を含む飲料水は、健康に著しい害を及ぼすとされている。とりわけ妊娠中の母子への影響が危惧されている。そこで欧州議会は6~7年前にドイツ国内の地下水に含まれる硝酸塩の濃度を下げる措置を取るように要求した。しかしドイツ政府はこれを無視した。正確には要請は認識したものの、何も対策を取らなかった。結果、酪農家と農家の多い州では、飲み水の汚染区域と汚染度が広がる一方だ。デユッセルドルフが州都のNRW州では40%の地域が、Schleswig-Holstein州では50%が、そしてNiedersachsen州ではなんと60%にまで汚染地域が広がった。

ナイジェリアやブラジルで、地下資源採掘のために地下水が汚染されても、賄賂をもらっている政治家が何もしないのは理解できるが、ドイツ政府が何もしないのは何故だろう。ドイツでは例えば教育は州政府の管轄にある。すなわち州により教育基準が異なるので、州を超えて引越しすると、生徒が授業についていけないなどの問題が発生している。そこで中央政府が全国一致の教育基準を導入しようとすると、「管轄外のことに口を出すな。」と拒否反応に合う。憲法でそのように規定しているので、州政府が、「じゃ、変更しましょう。」と相槌を打ってくれない限り、何もできないのだ。地下水の汚染に関しても、新たな規制の導入には中央政府の妥協、もっとはっきり言えば、金を要求する。これを払いたくない中央政府は、金のかかる法改正、あるいは規制を後回しにする。これが理由で欧州委員会から改善を要求されているのに、6~7年も何も手を打たなかった。財政、税制改革を欧州委員会がギリシャ政府に対して何年も要求しているのに、一向に改革が進まないのと同じだ。

ところがギリシャと違ってドイツはお金持ち。罰金を課しても、これが十分に払える。そこでEU委員会はドイツは地下水汚染の改善を惰っているとして欧州裁判所に訴えた。欧州内最大の農業国、フランスも同様の罪状で欧州裁判所に訴えられて、裁判で負けた。その罰金がなんと30億ユーロ。フランス人の誇りであるおフランス産の航空母艦、"Charles de Gaulle"の建造費用が30~35億ユーロと言われているので、ほぼ空母が一隻買えるほどの高額な罰金だった。ドイツに対しても同額、あるいおはそれ以上の罰金が課せられる可能が高く、中央政府はまた頭痛の種を抱え込むことになった。そんな罰金を払うなら、州政府に補助金という名目で金を与えていれば、州政府は二つ返事で改革に了解していただろう。その金を惜しんだばかりに30億ユーロの罰金+州政府へのお布施を払うことになりそうだ。

もっとも汚染された水を飲んでいるこれからの州の住民は、この処置を歓迎している。州政府、あるいは中央政府はEU委員会がドイツを訴えて、罰金で脅さない限り、何もしないからだ。しかしこれで水質が改善される見通しがついた。これが欧州連合の利点のひとつだ。日本では「放射能汚染による危険はない。」と国が言えば、もう何もすることはできない。裁判所も国の見方に追従するので、不正が正されることはない。しかし欧州連合では、加盟国政府の権限が及ばないEU委員会とEU裁判所があり、不正があるとここで裁かれる。(排ガス規制のように、欧州議会でこの不正をカバー(隠す)ような決定がされない限り。)欧州連合には欠点も多いのが、利点もちゃんとある。
          

輸入物、それとも国産?
587.jpg



エア ベルリン解体 (30.12.2016)

日本人は良きも悪しきもハワイが大好き。ドイツ人にとってのハワイは"Mallorca"で、毎年400万人を超えるドイツ人がこの地中海の小さな島を訪れている。ハワイを訪れる日本人は年間600万人を超えるが、日本の人口はドイツの1.5倍。人口比で計算すると、同じ割合になる。ドイツ人はマヨルカ島にほれ込んでおり、「マヨルカ島を買い取って、17番目のドイツの州にするべきだ。」と国会議員が言い出したほどだ。もっともスペイン政府からの抗議でこの話は終焉を迎えたが、それほどまでにドイツ人が大好きな島だ。

旅行代理店なり、航空会社を運営するなら、マヨルカ島は外せない。そこでちっぽけな会社が飛行機をレンタルして、マヨルカ島へのフライトを飛ばし始めたのがエアベルリンの誕生だ。この路線は日本の航空会社のハワイ路線同様に、航空会社にとってドル箱路線で、この小さな航空会社は少ないながらも着実に黒字を出して、次第に航空機の数と路線を増やしていった。これがドイツ第二の航空会社、エア ベルリンの誕生話で、この路線はエアベルリンのルーツ、かつドル箱路線だ。ところが12月初頭、エアベルリンはこの路線を放棄すると発表した。正確には、先月ここで紹介した"Tuifly"との取引の一環で、マヨルカ島への離発着件を"Tiifly"、および親会社のエチアドに売却する。エアベルリンはその売却代金として、請求書を払うのに必要な3億ユーロを手中にした。

すでに自社で保有していた航空機をすべて売却した上、今度はドル箱路線の叩き売りが始まった。どれだけエアベルインが破産の瀬戸際であえいでいるのか、直接、会社の帳簿をみなくてもよくわかる。翌週には、ルフトハンザが目の上のたんこぶであり、エアベルりンの親会社であるエチアド航空と共同運航便を飛ばすと発表した。日本で言えば、全日空と日本航空が共同運航便を飛ばすという事実に、航空業界は大いに戸惑った。一体、ルフトハンザは何が目的で、ライバルのエチアドと同盟を組むことにしたのだろうか。

そうこうするうちに、エチアド航空で社長の交代が明らかになった。新しく社長に就任するのは、倒産するまでスイス航空で働いていたスイス人だ。前社長は万年赤字のアリタリアとエアベルリンの筆頭株主になることを決定、エチアドに巨額の損益をもたらした。これが株主であるアラブ首長国連邦のお気に召さず、今回の交代になった。新しい社長のBaumgartner氏の就任により、これまでのエチアド航空の経営方針の変更が予想されたが、その変更はすぐにやってきた。2年前、会社の再生を使命としてエア ベルリンの社長に就任したPichler氏は首になり、新しい社長が就任することになった。このニュースが伝わるや否や、エアベルリンの株は一気に20%も急上昇した。

というのも、新しい社長はルフトハンザのマネージャーで、"Germanwings"のミュンヘン支部長であるWinkelmann氏が就任すると報道されたからだ。エア ベルリンが航空機を乗務員ごとルフトハンザにリース、ルフトハンザとエチアドとの共同運航便、そして今回は競争相手の会社のマネージャーが、エア ベルリンの社長に就任する。これが意味するのはただひとつ。エア ベルリンのルフトハンザへの売却だ。これが原因で、株価は一気に高騰した。その後の報道で、エチアドの新社長はエア ベルリンの社長探しで、ルフトハンザに相談したことが明らかになった。ルフトハンザはジャーマンウイングスのミュンヘン支部長を薦め、ヴィンケルマン氏も、「もし駄目だったら、ルフトハンザに戻ってこれるから。」という保障をもらって、この大任を引き受けた。

格安航空会社の乱立、戦国時代が終わったドイツでは、定期便を飛ばしているドイツの航空会社と言えば、ルフトハンザとエア ベルリンしかない。そのエア ベルリンがルフトハンザに買収されると、ルフトハンザがドイツの空を文字通り、独占することになる。通例ではそのような買収は、寡占局が禁止する。しかし禁止すると、エア ベルリンの倒産は避けられず、数千人が職を失う。このため寡占局は、歯軋りしながらも、この買収を"abwinken"(もういいよ!と手を振る。)と推測された。これでエア ベルリンの長い歴史に終止符が打たれるかと思われた。しかし買収には大きな障害がある。エア ベルリンは銀行や投資家に10億ユーロもの借金がある。この借金額はエア ベルリンの資産価値を大きく超える。ルフトハンザが10億ユーロもの借金を引き継ぐわけもなく、この点でエチアドとルフトハンザの長い交渉になりそうだ。これを知ってか、急上昇したエアベルリンの株価は、翌日からまた落下に転じている。
          

エア ベルリンを首になったPichler氏。
586.jpg



"Totgesagte leben länger." (21.12.2016)

"Galileo"(ガリレオ)をまだ覚えているだろうか。イタリア人ではなく、EUのナビゲーションシステムの方だ。当初は2008年に稼働する予定だったが、10年近く前にここで紹介したときは、2012年からの稼働(目標)に変更された。日本軍の言う「撤退」ではなく、「方向転換」というやり方だ。その後、こっそり2014年稼働に修正された。しかし2014年が過ぎてもガリレオが稼働しないまま、1年、また1年と過ぎていき、誰もが忘れていた2016年12月15日、ESA(欧州宇宙機関)はガリレオの稼働開始を誇らしく宣言した。

と言えば、「やっと完成したか。」と思いそうだが、そうでもない。これまで18の衛星が打ち上げられたが、4つは軌道を外れており、本来の軌道に修正しなくてはならない。もうひとつは故障して作動しておらず、さらに2つの衛星は軌道を大きく外れてしまっており、修正不可能。地球を回る高価なゴミと化してる。ガリレオが稼働するには27の衛星が必要なのだが、現在使える衛星の数が少なすぎてナビゲーションには使用できない状態だ。健全な思考回路を持つ人間なら、「じゃ、何故稼働開始を宣言したの?」と聞きたくなる。

米国のGPSシステム、ロシアのGLONASS、中国のBeidouと異なり、欧州宇宙機関の衛星ナビゲーションは民間での使用を主要目的としている。すなわちガリレオを使用してもらって、使用料を取ることで儲けを出して黒字になるというプランだ。ところが計画よりも10年も遅れて未だに完成していないのでは、どの会社もそようなシステムを利用するのにおよび腰になる。いつ、本当に使えるようになるかわからないシステムに先行投資する会社はないからだ。そこでまだ完成もしていないのに、「稼働を開始した。」と宣言、金を払ってくれる客を取り込もうと考えた。もっとも、「使えるのは3年先です。」ではお話にならない。そこでナビゲーションに足りない衛星は、GPSのシグナルを使用することにした。すなわち半数近くはGPSのシグナルを使用しているのに、「ガリレオは稼働を開始した。」と宣言したわけだ。

ESAによれば、2020年までには30の衛星、それも独自の衛星が軌道に乗って、本当に稼働を開始する(予定だ)。これが本当に稼働を始めると、GPSと異なり、海上や飛行中でもナビゲーションが利用できることになるうえ、GPSはメートル(正確にはフィート)で計測するが、ガリレオは"cm"単位で計測するので、遭難時の緊急信号から正確に遭難場所を突き止めることが可能になる(そうだ)。これを利用して、自動車が事故の際に自動で緊急信号を発する機能も可能になる。そして今、自動車業界は言うに及ばず、アップルからグーグルまで買い開発にやっきになっている車の無人運転機能も、正確なナビゲーションにより現実に近くなる。そして言うまでもなく、軍隊は敵、それに我の位置を正確に把握できるので、軍事作戦上優位に立てる。ESAはこれまではGPSを利用している各国の軍からの依頼を期待している。

制限はあるものの、ガリレオはシグナルの発信を開始したので、ガリレヲのシグナルを受信できるチップを搭載している携帯電話は、そのサービスを無償で利用することができる。面白いことにここでも先見の明を発揮したのは中国(と台湾)の企業で、"Huwaei"、"HTC"、"One Plus"等の会社の最新の携帯電話は、ガリレヲのシグナルをキャッチできる。このシグナルを車のナビゲーションで利用したい場合、信号をキャッチできるチップが搭載されていることが条件になる。ナビゲーションを新調される場合は、ナビがガリレヲに適応しているかどうか、販売員、販売店にお尋ねください。

           

今度はうまくいくらしらん。
585.jpg