Kraft(力)及ばず (29.05.2017)

5月14日、デユッセルドルフが州都のノルトライン ヴェストファーレン州(以後、NRWと略)で州選挙があった。この州にはドイツの全人口のほぼ1/4が住んでいるので、「小さな全国選挙」とも呼ばれ、9月に行われる全国選挙の指針となる大事な選挙だ。

ドイツの地方政治をご存じない方がほんどだろうから、かいつまんで解説しておこう。この州は元来、社会民主党(以降SPDと略)の地盤であった。理由は日本でも歴史の時間に習うルール工業地帯だ。ここで採掘される石炭を利用して、クルップを筆頭にドイツの軍需産業が栄えた。戦後、軍需産業は下火になったが、鉄鋼業で沸いた。労働者の支援を受けたSPDは、他の州から大きな会社がNRWに進出してくるのを阻止して、労働者は鉄鋼業で従事するしか他に選択肢がないという環境を作り上げた。たくさん企業が出てくると労働者の取り合いになり、賃金が上昇するのを妨げるのが目的だ。ところが石炭と鉄鋼が下火になると、他の産業がないのでこの州は大不況に見舞われた。デユーイスブルク、ボッフム、オーバーハウゼンなどはゲットー化が進み、ドルトムント、エッセンもこの波に飲み込まれつつある。州政府、すなわちSPDはやっと過ちを悟って大企業を誘致しようとしたが、大企業はこの州にまだあった工場を閉鎖、東ヨーロッパに工場を移転、産業の空洞化が止まらない。

不況に対して一向に効果的な手段を見出せないSPDに愛想を尽かした選挙民は12年前、CDUに鞍替え、30年ぶりのCDU政権が誕生した。ところが政権は変わっても、不況に対して打つ手なし。4年後には選挙民に愛想をつかされて、政権は再びSPDに戻ってきた。もっともSPDは緑の党とあわせても過半数に達しないため、議案を議決するには左翼政党のご好意にすがる形だったが、それでもなんとか政権の奪取に成功した。ここで州知事に就任したのがクラフト女史で、緑の党の代表も女性だったので、「女性パワーでNRWを改善させる。」と約束した。クラフト女史にとって幸運だったのは、リーマンショックが巻き起こした不況が底を打って、女史が政権を獲得すると景気がゆっくりと回復を始めたことだ。選挙民はこれを女性パワーのお陰と感謝、2012年の州選挙ではSPDは緑の党と合わせて過半数を獲得した。選挙で勝利したクラフト女史は将来の首相候補と持ち上げられて、党首代理という立派な役職までもらった。

NRW州は過去の負の遺産に加えて、他の州よりも高い企業税、複雑怪奇な規制で悪名高い。ドイツで会社なり工場を作るなら、人件費と土地が安い東に行けば、細かい規制で悩まされず、税率も低いので会社に残る金(儲けが)大きくなる。東が嫌なら、インフラが整備されているヘッセン州、BW州、ニーダーザクセン州など選択肢は多い。SPDは州議会で過半数を制しているのでこうした点の改革に着手すべきだったが、緑の党との約束もあって、ほとんど手付かずの状態だった。お陰でNRWは好景気に沸くドイツでも、ブレーメンなどと同じく、景気の波に乗り損ねた州のひとつと化した。さらに間の悪いことに2015年12月31日にケルンで女性が移民に大量に襲われる事件が発生した。にもかかわらずケルンの警察署長は、「のんびりとした年越しでした。」と発表、この一件をもみ消そうとした。ドイツのメデイアはこれを信用せず、独自の取材で正反対を証明するとケルンの警察署長は、「事実隠蔽」の罪をひとりでかぶって辞任した。

この事件の一抹で、「NRW州の内務大臣、イエーガー氏が事件をふせるように警察署長に指示を出した。」と周囲で語られた。事件後に開かれた調査委員会でイエーガー氏は、「知りません、覚えていません。」で逃げおおせたが、州知事はこの時点で同氏を、メルケル首相がやるように首にすべきだった。2016年12月にベルリンでチュニジア人よるテロが発生、12名が犠牲になった。事件が起きた当初から、「何故、警察はテロを止められなかったのか。」と警察の対応が問題になった。というのもテロリストのアムリはNRW州で難民申請を出していたが、これを拒否されて強制帰国するべく警察に収容されていた。しかしアムリはパスポートを破棄しており、警察は「チュニジア政府がパスポートの再発行をしてくれない。」と、アムリを釈放してしまったのだ。警察は、「拘束期間が90日までしか認められていないから。」と正当防衛したが、強制送還者の身柄拘束期間は裁判所に申請すれば90日以上に延期できるのだ。しかしその手間を惜しんで、アムリを釈放した。

しかし警察は引き続きアムリを監視していた。チュニジア政府から、「アムリはテロリストである。」との報告が来ていたからだ。ところがアムリを監視していた警察は、アムリがラマダンを無視して平気で食事を取り、酒も日常飲んでいるので、「イスラムの戒律を守っていないから、テロリストではない。」と判断、アムリが、「準備が出来た。いよいよ妹と結婚する。」というメッセージを送ったことまで把握していたのに、何も処置を取らなかった。その挙句がベルリンで発生したテロで、12名の市民、観光客が犠牲になった。「何故、収容期間の延長をしなかったのか。」と聞かれたNRW州の内務大臣、イエーガー氏は、「知らなかった。落ち度はなかった。」と保身に尽くした。クラフト州知事は遅くてもこの時点で役に立たない内務大臣を首にすべきだったが、これをしなかった。同氏を首にすることで、間接的に落ち度を認めることを心配した。それに選挙戦も始まっている。5ヶ月もすれば新政府を組むので、その際に内務大臣をすりかえればいいと楽観した。

クラフト女史の対立候補はCDUのラシェット氏で、「パットしない。」という言葉がぴったり当てはまる政治家だった。女史は4年前に同氏を蹴散らして勝利しており、今回も楽勝になる筈だった。ところがNRW州の前にあった州選挙ではCDUが躍進、西で州をSPDから奪取した。半年前は世論で快適なリードを保持していたクラフト女史だったが、選挙前になると風向きが変わり、ラシェット氏が世論調査で並ぶまで迫ってきた。クラフト女史の人気は(まだ)高かったので、このSPDの不調の原因は他の箇所、例えば内務大臣にありそうだったが、今更、何もできなかった。18時に選挙速報が出ると、明暗がはっきりわかれた。SPDは過去最低の31%にまで投票率を落とし、CDUが33%獲得して第一党に躍進した。クラフト女史は過去8年間のツケが回ってきたことを悟って、党のすべての役職から辞任した。「女性パワー」という言葉は響きが良かったが、構造改革を怠って経済発展から取り残されたこと、安全対策を一度ならず二度までも怠った知事を市民は許さなかった。


雪辱を返して、笑いが止まらないラシェット氏。
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シリア難民? (08.05.2017)

2016年8月、シュトットガルトでスリにお財布を摺られた中国人観光客(ドイツの駅、空港はスリの仕事場。)、届けを出そうと警察に行ったが、英語もドイツ語もできず、伝えたいことを伝えられなかった。それで済めばまだ良かったのに、警察官はこの中国人を勝手に難民と判断して、難民の収容施設に連れて行った。ここで読めないドイツ語で書かれた書類に「サインしろ。」と言われ、サインをするとドルトムントに移送され、ここにある難民キャンプに収容された。シリア人に囲まれた生活を余儀なくされた中国人は、「難民じゃない。」と言い続けたが、誰も彼の言葉を理解できる者はいなかった。携帯のアップを利用して中国語をドイツ語に翻訳したが、支離滅裂なドイツ語であったため、ドイツ人には理解できなかった。

難民キャンプで働くドイツ人は、それでも何かおかしいと思ったらしい。2週間後(2週間もかかるのだから凄い)、近くにある中国レストランからマンダリンを話す中国人が通訳として連れてこられた。この中国人に、「財布の盗難を届けにいったら、ここに連れてこられた。」と陳情して、頭の回転の遅いドイツの官僚にもこの中国人は難民でないことがやっと理解できた。彼が提示した中国のパスポートを見ればおかしいとわかるものだろうが、そこはドイツの官僚。考えるのが仕事ではなく、手引書にしたがって処理をするのが仕事なので、機嫌の悪いロボットのように行動する。哀れな中国人、財布を盗まれた上、外出も許されない難民収容所に2週間も軟禁される羽目になった

2017年1月、ウイーンの空港の男性用トイレのお掃除をしていた女性は、容器の裏に隠されている拳銃を発見、空港警察に通報した。警察が拳銃を調べると、7.65mmの古い拳銃であるが、実弾が装填されていた。警察は「持ち主」が拳銃を取りに来ると判断、トイレに監視カメラを備え付けると持ち主が現れるのを待っていた。2月初頭、容器に隠している拳銃を取り出そうとしたドイツ人、拳銃を手にする前に警察に逮捕された。ドイツ人は言い訳がうまい。このドイツ人も例外ではなく、「拳銃は拾ったもの。」と言い張った。空港の安全チェック、あるいはその後で拳銃が見つかると刑法違反になるが、安全チェックの前なので武器の所持を定めた法律には違反しているが、逮捕する理由にはならず、身元だけチェックされるとこのドイツ人は釈放され、ドイツに帰っていった。勿論、拳銃は警察が没収した。

オーストリアの警察から事件の通告を受けたドイツの検察が動き始めたが、このドイツ人はドイツ軍の将校だった。そこでまずは軍の警察、正確には軍の諜報機関、"das Militärischen Abschirmdienstes"(通称MAD)が最初に尋問をする権利がある。しかしドイツ人は嘘がウマイ。この将校はプロの尋問官も質問も巧みにかわした。MADは、「問題なし。さらなる調査は必要なし。」と判断して、この一件は一件落着になる筈だった。そうならなかったのは、ドイツの検察庁(BKA)のお陰だ。検察は軍と違って空港で実弾の入っていた拳銃を所持していたことを「危険大」と判断、その裏に何があったのか、このドイツ軍将校の周辺を探り始めた。その調査結果があまりにも「由々しき事態」だったため、バイエルン州の駐屯地で格闘戦の特別訓練を受けてるこの将校を逮捕した。そしてこの一件の調査は、容疑者の住むフランクフルトの検察ではなく、カールスルーエにあるテロ専門の検察に移った。

これまで公開された情報によると、この将校は2016年、バイエルン州で難民申請を出した。アレポで果物商だったという御伽噺を、ドイツの官僚は不思議に思わなかった。シリアで果物商を商っていた商人が、アラブを一切話さずドイツ語とフランス語しかできないこと、どうみてもシア人ではなくドイツ人であることは、目をつぶった。官僚は考えることで雇われているわけでない。そして外人局はこの話を信用して難民申請を認可、ドイツ人将校はシリア難民として毎月、生活保護金が支払われることになった。ドイツ軍将校はこの難民ステータスを利用して、難民を受け入れた政治家を対ターゲットにしたテロを行い、これを難民の責任にすることが狙いだった。容疑者の自宅を捜査した警察は、テロの目標に数人の政治家があがっていたと発表した。

この一抹を聞かされた国防大臣と内務大臣は大いに怒った。国防大臣は、「ドイツ軍の将校全体がなっとらん!」と十把ひとからげにしてドイツ軍の上層部を非難、数日後、「そういう意味ではなかった。」と弁解する羽目になったほど、憤慨していた。というのもこのテロ未遂が発覚する前、ドイツ軍内部で新兵に対するいじめが多数発覚していた。しかし軍の上層部はこれに一向に処置をとらず、誰も処罰していなかった。国防大臣はメデイアからこれを知らされて、担当の将軍を首にしたばかりだったのだ。そして内務大臣は、問題の将校の難民申請を許可した役人と、この役人を補佐する役目で雇われていた通訳を即刻、首にした。このアラビア語の通訳、一体、何を通訳したのだろう。自称、シリア人がアラビア語が理解できないのもわからなかったのだろうか。謎は深まるばかりだ。そのような事態を察知すべき軍の諜報機関は全く役に立たず、テロが防げたのはウイーン空港で便所掃除をしていた女性のお陰だ。彼女が掃除を手抜きして拳銃を発見しなかったら、この将校は計画を実行に移していたかもしれない。ドイツ政府は「金の時計」をこの女性に送るべきだ。

もっともこの事件は、利点もある。滞在ビザの延長でトラブルになる方も多いが、そんな場合は外人局で難民の申請を上げればいい。この事件でわかるように、役人は「難民じゃない。」とわかっていても、その場で申請を拒絶する権利がない。申請を上げると、数ヶ月~半年後に難民局でアポイントを指定されるので、ここで身の上話をする。アレポで果物商をしていたと言えばいい。アラビア語が話せない?そんな心配は要らない。アラビアが語が離せない中国人やドイツ人だって難民で通ったのだから、日本人だって難民で通る。あとは生活保護をもらって、留学資金の足しにすればいい。こんなことができるのも、世界広しと言えドイツくらいだろう。


軍は右翼の宝庫?
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"Fake News" (26.04.2017)

ネットは"Fake News"の宝庫。褒めてもらいたい一心で、日々掲示板をチェック、まるで見てきたかのように真っ赤な嘘を書き込む程度から、政治的な事件を歪曲、自分の目標に利用する悪意に満ちた嘘がある。いい例がフランスの右翼政党で、フランスでテロが起きるたびに、「難民を送り返せ!」と叫んで、支持率を延ばしている。しかしフランスでテロを行っているのは、フランスのパスポートを所有しているフランス人なのだ。しかし一般市民はそんな「些細な点」まで注意しない。「難民が悪い。」と繰り返し言われると、「難民が悪い。」と考える。結果、「テロリストは全部、フランス人じゃないか。難民は関係ない。」という真実を伝え声はかき消され、ポプリスト(大衆の低い欲求に訴える輩)が政権を獲得することが可能になる。

もっとひどいのはテロリストの犯行声明を、ご丁寧に解説まで付けて報道している報道機関だ。日本ではテロリストの犯行声明を、まるでお金をもらっているかのように全文報道する。これではまるでテロ組織の宣伝機関だ。これをまだ人生経験のない若者が見ると洗脳されてしまう。このため西欧では、「テロ組織の犯行声明は報道しない。」という暗黙のルールがある。メデイアはテロの宣伝道具ではなく、権力を監視するのが役目があるという根本的な考えがあるからだ。

ところがFacebookを筆頭に、ネットはそのような規制を全く放棄している。投稿内容が真っ赤な嘘でも、これが人気になると訪問者の数が増え、宣伝をクリックしてくれる。それどころか投稿内容がひどい程、訪問者が増えて広告収入が増す。これが理由で、嘘や非難中傷でも消去しない。そのいい例が、ドルトムントのサッカーチームのバスを狙った爆破事件だ。ドイツでは、「現場でイスラム教を示唆する犯行声明が見つかった。犯行と関係があるか調査中。」と報道された。ところが日本では、「現場でISの犯行声明分が見つかった。」と報道した。真偽のほどがわかっていないのに、読者をたくさん引きつけて宣伝をクリックしてもらいたいために、各誌、センセーショナルな書き方にしのぎを削った。ひどい新聞社は、「サッカー選手はISの抹殺リストに上がっていた。」と報道、ISのスポークスマンに成り下がっていた。

この事件後、 爆破事件の標的となったサッカーチームの事務所に、無名の垂れ込みがあった。「ある人物が"BVB-Dortmund"の株価の下落に賭けている。」という内容だった。チームの事務所はこのヒントを警察に通報、警察はそのような賭け証券、"Put-Option"が扱われる"Terminmarkt"で、事件の前後にそのような賭けが出されているか調査した。すると事件のすぐ後に、証券専用のネット銀行、"Comdirekt"の顧客がそのような証券を1500も買っていたことが判明した。買主は28歳のロシア系ドイツ人のセルゲイ。買い注文が出されたIPアドレスを調べてみると、このオーダーは事件後、"BVB-Dortmund"チームが宿泊しているホテルから出されていた。そしてセルゲイもこの同じホテルに泊まっていた。そればかりか犯行現場を見渡せる部屋をレセプションに要求、当初予約されていた部屋がこの要求を満たさないとわかると、この変更現場が見える部屋に変えていた事も判明した。

これだけ状況証拠が整うと、警察は容疑者を数日に渡って監視した。日常の生活を観察して、交友関係を把握、どこで爆発物を手に入れたのか、どこで爆発物を組み立てのか、犯人の自供を待つまでもなく、警察の捜査で証拠固めをするためだ。そして十分な証拠が揃ったと判明すると、テロ対策の特殊部隊GSG9に容疑者の身柄を確保する命令が下った。テロ対策の特殊部隊に遭っては素人の身柄確保などは子供の手をひねるようなもので、セルゲイはいとも簡単に身柄を確保されしまった。

大学病院に勤める電気系技師の彼は、この"Put-Option"を買うために、サラ金で4万ユーロ借金をして、この証券を購入した。自作の爆弾で選手が死ねば、株価が激落して大儲けできる筈だった。ところが株価は一時下落したが、その後、上昇に転じた。哀れなセルゲイ。セルゲイが刑期を終えて出てくる頃には、購入した証券は紙くずになっているだろう。これに加えてサッカーチームからの損害賠償の訴えも舞い込んで来るだろうから、セルゲイは28歳の若さで人生を棒に振った。もっともこのロシア系ドイツ人、ホテルの部屋から設置していた爆弾を遠隔操作で爆破すると、ステーキを注文して爆破の成功を祝っていたと言うから、自業自得だろう。

この事件の報道が示したように、日本の報道機関は平気で推測で記事を書く。記事の末尾に、「ISの犯行か。」と「か」で終わらせることで、「主張をしているわけではありません。」と責任逃れする。これを読んだ読者は、同紙で事件の結末(真相)を知るこはないから、これを信じてしまう。こうして間違ったドイツ観が埋め込まれる。こうして出来上がったドイツ感で、掲示板などに書き込んでいるのだから、現実とほど遠い内容になっている。事実を知りたい方は、日本語で検索するのではなく、ドイツならドイツ語で検索して、ドイツのトップメデイアの報道を読んでください。


標的になったチームバス。
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"fette Beute" (19.04.2017)

ベルリンの博物館島でセンセーショナルな盗難事件があった。盗まれたのはカナダ鋳造局が作成した"Big Maple Leaf"という(当時は)世界最大の金貨だ。99%以上の純度の金を使用しており、額面は「たったの」70万カナダドルだが、金の価格が上昇して時価370万ユーロ。世界で最も高価な金貨だ。個人の収集家が所有しているこの金貨は、博物館にリースされて展示されていた。

博物館を訪れたことがある人は、すぐ横を電車が走っているのを見たことがあるだろう。泥棒はこの地の利を利用して、線路から階段を使って博物館に侵入した。犯人は展示ケースのガラスを斧で砕くと、ほぼ100Kgもある金貨をリヤカーに乗せ、来た道をそのまま帰っていったと見られている。「何故、警報装置が鳴らなかったのか。」という記者からの質問に博物館の館長は、「操作の妨げになる言及は避けたい。」と言って逃げた。こんなに高価な金貨を展示しているのに、すぐに壊れるガラスに入れて、警報装置も施されていなかったらしい。

警察は犯行に使われた道具、リヤカー、斧、梯子を公開して、犯人に導く手がかりを探しているが、犯人はどこのホームセンターでも買える道具を使用しており、現時点では犯人の特定に至っていない。犯人がこの盗難に投資したのは数百ユーロ。このわずかな投資で、数百万ユーロの大きな獲物("fette Beute")を手に入れた手腕に世間はあっけにとられていると同時に、ベルリンの博物館は嘲笑の対象になってる。3百万ユーロもの貴重品を預かるなら、もっとまともな盗難防止措置を取るべきだった。今から言っても後の祭り。泥棒も、この金貨をこのまま売却するわけにはいかない。溶解されて、ばら売りされるだろうから、この金貨が出てくることは、二度とないないだろう。そして博物館長の任期も、同じく風前の灯だ。

編集後記
警察が駅のホームに設けられている監視カメラをチェックすると、朝の3時に電車の走っていない駅のホームに上がって行く3人組みが写っていた。終始顔を隠しており、駅のホームに上ると博物館の方向に歩いていくので、警察はこのトリオを犯人を見て行方を追った。数ヵ月後、3人組みのアラブ人を組織犯罪の廉で逮捕した。お見事。こんなに少ない手がかりで犯人を逮捕するんだから、ベルリンの警察の捜査能力は高い。犯人はベルリンの裏世界を牛耳る、レバノン系マフィアの構成員だった。マフィアの構成員は逮捕後も黙秘を続けており、口を割るともなさそうだ。勿論、金貨の行方は不明だ。警察は金貨は溶解されて売却されたものと見ている。


"fette Beute"
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今度は本当に有料化? (15.04.2017)

4年前の選挙戦でメルケル首相は(後で有名になる言葉)、"Mit mir wird es keine Pkw-Maut geben."(私が選挙に勝てば、自家用車に高速料金は導入しない。)と語った。この言葉で選挙民を安心させて選挙に勝つと、「自家用車に対して高速の料金を導入する。」と、ころりと手のひらを返した。勿論、ドイツ人は「破られた公約」に腹を立てたが、間抜けなことにメルケル首相はすでに選挙に勝ってしまった後。選挙民は、「また騙された!」と、地団駄を踏んだ。一体、何度騙されたらわかるのだろう。

メルケル首相の良心は、それでもちょっぴり痛んだらしい。そこで「高速使用料の引き換えに、自動車税を減額することで費用負担を相殺する。」と苦い薬をオブタートで包んで飲みやすくした。4~5年後、この自動車税の軽減を取り消せば、政府には新しい財源が誕生することになる。忘れっぽい大衆は、気づきもしないだろう。ところがこの導入方法では、外国人だけ高速使用料を払うことになる。別の言い方をすればドイツ国民だけ優先する料金の導入は、「欧州加盟国の国民を差別してはならない。」というEUの大原則に抵触した。お陰で首相は高速料金の導入を閣議決定したにもかかわらず、導入されることなくして棚上げになってしまった。欧州委員会の反対があるのに法案を導入すると、でかい罰金を課せられるからだ。とりわけ首相の反対を押し切って、高速料金導入を連立政権の協定書に書き込むことに成功したドブリント交通大臣にとっては、大きな敗北だった。以来、ドブリント氏はこの法令のカムバックを目指して、欧州委員会と交渉を続けてきた。

同氏の忍耐の甲斐があって、欧州委員会は「他の欧州加盟国民を大きく差別しないなら、有り得る。」と妥協のシグナルを出してきた。そこでドブリント氏はなんとか面子を救って次期の政権でも大臣の椅子をもらおうと、高速料金の導入に政治生命を賭けた。そして出来上がった高速料金導入案では外国人に対する料金が半額にされており、「これじゃ導入にかかる手数料の方が、高速料金の収入よりも高い。」と非難されることになった。政治生命がかかっている交通大臣は、「いやいや、ちゃんと黒字になりますよ。」と言い張ったが、同大臣が提出したプランでは、外国人の数が多めに計算されており、本来の目的、「高速料金を徴収して、道路の整備に使う。」には役に立ちそうになかった。

この法律案は、「費用がかかるだけで、実収入ゼロ。」という野党の反対むなしく、下院で可決されてしまったので、今年中にいよいよ高速道路の有料化が現実のものとなりそうだ。肝心の使用料だが、"Maut"(高速料金)について報道しているメデイアによると、最大で130ユーロかかるそうだが、「普通の人」なら年間74ユーロで納まるそうだ。この料金は上述の通り、自動車税から減額されるという約束だ。外国人の場合は、10日券が2.5ユーロ、年間では20ユーロなので、それほど大きな負担にはならない。

にもかかわらずドイツの周辺国、とりわけオランダとオーストリアはこの料金を"Ausländermaut"(外国人料金)と呼び、「決して受け入れない。」と徹底抗戦の構えだ。両国政府は欧州裁判所に訴えるといきまいており、本当にこれを実行に移す場合、ドブリント氏の政治生命がかかっている高速の有料化は、裁判結果が出るまで棚上げになる可能性も出てきた。この法令が違法と判断された場合、交通大臣の面子は丸潰れだ。さらには高速の有料化でお金を稼ぐ筈だったのに、「裁判結果が出るまで導入お預け」では、財務大臣のショイブレ氏がご機嫌斜めだ。来年度の予算にこの収入を見込んでもいいのか、予想がつかない。現時点では高速料金導入が予定通り施行されるか、まだ予断を許さない。

編集後記
高速有料化の実現への抵抗は、思わぬ方向からやってきた。下院で可決されたこの法案、法律になるべく上院に送られたが、上院で過半数を得られなかった。オーストリア、スイス、オランダ、そしておフランスからドイツにお買い物に来る人で儲かっている国境にある州が、「国境周辺は例外(無料)にすべきだ。」と法律の改正要求しているからだ。中央政府は、「例外なし。」と妥協を拒否、こうしてこの法案は、他の数百の法案と同じく、可決を待っている法案の倉庫に永久保存されることになった。実にドイツらしい。


ドブリント氏、そして高速道路有料化の運命は?
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