大統領を探せ! (19.11.2016)

ドイツにも大統領が居る。もっとも実権がないので、悪く言えばただの飾り。日本人と違って現実的なドイツ人は、「金がかかるだけ。大統領なんて要らない。」と言う。まったくその通りだが、政権にある政党がこの制度を擁護しているので、なくなることはなさそうだ。ドイツの大統領は、オーストリアと違って国民投票ではなく、国会議員の投票で決まる。すなわち国会で過半数を持っている政府与党の推す候補が、大統領に就任することになる。なのに野党は大統領に独自の候補者を立てる。日本人だと「チャンスがないのに、どうして大統領の候補者指名を受けるの?恥をかくだけじゃない」と思う。ところが大統領候補というだけで「15分の名声」を享受することができるので、勝ち目はないのに野党の指名を好んで受ける。案の定、投票で負けるが、顔が売れる。その後、テレビの討論番組などに招待されるので、負けても十分なリターンがある。

問題が発生するのは、今のようにCDU、 CSU、そしてSPDの連立政権の場合だ。各党が独自の候補を挙げるので、大統領選抜は揉めに揉める。実権がない大統領なのでもっと現実的に考えてもいいものだが、政治家は面子を重視するので、いろいろな画策を用いて独自の候補を大統領に就任させようとする。前大統領が収賄疑惑で辞任を余儀なくされた際、SPDは東ドイツの牧師で人権運動家のGauck氏を大統領に推した。CDU, CSUはこれに反対して財務大臣を大統領に就任させようとしたが、SPDの猛反対をくらった上、本人が、「ごめん蒙る。」と言い出したため、推す候補がないという間抜けな状況に陥った。誰かを大統領に推すなら、本人に就任する気があるかどうか、先に聞くべきだった。メルケル首相はSPDの推す大統領候補に不満で、独自の候補者を探す努力を続けたが、SPDの推す候補よりも適任者が見つからなかった。そこで歯軋りしながら現職のガウク大統領に同意した経緯がある。

そのガウク大統領が、高齢を理由に任期を延長する気がないことを半年前に告示した。「半年もあれば、候補者を見つける十分な時間がある筈だ。」という酌量にもかかわらず、メルケル首相はまたしても大統領候補探しを先送りした。連立政権のSPDと、「共同で候補者を探す。」という口約束を交わしていたので、CDU/CSUが独自の候補者を探すまでSPDが勝手な行動を取ることはないと、すっかり安心していた。ところがSPDの党首のガブリエル氏は、この協定にもかかわらず、「外務大臣のシュタインマイヤー氏が適任だ。」とメデイアに語った。この一歩は、あまり賢くない通産大臣の見事な一手だった。

というのも2017年の総選挙で、同氏は首相候補として立候補したい。ところが党首兼通産大臣のガブリエル氏よりも、外務大臣のシュタインマイヤー氏、あるいはEU委員会長のシュルツ氏の方が人気が高く、「首相にふさわしい。」と言われている。早い話が、「ガブリエル氏は首相の器じゃない。」という意見が支配的で、党内での人気も低迷しており、このままでは次期首相候補に指名されるか、微妙な立場にある。ここで大統領探しが始まった。同氏は、「シュタインマイヤー外務大臣を大統領にすれば、ライバルが一人消える。」と考えた。これが成功すれば外務大臣のポストが空く。ここでシュルツ氏を外務大臣に就任させれば、一石二鳥でライバルを二人とも除去できる。この見事な策略があったので、同氏はCDU/CSUとの取り決めがあったのもかかわらず、シュタインマイヤー氏を大統領に推すという手段に出た。間違っても、同僚思いの行動ではない。

先回の失敗から何も学んでいないCDU/CSUは、ガブリエル氏の勝手な行動に大いに憤慨したが、時遅し。「不満なら独自の候補者を上げよ。」とガブリエル氏が言うと、CDU/CSUは大いに困った。まだ候補者を全然探していなかったのだ。困ったCDU/CSUはまたしても財務大臣のショイブレ氏の名前を出したが、氏は「Bellevue(大統領のお城)で何をすりゃいいんだ。」と憤慨して、断った。次に国会議長の名前を挙げたが、議長は固辞した。CDU/CSUは最後には連邦銀行総裁の名前まで出して抵抗したが、世論、そして野党の支持は明きからにシュタインマイヤー氏に流れており、今更新しい名前を出しても勝ち目が全くないことを悟った。こうしてCDU/CSUはまたしても歯軋りしながら、SPDの推す大統領シュタインマイヤー氏を推すことに同意した。まさしく、「歴史は繰り返す。」という通りだ。連立与党は国会で圧倒的な過半数を持つので、同氏が病気にならない限り、同氏の大統領就任はほぼ確実だ。


EU議会で祝福を受けるシュタインマイヤー氏。
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チャンス到来! (15.11.2016)

前の記事で、「これが日本企業のチャンスとなるだろうか。」と書いたばかりなのに、いきなりチャンスがやってきた。悪化する一方の都市部の空気汚染を解消するために中国政府は、木炭を使った露店の営業を禁止するなどの方策を試したが、効果がなかった。「小手先の手段では解決できる問題ではない。」とようやく悟った政府は、「2018年以降、中国で販売する車の8%は電気自動であること。」と共産主義政権ならではの強硬手段に出た。この電気自動車(プラグイン ハイブリット社も可)の割合は2019年には10%、2020年には12%と上昇する。この条件を満たさないメーカーは、「ポイント」を買うことが義務化される。これは欧州でいう空港汚染証券と同じで、大量に二酸化炭素を排出する企業は、食空気汚染のポイント(証券)を買う必要がある。そしてこのルールは外国企業、中国企業の差別なしに適用される。中国政府としては珍しく、外国企業を差別しない規則だ。表面上は。

豊田に追いつき、追い越せ!とトヨタのバンパーにまで接近していたフォルクスヴァーゲン(以下、VWと略)にとって中国は最大の自動車市場で、2015年には355万台もの自動車を売りまくった。一方、トヨタは122万台でVWと比べてたったの1/3。かってはトヨタが一番だったのに、日本政府と中国政府の関係悪化で、日本車の人気が低迷、ドイツ車はこの隙間をうまく利用した。VWの自動車販売台数が2018年も同じだと仮定しても、同社はポイントを稼ぐためには6万4台もの電気自動車を販売する必要がある。2016年の現在、同社は電気自動車を中国で何台販売しているか、ご存知だろうか。これがゼロなのだ。VWはようやく電気自動車プラグイン ハイブリッドの販売を始めたばかりだ。しかし電気自動車は航続距離が160km、あるいは190kmまでしかなく、日本車に比べて大きく遅れている。

VW限らずドイツ車はデーゼルエンジンに力を入れていたため、ドイツの車メーカーが製造している大衆向けの電気自動車はBMWのi-3スマートの特別仕様車くらいしかない。もっともi-3は一番安いモデルでも3万5千ユーロ、日本で販売されるモデルなら500万円にも達するので、日本人だって二の足を踏む。平均的な中国人が買える値段ではない。中国政府の法案がこのまま法律になるなら、2018年以降、ドイツ車は大きくダメージを受けることになる。中国で電気自動車の販売台数がもっとも多いのは日産で、次に中国のBYDが続き、そのあとはかなり差が開いてテスラが続く。すでに電気自動車を持っている日本車メーカーには、まさに千載一遇のチャンスの到来だ。このチャンスをみすみす逃してしまうようなら、日本車メーカーは二度とドイツ車に追いつく事はできない。

当然、ドイツの車メーカーは、「こんな無茶な!」とこの政策に抵抗した。ドイツ最大の産業である車産業は通産大臣に陳情、大臣は中国を訪問した際にこの法案の改定を求めた。しかし中国の通産大臣は、「まだ法案であって、このまま法律になるわけではない。」とうまく逃げた。中国政府とドイツ政府の仲が悪化している今、ドイツの通産大臣の要請に効果があるとは思えない。もし中国政府が法案を改定するなら、ドイツ政府への陳情ではなく、中国の自動車メーカーの事情によるものだろう。

ドイツ政府は今年、重い腰を上げて電気自動車を普及させるために助成金を導入した。「なんで車産業ばかり特別扱いするのだ。」と苦情が上がったが、そうでもしないと誰も電気自動車を買わない。そこでこの助成金になったわけだが、この助成金は購買意欲の改善に一向に貢献していない。中国政府の電気自動車法案が施行されれば、多少は改定されても、世界最大の自動車市場の与えるインパクトは大きい。これにより電気自動車の値段が安くなり、技術革新が進み、先進国での電気自動車の普及率が上昇することが期待できる。中国政府はドイツ政府がお金をかけてもできなかったことを、お金を一切かけないで成功させることになるのだろうか。この法案は日本の自動車メーカーのカムバックなるだろうか?


あなたの好みはどちら?
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中国製 (08.11.2016)

日本で高級車と呼ばれる国産車、前から見るとメルセデス、後ろから見るとBMWという恥ずかしいデザインを採用する。デザインという独創性を発揮する箇所で独創性を放棄して、堂々とそれもフラッグシップである高級車に、他社のコピーを採用するのはいかにもアジア。もっともコピーしていない日本車のデザインは、お世辞にも購買意欲を増すものではない。欧州では日本車は「安いから」という理由で買う車で、人気のある車ではない。その一方で、「イタリア人がデザインした日本車だったら買う。」という人が多いのだが、かって日産とフィアットは全くその逆をした。すなわち日本人がデザインした車をフィアットが製造した。ぱっとしないデザインに加え、イタリア車の信頼性のなさがパーフェクトにマッチ、車は売れず見事なフロップで終わった。

中国人も同じように考える。ただし日本人のように、「なんとなくメルセデス。」というデザインではなく、「どうみてもメルセデス。」という完璧なコピーにする。いい例がある。この秋に開催された航空ショーで中国がかなり前から開発中の戦闘機、J-20が始めて公開された。レーダーに映り難いと言われているこの戦闘機は第五世代の戦闘機で、このような戦闘機を開発、保有しているのは米国とロシアだけだったが、中国もこれに堂々と加わった。もっともこの中国製の戦闘機、ロシアで開発されたもののお蔵入りになった"MiG-1.44"と酷似している。ミコヤン社はこれを次世代の戦闘機として開発したのだが、ライバルのスホーイ社に政府への売りこみ(賄賂競争)で負けてしまった。この航空機は多目的戦闘機として開発され、戦闘機として、あるいは爆撃機としても使用できる20mもの大型の航空機だった。中国製の戦闘機も22mもの巨大な機体で、オリジナルと同じように爆撃機バージョンと戦闘機バージョンが公開された。中国が同時に開発している戦闘機J-31米国製のF-22に酷似している。一体どうやって国家機密である飛行機のパテントを盗んだのだろう。

「中国製の次世代の戦闘機と言っても、外見はコピーで、それぞれの国から盗んできたもだ。」と非難されることが多く、また非難は的を得ているが、日本には同様の戦闘機を製造する能力がない。中国はある分野での先端技術では、西欧に追いついている。日本政府の資金補助を受けて三菱が製造している旅客機"MRJ90"は、日本人の体系にあわせて寿司詰めにしても90席も確保できない小型旅客機だ。100席以上の客席を提供する航空機ではエアバスのA320(定員150~179)、A318(定員107~117)がベストセラーになっており、世界中の航空会社が注文している。これに対抗しては勝ち目がないので、三菱は競争相手の少ない90席未満の小型ジェットの開発に決めた。日本国内の、「40年振りの国産旅客機!!」というお祝いムードと異なり、この旅客機の開発はトラブル続きで計画よりも4年以上遅れている。その間にライバルが同様の機種を開発、販売しており、このプロジェクトの未来に影がさしている。(*1)一方、中国も国産旅客機の製造にかかっている。C919は168人までの乗客を収容できる能力をもち、"Platzhirsch"(販売台数一番)のA320に真っ向から挑戦している。

「いやいや、中国の旅客機はすでに注文を取っている日本の旅客機と違って、まだ開発中でいつ完成するかもわかってない。」という非難をよそに、中国政府の発表では517機を超える注文を受注している。小型機である三菱の注文は375機。この数字が本当なら日本の旅客機よりも成功している。皆まで言えば、中国は90席の定員の国産旅客機、Comac ARJ21の開発を成功裏に終えて、すでに定期便として就航してる。もっともあまり評判が良くなく、欧米での飛行許可が取れていない。しかし中国の国営航空機製造会社、"COMAC"はこの失敗から多くの教訓を得ており、本命のC919ではこの欠点が改善されて、将来はエアバスやボーイング社を向こうに回して三つ巴の戦いになるかもしれない。一体、中国は戦闘機から旅客機まで製造できるノウハウを、どうやって日本よりも早く習得することができたのだろう。

基礎研究で西欧に遅れをとっている中国は、足りない技術を長い年月をかけて開発するよりも、その技術を持っている外国企業を買収する。数年後には中国はこの技術を習得して、これを使って製品を開発、販売できるので、まことに効率がいい。この目的で中国企業は最先端技術を持つドイツ企業を次から次に買収している。今年の5月に中国の投資会社、"Grand Chip Investment"が特殊機械を製造してる"Aixtron"を買収するオファーを出した。ドイツ政府は当初、この買収に何の不審もいだかず、"Go"サインを出したが、11月になって急にこの許可を取り消した。米国の諜報機関がこの投資家は中国政府の隠れ蓑で、"Aixtron"の先端技術を軍事部門、それも核施設に応用する危険ガあるとドイツ政府に警告したのがその原因といわれている。同時にドイツ政府はすでに許可していたドイツの電灯メーカー、"Osram"の白熱電灯部門の中国企業への売却許可も無効にして、再度、検討をしている

ドイツは、他のEU諸国と違って企業買収にやさしい環境にある。これを利用して中国企業が次々にドイツの会社を買収していくと、政府はドイツのノウハウが簡単に外国企業、とりわけ中国企業に買い取られていくことに懸念を抱きだした。通産大臣は、「中国企業がドイツ企業を買収するなら、中国政府が中国国内でドイツ企業に課している制限を撤廃して、中国企業と同じ立場で活動できるようにせよ。」と始めて中国の買収に対して、"Nein"を突きつけた。これは共産党政権のご機嫌を損ねた。通産大臣は"Osram"の中国企業による買収を大臣の勅命でストップした後、定例の中国訪問に出かけたが、中国の通産大臣は予定されていた会談を直前にキャンセルして、中国側の不快感を表明した。首相はまるで阿部首相を迎えるような冷ややかな態度でドイツの通産大臣を迎えはしたが、中国のメデイアには緘口令が出されて、ドイツの大臣が訪問している事は、テレビでも新聞でも報道されなかった。

こうして中国とドイツの関係は、これまでの蜜月ムードから、一気に緊張ムードに悪化した。ドイツ企業は日本と中国政府間の関係悪化を利用して、中国で市場占有率を広げていった。しかしドイツが、「これまでのようにはいかないよ。」と中国に警告を発した今、これまでのような一人勝ちはできなくなりそうだ。そして中国にとっては喉から手が出るほど欲しい最先端技術が欠けることになる。これが日本企業のチャンスとなるだろうか。

*1
旅客機業界は、成功すればリターンも大きいが、新参者の進出がとりわけ難しい分野だ。「日本の技術力があれば、他社同様、あるいはもっと優れた航空機を製造できる筈だ。」という愛国心は理解できるし、成功して欲しいが、旅客機は優れた飛行機さえ作れば勝手に売れるものではない。そのいい例が"Fokker"社だ。20世紀初頭にオランダ人がベルリンで作った航空機会社フォッカーは、第一次、第二次大戦中、数々の名機を生産した。とりわけ「レッドバロン」の異名で知られるフォン リヒトホーフェン男爵の三翼機は有名で、日本の三菱重工とよく似た過去を持っている。戦争後は、本社をオランダに移して小型旅客機を製造していた。80年代、三菱同様に政府から補助金をもらって画期的な小型旅客機の製造を開始したが、開発費がうなぎのぼりで、会社の経営が傾き始めた。当初開発されたFokker50(50人乗り) Fokker100(100人乗り)は合計しても500機ほどしか売れなかった。会社の命運をかけてFokker70(79人乗り)の開発をしたが、たったの47機しか売れず、親会社のダイムラーがこれ以上の融資を拒否、同社は1996年に倒産した。

倒産した"Fokker"社はオランダ人の誇りを大きく傷付けた。とりわけまたしてもドイツ人が同社に止めを刺したことが、オランダ人の愛国心に訴えた。オランダ人は"Netherlands Aircraft Company"を創立、同社を"Rekkof"と命名したが、これは"Fokker"を逆さに呼んだ名前だった。同社はフォッカー社の資産を買うと、2016年にはついに新型の旅客機"Fokker130"(定員130人)を開発したと発表した。この定員数はエアバスのA318とA320のちょうど間を狙ったものだが、果たしてチャンスがあるだろうか。そして"MRJ90"は日本企業の成功話になるのか、それとも第二のフォッカーになるのだろうか。


J-20、それともMiG-1.44?
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