正しい脱税のやり方 (20.05.2016)

"Dividende"。なんと響きのいい言葉だろう。響きがいいので日本語でもう一度、「ディビデンデ」。一度聞いてだけで覚えてしまう言葉の一つで、日本語の配当金に相当する。貯金してもほとんど利子がつかず、株主優待という思想がないドイツでは、年に一度支払われる配当金が、財蓄の唯一の方法で大きな楽しみだ。しかしその楽しみも、801ユーロまで。この額を超える配当金、あるいは株を売ってこの額を超える利益が出た場合、"Abgeltungssteuer"という税金が課せられる(いずれ変更される予定です)。日本は株の売却利益にかかる税率がわずか10%と極端に低くかったが、現在では20%に復活した。それでも世界的に見ればまだ安い。ドイツでは25%+東ドイツ復興税、それに教会税(教会に登録している人に限ります。)が差し引かれ、結局28~29%も税金が引かれてしまう。しかし物は考えようで、ドイツでは所得税率が42%とお高い。日本のように段階課税をするわけではなく、最初の1ユーロからがっつり42%もの高い所得税率が採用される。すなわち真面目に労働して得る所得よりも、金を投資して得た所得の税率の方が低く、金持ちが優遇されることが問題になっている。

それでも「税金を払うのは嫌だ。」と外国の税金天国に口座を設けて、ここで投資していた金持ちが多かったが、AIA協定の締結、さらにはパナマの税金天国を初めとした情報の漏れで、金持ちは眠れる夜を過ごすことになった。ところがわざわざ脱税天国にトンネル会社を設けなくても、堂々と合法に脱税ができる方法がある。この合法なトリックは"Cum/Cum-Geschäfte"という。

ドイツでは株主総会で配当金が株主に承認されて、配当金の金額が決定、翌日に配当金が支払われる。そして配当金が支払われると、801ユーロを超える場合、銀行が自動的に税金を引く。これを避けるには株主総会の直前に、この株を銀行に「空売り」すればいい。すなわち帳簿の上では株は銀行の所有になるので、銀行が配当金を全額受け取り、まずは25%+の税金を払う。ところが銀行は、この税金から解放されているので、後から税務署から払った税金を取り返せる。税金を取り戻した後で、銀行は空売りで預かった株と配当金を本来の持ち主に返却する。株主はこうして丸々配当金を手中にする事ができる。もっともすべて無料というわけではない。銀行はこの取引の手数料として配当金の5%(程度)を取る。そしてこの脱税は、合法なのだ。正確に言えば、「違法ではない。」と言った方が正確だろう。ドイツ政府はこのような取引があることを知っていながら、「あまり厳しくすると、ドイツの会社に投資してもらえない。」と大口投資家の機嫌を損なうことを心配、法律の抜け穴があることを知っていながら、この穴を埋める努力を放棄した。

しかしかるに財務大臣は脱税を防ぐため、「現金での支払いは上限と5000ユーロまでにする。」と言い、欧州中央銀行は、「500ユーロ札は犯罪と脱税に使われるので廃止する。」と決定したり、個人の脱税を防ぐことに熱心だが、大口投資家には別の定規を使用している。その一番の例が政府が2008年に税金を投入して破綻から救ったCommerzbankだ。この銀行はとりわけ"Cum/Cum-Geschäfte"に熱心で、税金で救済されたお礼に大口投資家の脱税を助け、国と納税者に数百万ユーロもの被害を出している。この問題について聞かれた財務大臣は、「頼りになる数字がないので、問題があるとは言いかねる。」と逃げた。国がこの銀行の15%の株式を保有する最大の株主であるのに、この有様だ。ちなみにこの銀行は"Cum/Cum-Geschäfte"の他に、"Cum-Ex-Geschäft"を用いて脱税を手助けしたことでも責任を問われている。

"Cum-Ex-Geschäft"は外国の投資化家が株主総会の日に、数回の空売りを行う方法だ。持ち主を何度変えても配当金は1回しか支払われないし、税金も一度しか支払われないが、この配当金にかかる税金の支払い明細は、この日に株の持ち主になった数人の持ち主に発行される。すなわち実際に税金を払ったのは一人だけだが、税金支払い明細が複数存在することになる。あとはこの税金支払いの明細を税務署に提示すれば、外国人の投資家はドイツ人の投資家よりも低い税率が採用されるので、大目に払った税金の返還を求めることができる。こうして一度だけ支払われた税金に対して、株主は税務署に対して、数回も税金の返却を申請する。ドイツの税務署は機械のように機能しているので、一つの株に対して複数の税金の返還要求があがっても、一向に不審に思わない。役人が関心があるのは書類だけ、書類があれば税金が還元される。この法律の抜け穴は2012年に閉じられたが、法律の穴が閉じられるまで数百万ユーロの金が大金持ちに支払われたと見積もられている。

そこで政府はこの方法で不法に返還された税金は、過去5年前までに遡って返還請求できると法律を設定。その後、"Cum-Ex-Geschäft"で大金持ちの財築を助けた銀行を訴えている。スキャンダルが絶えることのないドイツ銀行やCommerzbankはい言うに及ばず、半民半官のDekabank、さらに州立銀行までこの脱税に関わっており、脱税の沼はかかなり深い。とりわけ銀行のモラルの欠如を示すのがDekabankの件だ。この銀行は2010年だけで"Cum-Ex-Geschäft"の税金返却額として5300万ユーロの還元要求をヘッセン州の税務署に挙げていたが、税務署はこれを違法な請求だとして拒否。同銀行は税金の返還を求めて、税務署を裁判所訴えるという恥知らずな行為で名を馳せたが、この2月に見事に敗訴した。

「それじゃ、まだ合法なうちに銀行に頼んで、"Cum/Cum-Geschäfte"で税金を節約しよう!」とお考えの方、急がないとあまり時間がない。政府は上述の通り見て見ぬフリをしていたが、メデイアで毎日のように報道されてしまった。野党の政治家は、「税金で破綻から救ってもらい、そのお礼に脱税の手助けをするなんて許せない。」と発言、人気を博した。こうして脱税の抜け穴を故意に維持している政府への圧力が高まった。なにしろ来年は総選挙の年だ。そこで政府は重い腰をあげて"Cum/Cum-Geschäfte"を法律で禁止する意向だ。とは言っても今、まさに配当金のシーズン。政府の対応が効くのは来年の配当からだ。結果、今年も多額の税金が違法に支払われないままになりそうだ。と思っていたら悪評を一身に受けたCommezbankは世論の圧力に負け、「"Cum/Cum-Geschäfte"はもうやらない。」と声明を出した。世論からボロボロに叩かれないと悪習から抜け出せないのは、何処の国の銀行も同じようだ。

編集後記
ドイツ政府は"Cum-Cum-Geschäft"の対抗策として、配当金が支払われる日の前の45日、配当後の45日、合計90日以上、銀行が株式を所有している場合に限り、銀行は払った税金の還元を求めることができるとする法律案を作成した。この法律によって"Cum-Cum-Geschäft"をなくすることはできないが、90日も株を所有していると株価の変動のリスクが高くなり、銀行、そして合法的に脱税してお金を稼ぎたい投資家にとって、魅了が減る。しかし魅力が減るということは、ドイツの株へ投資する魅力の減少にもつながりかねず、手数料で儲けしている銀行業界はこの法律案に大反対している。ドイツの銀行ロビーは、米国のライフル協会のように政治への影響力が強く、この法律案が法律になる前ににスイスチーズのように穴だらけになりそうだ。


違法行為しただけでは済まず、裁判所に訴えたDakabank。
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奨励金 (08.05.2016)

フォルクスワーゲンによる排ガス操作は、各国の交通省は自ら審査をしないで、メーカーが提出した排ガス値を頭から信用して販売許可を出していた事を明きからにした。その後にばれた三菱自動車の消費データの20年以上に渡る捏造が、そのいい証拠だ。日本の消費者は、かってVWの排ガス操作が発覚したときにそうだったように、三菱自動車を厳しく非難しているが、非難の矛先が何故か国の監査機関に向いていない。自動車業界に関わらず、工場の出す廃棄物の規定を国が設定したなら、これをちゃんとチェックするのが国の責務だろう。その責務を果たさないで、「ちゃんと守っております。」という工場の言い分を信用した国は、アスベスト訴訟で国の落ち度を指摘されて慰謝料の請求を命じられた。同じことが、今回の不祥事にも適用される。

今後、日本の監査機関が真面目に調査すれば、同じような例が出てくるのは時間の問題だろう。実際、ドイツでは排ガスをちゃんと計測していなかった自動車庁に非難が集中した。担当の運輸大臣は非難の矛先をかわすため、VWを含めてドイツで認可されている53の自動車で、走行テストをしてみた。するとテストで測定された値は、報告されている排ガスの基準値よりも数倍も高く、ほとんどのメーカが同様の措置を取っていることが明らかになった。とりわけ測定値が報告地よりもかけ離れている22車、VWを筆頭にオペルやメルセデス、それに一部の日本車まで対し、リコールを行って排ガス測定値を改善掏るように命じた。

EU議会が委託した調査によると排ガス、主に窒素酸化物、粉塵によりドイツ国内で年間65000人もの人間が死亡しているという。死亡事故が3300人程度であることを考えれば、その20倍もの人が汚染された空気で死亡している計算になる。そこでドイツ政府は都市部の空気の改善を目指して数年前に、「ドイツは電気自動車の導入で先人の役を演じる。」と大見得を切った。具体的には2020年までに100万台の電気自動車の導入するという。ちなみに期限まで4年を切った2016年、ドイツを走っている電気自動車は2万5千台。ちなみに日本では5万台少々。残る4年未満で97万台も登録されるわけがない。

しかしドイツ人が潔く負けを認めるなら、第二次大戦もあんなに長くは続かなかったろう。政府はここに来て自動車業界からの要請に折れ、電気自動車を買うと、国から補助金を出すことにした。肝心の金額だが電気自動車を買うと4000ユーロ、ハイブリット車だと3000ユーロとなる。皆まで言えば税抜きの車両価格が6万ユーロまでの電気、あるいはハイブリット車に対して支払われるので、高級電気自動車テスラーSは対象外だ。さらにこの補助金の半分は、自動車メーカーが出す。すなわち、「テスラー3なら補助金の対象内!」と喜んでも、テスラーが「うちはそんな補助金は要りません。」と言ったら、補助金の対象外となる。あくまでも車メーカーが補助金を半額持つ場合に限られる。

「じゃ、この機会に電気自動車にしちゃおう!」と楽観するのは、まだ早すぎる。まず会社、あるいは自宅の駐車場に充電するためのコンセントがない。市内でも電気自動車用の高速チャージは希少価値で使い勝手が悪すぎる。さらには蓄電池の寿命の問題もある。携帯電話やノートパソコンの蓄電池が劣化するように、電気自動車の蓄電池も劣化する。総走行距離で10キロ、そんなに走らない場合は12年が寿命と言われている。減価償却が激しく、中古車としてまともな値段では売れそうにない。さらに10年もすれば技術革新で画期的な蓄電池が登場しているだろうから、10年後には多くの電気自動車は廃車処分になる可能性が高く、経済的、環境にも優しいとも思えない。

政府は補助金の上限を12億ユーロまでに限定している。要するに、「早い者勝ち」の戦略で、用意した金がなくなり次第補助金は終わりなので、「あまりマイナス面は考えないように。」というわけだ。もし期待したほど反響がない場合は、政府の100万台電気自動車導入目標である年の前年、2019年にて終了する。しかしドイツ人は、車を「一番人気のおもちゃ」と呼ぶほど、性別に関係な車好きだ。同時にドイツ人は、「ケチ」として名高い国民だ。果たしてそのドイツ人が4000ユーロ程度の補助金で、日々の充電の面倒と走行距離の短さの短所受け入れて、10年後には廃車になる車を買うだろうか。

編集後記
奨励金の導入で電気、およびハイブリット車の登録台数が上昇すると期待していたメーカーは幻滅を味わった。最初の4週間でわずか1791件の申請があっただけ。このままでは国が用意した12億ユーロが空になるまで、14年間も必要になる見通しだ。国は3年ほどでなくなると計算していたので、大きな誤算だ。高速充電施設の欠落、ガソリン車よりも高い値段、そして安いガソリン代がネックになって、ドイツ人は電気自動車に関心を寄せていない。奨励金が導入される前から言われていたことではあるが、「それ見ろ。いわんこっちゃない。」と言わずにはおれない。


警察曰く、「音が出ないから容疑者が気づかない。」という利点があるそうだが、
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"Blaulicht"(警告サイレン)であっという間に電池がなくなりそう。
          

報道の自由 (26.04.2016)

日本で当たり前なことは、日本以外の国では例をみない日本だけの現象である事が多い。例えば日本の郵便。日本のように頼りになる郵便システムは、世界に存在していない(韓国も優秀らしい。)が、日本人は日本のシステムしか知らないので、日本の郵便が世界中で当たり前だと思っている。ドイツで現金書留なんか導入すると、職員がお金を抜いてしまい、お金が届くことはないので、そんなシステムは存在していないし、「現金を郵便で送れないか。」とドイツ人は誰も聞かない。「ドイツには現金書留はありませんか。」と聞くのは日本人だけ。ドイツ人に、「日本では封筒にお金を入れて送っても盗まれない。」なんて言えば、目を丸くして驚くか、全く信用されない。それほどに日本の郵便は、他に例をみない優秀なシステムだ。

同じように日本の民主主義は、世界で例をみない日本だけの現象だ。日本のように一党独裁のような民主主義が先進国の一体、どの国に見られるだろう。これを可能にしているのは日本人独特の政治への無関心だ。国民の関心といえば、毎週放映されるテレビドラマ、芸能人の話題(醜態)、グルメ、お笑い番組に集約されており、政治に興味を見せるのは消費税が上昇するときだけ。国土が放射能で汚染されても、デモをするのはわずか数百人。この国民の政治への無関心は、何処から来るのだろう。

「日本の民主主義は闘争の末に獲得したものではなく、戦後、戦勝国から押し付けられたものだから。」という敗戦説をよく聞くが、同じように民主主義を押し付けられたドイツでは、民主主義がちゃんと根をおろして定着している。イタリアやスペインの民主主義も、日本に比べれば、はるかに発達している。日本人の政治への無頓着は、歴史に関係がありそうだ。日本人の考え方決定的に固まってしまった江戸時代、市民には政治に口出しする事が許されておらず、お上が決定したことをありがたく頂戴するだけ。飢餓が原因で農民が反乱を起こしたことはあっても、政治への参加を求めたことは一切なかった。ドイツではすでにドイツ第二帝国が誕生する前から、君主制ではなく民主主義を求めるデモが起こった。そして第一次大戦末期には、皇帝を国民の力でその地位から引きずりおろした。しかし日本では第二次大戦後、これまでの束縛から抜け出せず、相も変わらず天皇陛下万歳を唱えた。

この「日本独特」の慣習の原因は、日本のメデイアにある。ドイツを始め民主主義が根を下ろしている国では、メデイアは権力者の行動、言動を常に関しており、日々、熾烈な批判が載っている。具体例を挙げてみよう。ドイツでは電力会社が、原子力発電の解体の責任を国に押し付けないか、政治家が賄賂をもらって折れないか、逐一監視している。電力会社が会社を二分して、原子力発電を子会社に移籍してその責任を国に押し付けようとした際、メデイアは一斉にこれを非難した。これが通ると国民が原発の解体費用を追わされるので、国民は「嫌でも」電力会社の汚い方法について知らされて、デモが発生した。最後には国が法律を改正、電力会社が原子力発電を子会社に移管することを禁止した。このように民主主義が機能するには、自由なメディアが欠かせない。日本では国が東京電力を税金で救ったが、どこの報道機関がこの問題を報道しただろう。日本のメデイアは権力者を監視するのがその主たる任務なのに、これを大部分放棄して、くだらない番組で視聴率確保にやっきになっている。

日本では記者が「国益」に反する記事を書くと、右翼が威圧行動にでる。そして政治はこれをじっと見ているだけで、何もしない。警察も暗黙の了解をしており、何もしない。法治国家でありながら、国益に反する記事を書くと、社会の制裁を受けることになる。こうして自由な報道が妨げられ、政府は報道の内容を操作できる。それでも気に入らない報道がされると、堂々と新聞社に苦情を入れる。日本以外の国で、政治家が報道機関に報道の仕方で苦情を入れると、一大スキャンダルに発展する。報道の制限する試みは、自由な報道、ひいては民主主義を制限するものなので、そのような試みを行う政治家はボロボロに叩かれる。連日の報道で、「あの政治家は駄目だな。」と選挙民から愛想を尽かし議席を失うので、メデイアの報道に対して苦情を言うのは政治家の自殺行為に等しい。こして欧州では自由な報道が保たれている。

その欧州の報道機関にとって「目の上のたんこぶ」なのが、トルコの大統領だ。気に入らない報道をした記者、新聞社の発行人を「スパイ罪」で逮捕させ、口封じを図っているからだ。EU加盟を目指す国としては、あるまじき行為だ。ところがよりによってそのトルコと欧州は、難民問題で合意に達した。絶対主義を目指すエルドガン大統領に、難民が欧州に来ないように取り締まってもらうのだ。おかげでメルケル首相は、「難民受け入れの上限は設定しない。」と公言できる。汚い仕事をトルコに押し付けて、自分だけはクリーンなイメージを保つことができる。欧州の報道機関はこの取引を容赦なく批判している。とりわけエルドガン大統領に対する過激な風刺が耐えることがない。あるテレビ番組でエルドガン大統領を風刺した歌が流されると、ドイツ国内で大人気になり、エルドガン大統領の知るところとなった。この歌を聴いた大統領は激怒、ドイツの大使を大統領官邸に呼びつけた。

ところが欧州の政治家は団結して、「風刺された程度で大使を呼びつけるとは、あるまじき行為。」とエルドガン大統領を逆に非難した。ここで別の風刺家がエルドガン大統領を下劣に風刺する詩を、よりによって国営放送で放映した。ところがこれは風刺を超えて、侮辱に相当するものだった。ドイツ以外の国なら、それでも何も問題はなかったろう。米国なら表現の自由がとりわけ重要視されているので、テーマにさえならかっただろう。ところがドイツには、「外国の国家主席を侮辱してはならない。」というドイツ第二帝国時代からの遺物の法律が存在していた。この法律によれば、この風刺家は国家主席を侮辱したので、この行為は犯罪行為に相当する。もっとも検察が動き出すには、1.メルケル首相が検察に捜査を許可して、2.侮辱された本人からの告発が必要だ。「大人なら」そんな子供じみた告発はしないと思っていたが、エルドガン大統領は国家元首、そして個人として侮辱罪でこの風刺家を告発した

ドイツのメデイアは一致団結して、風刺家を擁護、「第二帝国時代の法律を施行するなんて間違っている。」とドイツの法律を非難した。ところが難民問題で急所を握られているメルケル首相は、「この詩は(国家元首を)傷つけるものである。」とトルコの首相に首相の見解を伝え、検察にこの件で捜査を許可した。これを政府の報道官から知らされたメデイアは、一斉にメルケル首相を批判した。「首相は難民問題解決のために、報道の自由を放棄した。」というものから、「メルケル首相はトルコの首相に謝った。」と言う内容まで、さまざまな書き方がされ、ドイツの報道の自由を守ろうとしなかったメルケル首相が非難された。メルケル首相はドイツの民主主義を支える報道の自由を、トルコの大統領の圧力に負けずに擁護すべきだったと各社は連日報道。最後にはメルケル首相が、「首相に伝えたコメントは誤りだった。」とミスを認めざる得なかった。また、メルケル首相は対策として、「該当する法律を今年中に廃止する。」と約束した。

このエルドガン大統領の風刺事件が、西欧の報道の自由を実に象徴している。西欧では政治家は風刺されるものであり、これに耐えなければならないとされている。風刺に腹を立てて法的措置に出るような政治家は、メデイアから集中砲火を受けて、「世界で一番権力を持つ女性」と言われてるメルケル首相でさえ、非難を受けてミスを公に認める羽目になる。日本にもこのような報道の自由があれば、民主主義も発達するのだが、日本では政治家を直接に非難するのは正しくないという風潮があり、肝心な部分は報道されないまま闇に葬られている。日本人がドイツに来て、ドイツで報道される日本、日本の政治家への強烈な非難を見れば、最初は立腹するかもしれないが、次第に自由な報道の大切さが見えてくる。外国に留学して、日本を外から見ることは人間を成長させる。逆に日本だけに住んでいると、現金書留のようなシステムが世界中にあると信じて、死ぬまでこの誤謬から開放されない。是非、若いうちに外国に出て、異なった価値感に触れて視野を広げて欲しい。


エルドガン大統領風刺
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Industrie 4,0 (15.04.2016)

日本では「ビックデータ」が将来を決める戦術として重要視され、二言目にはビックデータという言葉が使用される。ところが「ドイツでは全く聞かれない。」というと誇張だが、日本のように、「将来はこれで決まる。」というような扱いがされておらず、「それも欠かせませんね。」程度の扱いだ。正直なところ町工場が、どれだけビックデータの恩恵を受けるのか、非常に疑わしい。日本と異なりドイツでは産業の将来を決めるのは、"Industire 4,0"であると語られている。ドイツ政府も"Industire 4,0"がドイツ産業の将来を左右するとして、啓蒙活動を行っている。大方の日本人が「ビックデータ」と聞いて、「それ、何?」と理解できないように、ドイツ人が、「インダストリ4.0。」って聞いても、「それ、何?」と理解できないケースが大半だ。そこで今回はこのインダストリ4.0について紹介してみよう。

ドイツで生活を始めると、あるいは生活を始める前から、「日本と全然違う。」と実感できる。例えば電気、ガス料金の請求。日本では毎月、ガス、電気の使用量をわざわざ計測、「先月の使用量は○○です。」というお知らせが届く。そして支払いが済むと、お支払い明細まで届く。日本では当たり前の事なので、誰も仕組みの意義を考えないし、これを変えようなんて夢にも想像しない。ところがドイツでは毎月、メーター計測なんかしない。契約初めにメーターを読み、1年後、あるいは数年後に契約を解約する日にメーターを読むだけだ。さらにそのメーターの「読み」も自分でして、自分で電力会社に報告する。この数字を元に1年間、あるいは契約期間に消費された電気、ガス量を換算、これまで支払った金額と比較して、払った以上に消費していれば費用を追加支払い、払った量より消費量が少ないと、お金が戻ってくる仕組みだ。

ドイツ式の利点は明らかで、毎月、メーターを計測、使用明細や、引き下ろし明細を発行して日本に存在するすべての家屋に配っていると、この作業だけで膨大な作業量になり、これだけを行う社員を雇わなければならない。こうして日本中で数百人もの人間が、ドイツでは必要とされない仕事に従事している。しかしいくら熱心にメーターを読んでも、会社の売り上げ上昇に繋がるものではない。電力会社、ガス会社の儲けは、電気&ガスの販売であがる。こうした手間を省きドイツ式にすれば、膨大な仕事量が節約出来て、仕事の効率、すなわち社員一人で上げる収益率が上昇する。

わかりやすい例を挙げてみよう。以前は自宅にエンサイクロペディア、すなわち百科事典があった。医者にかかって聞いた事がない病名を聞くと、この辞書を開いてその意味や解決方法を検索したものだ。これが日本式の電気、ガス使用量の測定方式に当たる。ところが今や誰が百科事典を開くだろうか。百科事典さえない家庭がほとんどだ。何故?それはウィキペデイアを始めとして、ネットで圧倒的に早く圧倒的に多い情報が収集できるからだ。これがドイツ式の電気、ガスの測定方式に当たる。どちらの方法が効果的なのか、考えてみるまでもない。お陰で国内総生産量を労働時間で割って仕事の効率性(生産性)を比較すると、日本人の仕事の生産性は、ドイツ人と比較して2割以上も低い。

個人消費分野ではインターネットによる効率の上昇は改善されたが、工場生産部門ではまだ大きな効率の上昇につながっていない。インダストリ4.0とは、まさにこの仕事の効率を上げるための手段である。18世紀にイギリスで始まった産業革命の前まで、人類は中世と大きくかわらない生活をしていた。製品の生産は手工業のため、まるで電気ガスメータを毎月読むように生産性が低く、生活のあらゆる部分で品物、製品が不足がしていた。ところが産業革命が起きると、手工業から蒸気を利用した機械化に生産過程が以降、生産性が一気に向上、人類は始めて余剰に製品を生産する事が可能になり、市民の生活は飛躍的に向上した。これをインダストリ1.0と読んでいる。

インダストリ2.0は蒸気から、電気による大量生産過程への移行を指す。巨大な蒸気施設を必要とせず、コンセントひとつで巨大な生産機械を動かすことが可能なり、生産性が向上した。インダストリ3.0は70年代に始まったコンピューター制御による自動化だ。車の組み立てロボットなどがその典型で、生産過程のコンピューター化により、生産性が大きく向上した。そしてその次にやってくるのがインダストリ4.0で、すべての生産工程がネット上で管理できるようになる。これまでは工場で生産を開始しても、月末、あるいは四半期になって生産表があがってこないと、生産性について知ることができなかった。この為、対策を取ろうにも時間がかかってしまい、改善するまで無駄に時間が過ぎてしまう。

ところがインダストリ4.0ではすべてがネットで繋がっているので、管理者は月末の報告を待つ必要なく、1時間ごとに生産管理ができる。さらには在庫が少なくなると自動的に管理者にメッセージが届くので、「在庫切れで生産ラインが止まる。」という危険性も避けられる。在庫管理者からの報告を待つまでもない。さらにはプログラムが在庫を監視、在庫が少なくなると自動的に注文を出す。今は在庫が減ると、倉庫から調達部に連絡が届き、注文を出す度に社員がPCの前に座って発注書を作成しているが、これがすべて自動化される。こうして仕事の効率が上がり、人件費の高いドイツで生産しても、人件費の安い国の製品と世界市場で競争できる。逆に仕事の効率を上げなければ、かっては「世界の工場」だったイギリスで生産業が消滅しているように、ドイツでも生産業が消滅する危険がある。これを回避するための戦略がインダストリ4.0だ。

しかしインダストリ4.0は、「すべてが薔薇色」というわけではない。すべてがネットで繋がっているので、外部からハッカーが侵入して、生産技術を盗んだり、生産過程を操作して止めてしまうことも可能になる。これを防ぐには外部からの侵入を防ぐ手段、侵入されたらこれを早期に発見して必要な対策を打つ手段が必要だが、中小企業はまだ闇の中で手探りの状態だ。これまでのインダストリ1.0、2,0、3.0がそうだったように、まずは大きな企業から導入化が進んでいる。ドイツ政府は中小企業でも2025年までに、インダストリ4.0を新しいスタンダードにすることを目指している。日本のビックデータとドイツのインダストリ4.0、どっちが勝利するか、10年後のお楽しみだ。


生産性管理。
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Panama Papiere (11.04.2016)

2008年、脱税天国リヒテンシュタインの銀行から顧客データが盗み出されると、ドイツの税務署は高い金を払ってこれを購入した。数ヵ月後、このデータが原因で有名人が脱税容疑で逮捕された。これを機会に"Tax Heven"と呼ばれる国の銀行ではデータ漏れが止まらない。スイスはデータを買ったドイツの税務署を盗難幇助で、データを盗んだ行員を盗難で訴えたが、全く効果がない。データを盗んでドイツの税務署に売れば一生遊んで暮らせる金がもらえるので、無理もない。結果、税金天国に所得を隠しているお金持ちは、「いつばれるか?」と心配で、枕を高くして眠れなくなった。ところがこれはまだ発端に過ぎず、次にはアメリカからの「ブラックリストに載せるぞ。」という脅しが続いた。米国の財務省からの目の飛び出るような罰金に舌を巻いた銀行は降参、こうして主要国の間で"AIA"(銀行口座情報の自動交換)条約が締結され、脱税天国の数はますます減ることになった。

ところが脱税天国の数が減ると、残っている脱税天国に逃げ込む金持ちの数が急増、脱税天国の法律事務所はかってない好景気に湧いた。そのひとつが南アメリカはパナマにあるMossack Fonseca法律事務所だ。ドイツ人が経営するこの法律事務所は、とりわけドイツからの顧客が多い。ドイツ人のお金持ちが、「何処か税金天国に資産を隠したい。」と銀行に相談すると、このドイツ人が経営するパナマの法律事務所が薦められた為だ。何しろ言葉が通じる安心感は大きい。ちなみに創業者の父親はドイツ軍の新鋭部隊SSの生き残りで、戦後ドイツを脱出、パナマに逃げてきたというオチまでついている。ではパナマにおける資産隠しは、どのように行われるのだろう。

顧客からの依頼が来ると、この法律事務所はパナマに現地法人を設立する。ここで言う会社は俗に言う、"Briefkastenfirma"(郵便受け会社)で、登録だけ。会社の支店は物理上存在していないし、郵便受け会社なのに、その住所に行っても郵便受けもない。現地法人の名義は社員名義にするので顧客の名前は表に出ず、何処かの税務署が調べても足がつかない。本国で要職にある政治家は、賄賂をこの現地法人に送金してもらえば、自分の名義ではないので、本国では全くわからない。現地法人を利用するのは何も政治家ばかりではない。真面目に仕事をして大金を稼いだ人は、ここに資産を移してあちこちに投資する。投資からあがった収益には、ドイツなら28%程度の税金がかかるが、税率の低いパナマならわずか7%で済む。現地法人を利用するのは何も政治家やお金持ちだけではない。テロや戦争をするには膨大な金がかかる。お金持ちの産油国はこの現地法人を使って、イスラム国を支援した。そしてイスラム国などのテロリストはこの現地法人を使って、実行犯であるテロリストに資金を送る。この現地法人システムは、架空の名前で自由に金を隠したり、流用できるまさに完璧な脱税システムだ。

ところが幾ら完璧なシステムでも、人間がいる限り、ほぼ必ずリークする。米国の諜報機関の機密情報漏れなど、どれも漏れる訳がないと思われていたが、結局は漏れた。今回も例外ではなかった。2015年、ドイツの著名な新聞社に膨大な量のデータが持ち込まれた。そのデータはなんと2.6テラバイト。かって有名になったリークのデータ量を遥かに凌駕していた。同社は社内および、社外で400人にも上るデータの解析チームを組むと、数カ国に分かれてこのデータの解析に当たった(日本の報道機関は信用されず、お声がかからなかった。)解析が進むと持ち込まれたデータはドイツ人がパナマで経営する法律事務所のデータで、この事務所所の設立時の70年代から今日にいたるまでのすべての顧客のデータ、契約書、メール、FAX、パスポートのコピーなどのデータが含まれていた。記録されているのはなんと20万を上る現地法人。顧客はアラブの産油国から中国の書記長の家族、ロシアの大統領の側近、イランの前大統領、北朝鮮の独裁者まで、ありとあらゆる顔ぶれが揃っていた。

1年近くデータの解析を行っていた新聞社は、4月3日に世界で一斉にこのデータ(一部)を新聞の載せて暴露した。その反響はとても大きかった。ここに現地法人を持っているアイスランドの首相は「休職」に追い込まれ、英国のキャメロン首相は、「親父の口座なので関係ない。」と関与を否定したが3日後には、「利益を得た。」と認めざるをえなくなった。英国の報道機関は、「血のにおい。」をかぎつけており、首相近辺の緻密な調査に入っている。首相は、「税金は正しく払った。」と主張しているが、これが嘘だとわかった日には、退陣を余儀なくされるだろう。ウクライナのポロシェンコ大統領は、ロシアが軍事介入している真っ最中に、パナマに現地法人を設立していた。ウクライナがロシアに占領されたら、せめて自分の財産だけは確保しようという態度が見え見えだ。そして汚職に揺れるFIFA。FIFAの会長、副会長などに謹慎処分を言い渡した倫理委員会のメンバーが、ここで現地法人を開設したことが判明、辞任に追い込まれた。そして「汚職をなくす。」と就任した新会長も、現地法人を持っていることが判明した。北朝鮮の独裁者が現地法人を持っているのはわかるが、汚職摘発を進めている現中国の書記長の家族までここに現地法人を持っているのは、どうしたものだろう。

今回情報がリークしたのはまだ存在している脱税天国のひとつ、パナマのたったひとつの法律事務所のデータの一部に過ぎない。パナマ、あるいはその他の税金天国に隠されている資金は、膨大な額に上る。残念なことに、こうした脱税天国に会社を持つこと、あるいは口座を仲介することは違法ではない。しかし今回のリークで、その他の法律事務所で働いている人間がこの事件にヒントを得て、先進国の税務署にデータの購入を持ちかけるかもしれない。お金ほど魅力的、かつ効果的な原動力はない。そして同じようなリークが続けば、現地法人システムに法律上の制限がかかるかもしれない。将来、このリークがどのように発展するにせよ、資産を脱税天国に隠している人間には、辛い時期がやってくる。資産隠しがいつ暴露されるかわからず、今日は首相、書記長、大統領であんなに威張っていたのに、明日はただの人になりかねない。世の中の風通しをよくするため、今後のさらなるリークに期待したい。


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