航空業界再編製 (11.10.2016)

ドイツ第二の規模を誇る航空会社、エアベルリンに巨額の投資を行い同社を破産の憂き目から救っていたエア エチアドの我慢の緒がついに切れた。アラブ人は、幾ら金を与えても一向に厚生しない駄目息子のエアベルリンを、ばら売りすることにした。こうしてドイツの航空業界は再編成に向けて一気に動き出した。

航空業界の再編成と言えば、欧州最大の航空会社であるルフトハンザをなしには語れない(注1)。以前ここで紹介した通り、ルフトハンザは"Germanwings"ではなく、"Eurowings"を同社の格安航空会社に抜擢、ケルン空港(ケルン市の郊外にあるのに、正式名所はケルン ボン空港という名前で呼ばれている。面倒なのでここではケルン空港と略。)をその本拠地として、ライアンエアーや"Easyjet"に戦いを挑む。ケルン空港からバンコクまで199ユーロという値段で、これまで格安航空会社やアラブ諸国の航空会社に奪われた乗客を取り戻す意図だ。ただしまだ規模、路線が少なすぎて、情勢挽回には遠い道のりだ。そこでライバルであるエアベルリンのばら売りが明らかになると、ルフトハンザは真っ先につばをつけた。

ルフトハンザはエアベルリンの本拠地であるデユッセルドルフとベルリンを除く空港からの便、合計40便を乗務員付きでリースする。これによりルフトハンザは、ライバルの格安航空会社に抵抗できる路線数を持つことになる。勿論、オイロウイングスが独自の航路を開拓することもできたが、買収(正確にはリース)の方が格段に早く、費用も安上がりだ。何よりもエアベルリンという競争相手がいないので、高い集客率を期待できる。さらにはドイツ第二の利用客数を誇るミュンヘン空港発の国内線は、ルフトハンザの独占路線となる。ルフトハンザが飛びついたのも無理はない。

この取引はエアベルリンにも大きな利点がある。同社はこのリースにより、1億2000万ユーロのリース料を見込んでいる。万年赤字のエア ベルリンにとって、飛行機を飛ばさなくても手に入る1億2000万ユーロは、この上なくありがたい。このリースは10月31日から実施されるので、(例えば)ミュンヘン空港から飛ぶエアベルリンのフライとを予約された方は、エアラインから連絡がある筈だが、実質上何も変わらないので、心配しなくてもいい。それどころか、「エアベルリンが倒産したら、飛行機が飛ばない。」と心配をしなくて済む。

さらにルフトハンザはかってのベルギーの国営航空、サベナの倒産後、"Brussels"航空会社の株式の45%を買収していたが、残る55%も買収して、完全な子会社にすることを決定した。買収後、"Brussels"の名前は完全に消えて、オイロウイングスの名前で運行される。こうしてルフトハンザはオイロウイングスの路線を9月末の1週間だけで飛躍的に増幅させた。航空機の数で見れば、業界最大手のライアンエアー、第二のEasyjetに続き、第三位の地位に躍進する。

ルフトハンザがこのように大急ぎでオイロウイングスの路線を拡大しているのには、理由がある。ルフトハンザは日本の(元)国営航空会社のように、格安航空会社を見くびっていた。結果、オイロ ウイングスは、ルフトハンザの中で義理の母のような扱いをされており、その名前(存在)を知るのは、出張であちこち飛ぶビジネスマンか旅行代理店の人間くらいだった。ところが原油安にもかかわらずルフトハンザが大赤字を出している中、格安航空会社のライアンエアーは巨額の黒字を計上、「儲かって仕方がないので、チケット代を値引きする。」と発表すると、頭の固いルフトハンザの上層部にもやっとわかった。高いルフトハンザのチケット代金では格安航空会社に全く勝ち目がない。これが原因で、これまではライバルであったエア ベルリンと共同戦線を張ることにした。

一方、エアベルリンの親会社であるエチアドは、エアベルリンの子会社でオーストリア国内で就航している"NIKI"も、売却することにした。売却先は欧州最大の旅行会社"Tui"だ。"Tui"自体、"Tuifly"の名前の下に41機の航空機を持つ航空会社を運営していたが、規模が小さ過ぎる。そこで"Tui"で旅行を申し込むと、ほとんどのエア ベルリンのフライトと一緒になったパッケージ旅行だった。独自の路線を就航しても、競争が激しいので、黒字になるかどうか疑わしかったからだ。しかしここでエア ベルリン(正確にはNiki)の買収となれば、市場にぽっかり穴が開くので採算が取れる確立が高い。さらにこの買収により、これまではエア ベルリンを使っていた客を、自社の航空会社を使用して、ウイーン経由でアジア、アフリカ、中東に送り出せる。さらには合併後の会社の本社(登記)をウイーンに移せば、ドイツの厳しい労働者保護の法律に縛られない。市場の状況に合わせて、乗務員を雇用、解雇できる上、かってはフランスの名物であった乗務員のストも、ドイツのように簡単にはできない。会社は労働者に対して圧倒的に強い立場を確保、労働組合に恐喝されなくて済む。そして数の上ではエア ベルリンを抜いて、ドイツ第二の航空会社に躍進する機会でもある。

このニュースを聞いた"Tui"の社員は急に気分が悪くなった。会社が外国に移されてしまうと、ライアン エアーのような安月給でこき使われて、病気になるとお給料も支払われずクビになることを恐れた。ストをして抗議しようにも、外国の法律ではそう簡単に行かない。勝手にストをすると 飛行機が飛ばないために発生した賠償金の支払い義務が発生するからだ。このニュースは、"Tui"の社員にはあまりにも衝撃的であった。翌日から社員が軒並み病欠を申請した為、"Tui"はほとんどのフライトをキャンセルする事態に発展した。会社側は正規にお休み中の社員の中から志願者を募り、さらにエア ベルリンに乗客を移すなどしたが、焼け石に水だった。日本人なら解雇される人も最後の日までちゃんと働くが、ドイツではそんな日本の常識は通じない。解雇される、あるいは解雇される危険がある場合は、集団病欠を使用して会社に圧力をかける。今回もこの圧力が功を奏した。会社側は会社の本拠地を今後3年間はどこにも移さず、お給料も3年間は新しい会社の給与体系ではく、"Tui"の給与を支払うと発表して、ようやく病気が回復の兆しを見せた。

話しをエア ベルリンに戻そう。ばら売り後、エア ベルリンに残るのはたったの35機のみ。これだけ会社が小さくなれば、とりわけデユッセルドルフとベルリンに集中する以上、ミュンヘン空港やケルン空港などの地上勤務員も必要なくなる。そこでエア ベルリンはさらなる1200人の解雇を発表した。規模を大幅に縮小したエアベルリンは、「2018年こそは黒字の年になる。」と宣言しているが、実に怪しい。エア ベルリンが黒字を計上したのは、2012年の一回のみ。以降、「来年こそは。」と唄ってはきたが、これまで一度も成功していない。果たして親会社は、2018年が終わるまでまるまる2年も待ってくれるだろうか。エア ベルリンの株価はばら売りの影響で60セントから70セントに上昇したが、かっては20ユーロもした株価なので、状況はそれほど改善したわけではない。もし2018年も相変わらず赤字で終われば、この航空会社の倒産は避けられそうにない。



病欠に付き欠航。
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Milch ohne Ende. (03.10.2016)

去年まで欧州には"Milchquote"(牛乳量制限)があり、欧州各国が生産してもいい牛乳の上限が決まっていた。これは本来、牛乳が大量にされて値段が下落、酪農家の経済破綻を防ぐ目的で導入された。この制度が導入された80年代はまだ効果があったのかも知れないが、21世紀になってからはこの制限にもかかわらず牛乳の値段が下落を始め、酪農家の間で生き残り競争が始まった。小さな酪農家は採算が合わず、潰れるか、大型経営の農家に吸収されていった。中規模の酪農家は生き残りをかけて、効果のない"Milchquote"の撤廃を要求した。欧州各地で農家がデモをすると、ここに選挙基盤を持つ政治家、ドイツならバイエルン州の政治家、がこの議題を欧州議会に持ち込み、2015年3月末をもって廃止されることになった。

農家の考えでは、牛乳を自由に生産できるようになれば、EUはおろか、外国に乳製品を輸出できて、酪農家の収入は改善する筈だった。制限が撤去される前、スーパーでは高い"Bio"や"H-mich"(Haltbarmichの略で、加熱処理を施しているので数ヶ月常温で保存できる)でない普通の牛乳が60セント前後で買えた。制限が撤去された1年後、同じ牛乳の店頭価格は46セントまで、なんと30%も下落した。酪農家の反応は長く待つまでもなく、「これではコストも回収できない。」とドイツ全土でデモが起こった。制限がなくなれば、酪農家の考えでは収入が増えるはずだったのに、一体、何処で計算間違いをしたのだろう。

と、わざわざ聞くまでもない。上限がなくなれば、オペック諸国のように、生産できるだけオイル/牛乳を生産する。これがドイツ中は言うに及ばず、欧州中で同時に起きれば、供給が需要を追い越すのは火を見るよりも明らかだった。しかし農家は、「乳製品の輸出により、牛乳の需要が供給を上回り、牛乳の値段があがる。」とありもしない現実を空想してしまった。牛を相手に働く酪農家か、市場経済を理解できるわけもないと言えばそれまでだが、その要求に譲歩した政治家にも責任がないわけではない。ただでもたぶっている牛乳に加え、EUによるロシアへの経済政策の報復で、ロシアはEUからの乳製品の輸入を全面禁止、乳製品の輸出は増えるどころか、減少してしまった。さらには小さな酪農家がすでに姿を消し、中型、大型の酪農家が品種改良を加えた乳牛で、牛乳を大量生産しているのだから無理もない。この乳牛は15000リットル/年もの牛乳を生産できる。これは1日、42リットルに相当して、1日2回ではなく、4回も牛乳を搾ることができる。

酪農家は、「これでは生活できない。」と国に補助金と牛乳の生産量の制限を求めた。だったら"Milchquote"を撤廃しなければ良かったのだが、そこは酪農家と政治家のすること、責任はいつも他の場所にある。選挙区に酪農家を多く抱えるバイエルン州の政治家である農相は、二つ返事で1億ユーロの財政援助を約束した。しかしこれは大きな間違いだ。補助金を出してしまうと、酪農家は補助金に慣れてしまい、牛乳の生産量を削減しようとしない。牛乳が売れる、売れないに関係なく、国が補助金を出してくれるなら、どうして生産量を削減する必要があるだろう。こうして本来の問題、需要を上回る供給は一向に改善されず、牛乳の値段はさらに下落、国が用意した補助金は1年で底を付く。来年は総選挙なので、またしても新しい補助金を用意しなくてはならない。

政府がどうせ補助金を出すなら、酪農家が農家に転換できるように補助金を出すべきだった。しかし問題の根源を掴むと、酪農家から嫌われる。そこで問題の根源である多すぎる生産量をそのままににして、「補助金が尽きる前に、牛乳の値段が回復するか見てみよう。」と税金をばら撒くのは、能のない政治家のすることだ。しかしすべての酪農家が、生存の危機を迎えているわけではない。才能のある酪農家は、生産した牛乳を大手のスーパーに買い取ってもらわないで、仲間と一緒に組み合いを組織、独自の商品の開発、販売を始めた。牛乳の回収から商品作りまで組合で行い、独自商品としてスーパーに販売する。スーパーで陳列さsれている他の安い牛乳よりは値段が高いが、消費者は地元で生産された牛乳を好んで購入するので、大手の商品メーカーと戦えるだけのブランド力がある。政府がどうせ補助金を出すのなら、こうした農家の運動を補助すべきだった。

ちなみに日本は日本の酪農家を守るため、酪農製品の輸入上限を2800トンに制限、さらには輸入製品に法外な関税(30%+1KGにつき1000円!!!)をかけ、日本で生産された世界一高い酪農製品が、外国産の安い酪農品が、日本市場で同じ値段になるように操作している。結果、ドイツでは250グラムのバター(塩無添加)が1ユーロで買えるのに、日本では6~7ユーロと、ドイツの6~7倍もの値段を払わされているが、それでも毎年バターが足らないと、秋になると緊急輸入をしている。すでに2008年にバターの不足が生じているのに、10年間、政府はこれに対処せず、毎年、緊急輸入でしのいでいる。日本政府はTPP加盟に際して、バターの関税についてどのような秘密協定を結んだのだろう。関税が安くなれば、日本へバターを輸出しているニュージーランドは、将来の大きなお得意様を抱えることになる。


1リットル46セント!
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Kanzlerdämmerg (13.09.2016)

9月4日、"Mecklenburg-Vorpommern"州で選挙があった。ドイツ人でも、「えっつと何処にあったかな。」と考えるくらいなので、日本人はたまたま住んでいない限り、誰も知らない州だ。そんな辺境の州の選挙なのに、この州選挙は大いに注目された。その理由は2つある。2017年の総選挙の前哨戦となるこの州選挙は、来るべき選挙の結果を示唆する指標になる。ここで大きく投票を失った党は大急ぎで党のプログラムを書き換えないと、来年も同じ結果を味わい、国会での議席を失うことが予想される。逆にここで勝った政党は、選挙プログラムが正しいので、同じスローガンで戦えば総選挙でも"fette Beute"(大漁)を期待できる。もうひとつの理由は、メルケル首相の選挙地盤がこの州にあることだ。来年も首相候補として立候補するかどうかまだ意思表示をしてない首相にとって、ここで勝利して、これまで誰もなし得なかった4期目の首相就任に目指して勢いをつけたい。

しかし選挙が結果が出る前から、"AfD"が勝利するのは、誰の目にも明らかだった。理由は言うまでもなく、首相(政府与党)の難民政策だ。今、政府は2017年度の国家予算案の審議に入っているが、難民対策として政府は2016年と2017円だけで500億ユーロもの費用が必要になると見積もっている。この数字を見ればドイツ人が、「なんで難民ばかりが優遇するのだ。」と妬む気持ちもわかる。そこで注目は、政府の難民政策を非難する唯一の(野党)政党である"AfD"がどれだけ得票率を伸ばすかどうかという点に絞られた。選挙結果がでると、その結果は大方予想されていた範囲内ではあったが、それでも大きなショックだった。得票率を伸ばしたのは"AfD"だけで(正確に言えばこれまでは議席がなかった。)、他の政党は政府与党から野党、そし極右政党まですべて得票数を"AfD"に失った。皆まで言えば、"AfD"はこれまでは投票に行かない人間までも投票に行かせるというウルトラCまでやってのけた。このような選挙傾向はこれまでなく、まさに"AfD"の一人勝ちだった。そしてメルケル首相の率いる"CDU"は、首相の選挙地盤である州なのに、"AfD"に追い越されて第三の勢力に落ちるという屈辱的な選挙結果だった。

中国でG20首脳会談に出席していた首相は、会議の休憩時間に記者会見の時間を設けて、この敗北を正当化する必要に迫られた。暗い表情で会見に臨んだ首相は、「党首であり首相でもある私を、(選挙民は)区別することができないので、私に(敗北の)責任がある。」と言明した。日本人にはわかりにくい釈明なので説明すると、「州政府の政治とドイツ政府の政治は別のものなので、ドイツ政府への不満を州選挙で意思表示するのは正しくない。」という首相の選挙民の理解のなさへの非難と、「とは言え、選挙民がこれを(能力の欠如のため)区別することはできないので、負けた責任は私にある。」という責任逃れの、責任の取り方だった。結果、「あわよくば、この選挙結果を首相候補への立候補に使おう。」という首相の目録は四散した。

この選挙結果は、これ以上ないくらいの明らかな指針を示した。同じ選挙プログラムで2017年の総選挙に挑めば、連立与党の大敗は火を見るより明らかだ。連立与党の社会民主党の党首のガブリエル氏は、「次は俺が首相。」と虎視眈々とチャンスをうかがっている。この選挙結果を見た氏は、去年メルケル首相と一緒に難民受け入れを決定したのに、その難民政策を批判するという、風見鶏のような変わり身の速さを見せた。しかしドイツのメデイアはそれほど甘くなかった。「去年一緒に下した決定を、まるで他人がしたような態度で非難するなんてお調子がよすぎる。」と批判、同氏は人気を上げるどころか、かえって人気を下げた。この例が示すように、「このままでは負ける。」と悟りこれまでの難民政策から180度転換しても、「よくやった。」と賛同されるどころか、「それみろ。だから去年言ったじゃないか。」とかえって非難の対象になり、人気回復には繋がらない。それどころかドイツ国民の中に少数派ながらも存在している難民受け入れ派の支持を失い、孤立無援の状態となる。すなわちメルケル首相には、国民の支持を受けないとわかっていても、これまでの難民受け入れ政策にしがみつき、これをなんとか正当化するしか方法がない。

9月7日、G20首脳会談から帰国したメルケル首相は国家予算審議中の国会で演説、難民受け入れ政策を擁護した。もっとも去年使用して、国民の間で嫌われている言葉、"Wir schaffen das"(やればできる。)は賢く避けて、"Deutschland wird Deutschland bleiben – mit allem was uns daran lieb und teuer ist“(ドイツはドイツとして残る。我々が愛してその価値を認めている観念と一緒に。)と、国民を安心させようとした。CDU議員はまるで北朝鮮の偉大な指導者を迎えたように拍手喝采を送ったが、その効果は長続きしなかった。首相の難民政策に真っ向から反対している与党CSUの党首、ゼーホーファー氏は、「ドイツは、ドイツとして留まらなければならない。」と義務形の"muss"を使用して、メルケル首相の演説を添削するという効果的な方法で首相の政策を非難した。

2015年の夏まで、「メルケル首相の4期目首相就任は確実」と誰もが信じて疑わかなった。ところが1年後には、全くわからない状況に発展した。メデイアは"Kanzlerdämmerung"(首相の最終章)と銘打って、さまざまな憶測を立て始めた。挙句の果てには、「首相は再度、首相候補として立候補するか。」と推論が始まった。一度、権力の椅子に座った政治家が、進んでこの椅子を辞退した前例はない。その見本的な例がコール(元)首相だ。3期目の首相就任後、「もう立候補はしない。」と明言した。4年後、人気が急速に落ち目で、勝ち目がなかったのにちゃっかり立候補、そして敗北した。メルケル首相が、「私は12年も首相をやったので十分。あとは任せます。」と言う事はまずない。これは権力者の宿命だ。権力の椅子に座ると俗世界から隔離された生活を送るので、現実を判断する能力がなくなる。メルケル首相も、師匠と同じ運命を共にする可能性が高い。一体誰が1年前に、この展開を予想できだだろう。それもこれも当初は難民問題への言及を長い間避けていた首相が、ハンガリーで立ち往生している難民の姿を見て、一晩で「ドイツは難民を受けれる。」と態度を決定したのが原因だ。

とは言っても現在支持率20%付近で低迷している社会民主党の党首のガブリエル氏が、首相になるとは想像し難い。スーパーマーケットの買収で公平な立場をとらず、利益団体の陳情通りの判断を下すなど、氏はその器じゃない。器があるのは外務大臣のシュタインマイヤー氏だが、社会民主党が党のプログラムを今から変更するとも思えない。仮に変更しても、支持率が38%程度まで回復するのは至難の業。こうして1年後の下院選挙の行方が見えなくなった。1年後には誰が首相の椅子に座ることになるだろう。

           

ブル~な表情で会見に臨む。
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Goliath VS. David (08.09.2016)

日本で自動車部品メーカーへの発注がどんな状況で行われるか部外者にはわからないが、ドイツではなりふりかまわない"Es geht um die eingemachte."(生存を賭けた戦い)だ。新しい部品が必要となると、メーカーは部品を製造しているサプライヤーをホテルに呼び寄せる。各社はホテルの別々の部屋に「軟禁」されて、勝手に部屋から出ることは許されない。ここでメーカー側が各部屋を回って、見積もりを取る。見積もりを見たメーカー側は、「お隣さんは、○○ユーロで作れると言っている。」と供給先を徹底的に締め上げて、1セントでも安い値段を恐喝する。最近はこのようなグループ恐喝は少なくなり、その代わりに会社に部品のサプライヤーを呼びつける。時間通りに来ても、メーカー側の担当者が出てくるまで数時間も待たされる。夏日だと部屋の冷房を切って、面会を待っている下請け会社に死ぬほど汗をかかせる。勿論、水もコーヒーも何もださない。相手が精神的に参っていると会議室に担当者がやってきて、やっと交渉が始まるが、「その値段じゃ、お話にならない。」と部品メーカーをぎゅうぎゅうと締め上げる。この交渉が10時間以上かかることも珍しくなく、部品メーカーはその地獄のような交渉の結果、受注できても利潤はわずか3~5%程度しかない。

メーカー側は、「販売台数は今年だけで5万台を見込んでいる。」というので、5万個+αで価格を計算、受注をしても、実際には景気の動向、車が消費者に受け入れられず、せいぜい2万台しか売れないこともある。部品メーカーは、5万個の納入で値段を計算しているので、2万個では大赤字になる。ところがメーカー側はこうしたリスクを部品メーカーに押し付ける。「車がもっと売れても、同じ値段で買うのだからおあいこだ。」という理屈だ。こうしてドイツの部品メーカーは、"Zu viel zum Sterben, zu wenig zum Leben."(死ぬには多すぎて、まとな生活をするには少なすぎる。)という厳しい環境にさらされている。例外はボッシュなどの、他社では提供できない技術を提供している企業だ。勿論、デンソウから同じ部品を納入できるが、VWがトヨタの系列会社に部品を注文することはない。

このように下請け会社はメーカーの奴隷のような存在を強いられているが、スパルタクスを引用するまでもなく、あまりにひどい扱いをすると下請け業者といえど、反抗することがある。少なくともドイツでは。VWに車のシートカバーを納入している"Car Trim"とVWにギヤ部品を納入している"ES Automobilguss"は金曜日に、「VWへの部品の納入をストップした。」と宣言、トヨタを追い越す勢いのVWを震撼させた。部品が納入されなければ、倉庫にある部品は1~2日で使い尽くされて、生産ラインが止まってしまう。VWは値段を叩くため、この会社にVWの"Butter und Brot"(バターとパン)であるゴルフとパサートの部品をこのサプライヤーに一括発注していたので、急遽、他の会社から部品を調達するわけにもいかない。日本人なら、「部品が届かないと困るんですよ!」と怒鳴り合いになるだろうが、事態を冷静に受け止めたVWのマネージメントは、VWの全ドイツ工場での生産ラインのストップが避けれられないと判断、従業員を強制休暇に送り出すべく直ちに労働局と"Kurzarbeit"(短縮時間労働)の調整に入った。労働局がこれを認可すると、仕事が再開するまで失業保険が支払われる。その一方でVWは裁判所に、自動車部品の強制差し押さえを申請、裁判所はこれを認可した。

もっともドイツの法律では相手側にこの決定に不服を申し立てる権利が認められており、この期限が10日も先の8月31日なので、VWの生産ラインのストップは避けられない。1日で数千台のゴルフを製造している全生産ラインがストップすると、これによる会社の損益は1億ユーロ/日と言われている。10日も生産ラインが止まったら、巨額の損益になる。一体何が原因で部品メーカーはVWへの部品提供を拒否したのだろう。

この部品メーカーは両者、"Prevent"という親会社の子会社だ。この会社はかってのユーゴスラビアはボスニアに本社を置く会社で、ボスニアでは生産工場をVWと共同で運営するなど、関係は深い。プリヴェント社の声明では、VWは過去に同社と新車(の部品)を共同開発して、同社に部品を発注した。しかしその後、この共同事業は実現することなく破棄されてしまった。プリヴェント社は開発に費やした費用、8000万ユーロの損害賠償をVWに求めたが、VWはこれを拒否。どんなにお願いしてもVWが一向に支払う気がないので、今回の部品の納入ストップに踏み切った。この決断により将来、VWからの部品の受注が減る、あるいはなくなる可能性を承知の上での決定だ。同社には、絶対に負けないカードがあったに違いない。

VWは部品の購入価格を下げるため、同社に部品をまとめて受注した。これが皮肉にも、同社に「切り札」を与えることになった。この部品メーカーからの部品がなければ、わずか数日で生産ラインが止まってしまう。専門家の言う通り生産ラインのストップによるVWの損益が1日1億ユーロもかかるなら、8000万ユーロの損害賠償を払ったほうが格段に安い。こうして同社は部品の供給ストップに踏み切った。これに対してVWは、「プリヴェント社の部品に欠陥があったのが原因で、VWにはなんら責任はない。」と同社の立場を主張した。ドイツではメーカーが部品サプライヤーへの支払いを渋ることことも珍しくなく、その理由として頻繁に使われるのが部品の欠陥だ。プリヴェント社は、「VWは正当な支払いを逃れるために、ありもしない理由を挙げているにすぎない。」と反論、比較にならないほど小さな部品メーカーが、VWに真っ向から戦いを挑んだ。

自動車業界に詳しいアナリストは、よりによって今になって問題が表面化した面も指摘した。それによると排ガス操作スキャンダルにより、VWのイメージは大きく傷ついた。落ち込んだ販売台数を回復するため、同社は世界中で大幅な割引を提供、安い値段で販売台数を維持している。しかしVWはアウデイに比べて利益率が低いので、この値引きにより同社の利益率はさらに悪化した。それでも会社に利益が出るように、同社はBMWから引き抜いた部品調達部長に部品の調達コストの削減を命令、部長は部品メーカーにさらなる値引きを要求した。部品供給メーカーは、「排ガス操作スキャンダルはVWの責任なのに、何故、関係のない部品メーカーがその代償を払うのか?」と機嫌を著しく損ねていたと。そして以前から賠償金支払いの懸案を抱えていた部品メーカーが、VWの圧制についに我慢できなくなり謀反を起こしたわけだ。

VWは月曜日から部品サプライヤーのヒーローとなったこの会社と部品納入再開について協議を始めた。話し合いは20時間も中断なしで続けられた事実が、その厳しい交渉現場を想像させる。VWは火曜日になって、「部品供給再開について、部品メーカーと相互理解に達した。」と発表した。VWの言う「相互理解」がどんな理解なのか、鈴木自動車はよくその経験から語ることができるに違いない。この相互理解にもかかわらず、部品がVWの組立工場に届いて生産ラインが再び稼動を始めるまで、丸1週間かかった。お陰で2万8千人もの労働者が自宅待機を余儀なくされた。VWは労働局に短縮労働時間を申請したが、「会社と部品メーカーの争いのツケを納税者が払うのはおかしい。」とこれを拒否したので、VWは自腹でお給料を払わなければならず、VWの損害は数百万ユーロになると見られている。

今日、車メーカーは自社で部品を製造しないで、部品メーカーが開発、生産した部品を組み立てるだけ。部品メーカーあっての、メーカーなのだ。これを認識していないと、メーカーが脅し文句で使う、「生産ラインを止めるつもりか!」と逆手にとって、部品サプライヤーは生産ラインを本当にストップさせることができる。これまでは、「そんなことをすれば、サプライヤーは終わりだ。」と誰もそのような強硬手段に出なかった。しかしあまりに無茶な要求をすると、本当に部品サプライヤーがそのような手段に出ることがメーカーに伝わった。そのような事態になればメーカーの被害は計り知れないので、少なくともドイツでは今後、サプライヤーの立場が強化されると見られている。



VWに「ぎゃふん!」と言わせた部品メーカー。
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テロ支援国家 (22.08.2016)

シリアやイラクでISの戦闘員としてテロ活動を行う外国人。西欧から来ている外国人も多いが、最も多い外国人戦闘員はモルジブから来ている。一体、何が理由でインド洋に浮かぶこのさんご礁からなる小さな国の若者が大挙して、そのような行動を起こすのか。旅行に行かれたことがあるなら、こんな貧しい国でも立派なモスルが建っているのを目にしたことがあるだろう。パキスタンなどの貧しい国にも、必ず立派なモスルが建っているが、「一体、どこからこんな大金が?」と考えたことはないだろうか。モスル建設の金は産油国であり、イスラム教原理主義の守護国であるサウジアラビアから出ている。それだけなら結構なことだが、サウジはモスル建設の条件として宣教師も派遣してくる。この宣教師は西側の文化を悪の象徴として説教、イスラム国などに加わって本当のイスラム教(スンニ派)の世界制覇に貢献するように呼びかけている。

日本でそんな呼びかけをしても、それほど効果はない。日本人の平均生活レベルは高く、贅沢を知っているので、これを犠牲にしてイスラムの為に死にたいと考える人は少ない。ところが貧しいモルジブでは、唯一の収入源である観光業に従事しているのは、わずか一部の島民だけだ。残りの島民は貧しさの中で生きている。ガラパゴス諸島のように隔離された世界で生きている人間が、イスラムの立派な宣教師の話を聞くとイチコロだ。こうして若者は原理主義思想に染まり、多くの若者がイスラム国に参加している。観光で生きているこの国はイメージの悪化を懸念して、国内での取材を禁止している。この国の人間が大量にシリアやイラクの民間人を虐殺しており、そしてモルジブに帰還したかっての戦闘員が同様のテロを犯しかねないと観光客にばれてしまっては、「モルジブに行きたい。」という人は増えないだから、無理もない。

イスラム国のようなテロ組織が大規模に活動するには、人員の他、武器、物資の補給、そして金がいる。世界中にあるモスルでサウジから派遣された宣教師が西側をスケープゴードにしているので、これを信じて戦闘員になりたい若者は次々にやってくる。金はサウジやその周辺のお金持ちのスンニ派の産油国から仕送りされてくる。が、どうやって武器や物資を補給しているのか。去年、トルコがロシアの戦闘機を地対空ロケットで撃墜した際、プーチン大統領はトルコはイスラム国を武器、物資、そして人員の面で支援していると非難した。エルドガン大統領は、「証拠を見せろ。」と要求した。その後、トルコのジャーナリストがトルコ政府がイスラム国向け送ってる救援物資の中に武器を発見、紙面で報道した。エルドガン大統領はこの暴露に激怒して、この記事を載せた新聞社の社長を反逆罪で逮捕されるなど、まるで日本の大逆事件のような反応をした。

実際の所、米国、英国、フランスやドイツでもトルコがイスラム国を支援しているのは、「公然の秘密」となっている。2年前にトルコ国境の町、コバニがイスラム国に包囲された。西側は空爆を強化したかったが、トルコ政府はトルコ内の空軍基地を爆撃に使用することを禁止しただけではなく、トルコの領空を通過することさえ禁止した。そこで戦闘機は空母から発進して、爆撃目標まで数時間も長距離飛行を余儀なくされた。それでも支援にやってきたクルド人の兵士の活躍で、イスラム国をコバニから追い出すことに成功した。戦闘後、クルド人兵士は正面から攻撃してくるイスラム国に加え、本来は安全な背面であるトルコ国境から戦車攻撃があり、二面攻撃にさらされたと語った。そしてトルコ政府は、今でもコバニ復興のための資材、薬、食料をコバニに運び込むことを禁止している。

こうした否定でない事実があるが、トルコは西側にとってNato加盟国で対ロシアの要害である。ここでトルコをイスラム国支援の廉で非難すると、トルコをまんまとロシアの腕の中に引き渡すことになりかねない。西側のこのジレンマをよくわかっているトルコは、各国からやってくるイスラム国の戦闘員を空港や国境で受け入れ、トルコ国境をまたいでイスラム国支配地域への自由に行き来を可能にしている。戦闘員が負傷すれば、トルコの病院で治療を受けて、またシリアとイラクに送り返している。イスラム国が産油施設を手に入れると、原油を買い上げて、資金源を確保してやった。そして武器の補充が必要になると、トラック数十台を使ってイスラム国に提供している。そうでもなければ、イスラム国のような組織が長期間、戦闘行為を続けることは不可能だ。

何故、トルコ、エルドガン大統領はイスラム国をそこまでして支援しているのか。それはトルコはイスラム原理主義のスンニ派の国だからだ。トルコの目標はサウジと同じく、インドネシアからアフリカそして欧州まで、スンニ派の制覇を目指している。この目の敵がシーア派のイラク、イランだ。シリアは本来、原理主義派のスンニ派の国なのに、独裁者のアサド家がシーア派のため、少数派のシーア派が国を支配している。これが気に入らないトルコ、サウジなどのスンニ派は、なんとかしてアサドを権力の座から引きずりおろしたい。アサドさえいなくなれば、スンニ派が多数派なので、シリアは自然にスンニ派の支配下に落ちる。この目標に達成するため、トルコはイスラム国を支援している。そして西側は指を銜えて、これを眺めることしかできない。

ところがミスというのは、必ず起きるものだ。ドイツの左翼党の議員が、内務省にトルコのイスラム国への支援について知っている情報を明かすように要求した。内務省はドイツの諜報機関、"BND"が集めた情報を保有しているが、その情報の種類によって、これを議員に渡す前に外務省などに連絡して了解を得る必要がある。ところが担当の職員が夏休み中のせいか、この繊細な取り扱いを必要とする情報が、外務省の了解を取ることなく、議員に渡されてしまった。そこには、「トルコはテロ支援のプラットフォームになっており、その指示はエルドガン大統領から直接出ている。」と、これ以上白黒はっきりさせうようがないほどに、トルコとその大統領のテロへの関わりが報告されていた。皆までいえばこの報告書は、「議員の閲覧専用」と「秘」扱いにはなっていたが、「あっ!」という間にプレスに漏れた。そしてドイツのメデイアはこれを隠さずに、一斉に報道した。

リオでオリンピックを観戦していた内務省の次官は、この情報漏れについて聞かれると、「まさか情報を抑えるわけにもいかないだろう。」とまだ余裕のあるコメントをしていたが、ベルリンでは大騒ぎだった。ドイツの内務省がエルドガン大統領のテロ支援を公に認めてしまったからだ。この情報漏れについてコメントを求められた報道官は、「この情報は"staatswohl"(国家の安全)に関わるものなので、コメントはできない。」とコメントを拒否した。翌日、ベルリンで内務省と外務省が一緒に記者会見を開いた。内務省は今度は素直に誤りを認め、外務省は、「トルコは欧州の大事なパートナーである。」と何度も何度も繰り返したが、すでに種は蒔かれた後だった。悪行を暴露されたエルドガン大統領は激怒して、トルコの国営放送(もう自由な報道機関はない)でドイツを攻撃、ドイツとトルコの関係は新たな底辺に達した。

日本政府は、トルコは言うに及ばずテロ支援国に毎年、多額の支援をおこなっている。そんな金があるなら、支援の条件をテロ国家への援助停止を条件にして、テロ支援国家に圧力をかけるべきだ。アラブ首長国連邦のカターはイスラム国家を財政的に支援していたが、「ISを支援するなら、ドイツへの投資は受け入れられない。」とドイツ政府からイエローカードを提示されて、財政支援を停止した。難民も受け入れず、蚊帳の外で傍観しているだけの日本は、せめてそのくらいの外交努力はすべきだろう。そして日本でテロ支援国の実情が報道されれば、そんな国へいく観光客の数が減り、圧力をかける武器になる。報道の自由を謳っているなら、日本のテレビ局は「アラブ連邦はお金持ちの国です。」などという安っぽい番組を放映するのではなく、こうした事実も報道すべきだ。


テロ支援国家
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