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Panama Papiere (11.04.2016)

2008年、脱税天国リヒテンシュタインの銀行から顧客データが盗み出されると、ドイツの税務署は高い金を払ってこれを購入した。数ヵ月後、このデータが原因で有名人が脱税容疑で逮捕された。これを機会に"Tax Heven"と呼ばれる国の銀行ではデータ漏れが止まらない。スイスはデータを買ったドイツの税務署を盗難幇助で、データを盗んだ行員を盗難で訴えたが、全く効果がない。データを盗んでドイツの税務署に売れば一生遊んで暮らせる金がもらえるので、無理もない。結果、税金天国に所得を隠しているお金持ちは、「いつばれるか?」と心配で、枕を高くして眠れなくなった。ところがこれはまだ発端に過ぎず、次にはアメリカからの「ブラックリストに載せるぞ。」という脅しが続いた。米国の財務省からの目の飛び出るような罰金に舌を巻いた銀行は降参、こうして主要国の間で"AIA"(銀行口座情報の自動交換)条約が締結され、脱税天国の数はますます減ることになった。

ところが脱税天国の数が減ると、残っている脱税天国に逃げ込む金持ちの数が急増、脱税天国の法律事務所はかってない好景気に湧いた。そのひとつが南アメリカはパナマにあるMossack Fonseca法律事務所だ。ドイツ人が経営するこの法律事務所は、とりわけドイツからの顧客が多い。ドイツ人のお金持ちが、「何処か税金天国に資産を隠したい。」と銀行に相談すると、このドイツ人が経営するパナマの法律事務所が薦められた為だ。何しろ言葉が通じる安心感は大きい。ちなみに創業者の父親はドイツ軍の新鋭部隊SSの生き残りで、戦後ドイツを脱出、パナマに逃げてきたというオチまでついている。ではパナマにおける資産隠しは、どのように行われるのだろう。

顧客からの依頼が来ると、この法律事務所はパナマに現地法人を設立する。ここで言う会社は俗に言う、"Briefkastenfirma"(郵便受け会社)で、登録だけ。会社の支店は物理上存在していないし、郵便受け会社なのに、その住所に行っても郵便受けもない。現地法人の名義は社員名義にするので顧客の名前は表に出ず、何処かの税務署が調べても足がつかない。本国で要職にある政治家は、賄賂をこの現地法人に送金してもらえば、自分の名義ではないので、本国では全くわからない。現地法人を利用するのは何も政治家ばかりではない。真面目に仕事をして大金を稼いだ人は、ここに資産を移してあちこちに投資する。投資からあがった収益には、ドイツなら28%程度の税金がかかるが、税率の低いパナマならわずか7%で済む。現地法人を利用するのは何も政治家やお金持ちだけではない。テロや戦争をするには膨大な金がかかる。お金持ちの産油国はこの現地法人を使って、イスラム国を支援した。そしてイスラム国などのテロリストはこの現地法人を使って、実行犯であるテロリストに資金を送る。この現地法人システムは、架空の名前で自由に金を隠したり、流用できるまさに完璧な脱税システムだ。

ところが幾ら完璧なシステムでも、人間がいる限り、ほぼ必ずリークする。米国の諜報機関の機密情報漏れなど、どれも漏れる訳がないと思われていたが、結局は漏れた。今回も例外ではなかった。2015年、ドイツの著名な新聞社に膨大な量のデータが持ち込まれた。そのデータはなんと2.6テラバイト。かって有名になったリークのデータ量を遥かに凌駕していた。同社は社内および、社外で400人にも上るデータの解析チームを組むと、数カ国に分かれてこのデータの解析に当たった(日本の報道機関は信用されず、お声がかからなかった。)解析が進むと持ち込まれたデータはドイツ人がパナマで経営する法律事務所のデータで、この事務所所の設立時の70年代から今日にいたるまでのすべての顧客のデータ、契約書、メール、FAX、パスポートのコピーなどのデータが含まれていた。記録されているのはなんと20万を上る現地法人。顧客はアラブの産油国から中国の書記長の家族、ロシアの大統領の側近、イランの前大統領、北朝鮮の独裁者まで、ありとあらゆる顔ぶれが揃っていた。

1年近くデータの解析を行っていた新聞社は、4月3日に世界で一斉にこのデータ(一部)を新聞の載せて暴露した。その反響はとても大きかった。ここに現地法人を持っているアイスランドの首相は「休職」に追い込まれ、英国のキャメロン首相は、「親父の口座なので関係ない。」と関与を否定したが3日後には、「利益を得た。」と認めざるをえなくなった。英国の報道機関は、「血のにおい。」をかぎつけており、首相近辺の緻密な調査に入っている。首相は、「税金は正しく払った。」と主張しているが、これが嘘だとわかった日には、退陣を余儀なくされるだろう。ウクライナのポロシェンコ大統領は、ロシアが軍事介入している真っ最中に、パナマに現地法人を設立していた。ウクライナがロシアに占領されたら、せめて自分の財産だけは確保しようという態度が見え見えだ。そして汚職に揺れるFIFA。FIFAの会長、副会長などに謹慎処分を言い渡した倫理委員会のメンバーが、ここで現地法人を開設したことが判明、辞任に追い込まれた。そして「汚職をなくす。」と就任した新会長も、現地法人を持っていることが判明した。北朝鮮の独裁者が現地法人を持っているのはわかるが、汚職摘発を進めている現中国の書記長の家族までここに現地法人を持っているのは、どうしたものだろう。

今回情報がリークしたのはまだ存在している脱税天国のひとつ、パナマのたったひとつの法律事務所のデータの一部に過ぎない。パナマ、あるいはその他の税金天国に隠されている資金は、膨大な額に上る。残念なことに、こうした脱税天国に会社を持つこと、あるいは口座を仲介することは違法ではない。しかし今回のリークで、その他の法律事務所で働いている人間がこの事件にヒントを得て、先進国の税務署にデータの購入を持ちかけるかもしれない。お金ほど魅力的、かつ効果的な原動力はない。そして同じようなリークが続けば、現地法人システムに法律上の制限がかかるかもしれない。将来、このリークがどのように発展するにせよ、資産を脱税天国に隠している人間には、辛い時期がやってくる。資産隠しがいつ暴露されるかわからず、今日は首相、書記長、大統領であんなに威張っていたのに、明日はただの人になりかねない。世の中の風通しをよくするため、今後のさらなるリークに期待したい。


税務署に悩まされたらご相談ください。
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AfD (19.03.2016)

2008年に世界経済が急激に冷え込むと、日本のように国の支払いを借金で行っていたギリシャ、ポルトガル、スペイン、イタリアなどでは国債が信用をなくし、利率はうなぎのぼり、金融市場でお金を調達するのが難しくなった。ユーロ危機の発生だ。借金で首が回らなくなったユーロ加盟国救済のため、欧州中央銀行が信用を落とした国債を買う決定をすると、「ケチ」で知られるドイツ人は、「俺の大切な金を、借金を抱え込んだ国の救済に使われるのはまっぴらだ。」と大反対だった。日本人も、同じ状況にあったなら、同じように反応していてだろう。このユーロ危機で人気を上昇させたのが、"Alternativ für Deutschland"、略称、AfDという政党だ。日本では、「ドイツのための選択肢」というおかしな翻訳がされているが、意味を正しく翻訳すれば「ドイツのもうひとつの道/可能性」という意味になる。ユーロ危機が最高潮だった頃は、この政党は人気を博したが、ユーロ危機が下火になるに従い、この政党の人気も下火になってきた。

外敵がいないと、この党は自分自身と争いだした。ユーロからの脱却を主張する経済路線と、国粋主義的な右翼路線の間で、党の覇権を巡って争いが激化した。元来、この党には、党首が二人居て、それぞれ経済派と右翼派から選出されていた。ところが党大会で党首を一人にする決議案が出されると、右翼派が一致団結して右翼派の党首を推した。この策略に気づいた経済路線の党首は、すでに時遅し。苦労して作り上げた党が、右翼派の党首に乗っ取られてしまった

右翼というと、学校での成績が悪く、劣等感から社会に抵抗したいが、一人では勇気がないので何もできない。そこで団体に属して、適応できなかった社会に抵抗するケースが想像されるが、Afdの党首に納まったペトリ女子彼女は英国の大学で学び、起業、ドイツ政府から「功労賞」をもらったほどの才女だ。平均以上の才能、学歴を持つ彼女が、学校での悪い成績、劣等感に悩まされて右翼になったのではないことは明らかだ。その原因はその生まれにありそうだ。1975年にドレスデンで生まれたので、敏感な少女時代、ガチガチの左翼思想の下で教育を受けた。壁が崩壊すると東ドイツ市民は、西側市民から軽視された。壁の崩壊後、西ドイツに移った彼女は、東の育ちのため一種の劣等感を感じていた。自分の尊厳を取り戻すため、彼女の考えではさらに劣等民族である外国人を差別をすることで、自身の劣等感を相殺しようとしたのかもしれない。

AfDの党首に納まると、まるで彼女の登場を待っていていたかのように「神風」が吹いた。そう、とめどなく押し寄せてくる難民だ。ドイツでは政府与党は言うに及ばず野党まで、難民受け入れを擁護した。ところがバイエルン州のCSUとAfDだけは、難民受け入れに反対した。正確に言えば前者は、受け入れる難民の数を年間20万人に制限する方策を主張しているのに対して、後者は難民の受け入れを頭から拒否、新党首はドイツ国境は火器を使用して守るべきだと主張した。AfDはメデイアで右翼政党と報道され、猫をかぶるのに苦心していた。この新党首の思慮を欠いた発言に、党首某部は大いに困惑した。数日後、党内の圧力で党首は発言を撤回したが、AfDの路線は誰にも明らかだった。しかしそれでもAfDの支持率は落ちなかった。この発言で支持を撤回する国民よりも、一向に歯止めが利かない難民の流入を心配する国民の数の方が多かった。

3月の地方選挙が迫ると、政府与党CDUの候補者は、「このままでは選挙に負ける。」と心配になってきた。Rheinland-Pfalz州の州知事候補者は、よりによってバイエルン州のCSUと共同戦線を張り、難民受け入れを制限するようにメルケル首相に提言するほど、これまで楽勝に思われていた州知事の椅子が遠のき始めていた。首相は地方選挙での敗北を回避するために、急遽、EU首脳会議を招集、ここで「難民は加盟国の中で公平に分配する。」という理解を取ろうと努力をした。しかし彼女の最大の支えであったフランス、さらにはオーストリアまで、「難民問題はドイツの問題なので、ドイツが難民を受け入れるべき。」とメルケル首相を置き去りにした。EU諸国は去年のメルケル首相の発言、「難民を歓迎する。」が今回の難民問題の悪化を招いたと確信しており、ドイツの首相の失敗ために難民を受け入れて、国内で反発を受けて政権を失う危険を冒す気は、これぽっちもない。

結局、EUはトルコに30億ユーロ(4千億円!!)を払い(大部分はドイツが支払う)、ギリシャに不法入国した難民をトルコに送還することが合意された。トルコに「送還された」難民は、トルコ国内で書類の審査を受け、晴れて審査に欧州内に合法に入国できるというわけだ。もっともトルコはこの取引の条件として30億ユーロではなく、90億ユーロを要求しており、さらにトルコ国民のEU内へのビザなし入国を要求している。EUは条件が満たされれば、トルコ市民のビザなしでのEU(正確にはシェンゲンビザ加盟国)への入国を7月から認めるといっているが、72もの条件をあげているので現実化する可能性は低い。早い話、トルコとの協定がメルケル首相以下、政府与党に来たる地方選挙で好ましい影響を出す可能性はほとんどない。

これが選挙前の状況で、難民の数が減るという保障は何処にもなかった。当然、難民受け入れを拒否するAfDが大きく躍進することは予想されていたが、西側で10%程度、外国人嫌いの東ドイツではその倍の得票になるかもしれないと予想されていた。蓋を開けて見ると、AfDはそれぞれ12%、15%、東では24%を獲得、予想を大きく上回る快勝となった。とりわけ東では第一党のCDUの30%に迫る勢いで、これまでの大衆政党(SPD)を一気に追い越した。当然、諸外国では、「ドイツは右に寄った。」と報道されたが、これは必ずしも正しくない。

その証拠がメルケル首相の難民受け入れ政策を擁護していた、Baden-Wuertemberg州とRheinland-Pfalz州の州知事だ。双方、難民受け入れを公言していたのに、得票率を伸ばすことに成功した。難民の受け入れを決定(許可)するのは"Bund"(国)なので、Land"(州)には決定権がない。州選挙では、国の政策ではなく、州知事の仕事振りが評価される。大きなミスをしないでちゃんと仕事をしていれば、難民受け入れ姿勢にも関わらず、得票数を伸ばして州知事の椅子を守り通すことができた。日本のメデイアが報道するようにドイツが「右に寄った」なら、両者、選挙で惨敗した筈だ。AfDが得票率を伸ばすことに成功したのは、これまで選挙に行かなかった層を動因することに成功したことにある。「投票しても何も変わらない。」と政治に不満をいただきながらも投票にいかなかった層が、「AfDに投票することで、不満を明らかにする事ができる。」と投票に行った。さらにAfDを除けば、との政党も難民受け入れを選挙スローガンにしていたので、不安な市民はAfDに投票するしか選択肢がなかった。これがAfDが躍進した理由で、急にドイツが右向きをしたわけではない。

メルケル首相の「難民コース」が選挙民から反発をくらい敗北したにもかかわず、首相は難民受け入れ姿勢を「調整」しないと明言、パートナーCSUの怒りを買った。一方、連立与党のパートナーであるSPDは、もっとひどい惨敗を喫した。東ではAfDに追い越され、わずか10%の得票率まで落下した。共産党でも緑の党ならわかるが、政権を担当する政党の得票率としては、歴史に残る最悪の得票率となった。得票率の侵食は東だけではない。かってSPDの得票率50%+を誇り、「SPDの要塞都市」として知られたドイツ有数の工業都市マンハイムでは、SPDは最後の1議席までAfDに失い、議席数ゼロ、SPDの要塞都市は消滅した。にもかかわらず党首は現実を拒否、「SPDのコースが選挙民に受け入れられた。」と、都合のいい選挙結果の解釈をした。選挙前から党首の椅子が揺れていたガブリエル党首だけに、この歴史的な敗戦で、「この党首でいいのか。」という議論を発生さえないことを狙っての発言だった。

ドイツはこれからどちらに向かうのだろう。ドイツにやってくる難民の数が減らない限り、AfDは得票率を伸ばし続け、1年半後の下院選挙ではかってのNSDAPのように大きく躍進する可能性もある。幸いなことにドイツの抵抗にかかわず、「バルカンルート」と呼ばれる難民街道はマケドニア、ハンガリー、クロアチア、スロベニア、オーストリアなどのお陰で、封鎖された。難民の数は、新たな戦禍が発生しない限り、減少していくだろう。しかしすでにドイツが受け入れた120万人近い難民をどうやって、「同化」させていくのか。ドイツには、日本に負けるとも劣らない筆舌に尽きる官僚システムがある。使い道のない全国民の座高を70年間も測り続けるのが日本なら、シリアで負傷者を助けていた為、政府軍の暗殺リストに乗り、ドイツに逃げてきた医師に、「シリアに返って、シリア政府発行の医師の免許証をもらってこい。」と平気で言うのがドイツの官僚だ。セメントのように頭の硬い官僚に、120万ものドイツ語さえ解さない難民の同化ができるとは到底思えない。これがもたらす社会不安を考えると、今から頭が痛い。過去の反省からその正反対をすると、これが逆効果になるいい見本だ。無制限に難民を受け入れるのではなく、スウエーデンのように受け入れの上限を決めて、受け入れた難民の面倒をちゃんとみるべきだった。


反対票を獲得して躍進したAfD。
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またしても地方選挙で敗北を喫した首相。
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politisch korrekt (14.03.2016)

難民がドイツに押し寄せてきたのをきっかけに、ドイツの社会は真っ二つに割れている。去年、財務大臣のショイブレ氏が「雪崩のように」とドイツに押し寄せる難民を描写したことがあった。日本にはオバマ大領を「奴隷の出身」と表現する政治家もいるので、「その表現の何処が悪い?」と思われるだろうが、戦争の災禍を逃れてくる戦争難民を「雪崩よばわり」するのは正しくないと非難された。ドイツでは、"politisch korrekt"(政治的に正しい)発言が重視される。日本では戦争中の気の狂ったスローガン「一億総玉砕」を現代版にして、政府のスローガンとして使用するが、ドイツでは"No go"(やってはならない常識。)だ。そしてドイツで実際にそのようなスローガンを用いると、処罰は時間の問題だ。警察が警備に動因された際、通信装置がうまく作動するか、「音声テスト」を行った。問題はその文面。かってゲッペルス宣伝相が戦争中、「国民よ、総力戦を欲するか。」とベルリンのスポーツ競技場で大演説をやったことがあった。この警察官は冗談で、「国民よ、総力戦を欲するか。」と音声テストを行った。不幸なことに音声はばっちり聞こえ、これが記者の耳にまで入ってしまった。"politisch korrekt"な表現が重視されるドイツでは、これは非常にマズイ。とりわけ政治家、警察官がやると。この警察官はこの冗談のお陰で、謹慎処分となった。

この例が示すように、「ドイツ人はやっぱりナチス。」と言われないように、難民について報道する際はとりわけ精神を尖らせている。難民がいかに身の危険を冒してドイツまで逃げてきているのか、"politisch korrekt"な報道にやっきになっている。パリでテロがあった際、テロリストの1名は難民を装って入国したことが明きからになった。これは非常にマズイ。100万人の難民中、99万9千9百99人が本当の難民でたったの一人がテロリストでも、「難民に紛れて入国したテロリストが、」と報道されると、「難民=テロリスト=入国させるべきではない。」という図式が出来上がってしまう。そこでテロリストの入国経路に関しての報道は、必要最低限に限定された。難民受け入れ制限派の旗手であるCSUの党首でさえ、「十派一絡げにしてはならない。」と慎重な態度を見せた。世論が反難民ムードに染まると、かってのナチスのように社会が危険な方向に怒涛のように動き出してしまうのを危惧しての発言だった。

ところが国民の少なくない部分は、そのような報道に我慢がならない。こうした人々は、「メデイアは政府と一緒になって事実を隠している。」と疑いはじめ、ネット上では難民が犯した犯罪報道で一杯になった。難民がスーパーに集団で盗みに来るのでスーパーが倒産したとか、羊を盗むと、これをイスラムの戒律に従って首を切り「活き締め」、肉はその場で食されたなど、ありとあらゆる伝説で一杯になっている。日本でも、「難民としてイスラム国のテロリストが大量に入国。イスラム国の旗を振って恣意行進している。」などと、根拠のない主張が溢れている。その「証拠」として挙げられる写真は、"Salafisten"(イスラム原理者)がドイツで宗教勧誘をしている光景だ。そして難民に反対する「ドイツ人」の証拠として上げれるのは、ネオナチの恣意行進だ。ドイツでも日本でも、自分の主張する説に信憑性を与えるために起きてもいない犯罪や事件を捏造、ネットで関係のない写真や映像を拾ってくると、これを証拠として勝手な意見を主張しているのでそんな話に騙されないように注意が必要だ。

日本の難民報道にそっくりなのが、ロシアの報道だ。ドイツには多くの「ドイツ移民」が住んでいる。ロシア国内、ヴォルガ河畔には数世紀に渡ってドイツ民族が住んでいた。ドイツ語を話す人はほとんどなく、話すのはロシア語のみ。生まれもロシアなので、ロシア人と何も変わらないように見えるが、名前が典型的なドイツ人の名前だ。このドイツ移民はソビエト崩壊後、大量にドイツにやってきた。ドイツ政府はナチスの伝統を受けついで「血統制」を採用しているので、ドイツ人の血が流れていると、ロシアで生まれて、ロシア語しか話せなくてもドイツ人と認知され、ドイツのパスポートが支給され、ドイツ語のレッスンは無料、住む場所も(収入が無い限り)地方自治体から貸与される。この為、未だにロシアからドイツに「戻ってくる」ドイツ移民が多いが、ブラジル生まれの日本人のように、慣習が違い、社会に溶け込むのに苦労している。ドイツに来たものの、ドイツ語を話さず、ロシア人社会に留まっているので、ドイツ社会に溶け込めない。

ある日、ドイツ移民の13歳の少女が2日間、行方不明になった。少女はドイツ語が苦手で学校に行くのが嫌になり、友達のアパートに、「家出」しただけなのだが、彼女の周囲の(ロシア移民)ドイツ人は、「難民にさらわれて、2日間、性的暴行を受けた。」と主張した。警察も「行く不明の届け出」が出ていたので調査したが、単に友達のアパートに家出、親には「さらわれた。」と嘘を語ったことが判明した。彼女が携帯していた携帯電話の記録から、この事実が実証された。しかしロシアの外務省は、「ドイツ政府は"politisch korrekt"な報道をするため、ロシア人少女の強姦を隠している。」と非難した。ドイツ移民はドイツ政府よりもロシア政府の発表を信じて、ドイツ政府の「秘匿」に抗議行進を行った。日本でもしこの事件が報道されていれば、「難民による13歳の少女の集団暴行事件」というロシア政府顔負けの報道になっていただろう。

その一方、ドイツには難民受け入れ派も居る。それも政治家のように口先だけではなく、仕事が終わってから難民の世話に出かけて無償で働く人。2015年にはこのように善意で難民のために働く人を"Gutmensch"(お人好し)と呼ぶ言葉まで出来た。数的には劣勢にある難民受け入れ派は、難民受け入れに反対するドイツ人の頭の固さに苦汁を飲まされていた。27年前、かってはドイツ人が東ドイツから逃亡、難民として欧州各国でお世話になった。当時、ダマスカスにあったドイツ領事館に、シリア市民からの募金が届いた。そこには、「ドイツ人難民のために使ってください。」と書かれており、彼の一か月分のお給料が現金で同封されていた。あれから27年経って立場が逆になると、「シリア難民を受け入れると、俺たちの貯金が減る。」と自分の将来ばかりを考えて、恩を返そうともしないドイツ人。そんな風潮に我慢ならない難民受け入れ派の一人が、「真冬にも関わらず、戸外で寝泊りをさせれた難民が病院に収容される途上で死亡した。」とネットに流した。するとネット上では、「戦禍を生き延びて、危険なエーゲ海航路を生き延びて、ベルリンの官庁前で死亡した。」とまるで自分の目で見てきたかのように語られた。これに次々に「尾ひれ」が付いてこのニュースはあっという間に大腸菌のように増殖した。わずか数時間後には、この御伽噺を信じた市民が「死亡現場」を訪問、弔いのろうそくを点す事態にまで発展した。ところが翌日、死亡した難民は存在しておらず、一人のドイツ人のいたずらだったことが判明した。

難民受け入れ派、反対派、どちらも真実の報道よりも、「説得力」、「インパクト」に重点を置いているので、どちらの主張でも真に受けないほうがいい。ドイツに住んで、ドイツの難民事情を追っていて、この有様だ。日本に居て、難民事情の本当の有様を理解することは、まず不可能。あやしげな証拠写真で飾れたニュースを読んで、「難民のせいで犯罪率が上がっている。」などと、すぐに感化されない慎重な態度が必要だ。ドイツに留学経験のある方なら、言葉もわからず、一人で途方にくれたことも何度かあった筈だ。シリアからの難民はもっと深刻で、家、家族、財産をなくして、命からがら逃げてきており、帰る場所さえない。世界中にはそんな難民が溢れているので、難民を無制限に受け入れることはできない。なら素直にスウーデンのように難民の上限を決めて、受け入れた難民の面倒をちゃんと見るべきだ。ドイツのように、「上限は設定しない。」と建前の政策を導入、無制限に難民を受け入れて、数ヶ月も劣悪な環境で放置するとすると、国内が二分される。さらには難民が国民に受け入れられず、国内でゲットーが生じることになる。


死去した難民を弔う?
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"Symbiose" (10.03.2016)

ドイツでも地方自治体は、地元に大量の雇用を提供してくれる電力会社の株を保有している。勿論、自治体は電力会社が毎年払う配当金がお目当てで、電力会社の配当金は市の予算に毎年、多額の貢献をしている。景気が悪くなると業績が悪化して配当金が削られる業種と異なり、電気は景気が悪くなっても消費されるので、電力会社の業績は安定、安定した配当金が得られる。このような背景もあって地方自治体と電力会社は一種の"Symbiose"を形成していた。ちょうど花粉を運んでくれる蜂がいなくなれば、果実農家の仕事がなくなるように、両者は互いになければなならない関係にあった。だから原子力発電所の近辺で癌になる住民の数が増えても、「直接の関係は認められない。」という電力会社の立場を尊重した。電力会社が電気代を値上げしても、これを黙認した。会社の儲けが増大すれば、配当金も上昇するからだ。電力会社はそのお礼に、「将来必要になる原子力発電所の解体費用は、毎年の儲けの中から、積み立てておきます。」と約束した。

この関係は半世紀にわたって存続してきた。ところがまずはチェルノブイリの原子炉爆発事故で、ドイツ国内原発の廃止が決まり、電力会社は原発に変わる「金のなる木」を探す必要に迫られた。そこで電力会社が注目したのが、ドイツに「履いて捨てるほどある」品質の悪い褐色石炭を使う火力発電だ。燃焼効率が悪いので発電効率は低いが、何しろ、褐色石炭は無尽蔵にある。そこで大型の採掘施設を設けて大量に採掘、安い費用で電気を製造する事が可能になった。ところが褐色石炭は大量に二酸化炭素を排出する。90年代になると環境汚染、とりわけ地球の温暖化で二酸化炭素が悪玉に挙げられた。しかし自治体は電力会社の言う、「クリーンな火力発電」という言葉を鵜呑みにして、新しい石炭発電所の建設を次々に許可した。21世紀になって誕生した新政府は、政権奪取を可能にした献金のお礼に原子力発電所の創業年数を20年延期すると、「解体処分」になる筈だった原子力発電所は再び金のなる木に変身、電力会社はまさに最盛期を迎え、ルール工業地帯の心臓部、エッセンに本社を置くドイツ第二の電力会社、RWEの株価は100ユーロを突破、運命共同体である地方自治体も相好を崩した。

2007/8年の大不況で株価は75ユーロまで下落したが、不況でも電気はこれまで通り消費され、配当金は安定、不景気で税収入の減った地方自治体は「ほっ」と胸をなでおろした。ところが環境対策としてクリーンな再生エネルギーへ補助金が決定されると、これまでは巨大な電力会社に太刀打ちできなかった中規模の会社、そして個人までこのエネルギーに投資を始めた。RWEを初めとする巨大な電力会社はこれまで通り一極集中型の大型発電者に固執、こっけないほど発電量の低い再生エネルギーを鼻で笑った。しかし間に悪い事に、これまでは一向に効果のなかった電力市場の自由化が、ここに来て始めて効果を発揮し始めた。ライプチッヒに設けられた電気市場で、大型顧客への電気代が下降を初め、1年間で半額以下にまで下がった。これはドイツの電気市場を独占する電力会社への強烈なボデイーブローとなり、株価はボデイーブローをくらったボクサーのようにガックリ折れた。あの金融信用危機の際、75ユーロもしていた株価は、いきなり40ユーロまで下がった。そしてこの間の悪い時期、今度は福島原発で原子炉が溶解する事故が起きた。

ドイツ政府が議決したばかりの原発の稼動延期プランを廃案にすると、RWEの株価の下落は加速され、20ユーロにまで下落した。しかるに地方自治体への「義理」があるRWEは一株あたり2ユーロという高額の配当金を払った。みるもわずかな額に下落した株価に不満の自治体も、とりあえず配当金が支払われる事で満足、将来について考える事を怠った。個人投資家ならこの時点で、電力会社の将来は見えている事を悟り、株を売却していただろう。2013年には株価は30ユーロを越えるまで回復、この機会に「さようなら」をするチャンスがあった。実際、デユッセルドルフなど、ごく一部の先見の明のある自治体は株を売価、"Symbiose"から脱した。しかし大多数の自治体は、「我慢すれば厳しい冬の時期もいつかは終わる。」と、これまで半世紀以上にわたって続いた"Symbiose"から抜け出す決心がつかなかった。株を売ってしまうと配当金に変わる収入源を見つける必要があるが、自治体はそのような努力を好まなかった。

そしてこれまで、「こっけいなほど発電量が低い。」をあざけっていた再生エネルギーの発電量が急増してきた。日本と違ってドイツでは、「再生エネルギーを優先する。」と決められているので、風の強い日、天気のいい日に再生エネルギーが需要を越えて発電されると、高い金を払って建設した火力発電者は業務停止を余儀なくされる。航空会社の航空機は、「飛んで何ぼ」の物で、地上待機していると金にならない。同じように電力会社の発電所は、「発電して何ぼ」の物で、業務停止しているだけでは、発電所の維持経費ばかりかかってしまう。お陰でRWEは2014年280億ユーロの赤字を計上した。しかしこの時点でも同社は一株あたり1ユーロの配当金を払った。同社は空前の300億ユーロの借金があることを考えれば、配当金を借金の返済に回すべきだったろうが、自治体同様にこれまでの「ぬるま湯」から抜け出す事ができなかった。

さらには、ここで紹介した通り、「原発の解体費用が足らない。」と報道された。するとライバルのEON社は、会社を二分、原発を子会社に移管する妙案を思いついた。いざ、原発の解体が始まり、お金が足らなくなり会社が倒産しても、あとは福島原発のように国が税金を使って面倒を見てくれるという、実に頭のいい妙案だった。しかしドイツ政府はこの案が実行される前に、「原発を子会社に移管してはならない。」と法案を成立させて、EONの子会社案を粉砕した。結果、同社は原発、火力発電を本社に留め、再生エネルギーの発電は子会社に移管することにした。この新会社をクリーンなエネルギー会社として宣伝、乗り遅れた波に飛び乗り、これで一儲けしようという狙いだ。このEONの決定後、注目はRWEに集まった。遅かれ早かれ、同社もこれに追随するとみられたが、1年に渡って何も聞かれなった。ライバルEONの奇抜なアイデアに圧巻されて、大急ぎで同じようなプランの作成に入ったことが推測された。

2015年になると電力会社をとりまく環境はますます悪化した。原子力発電と火力発電に頼る日本と違って、早めに再生エネルギーへの転換を始めたドイツでは、2015年、なんと発電量の33%を再生エネルギーから得た。すなわち電力会社が保有している巨大な発電所は、待機するだけで、会社のお荷物に成り下がった。まったく儲からない発電事業でRWEは2015年、またしても赤字に転落、株価は記録的な8ユーロという最安値を更新した。かって100ユーロもした株価が、たったの8ユーロ。そして将来も暗い。今後、再生エネルギーの成長が続く事はあっても、火力発電が必要とされる事はますます稀になる。結果、同社は電子力発電所ばかりか、火力発電まで早期に廃止、解体を迫られることになりそうだ。しかし巨額の借金はあっても、その財源がない。ここにきて同社はライバルのEONの戦術をコピー、同社を二分すると発表した。そして再生エネルギーを担当する新しい子会社の社長には、RWEの社長であるTerium氏が、就任すると決定した。通常、そのような会社の将来を左右する戦略の変更は、「切っても切れない関係」にあるパートナーの地方自治体の了解を得てから発表するものだが、地方自治体は相談を受けず、決定だけが通告された。

地方自治体は、RWEがこれまでの伝統を破り、なりふりかまわぬ行動に出たことを不審に思ったが、もっと大きなショックは2016年にやってきた。RWEは株式ニュースで、2015年分の配当金をカットすると発表、大株主である地方自治体はRWEからではなく、ニュースでこの一大事を知らされることになった。RWEは巨額の赤字にもかかわらず、2014年、50セントの配当金を払った。2015年は厳しい年だったので、自治体は配当金が減額されるとは予想していたが、まさかゼロになるとは予想していなかったという。もっともそのような楽観的な見方をしていたのは自治体だけで、アナリストは口を揃えて、「RWEが配当金をカットするのは時間の問題。」と言っていた。自治体は厳しい現実から目を背けて、都合のいい夢を描いていたに過ぎない。こうして地方自治体の2016年の予算に、ぽっかりと大穴が空く事になった。RWEのお膝元のエッセンだけでも、900万ユーロの予算(配当金)が欠けるという。ただでも難民の世話で自治体の家計は火の車。配当金がなくなって、自治体は税金、料金を上げることを余儀なくされている。

現在、RWEの株価は11ユーロ前後で取引されているが、「安い!」と同社の株を買うのは、大きな危険が伴う。10年前なら鼻で笑われただろうが、果たして10年後にRWEがまだ存在しているか、微妙になってきた。減り続ける売り上げに加え、天文学的な借金を抱え、暗いトンネルの出口が全く見えない。他の大手の電力会社と合併する事ができれば、コストカットが可能になり、業績が改善するかもしれない。しかし結納金の代わりに、巨額の借金をもって来る嫁の嫁ぎ先があるのだろうか。仮にそんなオファーがあっても、専売監査局が結婚式を認可するとも思えない。日本でも地方自治体は電力会社の株を保有しているケースが多いという。日本でも電気市場が自由化され、ちょうど10年前のドイツのような環境にある。今後、日本政府がこれまでの原子力エネルギーと火力発電への一辺倒から撤退する事態になれば、一極集中型の日本の巨大な電力会社は、RWEの二の舞になる。そうなってから文句を言っても、すでに時遅し。自治体は電力会社への依存を今から徐々に減らしていくべきだが、ドイツの自治体のように、「時遅し」となるまで行動を取らないのが自治体(官僚)なので、日本でも同じ顛末になるだろう。


策なし、お手上げ。
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