パイロット vs. 客室乗務員 (03.12.2016)

旅行代理店に勤めていた頃、エアフランスの名物と言えばスト。ビジネスで欧州に飛ぶ客には、「エアフランはストが多いですよ。」と警告しておかないと、「ストでフライトがキャンセルになりました。どうしてくれるんですか。」という苦情を覚悟しておかなくてはならなかった。その同じ病気がドイツにやってきた。ルフトハンザのパイロットが構成する労働団体、"Cockpit"は給与アップと早期退職、それに企業年金の改善を要求して2012年から"Neverending Strike"(終わりのないスト)に突入した。

不思議なことにドイツ人は、ストに対して日本人には理解できない理解度がある。劣悪な労働環境に抵抗してきた長い歴史があるからだろうが、「ストは労働者の権利だ。」と言い、ストのお陰で仕事に遅れてしまうのに、怒っていない。(勿論、怒っている人も居ます。)普段は自分の都合を最優先するドイツ人が、「仕事に遅れても、労働者の権利は守るべきだ。」と言うのは、目を見張る。だから当初はパイロットのストにも理解があったが、その理解にも限度があった。パイロットのストに加えて、客室乗務員のスト、そして空港の地上勤務員のスト、さらには空港管理局員のストが続き、まるでフランスのような様相を呈してきた。一年で一番大事な休暇のフライトがキャンセルされると、次第に世論が硬化してきた。

パイロットは、数ある職業の中でももっともお給与の高い職業のひとつだが、その中でも業界大手のルフトハンザはとってもお給料がいい。パイロット学校を卒業した初任給は、さまざまな手当てが加わって7万3千ユーロ(年俸)、日本円ではほぼ1000万円、とかなりの高給だ。毎年、賞与のカテゴリーは上昇して、定年まで勤めると、22万5千ユーロという夢のような超高給取りになる。定年後は国から出る年金が2万3000ユーロ、これに加えて企業年金が5万4千ユーロも支払われる。ルフトハンザよりも給与が高いのはエミレーツだけで、エアベルリンのパイロットには夢のような高給だ。まだ格安航空会社なんてものが存在しておらず、ルフトハンザの高いチケット料金でも座席を乗客で埋めることができる限りは、このような高給を払い、高額な年金を払うことができた。ところが格安航空会社が台等、ルフトハンザの客を奪い始めると会社の業績が悪化、しまいには赤字になると、「ウチは元、国営ですから。」と過去の栄華にふんそりかえっているわけにはいかなくなった。

某(元)国営航空会社は、この時代の流れを読めず、経営破綻したが、ルフトハンザの経営陣はそこまでナイーブではなかった。ルフトハンザを救うには、独自の格安航空会社を導入して、これに対抗するしかないと正しく判断した。しかし独自の格安航空会社を新設して、安いお給料で新社員を雇っても、社員の大部分は古い(高い)ルフトハンザの契約でパイロット、客室乗務員を雇っている。そこで2012年にパイロットとの給与契約が期限を迎えると、給与体系を見直して給与の上げ幅を抑制、企業年金も手を加えて会社の負担を減らそうとした。給与体系の見直しと言っても英国航空やエアフランスなどより高い給与が支払われるのだが、パイロットには会社の勝手な都合としか思えなかった。こうして長く続くことになるパイロットの反抗が始まった。

ルフトハンザはパイロット側に4.4%の給与アップ+1.8ヶ月分の特別ボーナスを提示したが、コックピット(パイロットの労働組合)は給与の20%アップを要求しており、会社側のオファーを、「全く話し合う気がない。」とけちょんけちょんに非難、ストに再突入した。このストにより、毎日、890ものフライトがキャンセルされ、9万8千人の乗客が苦渋をなめている。ストによる会社の損益は1500万ユーロ/日にも上る。しかしパイロットは会社を無期限ストで脅し、会社の運命など全く気にかけていなかった。

ところがである。これまでは共同ストを展開するなど、仲の良いところを見せていたルフトハンザの地上勤務員だが、コックピットが無茶な要求を上げ、日々仕事なく自宅待機になり、会社に大きなダメージを与えているの見ていると、次第に腹が立ってきた。地上勤務員の数倍の高給をもらっているのに、さらに20%もの昇給なんて有り得ない!コックピットのストお陰で自宅待機している期間は、お給料が支払われないのだ。そして会社がストのお陰で大赤字を出せば、その金は何処かで節約しなくてはらない。早い話、パイロットのストのしわ寄せが来るのは、客室乗務員、それに地上勤務員だ。地上勤務員の労働組合は、パイロットが会社側の4.4%の給与アップを蹴ってストに突入、会社の前でデモすると、「パイロットは強欲すぎる。恥を知れ!」と会社前で対抗デモを行った

パイロットは当初、「お前たちは会社に騙されているんだ!」と同僚の対抗ストを真面目に取ろうとしなかったが、ジーメンスの社長などドイツの経済界のトップは、パイロットのストを批判した。日本政府は言うに及ばず、タイ、インド、マレーシアなど、各国は投資家を自国に招こうと必死で、高い金を払ってCMをゴールデンアワーに流している。ドイツだって例外じゃない。投資家がドイツに来てくれなければ、国内経済は空洞化してしまう。そこで「高い教育水準、高い労働者の能力」を訴えて、資本家にアピールしている。しかしいくら努力しても、パイロットの終わりのないストが報道されると、折角の努力が水の泡だ。労働組合に急所を握られている企業の姿が報道されると、そんな国に投資しようという奇特な投資家はいない。経済界はパイロットのストが与える悪影響を心配した。これにメデイアからのパイロット非難も加わって、コックピットはパイロットが銀行員のように、社会のエリートから詐欺士のレベルまでイメージが落ちることが心配になってきた。ようやく置かれている状況を理解し始めたコックピットは、会側の提案を検討すると発表、結果が出るまでストを延期した。


客室乗務員団体、UFOのデモ。
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大統領を探せ! (19.11.2016)

ドイツにも大統領が居る。もっとも実権がないので、悪く言えばただの飾り。日本人と違って現実的なドイツ人は、「金がかかるだけ。大統領なんて要らない。」と言う。まったくその通りだが、政権にある政党がこの制度を擁護しているので、なくなることはなさそうだ。ドイツの大統領は、オーストリアと違って国民投票ではなく、国会議員の投票で決まる。すなわち国会で過半数を持っている政府与党の推す候補が、大統領に就任することになる。なのに野党は大統領に独自の候補者を立てる。日本人だと「チャンスがないのに、どうして大統領の候補者指名を受けるの?恥をかくだけじゃない」と思う。ところが大統領候補というだけで「15分の名声」を享受することができるので、勝ち目はないのに野党の指名を好んで受ける。案の定、投票で負けるが、顔が売れる。その後、テレビの討論番組などに招待されるので、負けても十分なリターンがある。

問題が発生するのは、今のようにCDU、 CSU、そしてSPDの連立政権の場合だ。各党が独自の候補を挙げるので、大統領選抜は揉めに揉める。実権がない大統領なのでもっと現実的に考えてもいいものだが、政治家は面子を重視するので、いろいろな画策を用いて独自の候補を大統領に就任させようとする。前大統領が収賄疑惑で辞任を余儀なくされた際、SPDは東ドイツの牧師で人権運動家のGauck氏を大統領に推した。CDU, CSUはこれに反対して財務大臣を大統領に就任させようとしたが、SPDの猛反対をくらった上、本人が、「ごめん蒙る。」と言い出したため、推す候補がないという間抜けな状況に陥った。誰かを大統領に推すなら、本人に就任する気があるかどうか、先に聞くべきだった。メルケル首相はSPDの推す大統領候補に不満で、独自の候補者を探す努力を続けたが、SPDの推す候補よりも適任者が見つからなかった。そこで歯軋りしながら現職のガウク大統領に同意した経緯がある。

そのガウク大統領が、高齢を理由に任期を延長する気がないことを半年前に告示した。「半年もあれば、候補者を見つける十分な時間がある筈だ。」という酌量にもかかわらず、メルケル首相はまたしても大統領候補探しを先送りした。連立政権のSPDと、「共同で候補者を探す。」という口約束を交わしていたので、CDU/CSUが独自の候補者を探すまでSPDが勝手な行動を取ることはないと、すっかり安心していた。ところがSPDの党首のガブリエル氏は、この協定にもかかわらず、「外務大臣のシュタインマイヤー氏が適任だ。」とメデイアに語った。この一歩は、あまり賢くない通産大臣の見事な一手だった。

というのも2017年の総選挙で、同氏は首相候補として立候補したい。ところが党首兼通産大臣のガブリエル氏よりも、外務大臣のシュタインマイヤー氏、あるいはEU委員会長のシュルツ氏の方が人気が高く、「首相にふさわしい。」と言われている。早い話が、「ガブリエル氏は首相の器じゃない。」という意見が支配的で、党内での人気も低迷しており、このままでは次期首相候補に指名されるか、微妙な立場にある。ここで大統領探しが始まった。同氏は、「シュタインマイヤー外務大臣を大統領にすれば、ライバルが一人消える。」と考えた。これが成功すれば外務大臣のポストが空く。ここでシュルツ氏を外務大臣に就任させれば、一石二鳥でライバルを二人とも除去できる。この見事な策略があったので、同氏はCDU/CSUとの取り決めがあったのもかかわらず、シュタインマイヤー氏を大統領に推すという手段に出た。間違っても、同僚思いの行動ではない。

先回の失敗から何も学んでいないCDU/CSUは、ガブリエル氏の勝手な行動に大いに憤慨したが、時遅し。「不満なら独自の候補者を上げよ。」とガブリエル氏が言うと、CDU/CSUは大いに困った。まだ候補者を全然探していなかったのだ。困ったCDU/CSUはまたしても財務大臣のショイブレ氏の名前を出したが、氏は「Bellevue(大統領のお城)で何をすりゃいいんだ。」と憤慨して、断った。次に国会議長の名前を挙げたが、議長は固辞した。CDU/CSUは最後には連邦銀行総裁の名前まで出して抵抗したが、世論、そして野党の支持は明きからにシュタインマイヤー氏に流れており、今更新しい名前を出しても勝ち目が全くないことを悟った。こうしてCDU/CSUはまたしても歯軋りしながら、SPDの推す大統領シュタインマイヤー氏を推すことに同意した。まさしく、「歴史は繰り返す。」という通りだ。連立与党は国会で圧倒的な過半数を持つので、同氏が病気にならない限り、同氏の大統領就任はほぼ確実だ。


EU議会で祝福を受けるシュタインマイヤー氏。
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チャンス到来! (15.11.2016)

前の記事で、「これが日本企業のチャンスとなるだろうか。」と書いたばかりなのに、いきなりチャンスがやってきた。悪化する一方の都市部の空気汚染を解消するために中国政府は、木炭を使った露店の営業を禁止するなどの方策を試したが、効果がなかった。「小手先の手段では解決できる問題ではない。」とようやく悟った政府は、「2018年以降、中国で販売する車の8%は電気自動であること。」と共産主義政権ならではの強硬手段に出た。この電気自動車(プラグイン ハイブリット社も可)の割合は2019年には10%、2020年には12%と上昇する。この条件を満たさないメーカーは、「ポイント」を買うことが義務化される。これは欧州でいう空港汚染証券と同じで、大量に二酸化炭素を排出する企業は、食空気汚染のポイント(証券)を買う必要がある。そしてこのルールは外国企業、中国企業の差別なしに適用される。中国政府としては珍しく、外国企業を差別しない規則だ。表面上は。

豊田に追いつき、追い越せ!とトヨタのバンパーにまで接近していたフォルクスヴァーゲン(以下、VWと略)にとって中国は最大の自動車市場で、2015年には355万台もの自動車を売りまくった。一方、トヨタは122万台でVWと比べてたったの1/3。かってはトヨタが一番だったのに、日本政府と中国政府の関係悪化で、日本車の人気が低迷、ドイツ車はこの隙間をうまく利用した。VWの自動車販売台数が2018年も同じだと仮定しても、同社はポイントを稼ぐためには6万4台もの電気自動車を販売する必要がある。2016年の現在、同社は電気自動車を中国で何台販売しているか、ご存知だろうか。これがゼロなのだ。VWはようやく電気自動車プラグイン ハイブリッドの販売を始めたばかりだ。しかし電気自動車は航続距離が160km、あるいは190kmまでしかなく、日本車に比べて大きく遅れている。

VW限らずドイツ車はデーゼルエンジンに力を入れていたため、ドイツの車メーカーが製造している大衆向けの電気自動車はBMWのi-3スマートの特別仕様車くらいしかない。もっともi-3は一番安いモデルでも3万5千ユーロ、日本で販売されるモデルなら500万円にも達するので、日本人だって二の足を踏む。平均的な中国人が買える値段ではない。中国政府の法案がこのまま法律になるなら、2018年以降、ドイツ車は大きくダメージを受けることになる。中国で電気自動車の販売台数がもっとも多いのは日産で、次に中国のBYDが続き、そのあとはかなり差が開いてテスラが続く。すでに電気自動車を持っている日本車メーカーには、まさに千載一遇のチャンスの到来だ。このチャンスをみすみす逃してしまうようなら、日本車メーカーは二度とドイツ車に追いつく事はできない。

当然、ドイツの車メーカーは、「こんな無茶な!」とこの政策に抵抗した。ドイツ最大の産業である車産業は通産大臣に陳情、大臣は中国を訪問した際にこの法案の改定を求めた。しかし中国の通産大臣は、「まだ法案であって、このまま法律になるわけではない。」とうまく逃げた。中国政府とドイツ政府の仲が悪化している今、ドイツの通産大臣の要請に効果があるとは思えない。もし中国政府が法案を改定するなら、ドイツ政府への陳情ではなく、中国の自動車メーカーの事情によるものだろう。

ドイツ政府は今年、重い腰を上げて電気自動車を普及させるために助成金を導入した。「なんで車産業ばかり特別扱いするのだ。」と苦情が上がったが、そうでもしないと誰も電気自動車を買わない。そこでこの助成金になったわけだが、この助成金は購買意欲の改善に一向に貢献していない。中国政府の電気自動車法案が施行されれば、多少は改定されても、世界最大の自動車市場の与えるインパクトは大きい。これにより電気自動車の値段が安くなり、技術革新が進み、先進国での電気自動車の普及率が上昇することが期待できる。中国政府はドイツ政府がお金をかけてもできなかったことを、お金を一切かけないで成功させることになるのだろうか。この法案は日本の自動車メーカーのカムバックなるだろうか?


あなたの好みはどちら?
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Made in China (08.11.2016)

日本で高級車と呼ばれる国産車、前から見るとメルセデス、後ろから見るとBMWという恥ずかしいデザインを採用する。デザインという独創性を発揮する箇所で独創性を放棄して、堂々とそれもフラッグシップである高級車に、他社のコピーを採用するのはいかにもアジア。もっともコピーしていない日本車のデザインは、お世辞にも購買意欲を増すものではない。欧州では日本車は「安いから」という理由で買う車で、人気のある車ではない。その一方で、「イタリア人がデザインした日本車だったら買う。」という人が多いのだが、かって日産とフィアットは全くその逆をした。すなわち日本人がデザインした車をフィアットが製造した。ぱっとしないデザインに加え、イタリア車の信頼性のなさがパーフェクトにマッチ、車は売れず見事なフロップで終わった。

中国人も同じように考える。ただし日本人のように、「なんとなくメルセデス。」というデザインではなく、「どうみてもメルセデス。」という完璧なコピーにする。いい例がある。この秋に開催された航空ショーで中国がかなり前から開発中の戦闘機、J-20が始めて公開された。レーダーに映り難いと言われているこの戦闘機は第五世代の戦闘機で、このような戦闘機を開発、保有しているのは米国とロシアだけだったが、中国もこれに堂々と加わった。もっともこの中国製の戦闘機、ロシアで開発されたもののお蔵入りになった"MiG-1.44"と酷似している。ミコヤン社はこれを次世代の戦闘機として開発したのだが、ライバルのスホーイ社に政府への売りこみ(賄賂競争)で負けてしまった。この航空機は多目的戦闘機として開発され、戦闘機として、あるいは爆撃機としても使用できる20mもの大型の航空機だった。中国製の戦闘機も22mもの巨大な機体で、オリジナルと同じように爆撃機バージョンと戦闘機バージョンが公開された。中国が同時に開発している戦闘機J-31米国製のF-22に酷似している。一体どうやって国家機密である飛行機のパテントを盗んだのだろう。

「中国製の次世代の戦闘機と言っても、外見はコピーで、それぞれの国から盗んできたもだ。」と非難されることが多く、また非難は的を得ているが、日本には同様の戦闘機を製造する能力がない。中国はある分野での先端技術では、西欧に追いついている。日本政府の資金補助を受けて三菱が製造している旅客機"MRJ90"は、日本人の体系にあわせて寿司詰めにしても90席も確保できない小型旅客機だ。100席以上の客席を提供する航空機ではエアバスのA320(定員150~179)、A318(定員107~117)がベストセラーになっており、世界中の航空会社が注文している。これに対抗しては勝ち目がないので、三菱は競争相手の少ない90席未満の小型ジェットの開発に決めた。日本国内の、「40年振りの国産旅客機!!」というお祝いムードと異なり、この旅客機の開発はトラブル続きで計画よりも4年以上遅れている。その間にライバルが同様の機種を開発、販売しており、このプロジェクトの未来に影がさしている。(*1)一方、中国も国産旅客機の製造にかかっている。C919は168人までの乗客を収容できる能力をもち、"Platzhirsch"(販売台数一番)のA320に真っ向から挑戦している。

「いやいや、中国の旅客機はすでに注文を取っている日本の旅客機と違って、まだ開発中でいつ完成するかもわかってない。」という非難をよそに、中国政府の発表では517機を超える注文を受注している。小型機である三菱の注文は375機。この数字が本当なら日本の旅客機よりも成功している。皆まで言えば、中国は90席の定員の国産旅客機、Comac ARJ21の開発を成功裏に終えて、すでに定期便として就航してる。もっともあまり評判が良くなく、欧米での飛行許可が取れていない。しかし中国の国営航空機製造会社、"COMAC"はこの失敗から多くの教訓を得ており、本命のC919ではこの欠点が改善されて、将来はエアバスやボーイング社を向こうに回して三つ巴の戦いになるかもしれない。一体、中国は戦闘機から旅客機まで製造できるノウハウを、どうやって日本よりも早く習得することができたのだろう。

基礎研究で西欧に遅れをとっている中国は、足りない技術を長い年月をかけて開発するよりも、その技術を持っている外国企業を買収する。数年後には中国はこの技術を習得して、これを使って製品を開発、販売できるので、まことに効率がいい。この目的で中国企業は最先端技術を持つドイツ企業を次から次に買収している。今年の5月に中国の投資会社、"Grand Chip Investment"が特殊機械を製造してる"Aixtron"を買収するオファーを出した。ドイツ政府は当初、この買収に何の不審もいだかず、"Go"サインを出したが、11月になって急にこの許可を取り消した。米国の諜報機関がこの投資家は中国政府の隠れ蓑で、"Aixtron"の先端技術を軍事部門、それも核施設に応用する危険ガあるとドイツ政府に警告したのがその原因といわれている。同時にドイツ政府はすでに許可していたドイツの電灯メーカー、"Osram"の白熱電灯部門の中国企業への売却許可も無効にして、再度、検討をしている

ドイツは、他のEU諸国と違って企業買収にやさしい環境にある。これを利用して中国企業が次々にドイツの会社を買収していくと、政府はドイツのノウハウが簡単に外国企業、とりわけ中国企業に買い取られていくことに懸念を抱きだした。通産大臣は、「中国企業がドイツ企業を買収するなら、中国政府が中国国内でドイツ企業に課している制限を撤廃して、中国企業と同じ立場で活動できるようにせよ。」と始めて中国の買収に対して、"Nein"を突きつけた。これは共産党政権のご機嫌を損ねた。通産大臣は"Osram"の中国企業による買収を大臣の勅命でストップした後、定例の中国訪問に出かけたが、中国の通産大臣は予定されていた会談を直前にキャンセルして、中国側の不快感を表明した。首相はまるで阿部首相を迎えるような冷ややかな態度でドイツの通産大臣を迎えはしたが、中国のメデイアには緘口令が出されて、ドイツの大臣が訪問している事は、テレビでも新聞でも報道されなかった。

こうして中国とドイツの関係は、これまでの蜜月ムードから、一気に緊張ムードに悪化した。ドイツ企業は日本と中国政府間の関係悪化を利用して、中国で市場占有率を広げていった。しかしドイツが、「これまでのようにはいかないよ。」と中国に警告を発した今、これまでのような一人勝ちはできなくなりそうだ。そして中国にとっては喉から手が出るほど欲しい最先端技術が欠けることになる。これが日本企業のチャンスとなるだろうか。

*1
旅客機業界は、成功すればリターンも大きいが、新参者の進出がとりわけ難しい分野だ。「日本の技術力があれば、他社同様、あるいはもっと優れた航空機を製造できる筈だ。」という愛国心は理解できるし、成功して欲しいが、旅客機は優れた飛行機さえ作れば勝手に売れるものではない。そのいい例が"Fokker"社だ。20世紀初頭にオランダ人がベルリンで作った航空機会社フォッカーは、第一次、第二次大戦中、数々の名機を生産した。とりわけ「レッドバロン」の異名で知られるフォン リヒトホーフェン男爵の三翼機は有名で、日本の三菱重工とよく似た過去を持っている。戦争後は、本社をオランダに移して小型旅客機を製造していた。80年代、三菱同様に政府から補助金をもらって画期的な小型旅客機の製造を開始したが、開発費がうなぎのぼりで、会社の経営が傾き始めた。当初開発されたFokker50(50人乗り) Fokker100(100人乗り)は合計しても500機ほどしか売れなかった。会社の命運をかけてFokker70(79人乗り)の開発をしたが、たったの47機しか売れず、親会社のダイムラーがこれ以上の融資を拒否、同社は1996年に倒産した。

倒産した"Fokker"社はオランダ人の誇りを大きく傷付けた。とりわけまたしてもドイツ人が同社に止めを刺したことが、オランダ人の愛国心に訴えた。オランダ人は"Netherlands Aircraft Company"を創立、同社を"Rekkof"と命名したが、これは"Fokker"を逆さに呼んだ名前だった。同社はフォッカー社の資産を買うと、2016年にはついに新型の旅客機"Fokker130"(定員130人)を開発したと発表した。この定員数はエアバスのA318とA320のちょうど間を狙ったものだが、果たしてチャンスがあるだろうか。そして"MRJ90"は日本企業の成功話になるのか、それとも第二のフォッカーになるのだろうか。


J-20、それともMiG-1.44?
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CETA (01.11.2016)

"TTIP"(米国と欧州の自由貿易協定)の影に隠れて、"CETA"(Comprehensive Economic and Trade Agreement)と呼ばれるカナダとの貿易協定は順調に話が進んでいた。米国のガチガチの資本主義至上主義と違って、欧州内の消費者保護に譲歩をするカナダ政府の態度も手伝って、いよいよゴールが見えてきた。欧州からカナダに輸出される品目の多くは車、機械等の工業製品で、カナダから欧州に輸出されるのは農作物、肉、それに石油等の資源で、競争する品国が少ないことも交渉の進展に貢献した。この協定が署名されると、輸出入される品目の実に99%の関税が撤廃されることになる。結果、欧州製品は安くなり競争力を増す。関税がなくなり、仮に日本車とドイツ車の値段の差がなくなれば、日本人だってドイツ車を買う。これが車だけでなくあらゆる製品に及ぶので、欧州の大企業はこの協定締結によるカナダ市場での売り上げ拡大に大きな期待を抱いていた。

もっともこの協定はまずは欧州議会で決議された後、欧州連合加盟国の28カ国で批准されてから、初めて正式に発効することになる。これが何年かかるかわらないし、すべての加盟国が批准するとも限らない。イタリア、スペイン、ポルトガル、それにギリシャでは左派政党が勢力を増して、ギリシャでは政権を獲得しているが、左派は伝統的に貿易の国際協定に反対しているからだ。かと言ってEU議会の決議だけ、加盟国の頭ごなしに協定にサインしてしまうと、またEU内でブリュッセル官僚独裁という非難が高まり、イギリスのようにEU反対派が勢力を増しかねない。そこで協定を二段階で発効させることにした。第一弾は、10月27日にカナダの首相をブリュッセルに迎え、EU議会の代表者とカナダの首相が協定にサイン、これを欧州議会で決議してから発効する。残りの項目は、すべての加盟国がそれぞれの国会で協定を批准してから、発効するとした。

それでもこの協定に対する国民の不安、欧州の消費者保護基準がカナダの基準まで下げられる、は拭いきれなかった。これに加えて、「貿易の自由化で得をするのは大企業だけ。」という妬みと不安が混じった感情も大きな役割を果たしていた。日本のアベノミクスでは、円安で得をするのは輸出関連の大企業のみ。その大企業で働く労働者は派遣で、会社が儲かっても給与のアップは雀の涙。しかるに会社側は、「最低賃金が800円なら我慢できるが、1000円になるとやっていけない。」と主張する。企業史上かってない経常利益を上げている会社が、自給1000円も払えないという。かってないほど儲かっているのに、労働者に正当な給与を払っていない会社が、貿易の自由化により、労働者の待遇を改善することはない。それどころか、さらに安い労働力を求めて、派遣労働者の割合を増やしていくだろうから、自由貿易協定で得をするのは大企業だけで、労働者には何の利点もないと市民が考えるのも無理はない。

欧州各地でCETA反対運動が盛り上がる中、ドイツでは反対派がCETAが加盟国の批准なくして発効するEUの取り決めは憲法違反だとして、ドイツの最高裁判所に訴えた。裁判所でCETAを弁護する通産大臣は、「すべての反対派を説得しないと協定が発効しないといけないなら、将来、EUと協定を結ぶ努力をする国はなくなる。」と論拠、氏がこれまでにおこなった演説では群を抜いて優れたものだった。最高裁判所も概ねこの筋の論拠を支持、「欧州連合が取り決めた協定をドイツが拒絶すると、経済拠点としてのドイツ、ひいては欧州の存在意義を失いかねない。」と、CETAの調印後、EUの管轄にある協定項目に関しては、加盟国の批准を待たずに発効しても違法ではないと判断した。ただし最高裁判所は、この協定が今後の判決で憲法違法と判断された暁には協定を反故にできること、本当にEUの管轄にある項目だけ発効することなど、幾つか条件をつけた。

ドイツの最高裁判所がGoサインを出したので、加盟国の担当大臣がブリュッセルに集まって、協定調印の最後の仕上げにかかった。ここでブリガリアやルーマニア、それにベルギーの"Wallonie"の地方議会が、この協定に文句を付けた。これは欲に言う「いちゃもん」で、大きな出来事の前に何かしら要求をあげてEUから妥協、もっとはっきり言えば補助金をかしめようという魂胆で、何も今回に限ったことではない。大方のジャーナリストは、「明日になれば皆、妥協している。」と請け負った。実際、ブルガリアとルーマニアは妥協案に納得して、協定に同意した。ところがベルギーのヴァロニー議会だけは、頑として首を縦に振らなかった。

ヴァロニーとはベルギーの南半分、フランス語を母国語とした住民を指し、独自の議会を持っている。10年前、ベルギーは国の分裂の危機に陥った。フランス語圏はフランスに帰属することを望み、中央政府と対立した。この対立を解消するためにこのような譲歩をしたのだが、ヴァロニー地方は内陸部にあり、産業基盤が弱く、不景気に悲鳴を上げている。地元の大企業と言えばベルギーの軍需産業くらいだったが、工場を閉鎖すると発表したばかりだった。この工場閉鎖により数千人が職を失う。自由貿易協定が調印されることにより、ヴァロニーで生産されているわずかな農産物もカナダの安い農産物に負けて、ヴァロニーがさらに貧乏になることを恐れた。

EU加盟国、それにブリュッセルの官僚は、「7年も交渉してここまでこぎつけた協定を、ベルリンの人口ほどの地方議会が台無しにするなんて有り得ない。」とベルギーのフランス人を非難したが、ヴァロニーは本気だった。EUが妥協案として出してきた案を、「3000ページにも及ぶ文書を送り、今晩までに返事をしろというのは脅迫だ。」とこき下ろした。こうして日曜日に同意に達する筈だった協定は、誰も予想してなかったヴァロニーの反抗により、見事に座礁に乗り上げた。カナダの通産大臣は、「EUには国際協定に調印する能力がない。」と涙ぐんだ目で声明を出し、交渉の決裂を宣言した。ヴァロニー議会は欧州の政治家から猛烈な非難をくらったが、CETAに反対する欧州内の市民から絶大な「ブラボー」の絶賛を受けた。市民が幾ら反対しても阻止できなかったCETAの調停を、ヴァロニーの地方議会が阻止したのだから、その感激は大きかった。

このヴァロニーの反抗は、ドイツ国内では緑の党と左翼政党を除いて、非難の対象になった。連立政権、それに経済界は、「ドイツ経済への大きなダメージとなる。」と将来を真っ暗に描いたが、ドイツ経済は今、CETAが調印されていないのに、至極調子がいい。しかるに協定の調印されないと、すなわち今のままだと、ドイツ経済に大きなダメージを与えるとは、いかなる論理だろう。「癌保険に入っておかないと、癌になったら大変ですよ。」と市民を脅して保険を売りつける保険屋のセールスのようにしか聞こえない。国民にちゃんと説明しないで、こういう脅しを用いるから、国民が新しい協定に反対するのだ。

帰国しようとしたカナダの通産大臣を、「まだ終わったわけじゃない。」とEU議会大統領のシュルツ氏が引きとめた。氏は木曜日に予定されている協定の調印式にまだ間に合わせるべく、ヴァロニー議会の説得にかかった。氏は甘い言葉で妥協と勝ち取ろうとしたが、ヴァロニー議会は頑として首を縦に振らなかった。言葉だけではトイレットペーパーにも使えないことを、ヴァロニー議会の代表は承知していたからだ。ヴァロニーはEUに具体的な妥協の内容を要求した。しかしカナダは新たなCETAの交渉を拒否、協定が調印される筈だった木曜日になってもヴァロニー議会の同意がなく、CETAは7年もの長きにわたって交渉をしてきたのに、"ausser Spesen, Nichts gewesen"(徒労)に終わってしまった。

ところがである。シュルツ氏(ドイツ人)は、協定が調印される筈だった木曜日が結果なく過ぎても、諦らめなかった。ヴァロニーとカナダの間に入って、妥協策を探し続けた。そして金曜日になってその妥協先が見つかった。ヴァロニーは農家を守るために関税をかけてもよいこと、投資家がヴァロニーを「投資する機会を逃して、損益をこうむった。」とカナダの調停裁判所に損害賠償を求めて訴えるのではなく、そのようなケースでは欧州裁判所に訴えを出すことで、ヴァロニー議会はCETAに同意した。こうしてカナダの首相は10月30日にブリュッセルを訪問して、協定に調印した。今後、年内にEU議会でこの協定が決定されて、CETAの一部が発効することになる。残る項目はEU加盟国が国会で批准することになるので、果たしてこれが発効するか未定だ。

EUに批判的な人は、「それみろ、意見がばらばらで一向にまとまらない。」というが、言葉、歴史、宗教が違う28もの加盟国があるのだ。話がすぐにまとまならいのは、当たり前。それでも官僚が頭ごなしに決定するのではなく、民主主義の論理に沿って決定する方針を崩さなかったのは評価できる。沖縄の米軍基地の移転問題だって、10年以上議論しても同意に達さず、結局は沖縄市民の声ではなく、中央政府がこれを頭ごなしに決定した。国内の懸案でこの様なのだから、EUの決定が長引くのも無理はない。尚、CETAでこのような顛末になったので、米国との自由貿易協定、"TTIP"は死んだも同然。そしてその方が良かった。日本は果たして交渉を進めているTTPに調印するのだろうか。欧州での議論を見ていると、不安になってくる。


CETA aus! oder doch nicht?
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