テロ支援国家 (22.08.2016)

シリアやイラクでISの戦闘員としてテロ活動を行う外国人。西欧から来ている外国人も多いが、最も多い外国人戦闘員はモルジブから来ている。一体、何が理由でインド洋に浮かぶこのさんご礁からなる小さな国の若者が大挙して、そのような行動を起こすのか。旅行に行かれたことがあるなら、こんな貧しい国でも立派なモスルが建っているのを目にしたことがあるだろう。パキスタンなどの貧しい国にも、必ず立派なモスルが建っているが、「一体、どこからこんな大金が?」と考えたことはないだろうか。モスル建設の金は産油国であり、イスラム教原理主義の守護国であるサウジアラビアから出ている。それだけなら結構なことだが、サウジはモスル建設の条件として宣教師も派遣してくる。この宣教師は西側の文化を悪の象徴として説教、イスラム国などに加わって本当のイスラム教(スンニ派)の世界制覇に貢献するように呼びかけている。

日本でそんな呼びかけをしても、それほど効果はない。日本人の平均生活レベルは高く、贅沢を知っているので、これを犠牲にしてイスラムの為に死にたいと考える人は少ない。ところが貧しいモルジブでは、唯一の収入源である観光業に従事しているのは、わずか一部の島民だけだ。残りの島民は貧しさの中で生きている。ガラパゴス諸島のように隔離された世界で生きている人間が、イスラムの立派な宣教師の話を聞くとイチコロだ。こうして若者は原理主義思想に染まり、多くの若者がイスラム国に参加している。観光で生きているこの国はイメージの悪化を懸念して、国内での取材を禁止している。この国の人間が大量にシリアやイラクの民間人を虐殺しており、そしてモルジブに帰還したかっての戦闘員が同様のテロを犯しかねないと観光客にばれてしまっては、「モルジブに行きたい。」という人は増えないだから、無理もない。

イスラム国のようなテロ組織が大規模に活動するには、人員の他、武器、物資の補給、そして金がいる。世界中にあるモスルでサウジから派遣された宣教師が西側をスケープゴードにしているので、これを信じて戦闘員になりたい若者は次々にやってくる。金はサウジやその周辺のお金持ちのスンニ派の産油国から仕送りされてくる。が、どうやって武器や物資を補給しているのか。去年、トルコがロシアの戦闘機を地対空ロケットで撃墜した際、プーチン大統領はトルコはイスラム国を武器、物資、そして人員の面で支援していると非難した。エルドガン大統領は、「証拠を見せろ。」と要求した。その後、トルコのジャーナリストがトルコ政府がイスラム国向け送ってる救援物資の中に武器を発見、紙面で報道した。エルドガン大統領はこの暴露に激怒して、この記事を載せた新聞社の社長を反逆罪で逮捕されるなど、まるで日本の大逆事件のような反応をした。

実際の所、米国、英国、フランスやドイツでもトルコがイスラム国を支援しているのは、「公然の秘密」となっている。2年前にトルコ国境の町、コバニがイスラム国に包囲された。西側は空爆を強化したかったが、トルコ政府はトルコ内の空軍基地を爆撃に使用することを禁止しただけではなく、トルコの領空を通過することさえ禁止した。そこで戦闘機は空母から発進して、爆撃目標まで数時間も長距離飛行を余儀なくされた。それでも支援にやってきたクルド人の兵士の活躍で、イスラム国をコバニから追い出すことに成功した。戦闘後、クルド人兵士は正面から攻撃してくるイスラム国に加え、本来は安全な背面であるトルコ国境から戦車攻撃があり、二面攻撃にさらされたと語った。そしてトルコ政府は、今でもコバニ復興のための資材、薬、食料をコバニに運び込むことを禁止している。

こうした否定でない事実があるが、トルコは西側にとってNato加盟国で対ロシアの要害である。ここでトルコをイスラム国支援の廉で非難すると、トルコをまんまとロシアの腕の中に引き渡すことになりかねない。西側のこのジレンマをよくわかっているトルコは、各国からやってくるイスラム国の戦闘員を空港や国境で受け入れ、トルコ国境をまたいでイスラム国支配地域への自由に行き来を可能にしている。戦闘員が負傷すれば、トルコの病院で治療を受けて、またシリアとイラクに送り返している。イスラム国が産油施設を手に入れると、原油を買い上げて、資金源を確保してやった。そして武器の補充が必要になると、トラック数十台を使ってイスラム国に提供している。そうでもなければ、イスラム国のような組織が長期間、戦闘行為を続けることは不可能だ。

何故、トルコ、エルドガン大統領はイスラム国をそこまでして支援しているのか。それはトルコはイスラム原理主義のスンニ派の国だからだ。トルコの目標はサウジと同じく、インドネシアからアフリカそして欧州まで、スンニ派の制覇を目指している。この目の敵がシーア派のイラク、イランだ。シリアは本来、原理主義派のスンニ派の国なのに、独裁者のアサド家がシーア派のため、少数派のシーア派が国を支配している。これが気に入らないトルコ、サウジなどのスンニ派は、なんとかしてアサドを権力の座から引きずりおろしたい。アサドさえいなくなれば、スンニ派が多数派なので、シリアは自然にスンニ派の支配下に落ちる。この目標に達成するため、トルコはイスラム国を支援している。そして西側は指を銜えて、これを眺めることしかできない。

ところがミスというのは、必ず起きるものだ。ドイツの左翼党の議員が、内務省にトルコのイスラム国への支援について知っている情報を明かすように要求した。内務省はドイツの諜報機関、"BND"が集めた情報を保有しているが、その情報の種類によって、これを議員に渡す前に外務省などに連絡して了解を得る必要がある。ところが担当の職員が夏休み中のせいか、この繊細な取り扱いを必要とする情報が、外務省の了解を取ることなく、議員に渡されてしまった。そこには、「トルコはテロ支援のプラットフォームになっており、その指示はエルドガン大統領から直接出ている。」と、これ以上白黒はっきりさせうようがないほどに、トルコとその大統領のテロへの関わりが報告されていた。皆までいえばこの報告書は、「議員の閲覧専用」と「秘」扱いにはなっていたが、「あっ!」という間にプレスに漏れた。そしてドイツのメデイアはこれを隠さずに、一斉に報道した。

リオでオリンピックを観戦していた内務省の次官は、この情報漏れについて聞かれると、「まさか情報を抑えるわけにもいかないだろう。」とまだ余裕のあるコメントをしていたが、ベルリンでは大騒ぎだった。ドイツの内務省がエルドガン大統領のテロ支援を公に認めてしまったからだ。この情報漏れについてコメントを求められた報道官は、「この情報は"staatswohl"(国家の安全)に関わるものなので、コメントはできない。」とコメントを拒否した。翌日、ベルリンで内務省と外務省が一緒に記者会見を開いた。内務省は今度は素直に誤りを認め、外務省は、「トルコは欧州の大事なパートナーである。」と何度も何度も繰り返したが、すでに種は蒔かれた後だった。悪行を暴露されたエルドガン大統領は激怒して、トルコの国営放送(もう自由な報道機関はない)でドイツを攻撃、ドイツとトルコの関係は新たな底辺に達した。

日本政府は、トルコは言うに及ばずテロ支援国に毎年、多額の支援をおこなっている。そんな金があるなら、支援の条件をテロ国家への援助停止を条件にして、テロ支援国家に圧力をかけるべきだ。アラブ首長国連邦のカターはイスラム国家を財政的に支援していたが、「ISを支援するなら、ドイツへの投資は受け入れられない。」とドイツ政府からイエローカードを提示されて、財政支援を停止した。難民も受け入れず、蚊帳の外で傍観しているだけの日本は、せめてそのくらいの外交努力はすべきだろう。そして日本でテロ支援国の実情が報道されれば、そんな国へいく観光客の数が減り、圧力をかける武器になる。報道の自由を謳っているなら、日本のテレビ局は「アラブ連邦はお金持ちの国です。」などという安っぽい番組を放映するのではなく、こうした事実も報道すべきだ。


テロ支援国家
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gelogen und getäuscht (10.08.2016)

建前を重要視するのが日本。どこかの知事が公用車を私用で使用しただけで、「辞任しろ。」と言われる。ドイツでは、「私用で使用しました。」と報告して、お金(使用料)を払えば終わり。報告を忘れると問題になるが、誤りを指摘されてから、「忘れてました。」と事後報告を出せば、おしまい。それ以上は追求されない。「知事、議員たる者、いかなる間違いも犯してはならない。」という理想像ではなく、国会議員も人間で間違いをすると実際的な考え方をしているからだ。日本のような聖人規格を採用していたら、知事や議員がいなくなる。だから些細な点では問題にならない。

わかりやすように、例を出してみよう。夜間、ドイツではちょくちょく検問を行い、飲酒運転、薬物の影響下での運転を取り締まっている。よりよって法務大臣が酒気帯び運転で捕まったことがある。大臣は500ユーロの罰金を払い、「もう二度としません。」とコメントして終わり。日本なら「大臣として失格だ。辞任しろ。」などと言う言葉が出てきてだろうが、ドイツでは聞こえなかった。大臣だって人間なので、誤りをすることはあるという当たり前の考え方だ。あるときは検問で国会議員が麻薬所持で検挙されたことがある。ドイツでも大きなニュースになった。もっともその後、責任を取って政務から辞任するとおしまい。あとは罰金を払うだけ。日本のように少量の麻薬所持で逮捕、書類送検、裁判になることはない。裁判所はもっと大事な懸案を抱えているので、微量の麻薬所持に時間を割いている暇がないためだ。

このように自分のミスを認めて、素早く職務から辞任すると、「その勇気に感服した。」などとお世辞までもらえてしまう。誰だって、人生の中で一度や二度は威張ることのできない誤りをした筈だ。その誤りだけで人間、政治家の資質を判断する日本は、あまりにも表面的すぎる、ところが過失ではなく、故意の嘘は結構厳しく扱われる。Petra Hinz女史は履歴書に大学で法律を専攻、国家試験に合格したと書いてSPDから国会議員に立候補、2005年に当選、今日まで代議員として活躍してきた。出所は不明だが、2016年7月になって彼女の履歴書は"gelogen"(でっちあげ)だったと判明した。女史はこの嘘がばれると、その箇所を自身のホームページの経歴から削除させて、姿をくらませた。恥を感じる羞恥心は、まだ残っていたようだ。

次に女史が党に報告した内容では、「転んで入院中。」だった。姿をくらませる前に、「SPDエッセン支部の役職から辞任します。」と意思を表明したが、国会議員の席は確保したいようで、議席については一切触れていなかった。早くこの件を"Ad acta"(処理済み)にしたいSPDにとって、彼女がSPD選出の国会議員で、のうのうと毎月13600ユーロの議員手当てをもらっているのは、とってもマズい。この件が処理できない限り、SPDは笑い者になり、支持率が下がっていく。案の定、エッセンのSPD支部はヒンツ女史がキャリアで嘘をつていることがわかっていたのに、何も処置をとらなかったことをスッパ抜かれると、最初のSPD党員が党員証を党に送り返してきた。

当初、「彼女は入院しているから。」とまだ「武士の情け」を見せていた党首のガブリエル氏だが、来年は下院選挙がある。首相候補に立候補したいガブリエル氏は、最初の党員離脱を見ると堪忍袋の緒が切れた。「48時間以内に国家議員の議席を返せ。」と最後通牒をつきつけた。ところがヒンツ女史は最後通牒を無視、何もしなかった。再度、笑い者になったガブリエル氏は地団駄をふんだが、辞任を強制させる手段がなく、女史のまだ残っている良心に訴えるしか方法がなかった。しかし嘘が公になった今、国会議員の議席を辞任して、一体、どんな得があるだろう。来年選挙があり、彼女が再選されることはないが、辞任しなければ毎月の議員手当てが入ってくる。こうしてヒンツ女史は姿をくらましたまま、議員手当てを受け取っている。なんとかしてヒンツ女史を公の場所に引き釣り出して圧力をかけ、国会が再開される前に辞任に追い込みたいSPDは、履歴書の粉飾を、職務偽証で訴えることができないか調査中だ。

ちなみにドイツ人は、履歴書に関する限り平気で嘘をつく。「サヨナラ。」、「アリガトウ」、それに「ピカチュウ」だけで、「日本語ができます。」と平気で言う。本人は嘘を言っている自覚がなく、本当に日本語ができると思っているから、ドイツ人の言葉には注意が必要だ。雇用者から依頼されて就職希望者の履歴書を調査している探偵事務所によると、候補者の1/3は履歴書に嘘が含まれているか、真実を隠しているという。嘘をつくのは国会議員候補から社長候補、大学の講師、さらにはお掃除の仕事まで、どの職でも同じという。ただし男性のほうが頻繁に嘘をつき、25歳から34歳までの年齢層が好んで履歴書を粉飾するそうだ。男性でも女性でも。次回、社員募集をされる際はご注意あれ。


行方をくらましたまま、お給料だけはしっかりもらっているヒンツ国会議員。
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Dicke Freunde (02.08.2016)

国営放送というと、政府に都合のよいことしか報道しない利益代表団体と思えるが、実はコレ、日本だけの特殊な現象だ。勿論、中国や北朝鮮、それにバナナ共和国と呼ばれるバナナが育つ暖かい国の国営放送は、同じく国の指導者に都合のいいニュースしか流していないが、先進国でありながら、国営放送が国の指導者の利益代表団体になっているのは貴重な存在だ。かってブラント首相は、「メデイアの報道が害のないものになったら、退位すればよい。」とまで言っている。他の先進国では「メデイアは、国の指導者が勝手なことをしないか監視する義務がある。」というメデイア本来の課題を認識しており、国の政策の批判をすることが主要な報道内容になっている。

ドイツには"ARD""ZDF"という国営放送局がある。ドイツ人が必ず見るニュースが"ARD"の"Tagesthemen"で、その日に起こった主要な出来事を報道している。日本で大量殺傷事件や大地震があれば報道されるが、そうでもない限り、日本について報道されることはない。肝心要のトップニュースはほとんどドイツ国内のニュースから始まる。そしてドイツの政治家を熾烈に批判する。政治家の批判だけでは一方的な報道になるので、政治家にも中継で自己弁護する機会が与えられる。政治家が堪忍袋の緒をきらして怒鳴りだすことを期待して、「何故、間違った決定をしたんですが。」と首相や大臣を相手にして、日本では考えられない切り出しをする。ここで怒り出しては、「そんな事で抑制が効かなくなるようだと、大事では役に立たない。」と評価が地に落ちるので、政治家はできるだけ余裕を見せて弁護することに努める。メデイアがこのように権力者を監視しているので、「一億総活躍」|などというおかしなスローガンを言い出す政治家がいれば、「過去の戦争の災禍から何も学んでいない。」とからっきし批判されて、政治家は修正を強いられる。これが本当の報道機関の姿で、何も才能がないのに芸能人と名乗る人物の私生活を暴くのはタブレット紙のすることで、ドイツでは斜めに見られている。

このドイツ国営放送の姿を理解するに役に立つのが、ロシアのドーピングスキャンダルだ。事の発端は、ロシア陸上協議会の選抜選手とロシアドーピング取締り委員会の研究員のカップルが、"ARD"にロシアでは組織的にドーピングが行われていると暴露したことらか始まる。取り締まり委員会の夫は、陸上選手にどのようにしてドーピングの薬剤が与えられるか、薬物物投与の映像を見せて証言、さらに妻である陸上選手は自身に薬剤が与えられたことを証言、そしてドーピング検査でどのようにしてサンプルが刷り返られてドーピングがばれない仕組みになっているか、ロシアのドーピングの実態をぶちまけた。仮に日本の国営放送にタレこみがあっても、「そんな報道をされたら、プーチン大統領招待の障害になる。」と政府から圧力がかかり闇に葬られていただだろう。社会のゆがみを報道することが報道機関の役目なのに、権力者の忠犬ハチ公になっている日本の国営放送の姿は嘆かわしい。ロシア人がロシアドーピング実態の告発に、ドイツの国営放送を選んだのも当然の選択だったろう。

この一部始終が報道されたのが2014年12月だった。この報道を受けて世界的に権威のある"Welt-Anti-Doping-Agentur"(以降"WADA"と略)が調査に入った。2015年2月になると、ロシア国内では権力者の圧力で、陸上競技会会長はこの不祥事、ドーピングをしたことではなく、これが西側に漏れた事、の責任を取らされて、辞任に追い込まれた。8月になると"ARD"は上述のロシア人証人の証言を受けて、「続編」を報道、北京オリンピックでどのようにして汚染されたサンプルが健全なサンプルに摩り替えられたか報道した。サンプルの秘匿にはロシアの諜報機関まで関わっており、まさに国を挙げての詐欺行為だった。国際陸上協会はこれを受けて8名の選手の陸上選手権への参加を禁止、ロシアの陸上協会のメンバーも謹慎処分を言い渡した。ちょうと8月北京で世界陸上が開催されたが、ロシアはドーピングをしている選手を北京に送らず、クリーンなイメージ作りに勤め、これでスキャンダルを乗り切れるとまだ楽観していた。

ところが"WADA"はロシアのドーピングは「国のトップからの指図だった。」と結論、国際陸上協会にロシアの陸上協会の国際陸上競技への参加を禁止するように提言、そしてロシアのドーピング取締り委員会を謹慎処分に下した。国際陸上競技に参加するためには、その国に国際陸上協会の承認を受けたドーピング取締り委員会があることが条件だ。ロシアドーピング取締り委員会の謹慎処分により、ロシアの選手は競技会に参加できなくなってしまった。この処分を受けてロシアドーピング取締り委員会の会長は辞任した。「もう隠す事はない。」と思ったのか、(前)会長は"WADA"から派遣された特使にロシアのドーピングの実態を白状、1417もの陽性サンプルを処分したと証言した。この証言により、ドーピング委員会員、委員会長、そして陸上選手の選手の証言が出揃って、ドーピングを疑う余地がなくなった。2015年11月、国際陸上委員会はロシアの陸上選手の陸上競技への参加を、最終結論が出るまで、禁止した。

2015年5月、国際オリンピック協会は北京オリンピック、それにロンドンオリンピックに参加したロシア選手のサンプルが届けられたと発表した。検査の結果、北京オリンピックでは14名、ロンドンオリンピックでは8名のロシア選手のサンプルが陽性だった。6月、国際陸上委員会はロシア陸上競技会の一時的な禁止を、無期限の禁止に変更したと発表。これにてロシアのブラジルオリンピックへの参加は風前のともし火になってしまった。しかし国際オリンピック協会は、「ロシア選手団の参加禁止の可否は、ロシア選手団がスポーツ裁判所に出している訴えの結果を見てから決める。」と決定を先送りした。しかしスポーツ裁判所はドーピングの事実は否認しようがないと判断、「ロシア選手団の参加禁止は合法。」と判断した。こうしてロシア選手団のブラジルオリンピックへの参加は、おじゃんになるはずだった。ところがプーチン大統領にはまだ奥の手(袖の下)が残っていた。

よりによってドイツ人が国際オリンピック協会の会長就任している。この会長、Bach氏とプーチン大統領は、"dicke Freunde"(刎頚の友)なのだ。プーチン大統領が友に呼びかけると、バッハ会長はロシア選手団の参加禁止令を解除した。参加を許すかどうか、それは各分野、例えばレスリングならレスリング協会、柔道なら柔道協会、重量挙げなら重量挙げ協会が個別に判断を下すことにした。こうしてすでにドーピングで禁止されている選手を除き、ロシア選手は堂々とオリンピックに参加することが可能になった。持つべきは"dicke Freunde"である。そうそう、ロシアのドーピングの実態を暴露した陸上選手は、「本人が証言した通り、ドーピングしたので参加は禁止。」と貧乏くじを引くことになった。真実を語った者だけが罰された形だ。いつか天罰が下って国際サッカー連盟の面々のように、バッハ会長も同じ運命を追うことを期待したい。


ロシアの首脳陣とチンチン(乾杯)!するバッハ会長。
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墜落  (28.07.2016)

7月14日、スロヴェニアで軽飛行機が墜落した。墜落理由は不明だが、かなり激しい墜落だったようで飛行機は原型をとどめておらず、パイロットと乗客の4名がこの事故で死亡した。事故現場を捜査したスロヴェニアの警察は、犠牲者の所有物と推測される鞄を確保した。事故現場を取り締まる警察がこの鞄を開けてみると、そこには彼の一生で稼ぐ金の数倍、数十倍の現金、それともスイスフランが詰まっていた。この事実からこの飛行機の乗客はただの観光客ではないと判断、身につけていた書類から身元を推測すると、管轄の上司にこれを連絡、警察からドイツ領事館にドイツ国籍と思われる乗客3名が墜落死したと伝えられた。

飛行機に乗っていたと推測されたのはドイツのスタートアップ業界のプリンス、Thomas Wagner氏だった。氏は早くからインターネットでさまざまなサービスを提供しており、とりわけ航空チケットの検索販売サイト"Fluege.de"、ドイツ人の大好きな休暇の検索サイト"Ab in den Urlaub.de"は大成功で、氏は20代という若さでミリオネアになった。ところがこの成功は、長続きするものではなかった。いきなりお金持ちになった人物が頻繫にやるミス、成功をみせびらかせずにはおられない、をやってしまった。豪華な車、美人、豪邸というお決まりのパターンに加えて、オンライン会社なので必要もないのにライプチッヒの一等地の建物をオフィスとしてまるごと借り切るなど、まるで王様のように振舞った。航空チケットや休暇を販売、航空会社や大手の旅行主催者から手数料を取るだけでは満足せず、独自の旅行代理店も開店、ますます会社のランニングコストを膨らませていった。

氏が成功したオンライン上での航空チケット、休暇の販売はそれなりのプログラムが必要だが、プログラマーさえ集めれば誰もできる。氏の成功を見て大手の旅行主催者は独自のホームページで休暇を販売、航空会社は独自のホームページでチケットの販売を始めた。自社のホームページで売ればコミッションを節約できる上、この会社を子会社として登記すれば、節税にもなるからだ。こうして航空チケットや休暇を販売するサイトが次から次へと登場、とりわけ米国から大手のオンライン旅行代理店がドイツで販売を始めると、同氏が経営する会社"Unister"の業績は悪化した。売り上げを回復させるため、同社のホームページで航空チケットを買うと強制的に旅行保険を買わされて、これは最後のページで支払いをするまでわかなないようにした。さらには同社のサイトで休暇を申し込むと「100ユーロの商品券がもらえる。」という得点をつけて、客をおびき寄せたが、実際に支払うことはなかった。このような汚い方法を取ったことで消費者団体から非難されて、テレビで槍玉にあがると、同社の売り上げは上昇するどころか下落した。業績が悪化すると、同社の高いランニングコストは致命的で、借金は4000万ユーロ近にまで膨らんで、借金で首がまわらなくなった。会社の倒産を回避するため、ワーグナー氏は一か八かの賭けに出た。自称イスラエルからの投資家とイタリアのベニスで会うことにした。このイスラエル人は大型投資の担保として、氏、および会社の所有資産を要求した。ワーグナー氏はこれと引き換えに、鞄に詰まった現金を受け取った。

氏は何故、こんな危険な賭けに出たのだろう。それは同社の業績を知っている銀行からは、もう融資してもらえないからだ、そこで危ないデイールに賭けるしかなかったのだが、氏の命運はすでに尽きていた。自称イスラエル人が手渡した現金の大半は、偽札だったのだ!これに気が付いた氏はイタリアで警察に詐欺の届けを出したが、イタリアの警察は当面、何もできなかった。失意のワーグナー氏は証拠である偽札を積んで飛行機に乗り、ドイツに帰還する途上で墜落死した。運に見放されると、何をしてもうまくいかないといういい見本である。この事故で氏と一緒に会社を経営するパートナーも死去、"Unister"は経営陣を1日で失った。

飛行機事故から数日後、"Unister"は会社更生法の適用を申請した。"Fluege.de"、それに"Ab in den Urlaub.de"はまだ機能しており、相変わらず商品券を進呈!と宣伝しているが、会社が支払い不能になった今、商品券が現金化、あるいはこれを次の休暇で使用できる可能性はない。消費者団体によると、これらのサイトは航空チケットや休暇を仲介するだけで、契約は航空会社、旅行主催者と行われているので、"Unister"が客から受け取った金をちゃんと航空会社、旅行主催者に払っていれば、何も問題がないという。ただし倒産した会社が、今後も金を航空会社や旅行主催者に支払うと楽観しないほうがいい。又、同社が経営する旅行代理店、Unister Travel Betriebsgesellschaft GmbHも会社更生法の適用を申請した。この会社は旅行主催者だったので、ここが倒産するとすでに支払った休暇はおじゃんになる。もし同社が倒産に備えて保険に入っていれば、保険会社が同社に払い込んだお金を保証してくれる。

事件が事件だけに、「陰謀説」が誕生するには理想的な環境だ。イスラエルの投資家は実はマフィアで、証拠隠滅を企図して飛行機を墜落させたに始まって、墜落死したのはワーグナー氏ではなく、赤の他人、氏の身代わりに氏の書類を持たされて飛行機に乗せらされた。偽札に交換したのはワーグナー氏自身で、氏は本物の現金と一緒に逃亡、カリビックでのうのうとミリオネアの生活をしているという説。真実が何処にあるせよ、ウニスター社の倒産は明らかな事実なので、「あ、ここ安い!」と休暇や航空チケットを購入するのは危ない綱渡り。同社の借金額を考えれば次回の休暇費用として払うお金が、"Insolvenzmasse"(債務者へ返却される資金のプール)に消えてしまう可能性が高い。ご注意あれ。



まるでトラックに轢かれたようにペシャンコ。
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最後のチャンス (21.07.2016)

ドイツに長く滞在している方ならご存知だが、ドイツでは90年代末から21世紀にかけて格安航空会社の戦国時代があった。今日では格安航空会社の整理、統合、買収が進み、ドイツの格安航空会社と言えば"Air Berlin"の1社しか残っていない。ルフトハンザの格安会社"Eurowings"を除けば。ドイツに在住の方は、「ルフトハンザの格安航空会社は"Germanwings"じゃなかったの?」と思われるだろう。2015年の悲劇的な墜落事故で会社のイメージが悪くなったこと、さらにコストをさらに削減する目的で、ルフトハンザはこれまで義理の母のような扱いを受けていた"Eurowings"をルフトハンザの正式な格安航空会社に格上げすることにした。これに伴い地味だった機体を塗り替えて、会社のロゴも一新した。皆まで言えば、"Eurowings"の新しいスチュワーデスも募集している。親会社と違いお給料はさまざまな手当てがついて、初任給は1600ユーロから。それでも「スチュワーデスになりたい!」という方は、直接、応募してください。ただし身長は160cm以上、英語とドイツ語に堪能であることが(最低)条件だ。

ルフトハンザが格安航空会社に力を入れているのは、海外からの競争が厳しいためだ。アイルランドの"Rayanair"、イギリスの"Easyjet"は主に地方空港を使用しており、空港使用料がとりわけ安い。客室乗務員は言うに及ばず、パイロットの給料も安いので、空港使用料の高いフランクフルトやミュンヘン空港を使用しているルフトハンザは、値段では勝ち目がない。さらには産油国である"Etihad"や"Emirates"は、格安料金で給油できる上、実質、国営企業なので国からの援助(税金軽減&免除、資金援助等)を受けて、格安航空会社並みの安い料金を提供することができる。例えばミュンヘンからタイのバンコクまで、ルフトハンザのチケットは安くても700ユーロ以上するが、"Ethiad"や"Emirates"は500ユーロ前後。こうした海外からの競争に生き延びるため、ルフトハンザは独自の格安航空会社を導入することを強いられた。しかしルフトハンザの高いパイロットや客室乗務員をそのまま使っては、競争に勝てない。そこで新しく人材を募集してコストを下げ、この競争に立ち向かおうとしている。欧州最大の航空会社でこの様なので、規模が小さいエアベルリンの台所事情はさらに厳しい。

2015年、エアベルリンは4億4700万ユーロの赤字を出した。毎年、「来年は黒字になる。」と約束しておきながら、過去8年で黒字だったのは1回だけ。原油(航空機燃料)が嘘!のように安い2016年の1~3月の四半期でも、1億7200万ユーロもの赤字を出した。ライアンエアのO'Leary氏は、「こんなに原油が安いのに、どうやったら赤字を出せるんだ。」とこの結果を嘲笑った。ライアンエアーは同じ時期、かってない巨額の黒字を出して、「チケットの値段を下げて儲けを客に還元する。」と宣言した程の違いがある。かってエアベルリンと共同便を運航していたニキラウダ氏は、「エアベルリンはコストが上昇する一方で、改善する見込みがない。」と同社の運命を見切っている。実際、大株主の""Etihad"が資金援助をしていなければ、エアベルインは2年前に倒産していた。

"Ethiad"は欧州市場への進出の一歩として、赤字に悩むエアベルリンの株式の30%、同じく救いようがない万年赤字のアリタリアの49%を取得した。「金が余っている国は、金をどぶに捨てるような投資をするものだ。」と思われたが、よりによってあのアリタリアが2015年には赤字を半分にまで削減することに成功した。2016年はさらに赤字を減らして、2017年は黒字を目指している。これが成功すれば、まさに奇跡のような会社の再生になる。ところが何故かイタリア人に出来るのに、ドイツ人のエアベルリンには同じことができなかった。会社の創設者はさじを投げて、かってドイツ鉄道をコスト削減でボロボロにしたメドン氏を社長に迎えたが、エアベルリンを救うことはできなかった。数年でメドン氏は退陣、新しく社長に就任した"Pichler"氏は、会社を刷新するプランを自ら、「最後のチャンス」と呼んだ。

その更正プランを簡単に説明すると、まず飛行機の種類と数を縮小する。さまざまな機種があると、整備費用に金がかかる。そこで会社の航空機はわずかな例外を除き、エアバスに統一した。そして儲からない路線を廃止、南(アジア)行きのフライトはすべてドウバイ経由にした。便名はエアベルリンだが、ここから先は大株主の""Etihad"の機体で飛ぶので、エアベルリンは長距離路線用の飛行機を節約できる上、""Etihad"からおいしい共同運航の謝礼が入ってくる。これが大事な収入源のエアベルリンは、ドイツの国内便も"Ethiad"とコードシェアをして、収入を増やそうとした。ところが運輸省は国内線はおろか、ドウバイまでの海外路線のコードシェアを「将来は禁止する。」と発表したので、エアベルリンは倒産寸前の危機に陥った。コードシェアによる収入源、金のなるアジア路線がなくなれば、エアベルリンには致命的なダメージになる。エアベルリンは運輸省の決定を不服として裁判所に訴え、そして部分的に勝訴した。高等裁判所は、国内線のコードシシェアは認めなかったが、国際線にはコードシェアを認めた。お陰でこれで首の皮が一枚つながった。

巷では"Etihad"がアリタリアとエアベルリンを合併させるという推測も持ち上がったが、大株主はこの推測を否定した。しかし"Ethiad"の我慢も、そろろ限界に近づいている。かって20ユーロもした株価が、今やわずか70セント。"Etihad"がエアベルリンに投資した金はもうほとんど残っていない。こんなに株価が安いから、株式の51%取得してエアベルリンを買収、大掃除をしてはどうか?とも思うが、これをやるとドイツ国内線の離着陸の権利を失う。ドイツは第二次大戦で敗戦して連合国に占領されたので、かっての連合国だけはドイツで国内線を運行する権利があるが、他の国、例えば日本の航空会社にはドイツ国内線を飛ばす権利はない。"Ethiad"が過半数を取得すると、もう国内の航空会社ではなくなり、ドイツ国内の利発着便の権利を失いかねないからだ。今後、"Ethiad"からの大きな資金援助はない。エアベルリンは、自身で赤字の沼から抜け出さなくてはならない。

考えぬいた結果、エアベルリンは同社がまだ保有していた飛行機をすべて売却した。運行に必要な航空機はリースして使用する形だ。ルフトハンザでも飛行機をリースしているが、一機も航空機を所有していない航空会社は初耳だ。このニュースが伝わると、エアベルリンの株式はまたしても暴落、70セントから60セントに値を下げた。英国の投資銀行HSBCは株価予想を10セントから1セントに下方修正した。この自転車操業はいつまでもつだろう。


エアベルリンの将来や如何?
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