二枚舌 (14.05.2008)

先月、休暇先のホテルで久しぶりにNHKを見た。話題になっていたのはガソリン暫定税の期限切れと、高齢者に対する医療費の支払いに関する制度の変更だった。野党は「消費者の経済的負担を軽減するために高いガソリン税を下げるべきだ!」とか、「長い間働いて年金を払ってきたお年寄りの、医療費は無料にすべきだ!」などと調子のいい事を言っていた。野党は政権を担っているわけではないから、減税した場合、その財源をどこからもってくるかなど、どうでもいい。大事なのは、消費者に迎合して、人気を上げる事。政府がこうした野党の無茶な要求を拒否すれば、野党は人気が上がって、次回の総選挙で連立政権で政権を奪う事ができるかもしれない。呆れるまでの大衆迎合の調子に、全く二の句が告げなかった。医療費の無料要求など、まったく常軌を逸した要求だ。患者を診察、介護する料金は誰が払うのか。医師だって、介護士だって生活するお給与が必要だ。又、無料で患者を診察すると、病院の高価な(ドイツ製の)精密機械はどうやって払うのか。もし、医療を無料にするなら、国民皆保険の加入費を上げなくてはならない。これをやったのがドイツだ。お陰で著者は(健康で医者にかからないのに)毎月、国民皆保険の掛け金を330ユーロも払っている。日本は老人の数(割合)がドイツよりも多いから、医療制度を野党の言う通り無料にすれば、これ以上の掛け金が必要になるだろう。「こうした政治家の言葉を信用してしまった際の結果を、日本の一般消費者はわかっているのだろうか」と、バンコクのホテルで日本の将来が心配になった。

話をドイツに戻そう。偉そうなことを言っても、ドイツの事情も対して変わらない。その一例を挙げよう。チベットに対する中国政府の武力制圧に対して、ドイツ政府は「ダライラマと合って、問題解決に向けて話し合いをすべきだ!」と中国政府に訴え、これを(当初)ガンとして拒否した中国政府を非難した。その後、中国政府がダライ ラマ(の代表)との会談を受け入れたが、時を同じくしてこの5月にダライ ラマがドイツを訪問する事になった。多分に中国政府との交渉に際して、ドイツ政府の応援を期待していたに違いない。ドイツ政府のこれまでの発言を見れば、ドイツ政府はチベット人民の味方だと思えた。そこでダライ ラマはドイツ訪問に際して、ドイツの外務大臣と大統領に面会を申請した。ここでドイツ政府がダライ ラマの面会申請に対してどう回答したか。そう、面会を拒否したのである。表向きの理由は「アポイントが一杯。」これは合いたくない相手の面会を丁重に拒否する口上である事はご存知の通り。本当の理由は別のところにある。

実は今年の初旬にメルケル首相が「個人的な会見」という名目で、ダライ ラマと面会した。当然、中国政府は怒った。ドイツ企業に発電所、電話線の敷設、鉄道、その他もろもろの仕事をドイツ企業に流しているので、その感謝を示として、ダライ ラマを無視するものと期待していたのに、よりによって首相がダライ ラマと面会したのである。怒った中国政府は「ドイツ企業に与えた仕事を幾つかキャンセルして、フランスあるいは日本の企業に回す。」と示唆。これが効いた。ジーメンスを初めとしてドイツの大企業は、「ちゃんと政治資金(賄賂)を払っているのだから、仕事の邪魔をしないでくれ。」と政治家に要求。政治家はこれを快諾。そして、今回のダライ ラマの面会申請の拒否となったのである。

中国政府をダライ ラマとの会談を拒否したとして非難しておきながら、ドイツ政府がダライ ラマとの会談を拒否するのだから、これほど政治家の二枚舌を如実に示す出来事はないだろう。

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ダライラマと首相の「個人的」会談。

 

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