K-Frage (11.07.2008)

ドイツの法律によると、選挙で最も多くの得票数を得た政党が首相を指名することができる。先の総選挙ではSPDの34%に対して、35%の得票率を得たCDUが首相の指名権を得た。この首相の指名権だが、選挙が終わってから、「じゃ、誰を首相にしようかな。神様の言う通り。」という具合に任意に首相を選ぶわけではなく、各党が選挙前に首相候補(Kanzlerkandidat)を決定、その候補の「人気度」で得票を競うわけである。逆に言えば、どんなに弱小政党でも「首相候補」を指名できるが、その候補者が首相になる確率は皆無なので、これを行う政党は少ない。そこで(通常)首相候補を立てる政党は、SPDとCDUの2党のみ。2009年の総選挙の日程も決まったことだし、それぞれ首相候補を指名する時期になった。CDUの場合は、言うまでも無く、メルケル首相が首相候補になるが、SPD内部では首相候補の件(Kanzler-Frage)で、党内を二分した大きな問題になっている。

その問題とは言うまでもなく、SPD党首ベック氏の影が非常に薄い事だ。氏はドイツの端っこにある小さな州、Rheinland-Pfalzの州知事である為に、全国では致命的なまでにその名前を知られていない。日本でも誰が岡山県の県知事か、顔は言うまでもなく、名前を知っている人は居ないだろう。(岡山県人でなければ)。ドイツでも事情は全く同じで、ベック氏が全国ニュースで報道される事は稀で、稀に顔が出ても、「政治家の一人」で済まされてしまうのである。これに加えて、演説が下手という政治家に取って痛い短所もある。(話は変るが)今、米国で行われている大統領選でBarack Obama氏が使用しているスローガンをご存知だろうか。"Yes, we can."という誰でも理解できる、かつ覚えることができるものだ。これ(誰でも理解できる内容に簡略する事)が選挙の際は、大事だ。それなのにベック氏は演説の際に関係代名詞を複数使用して、(テレビの再放送で)3回聞いても意味がつかめないような長い文章で選挙民を掴もうとして、見事に失敗していた。これに加えて、先の記事で紹介した氏のLinks-Schwenkerei(左派への言い寄り)で氏/党のイメージはどん底だ。

こうした背景があって、SPDの党内では「ベック氏を首相候補にして選挙戦を戦っても、結果はもう見えてる。」という声が大きくなってきた。そこでメルケル首相と人気の面で争える首相候補探しが始まり、外務大臣のSteinmeier氏の名前が登場した。シュタインマイヤー氏は先の政府の下では官房長の要職を勤め、今回の政府では外務大臣に納まっている。日本と違って、ドイツでは外交で点数を上げると、「ドイツの利益を守った。」として人気があがる。又、ドイツ人が海外で誘拐される度に、外務省が登場、人質解放(買取りとも言う)の度にシュタインマイヤー氏は記者会見をして人質解放を発表、(誘拐事件が多いので)その度に得点を重ねている。面白いことに、米国(CIA)によるアラブ系ドイツ人の誘拐、拷問、Guantanamo刑務所への拉致事件では、シュタインマイヤー氏は官房長官時代の行動の責任を問われた(ドイツ諜報機関BNDは官房長の命令下にある。)が、「何も知らなかった。」で、このスキャンダルをやり過ごしたばかりか、諮問委員会の下手な質問を槍玉に挙げて、逆に国民の間で点数を稼いでしまうほどの度胸の持ち主だ。

しかし、「そうは問屋が卸さない。」とベック氏。党首であるからには、首相候補に指名される権限があるはずだと主張。しかし、党上層部では左派のNahles女史を除いて、誰も賛同者が見つからない。新聞では「ベック氏引き下ろし作戦が始まった。」と報道される始末。記者にこれに関して質問されると躍起になってこれを否定していたベック氏だが、同じ質問に嫌気が差したのだろうか、"Ich klebe nicht an meinem Stuhl."(現在の地位に固執しているわけではない。)と発言。当然翌日、「ベック氏はさじを投げた。」と報道されてしまう。慌てて党首辞職の噂を否定した氏だが、これにより氏の名声/人気があがる事はなく、「SPDは政治よりも、党内の覇権争いの真っ最中。」というイメージが広がり、さらに人気を落とした。憤懣やる方ないベック氏は、また質問をしてきた記者に「わざわざ聞かないで、ベックが悪いと書けばいいだろう。」と逆怒り。これもニュースになり、「ベック氏の最期近し?」という見出しになった。哀れ。

シュタインマイヤー氏がSPD内部で実権を握る日はもう遠くなさそうだ。賢いシュタインマイヤー氏は、ベック氏がニュースの種になる度にほくそえんでいるに違いないが、流石が外務大臣(役者)、そんなことはおくびにもださず、先の党大会で「党内争いはやめて、一致団結して選挙に挑もう!」と訴えるほどの策士。もっともSPDの党員には、「党内争いはやめて、私を党首として、一致団結選挙に挑もう!」と言っているように聞こえ、立ったまで数分間も拍手の嵐で賛同を表していたのがとても印象的だった。


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SPDの次期党首? Steinmeier氏



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