大躍進 (06.02.2009)

政治家の最大の関心事はなんだろう。別の言い方をすれば、何故、人は政治家になるのだろう。理想を横において現実的に見れば、政治家という職業は、銀行員や公務員のように飯の糧を稼ぐ手段と何も変わらないようだ。卑近な例を挙げてみれば、ドイツの交通大臣は車メーカーのロビイストに、内務大臣はパスを印刷する会社の取締役に、経済大臣は電力会社の取締役に、そして首相は首相の座を利用してパイプを作り上げたガス会社に取締役社長に就職、皆、コネだけで大金を稼いでいる。別の見方をすれば万年野党では、影響力が薄いので、退職後、いい職に就けない。そこで現役の内(失脚する前)に大臣になって、企業へのパイプを作り上げる事ができるかどうかが運命の分かれ目になる。しかし、あまり欲の皮を突っ張ると痛い目に逢うこともある。

長年与党として政権に加わってきた政党にFDP(Freie Demokatische Partei)という政党がある。簡単な言葉で説明すれば、この党は緑の党のちょうど正反対。被雇用者、つまり企業の利益を最優先、その代わりに少々の弊害(貧困、環境汚染)には目をつぶろうという党の方針だ。1949年から今日まで、合計44年も与党として政権にかかわってきた。これはドイツの二大政党よりもはるかに長い政権担当期間である。ただし国民からの支持率はそれほど高くなく、いつも一桁に留まっている。この僅かな戦力で政権を担当するには、戦闘に勝つ事なくして戦争に勝つイタリアのように、常に参戦する側を変えなければならない。そこで最初はアデナウアー(CDU)と組み、これが落ち目になるとブラント(SPD)と組んだ。シュミット(SPD)が国民の反感を食らうと、今度はコール(CDU)と組んだ。まさにカメレオンのような政党である。しかし、弱小政党に属していながらいい就職先を探すのには他の方法はなく、マキャべリ顔負けの執拗さで、政権に関わってきた。

ところが、ここでお仕置きをくらう。あまりにコロコロと政策を変えるものだから、「どうせ次の選挙では別の目標を挙げるのだから、信用(投票)しても仕方が無かろう。」と、国民に愛想を着かされた。以後、得票率は選挙の度に最低記録を更新して5%のデッドラインを割るのも時間の問題と思えた。ここで党首についたのが(自他共に認める同性愛者の)Westerwelle氏である。氏は党の名前をFDPからF.D.P.と変えるが、点くらいでは党のイメージは改善せず、又、党幹部のスキャンダルも手伝って、ますます人気をなくした。SPDが1998年に選挙に勝つと、FDPは連立政権のパートナーとしての意味を失くしていたので、緑の党と連立与党を組んだ。そして今回の大連立政権でもFDPは(極小)野党に留まり、党の命運は風前の灯火のように思われた。しかしここで神風が吹いた。

野党というのは気楽なものである。与党が何か政策を発表すれば、自らは何もしないで、これを批判していればいい。何も失う物の無いFDPは、従来の党の方針に戻ってきて、政府の方針を「経済性を無視した悪策。」と、事有る事に非難してきた。すると今回、都合のいい事に空前の経済不況が発生した。FDPにしてみれば、「それみろ、言わんこっちゃない。」というわけだ。メルケル首相が景気対策に消極的な態度を取ると、「首相は、事態の深刻さをわかっちゃにない。」と非難。政府が最初の景気対策からわずか2ヶ月後に新しい景気対策を協議し始めると、「それみろ、言わんこっちゃない。」と勝鬨を上げた。そして政府が第二段の景気対策を発表すると、国民、誰でも理解できる言葉でこれを非難した。これが効いた。

ここでも何度か取り上げたのでご存知の方も多いHessen州議会の珍騒動。結局、どの政党も過半数を獲得することが不可能なので、ここで1年前に予言していた通り、再選挙となった。大いに話題を提供してくれたSPDのYpsilanti女史は、2度の華麗な敗退でもヘッセン州の党支部長の椅子を にしがみ付いた。しかし、流石に自身が立候補する事は避け、全く無名のSchaefer-Guembel氏を(党内左派であるという理由で)州知事候補に挙げた。これはYpsilanti女史の3度目の、そして最後の大きな間違いであった。平均的なドイツ人の政治に関する関心は、社員食堂のメニューよりも薄い。著者の周りにいるドイツ人にドイツの大統領の名前を聞いても、半数は答えられない。大統領の名前さえ覚えられないドイツ人に、Schaefer-Guembelなどという長い名前の無名候補を挙げても、誰も名前を覚える訳がない。おまけに全く特徴のない顔。結果は投票箱を開ける前から見えていた。1月に行われた州選挙ではSPDは13%も得票率を落とし、党はかってない敗北を喫した。この責任を取ってイプシランテイ女史は党支部長の地位からやっと辞任したが、権力(州知事、ひいては老後の保障)に見取られて、足を踏み外した政治家として名を残すことになった。

そしてこの州選挙で党史上、かってない大勝利を遂げたのがよりによってあのFDPであった。一桁の得票率しか獲得した事のないこの党が大躍進、得票率を7%近くも伸ばし、16.2%の大得票率(初めての二桁)を獲得したのである。(その他に緑の党も大躍進した。)メルケル首相がこの選挙に合わせて景気活性化対策第二段を発表したにもかかわらず、与党CDUのKoch氏は、先回の大敗北とほとんど変わらない低得票率の37%しか獲得できなかった。つまる所、与党のCDUとSPDが大敗を喫し、野党のFDPと緑の党が勝利をした事になる。この事実は市民が政府の方針、とりわけ経済方針に不満であることを如実に示している。この州選挙の結果、 ヘッセン州議会においてCDUとFDPの連立政権で過半数を獲得する事が可能になったコッホ氏は、そrでも州知事に留任できるので 選挙結果にすっかりご満悦。「大事なのは得票率ではなく、これで過半数を制する政権を確立できる事だ。」と、この選挙結果を自分に都合のいいように解釈する事に終始した。

2009年はこの他に4つの州で選挙があり、大統領選挙、EU議員選挙、そして総選挙と選挙が目白押しの年である。これが理由で首相は、減税&景気対策の実施を2009年1月まで敢えて遅らせたわけだが、ヘッセン州の選挙を見る限りその効果はゼロ。それどころか市民は政府の 政策に不満で、人気は野党に集まりつつある。2009年は予想外にFDP復活、そして大躍進の年になるかもしれない。
          

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FDPを代表する政治家Genscher氏。歴代政権で外務大臣を務めた。必要とあれば、まるでシャツを変えるようにシュミット首相(SPD)から、


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コール首相(CDU)に乗り換えた。


        
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