選挙戦たけなわ (04.09.2009)

ドイツでは、アジアに関しての興味が低い。日本について報道されることは、中近東のニュースよりも稀だ。最近日本関連で報道があったのは、日本で行われた衆議院選挙の予想とその結果に関して。面白かったのは衆議院はUnterhaus(下院)、自民党はKonservativen(保守派)、そして民主党はDemokratenと呼ばれていたこと。以前は、自由民主党をDemokratenと呼んでいた記憶があるが、民主党の出現で呼び方を変えたようだ。又、「日本では戦後ほぼ60年に渡って、保守派が北朝鮮のように単独で政権を担当してきた。」と報道されていた。自民党は90年代に野党連合に政権を奪われた事があったが、どのみち興味が低いので、詳細を省いて「ほぼ60年間単独政権」とやった事は理解できるが、いくら日本の政治が茶番でも、まさか北朝鮮と比較されるとは。ドイツの国営放送(ちなみにTagesthemen)の番組でこの始末だから、民間の放送局が日本の「特集」をやると、どんな内容が放映されているか、推して知るべき。マイクに向かって喋っている日本人の言葉が、ドイツ語に訳されると、原文とはまったく違う内容になっている事が多々ある。まあ、日本でドイツに関する報道を見ても、まったく同じ様なので、これは「お互い様」。

話しを選挙に戻そう。上述のドイツのメデイア、正確に言えばドイツ人特派員は、民主党の公約、高速道路の無料化、子供手当ての等の財源を問題にしていた。正直な所、現在の税金の無駄使いを無くせば、財源が確保できるというのは、ミッドウエー作戦に劣らない楽観論で、民主党が政権を担当して数年すれば間違いなく幻滅を味わうことになるだろうが、「日本の選挙民には、この点を問題にする人が居ないようだ。」と、このドイツのメデイアは的確に指摘していた。この民主党と似たような主張をしているのが、ドイツの左派政党、die Linke。ドイツでは前政権の時代から企業税が段階的に削減され、金持ち税も廃止になり、この財源を補うために、月1000ユーロ未満の低所得 に課税される事になり、又、中間層の税率が上げられた。要するに金持ちはますます金持ちになり、中間層は所得の減少を蒙り、貧乏人はますます貧乏になっていくシステムになった。左派政党はこのシステムを打破、税金の無駄使いを無くして、教育(大学を含め)無料にして、生活保護の支給額を上げ、失業保険の支給期間を延長して、最低賃金と導入すると、一見、庶民には喜ばしい主張をしている。これに対して「どこから財源を持って来るんだ。」という非難が起こると、左派政党は、税金の無駄使いを減らすだけでなく、これまで常に減らされた企業税率を大幅に上げ、金持ち税を導入する事で財源を確保すると、実現可能かどうかはおいておいて、つじつまの合う予算案を提示した。この点では、民主党よりも現実的。

上述の例からもわかるように、ドイツでは何処かの政党が人気取りのために減税を公約にあげると、かならず二言目には、「どこからその金を持ってくる。」という非難、質問があがる。今回の総選挙でも与党が減税を約束すると、「金融、経済危機であれほど国家財政が逼迫しているのに、減税なんてできるわけがない。」と 、信用されていない。これは明らかに日本のメンタリテイーとは違う。ドイツでは今回の経済危機のツケを払うため、消費税を6%アップして、現行の19%から25%に上げるべきだと経済アナリストが提唱してるが、合理的なドイツ国民は、「大幅赤字のツケは払わなければならない。」と、ある程度の消費税アップを覚悟している感がある。と言うのも、ちょうど8月30日に3つの州で地方選挙があったが、減税を約束した政府与党、CDUとSPDが大敗を喫するという珍しい現象が起きたからだ。

ザールランド州では、この州出身で、かってのSPDの党首、現在は左翼政党の党首に納まったLafontaine氏が立候補すると、政府与党の政策に不満を感じていた選挙民がこの選挙でその鬱憤を晴らし、左翼政党は先回から得票率を19%も伸ばして、州議会で第三の政治勢力に大躍進した。州知事(CDU)のミュラー氏は、FDPとの連立でなんとか過半数を確保して政権を維持する希望を持っていたが、選挙民に愛想を尽かされて13%も得票率を落とし、氏の希望は潰えた。テューリンゲン州では州知事のAlthaus氏(CDU)が、この冬にスキー事故を起こして*瀕死の重症を負ったので、「同情票」が集まるかと思いきや、全く反対の結果になった。Althaus氏はこの前の州選挙ですでに二桁の得票率を失ったが、今回はこの最低の得票率からさらに12%も得票率を落とした。逆に左翼政党は得票率を伸ばして、この州ではなんと第二の政治勢力に躍進、これによりSPDとdie Linkeの連合で州議会の過半数を獲得することになり、Althaus氏の政治生命は尽きた。(実際に9月4日に辞任を表明した。)唯一、ザクセン州ではスキャンダルが(少)なく、賢い学校政策で、ドイツ一優れた教育システムを確立しているため、与党が勝利することになったが、ここではすでに先回の選挙で左翼政党は第二の政治勢力になっている。

この選挙結果の速報が出ると、厚生大臣であるSchmidt女史の「公用車事件」が起こる前から支持率が20%まで低迷していたSPDを相手に、「楽勝」と思っていたメルケル首相の顔から笑いが消えた。よりによって前評判の良かったCDUが、敗北を、しかも大敗を喫するとは露ほども予想していなかった。このまま手を銜えて座視していると、4週間後の下院(Bundestag)の選挙でも同じ事が起こる可能性が大である。メルケル首相は支持率が高かったので、又、先回の選挙戦で饒舌なシュレーダー首相との討論で敗北を喫したので、危険を冒さず、野党の攻撃を無視するという「テフロン戦術」に出ていた。この為、選挙の4週間前になっても、一向に選挙戦ムードが盛り上がっていなかったが、地方選挙におけるCDUの大敗で状況が変わってきた。折りよく、倒産した デパート、Arcandorの社長が、6ヶ月の勤務(会社を倒産に追いやった)の報酬に千5百万ユーロ(邦貨で21億円)もの金を受け取る事が報道されると、メルケル首相は、「今が人気取りの絶好のチャンス!」と、これをこきおろしてして、選挙戦(後半)の火蓋を切った。これに続いてCDU陣営で攻撃の先陣を切ったのは、ここで何度も紹介したヘッセン州のKoch州知事で、「SPDにはYpsilanti-Gen(イプシランテイ女史の遺伝子)に犯されている。」と発言、SPDに投票すると、SPDは東ドイツの独裁政党だったSEDの後身、左翼政党と共同政権を組むと警告した。こうしてやっと根も葉もない非難の応酬が始まり、選挙戦らしくなってきた。

こうした背景があって、選挙前の世論調査ではかなり接戦になっている。接戦といっても2大政党の人気が拮抗しているというわけではなく、CDU/CSUがFDPと合わせて49~51%の支持率を得て、過半数を獲得するかどうかの接戦という意味。現在の傾向としてCDUは支持を失いつつあるので、FDPがどれだけ得票率を伸ばせるかが、連立政権成立の鍵となりそうだ。もうひとつの2大政党のひとつであ る筈のSPDだが、支援を失いわずか20~22%の支持率に留まっており、このまま行けばFDPに追い越されてしまいかねない状況だ。SPDの支持層は、企業、金持ちを優先する政策に愛想を尽かして、次第に左翼政党に移って行った。今回の経済危機は、この兆候を拍車がかけたので、SPDの将来は暗い。にもかかわらず首相候補のSteinmeyer氏は、記者会見でも選挙戦でも苦戦のそぶりも見せないで、冒頭で述べた俳優並みの演技っぷり。さすがに党首に納まるだけあって、指導者の資質はあるようだ。

* 氏はスキー場で、コースを逆走するという思慮のない行動をして、チェコのスキー客(女性)と衝突、この女性を殺してしまった。本人も大怪我をしたのを 幸いに、「何も覚えてない。」と供述、たったの3万3千ユーロを遺族に払っただけで、政界に復帰、事ある度に「スキー事故が良心を痛める。」と演技、やめとけばいいのに調子に乗って、「遺族とは友達になっている。」と大嘘を 公言する。これを聞かされた遺族は憤怒して、裁判所にAlthaus氏が選挙戦で、スキー事故について語るのを辞めるように訴えた。多分、これが原因でAlthaus氏は選挙民に愛想を尽かされたようだ。


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敗者その一 Althaus氏。


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敗者その二 Mueller氏。


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Sieger(勝者) Lafontaine氏 & Ramelow氏 。


 
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