総選挙 (11.10.2009)

9月27日にドイツで総選挙があった。その結果はここでも予想していた通り、SPD(社会民主党)が大敗を喫した。又、勝利宣言をしたCDU/CSU(キリスト教民主同盟)は、実際のところ、先回の大敗から得票率をさらに1,4%落とす33,8%という低い得票率(党の歴史上、二番目に悪い結果)で再び大敗を喫したが、連立与党を組む(予定の)FDP(面白いことに日本語に直すと、自由民主党)が得票率を先回から5%近く伸ばし、14,6%も得票率を獲得した為、CDU/CSUとFDPで合わせて議会で過半数を制する事が可能になり、散々の負け戦ではあったが、「城だけは守った。」という形になっている。

こう書くとするどい読者は、「ちょっと待った。得票率を合計しても48,4%なので、過半数を制していないだろう。」と、言われる事だろう。この為、まずはこの点を説明しておきたい。ドイツではおかしな(極右)政党が国会に進出して、ドイツの恥を世界に広めないように、得票率が5%に達しない政党には議席が与えられないというシステムを採用している。今回の選挙でこの5%の「ボーダーライン」を突破したのは5党のみ。極右政党や海賊政党、その他もろもろのおかしな政党は得票こそしたものの、国会への進出を(ありがたい事に)果たしていない。つまり国会に議席を獲得した政党の得票率を合計しても94%にしかならない。だからといって、「じゃ、今回は国会の全議席数622の内、6%(37議席)は空席になります。」というわけにはいかない。そこでこの「空議席」をそれぞれの党の得票率に沿って公平に分担するわけだが、これが結構、難しい。

この「振り分け議員(議席)」をUeberhangmandatというが、ドイツでは投票の際に、その地方の立候補者と党を別々に選ぶ事ができる。地方の立候補者への投票をErststimmeといい、党への投票をZweitstimmeという。つまり上述のそれぞれの党の得票率とは、このZweitstimmeの事。これだけでは上述の通り、議席に空席ができるので、Erststimmeを多く獲得した党に、この「空議席」が振り分けられる仕組みになっている。そうなるといくら得票率を落としたと言っても、最大の得票率を得た政党が最も得をする事になる。実際の所、空議席のほとんどはCDU/CSUに配当され、CDU/CSUとFDPで合わせて332議席を獲得、過半数の311議席よりも12席多く確保する事となった。

今回の選挙の「その他の勝利者」は、左派政党。先回から3,2%得票率を伸ばし、11,9%の得票率で、これまた得票率を伸ばした緑の党を追い越して、ドイツの国会で第四の勢力に成長した。左翼政党が勢力を伸ばすことができたのは、従来のSPDの支持層である低所得者層、労働者階級が、彼らを見捨てるSPDの政策に愛想を尽かして左翼政党に「見せしめ投票」をした結果で、左翼政党が勢力を伸ばせば、自動的に社会民主党の勢力が自動的に縮小する形になっている。大体、緑の党、左翼政党はもともと社会民主党に属していた議員が大量に流れて成長した政党であり(この辺は日本の民主党と同じ)、もし、社会民主党、左翼政党、緑の党の得票率を合計すれば45%もの得票率になる。緑の党は、得票率を伸ばしたのでまずまずの選挙結果だが、以前は国会で第三の勢力であったことを考えれば、現在の立場、五番目、つまり一番貧弱な政治勢力というには、決して手放して喜べる結果ではない。これによりさらに4年、政権担当から遠ざかる事になり、国民から「忘れられてしまう。」危険がある。

今回の総選挙は二つの事実を露呈させた。そのひとつは、米国、英国(そして多分フランスでも)のように民主主義が発達した国によく見られる「二大政党システム」が発展(あるいは衰退)して、中規模の党が幾つか共存する民主主義の「戦国時代」になったこと。これが自然淘汰されて、二大政党システムにもどっていくのか、それとも現状の状態で「安定」するのか、予想がつかない。もうひつの事実は、今回の総選挙が投票率約70%というかってない低い記録を更新した事。これにより投票をしなかった国民の数が、最大の得票率を獲得したCDU/CSUに投票した人よりも(始めて)多くなった。これは人命を犠牲にして、皇帝を国から追い出して、獲得した民主主義だけに、ドイツの民主主義にとって手痛い打撃である。90年前は命をかけて獲得した制度が、90年後には愛想をつかされて「見向きもされなく」なっており、当時、民主主義の為に戦った人が今のドイツの事情を見たら、なんと思う事だろう。この現象が危険なのは「政治には興味ないので、選挙には行かない。」という人よりも、「誰が政権を担当しても、変わらない。どうせ汚職にまみれた政治を行なうだけ。ならどうして選挙に行く必要がある。」という政治に対する絶望感から選挙に行く事を拒否する人が増えている事。

何故これが危険かと言うと、ちょうど第一次大戦後、ドイツでは同じような政治に対する不満が募っていた。当時は皇帝を追い出して、共産主義の動きを武力で鎮圧、なんとか民主主義を擁護していたが、人々の民主主義への信頼は、新しいものだけに、低かった。これに合わせて起こった経済危機で、人々は民主主義に愛想を尽かし、暴力を行使してでも、ドイツの復活を約束するヒトラーの演説に抵抗できなかった。幸い、今のドイツ経済は当時よりも安泰しているので、今回の経済危機でも右翼(あるいは左翼)政党の大躍進という結果にはならなかったが、次回の経済危機の際は、どうなるかわかったものではない。もし、大衆心理をよく理解している名演説家が現れようものなら、ヒトラーが起こした災禍の記憶が薄れている頃だけに、ころっと行ってしまうかもしれない。

話を選挙結果に戻そう。かってない大敗北を喫したSPDの党首及び「首相候補」のコンビは、選挙後、敗北を認めたものの、そのままの地位に留まるつもりであることを発表した。しかしこれは党内部、特にBasisと呼ばれる党の地方基盤から大きな反対の声があがった。敗北の原因となった党幹部にそのままその地位に居座られたら、「お先真っ暗」という心配感から、居ても立ってもいられない状態だったに違いない。よほど、この抵抗が激しかったのか、それとも党首のミュンテフェーリン氏の往生際が良かった為か、翌日、ミュンテフェーリン氏は党首からの辞退を宣言、翌日から新しい党首探しが始まった。現時点では現在、環境大臣のSigmar Gabriel氏が党首候補に指名されており、後日、党大会で選出される見込みである。又、今回のSPDの敗北は党内中道右派の敗北でもあった為、党内左派で「押しの強い」Nahles女史が書記長に就任して今後、党内では左派の勢力が増しそうな見通しだ。

一方、選挙に勝った側ではFDPが外務大臣や大蔵大臣などの政府の基幹ポストを要求しており、今、交渉に入っているが、FDP党首のWesterwelle(ヴェスターヴェレと読む)が外務大臣に就任するのは間違いなさそうだ。氏は、FDP出身で長年外務大臣だった伝説的なGenscher氏の「跡を継ぐ」事になる。果たして同様の成果が残せるだろうか。


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首相と新外務大臣。なんとなく、すでに「絵」にぴったりはまっている。 



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