Catch Me, if You can. (08.08.2009)


何処の国でも、(汚職がまかり通る発展途上国を除けば)その国最大の汚職事件は軍事関係。ドイツの隣国スイスでは空軍に採用されたミラージュ戦闘機の納入に関して、華々しい汚職が展開されて、大臣の辞任まで発展した。日本では誰でも知っているロッキード事件。飛行機は(全日空用の)民間機だったが、その収賄の方法と結果は同じ。その後も自衛隊への機器の納入で、汚職事件が絶えない。オーストリアでは、ちょうど今、かのEADS社に間違って注文したオイロ ファイターの納入で大きな問題になっている。

まだオーストリアの景気が良かった頃、「そろそろ空軍の戦闘機を更新しようじゃないか。」という話になり、武器商人は調達委員会長の将軍の奥方に9万ユーロ(法貨で1260万円)ものお金を「貸して」、24機のオイロ ファイターを、ほぼ18億ユーロの値段で売る事に成功した。ところが、折からの金融危機と大不況の影響で、オーストリアの国庫は空っぽになり、EADSがオイロ ファイターの値段を18億から30億ユーロに一方的に値上げすると、「見栄」で、実際には必要のない戦闘機を買うことの是非が討論されることになった。「国が破産しかけているときに、30億ユーロも使いもしない戦闘機に払うのは、無駄。」という事で意見が一致、契約書をじっくり読むと、キャンセル条項に「納入が大幅に遅れる場合は、契約破棄の可能。」と書かれていた。

肝心のオイロ ファイターだが2004年に導入されてから5年も経つのに、未だに欠陥に悩んでおり、飛行中にコンピューターが機能を停止してスクリーンが真っ黒になるという、一昔前のウインドウズのような現象が起きている。困ったのは、飛行中にこれが起こると、PCの電源を切って、再スタートすることができないので、文字通り、盲目飛行になる。この問題が解決できないEADSは、オイロ ファイターの納入が大幅に遅れており、これにオーストリア人は大喜び。「納入の大幅な遅れ」を理由に、契約の破棄を告げると、EADSは期限が切れる前に最初の2機のオイロ ファイターを納入するという離れ業をやってのけた。と、思っていたら、ドイツ空軍に納入されていた「中古の」オイロ ファイターを、ドイツ政府に頼んで、オーストリア政府に「回す」事により、契約破棄を避けただけだった。(ドイツ空軍には改善された最新型のオイロ ファイターを納入することで了解を取る。)オーストリア政府がトリックに気付いて契約違反(中古車)を理由に契約の破棄を宣告すると、EADSはオーストリア政府が契約遵守の義務を怠ったとして訴える!とまた泥沼の争いになってきた。紆余曲折の結果、当初の24機ではなく、18機、これがまた15機に減らされて、決着した。*

前置きが長くなったが、実は、ここからが本題。ドイツでも過去最大の汚職事件と言えば、軍事関係。デュッセルドルフに本拠を置き、第一次及び二次大戦でも数多くの兵器を生産した兵器産業の大御所、Rheinmetall社が生産した装甲人員輸送車Fuchsは、「大ヒット商品」。兵器というのは研究開発費に多額の金がかかるが、一度、開発してしまうと、比較的安価に大量生産が可能で、売れば売るほど、儲かる。そこで武器商人を使って世界中(米国、イスラエル、トルコ、オランダ、そしてサウジアラビア)に売りまくった。特にサウジアラビアとの契約は、36台の「特別仕様」の装甲車の他に、さまざまな火砲の販売も決まり、利鞘が高かった。(実際にはドイツ軍が使用していた中古の装甲車を、新車の数倍の値段で売却した。)お礼に武器商人に寛大な謝礼が支払われたが、この武器商品は取引の話を取り付けてくれたCDUの政治家に「献金」を行った。この献金が公になると「汚職」がばれてしまうので、当時首相であり党首であるKohl氏は、党の財務部長に、この金は党の隠し口座に払い込むように指示した。このふんだんな選挙資金を元にCDUは派手な選挙戦を展開して、総選挙で勝利するが、CDUの多額の支出に不審感をいただいたAugsburgの地検が、CDUの財務部長に対して脱税容疑で捜査を開始して、この献金の一部始終が明らかになることになった。この結果、CDUの党幹部は辞任に追い込まれ、当時、比較的地位が低く、この献金について知らされていなかった(知らせる必要がないと判断された)メルケル女史が唯一、「クリーンな党幹部」として残る事になり、「棚から牡丹餅」でCDUの党首に納まり、今やドイツの首相になっているから、人生、いつ、何が起こるかわからない。

あれから10年経つと、当時は最新鋭のFuchsも流石に古くなってきたので、Rheinmetall社はライバル社でレオパルド戦車を生産しているKrauss-Maffei社と共同でFuchsの後続モデルとしてPumaの開発を始めた。米国のように兵器を製作する会社が複数あったり、あるいはスイスなどのように自国に大きな席産業がない場合、他国から「試作品」を複数取り寄せて、兵器の能力比較をして、優秀な兵器を採用することができる。ところがドイツでは戦車(装甲車)を製造できる2社が共同で製作したために、比較ができないというジレンマに陥った。(外国産の兵器を買うのは、兵器大国の面子が許さない。)さらにはPumaの試作品をテストしてみると、エンジンなどの駆動部分に大きな欠陥が見つかり、Bundes-rechnungshofは、「Pumaは採用条件を満たさない。」として政府にこの装甲車を買わないように勧めた。にもかかわらずドイツ政府は満足に機能する試作車もない装甲車を405台、総額40億ユーロにて注文を出してしまった。巷では、「兵器産業への景気対策」と言われていたが、防衛庁の「盲目飛行」はこれが始めてではない。2007年には駆逐艦の購入に際して、前出のBundesrechnungshofが「法外な値段」と批判していたのに、防衛庁はこの批判を無視して27億ユーロで4隻も注文してしまったし、導入から4年経ってもまともに機能しないEADS社のオイロ ファイター、さらには今の時点で4年も納入が遅れることがわかっているEADS社の輸送機A400など、防衛庁のお買い物は毎回「いわく」付き。一体、いつになったら政治家は過去の失敗から学ぶのだろう。

そうそう、すっかり忘れるところでしたが、サウジアラビアに装甲車を売りつけて大儲けした武器商人のSchreiber氏、検察が調査を始めるとカナダに高飛び(ドイツ政府とカナダ政府の間では引渡し条約がない。)して、現地でレストラン経営、これにも成功して悠々自適の生活を送っていた。ドイツのテレビ局が取材に来ると、ちゃんと取材にも応じて、"Catch me, if You can."と、声高々にドイツの検察をあざけ笑っていた。ところがカナダ国内の事情(政権)が変わり、Schreiber氏のドイツへの引渡しが決定されると、流石に笑いが消えた。8月3日にドイツに移送された氏は、そのままAugsburgの監獄へ直行。ドイツでは脱税は、他の犯罪よりも、かなり厳しく罰せられるので、実刑判決は避けられそうにない。もっとも9月の総選挙を前に、「極秘の情報」をまだ隠し持っていれば、現政権と取引して、執行猶予で済むかもしれない。


* EADSは、オイロ ファイターをインドに売り込もうと、現地で開催されるエア ショーに、オイロ ファイターの展示を決定した。ところが、派遣できる(実働可能な)飛行機がない。そこでドイツ政府に、ドイツ空軍のオイロ ファイター4機の派遣を依頼、ドイツ政府はこれを了解した。延々インドまでオイロ ファイターを派遣した総費用は(空中給油機も投入され)550万ユーロ。しかしドイツ政府がEADS宛に出した請求書はたったの8万ユーロ。一体、いつからドイツ政府は、EADSの武器商人になったのだろう。


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Fuchs。


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Puma。
 



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