取らぬ狸の皮算用

先月ここで続けて取り上げた時点で、政府(連立政権)の支持率は過去最低に落ち込んでいたが、今月はその記録を更新している。ギリシャやスペイン、ポルトガルのようにドイツでも緊縮財政(隠れた増税)を実行したのが原因ではなく、野党と意見の食い違いで政策が決められないわけでもなく、過半数を制している連立政権内の衝突で、一向に政策が決められないのが原因。政権内で政策に合意できない政府が、国会で、そして欧州議会でまともな政策を押し通せるわけがなく、連立政権誕生から8ヶ月で支持率は36%まで下落している。目も当てられないのが先の選挙で大躍進の14.6%もの得票数を獲得したFDP。今、なんと4%の支持率で、今週末に選挙があれば、国会から消え去る運命にある。そこで政府はこれまでの全く連携の取れていないイメージを、来たる大統領選挙で一掃しようとした。

ここでも紹介したNRW州での地方選挙(参 はないちもんめ)にて政府は敗北を喫して、上院にての過半数を失った筈だった。ところが選挙に勝利した野党が連立政権で同意に達せず、これまでの旧政府がそのまま政権を維持している。ドイツの法律では、(地方)政権が成立してから、地方選挙の結果が上院の議席配分に適用されるので、政府は現時点ではまだ過半数を制しており、上院、下院を合わせて過半数を21議席超える快適なリードがある。このリードを利用して、現政権が推す大統領候補が最初の1回目の投票で大統領に選出されば、政権を担当する政権が少なくともこの件では意見が一致している事が証明される筈だった。

勿論、こういう選挙を利用して、党の首脳へこっそり復讐をする輩がいるのは避けられない。典型的な例は2005年にてシュレスビヒ ホルシュタイン州で行われた州知事就任選挙。1議席の差ながら圧倒的過半数を制するSimonis女史(SPD)は、3度も投票を行ったが、肝心の1票が得られず、つまりたった一人の裏切り者の思惑で、州知事の席を逃したばかりか、州における党首の地位までなくした。Simonis女史が涙を流しながら、ボロボロになっていくその様はテレビで実景中継され、SPDにとっては「ワーストケース」となった。この為、大統領選挙でも数名の「裏切り者」が出る事は、あらかじめ予見された。しかし過半数を21議席も超える議席を確保している為、「大統領選は最初の投票で決まるだろう。」というのが大方の見方だった。

ところが、1回目の投票が終わって得票数を数えてみると、連立政権が推すWulf氏(ヴルフと読みます。ウルフではありません)は、切りのいい600票を獲得したのみで、過半数に23票欠けた。連立政権は総得票数で644議席確保しているので、なんと44人も「裏切り者」が出た事になる。これを聞いたメルケル首相の表情は、最初の投票で過半数を獲得する事を期待していただけに、険しいものになった。その後、与党、野党共に協議の為に引っ込み、第二回目の投票が始まった。政治の評論家なども「一度目は、政府への不満票。二度目で決まる。」と口を揃え、CDU,CSU,FDPの首脳も、「今度は大丈夫。」と確信していた。ところが蓋を開けてみると希望とは裏腹に、今回は得票数を615票と伸ばしたが、まだ過半数に8議席欠け、まだ29名もの裏切り者が居た。この得票数を聞いた際のメルケル首相の表情は、険悪そのもので、腸腸が煮えくり返っているのがその表情から読み取れた。結果が発表されてから、各政党はまた協議の為に引っ込んだが、これが実に長かった。というのも当初、野党には「勝利の可能性なし」、与党には「楽勝」と思えていた大統領選の行方が怪しくなってきたので、戦術の変更が必要になってきたからだ。

左翼政党は、野党、SPDと緑の党が推した候補、Gauk氏(ガウクと読みます。)氏が東ドイツの反体制派であり、東ドイツ消滅後はその悪事の追及を行ったので、東ドイツの独裁政党の後続政党である左翼政党には「目の上のたんこぶ」。そこで意地になって、(笑いものになった)独自の候補立てていた。この候補には第二回目の投票で、左翼政党からの123票が寄せられた。ガウク氏は2回目の投票で490票を獲得していたので、もし、左翼政党が、「過去のことは水に流す。」と「大人の行動」をしてガウク氏に投票すれば、613票になる。これではまだ過半数に10票足りないが、これに政府与党の「裏切り者」がさらに10名(合計22名)投票すれば、過半数を獲得してしまう。実際、政府与党は2回目の投票でも29名もの裏切り者が出ていただけに、当初は誰も予想していなかったガウク氏当選の確立が急に出てきた。政府与党、そして左翼政党が、協議のために長い時間を必要としたのも無理はない。

そうして実際に、左翼政党は独自の大統領候補を取り下げたので、まずます面白くなってきた。そしていよいよ3回目の投票が始まると思いきや、国会議長が、「大切なお知らせがあります。」と言い出し、国会は静まり返った。議長は言葉を続け、「人道的措置の観点から、国会議事堂内にビュッフェを設けました。食事に熱中して投票を忘れないように。」と発言すると、この日始めて笑いと拍手が起きた。そう、当初は1回目の投票で結果が出ると思っていたので、食事の用意をしていなかったのである。ところが第三回目の投票は19時前から始まったので、この時点で7時間ものマラソン選挙になっていた。この為、2回目の選挙でも結果がでない事を見たうえで、市内の業者に連絡、急遽、「1240人前」の食事を注文した。一体、どうやってこんな短時間にそんなに大量の食事を国会議事堂でに準備する事ができたのか、そちらにも興味があるが、詳しいことはわかりません。

この食事が「裏切り者」の憤りを下げたのかもしれない。左翼政党は独自の候補を取り下げたものの、東ドイツの反体制派に投票するだけの度量がなく、投票を棄権した。この結果、21時過ぎ、延々9時間もの選挙マラソンの結果、ヴルフ氏は625票の過半数(正確には過半数+2票)を獲得して大統領に選出された。もっとも3回目の投票では過半数は必要なく、得票数が多い候補が勝つことになっていたが。又、この最後の投票でも連立政権側には19名の裏切り者が出た事も、この選挙を象徴した。こうして政府与党は、「1回目の投票で決めて、団結間をアピールする。」目標を見事に外し、指導なき政府の有様を浮き彫りにした。これは首相も痛感しており、大統領選出後の祝賀会でも首相は終止、苦虫をかみ殺したような表情を崩さなかった。

今週にはNRW州にて、野党が連立政権成立を目指して、州知事就任選挙が行われる。これが成功して野党(SPDと緑の党)が政権を獲得すると、政府はいよいよ上院での過半数を失い、緊縮財政案(隠れた増税)を通す事がますます困難になる。団結を欠くこの政府が、この状況で何ができるだろう。まだ政権について9ヶ月なのに、残り3年と3ヶ月が思いやられる。幸い、ドイツ経済が不況から脱して好景気に入った為、政府はこれまで通り茶番劇を展開していても、国民の生活に大きな影響がないのがせめてもの救いだ。


179.jpg
選挙の成り行きに不満な首相。


180.jpg
今では恒例となった敗者の勝者への祝辞。


181.jpg
大統領に選出されたWulf氏。



スポンサーサイト

0 Comments

Post a comment