ドイツ原発事情 (22.03.2011)

今、東北地方大震災により引き起こされた福島原発での炉心溶融、及びこれに伴う放射能汚染が心配されている真っ最中。果たして炉心の完全融解は避けられるのか。仮に避けられたとしても、日本はこの災害から、復活する事ができるんだろうか。日本からの部品が届かないので、ドイツの車メーカーでは生産ラインが止まりだした。この問題を解決するため、部品の注文を他の会社(国)に出すようになると、日本は災害後、海外からの注文がなくなり工場閉鎖、就職難、そして大不況に見舞われる可能性がある。そのような状況が発生しない事を祈りつつ、今回はこの機会に、ドイツの原発事情及び、日本の原発事故のドイツへの影響にして紹介してみたい。

ドイツには17の稼動中の原発がある。日本では総発電量のおよそ23%が原子力発電であるが、奇遇な事にドイツでも23%が原発からの発電でまかなわれている。しかし、原発に対する態度はまるっきり正反対だ。第一次および第二世界大戦で、政府の言う事を信じて破滅したのが原因か、ドイツ人は政府や電力会社の売り文句、「原発は安全。」という言葉をまるっきり信用しない。それどころか、ドイツ人の多くは「遺伝子組み換え」と「核エネルギー」という言葉を聴くと、まるで赤い布を見た闘牛のように反射的に猛反対をする。転換点になったのは1986年に起きたチェルノブイリ原発事故。放射能に汚染された塵がドイツに飛来、運の悪い事に雨が降ったので、チェルノブイリから遠く離れたドイツで放射能に汚染された塵が大地に降り積もった。放射能汚染が怖いのは、見る事、におう事ができない事。ドイツ国民は放射能汚染の不安におびえながら生活を送っていたが、バイエルン州の酪農農家で採取されたミルクから高濃度の放射線が測定されると、国民はパニックに陥った。ドイツ国内の店頭から牛乳が消えるなど、ヒステリックに近い状況にまで悪化した。この時の経験がドイツ人の記憶に深い傷跡を残し、以後、ドイツでは核エネルギー=危険という図式が出来上がった。

その結果、ドイツでは2002年に原子力発電からの脱却を国会で決議、これ以上の原子力発電所を建設せず、すでに稼動中の原発は、稼動開始から(最長でも)32年後には、廃止する事とした。原子力発電所を経営する電力会社はかなりこれに抵抗したが、ドイツ政府の権力が及ばない欧州内の外国に原子力発電所を建設したり、ドイツ国内では大気を汚染する褐炭発電所の建設許可をドイツ政府から受ける事で妥協した。同時に、これまで原子力発電でまかなわれていた電力を、それまでにどうやって補充するかという課題が発生した。環境に優しく、当時の技術ですぐに導入可能であったのはガス発電であったが、ノルウエーなどのガスの産出国と違い、ドイツではガスをノルウエーやロシアからパイプラインで運んでくるため、非常に高価な発電になり割に合わない。そんな高い電気で製造すると、ドイツ製品はさらに値段が高くなり、国際市場で競争力を失ってしまう。そこで政府は(当座は)褐炭発電所を建設して不足する電力を補足、その間に徐々に風力発電と太陽発電の技術を発展させていく事にした。これを可能にするため、効率の悪い風力発電と太陽発電で得られた電力には大幅な補助金が支払われて、発電技術が進歩して安価に発電できるまで凌ぐ事にした。この補助金の財源は褐炭発電や原子力発電で発電された電気代の値上げで支払われる事になり、ドイツの電気代は10年も立たないで文字通り2倍になった。

面白いのは、ドイツ同様にチェルノブイリ原発事故で放射能汚染されたフランスでは、核エネルギーに非常に寛大だった事。原発事故後も、原子力発電所を建設し続け、なんと総発電量の80%を原発に頼っている。また、もうひとつのドイツ人国家であるオーストリアは、ドイツと全く同じ反応を示し、核エネルギーからの離脱を宣言した。国は違っても、ドイツ人は同じ思考過程(反応)をするのが面白い。日本ではチェルノブイリ原発事故の影響がほとんどなかった為、政府及び発電所の経営者が、「日本の原発はロシアの原発とは違う。」という理屈で国民を納得させることに成功した。日本の福島原発の事故後、ドイツの電力会社が、「ドイツの原発は、日本の原発とは違う。」と、同じ台詞を使用していたのは興味深いものがあった。

2005年にドイツにて政権の交代があると、選挙運動に多額の寄付を行なった電力会社(取締役に元経済大臣が就任している。)からの反攻が始まる。チェルノブイリ原子力発電所の事故から20年経ったが、「チェルノブイリは氷山の一角」と言われていたのに、一向に他の事故がないので、「ドイツの原発は安全。」という台詞に信憑性が出てきた。さらには政府は膨れ上がる一方の財政赤字を抑えるため、緊急に財源が必要となった。こうして相思相愛の関係となったドイツ政府と電力会社は、原子力発電に必要な炉心に税金をかける炉心税(Brennelementesteuer)で合意、電力会社は総額230億ユーロもの税金を毎年払う一方で、原子力発電所の稼動年数を12年延長してもらう事に成功した。

これほど短命だった法令も珍しい。この核エネルギー脱却からの脱却が2010年6月に閣議決定されて、2011年1月1日から施行されたが、3月11日に大地震が起こってしまう。福島原発で冷却の問題が明らかになった3月13日、メルケル首相は、「ドイツの原発の安全性を再度チェックさせるが、ドイツの原発には危険はない。」と言明、核エネルギー脱却からの脱却の方針を変える気がない事を明らかにした。その夜(ドイツ時間)、福島原発で爆発があり、メルケル首相の自信と面子は、原子炉の外壁と一緒に吹っ飛んだ。昨日の記者会見から1日も経たないで、メルケル首相は核エネルギー脱却からの脱却を凍結すると言い出した。具体的には、古い原発(7基)はただちに運営休止、今後3ヶ月かけて原発を調査、その後、(新しい)基準を満たさない原発はそのまま廃止するというもの。「世界で一番安全なドイツの原発」の安全性が、一晩で急激に悪化したわけでもないのに、この首相の突然の変心は、日本の地震報道と同じくらい大きなニュースになった。

ドイツでは今年、国政に大きな影響を与える地方選挙を控えている。この選挙において政府の決定、核エネルギー脱却からの脱却が、日本での原発の爆発事故後、選挙民に拒絶を受けるのは避けれない。福島原発の外壁が次々に吹っ飛ぶ度に、政府与党の地方選選挙の勝利の希望も吹っ飛んだ。そこでこの突然の変心となったわけだが、よりのよって政府の脱原発新路線は、これまで原発の廃止を要求していた野党に大いに非難された。独裁国家ならともかく議会制民主主義の国で、政府が閣議決定をするなり、国会で討議する事なく、原発の運営休止を決めるとこれは違法である。民主国家なら法律に従って法案を挙げて、これを承認する方法と取らなければならない。又、原発を運営する電力会社にしてみれば、運営期間延長という甘言に騙されて、数十億ユーロを原発の近代化に投資している。「やっと投資したお金が回収できる。」と思っていた所で、原発の運営休止である。首相が会見で「状況が変わったから。」と言っても電力会社には馬の耳に念仏で、会社お抱えの弁護士を総動員して損害賠償請求をする準備をしている。現政府が原発の運営延長法律を作った後だけに、又、原発の延長を取り消す法案が存在していないだけに、電力会社の勝訴はまず間違いないだろう。こうして首相の一夜の方向転換は、集中砲火に遭う事となった。

次にドイツにおける日本の地震災害及び原発事故の報道の仕方を見てみよう。1994年の神戸大震災の際、日本政府は「外国からの助けは要らない。」と、まるで北朝鮮のように外国からの救援を断固拒否、「東洋の不思議な国」というイメージをドイツ人に与えた。この為、今回は日本政府は外国からの救援を受け入れるかという点に注目が集まった。この点では現政権は正しい判断を下し、外国からの救援を受け入れたので、「日本は先回の失敗から学んでいる。」と報道された。最初のかすかな非難があがったのは、成田空港に到着した救援チームの移動手段が全く確保されておらず、救援チームは救出措置をする代わりに空港で寝泊りする事になった際。折角、大金を払って軍隊を保有しているんだから、まずは空軍のヘリを総動員して人員を被災地に移動、海軍を使用して重い装備、糧食などの補給を行い、港まで(から)の移動は陸軍の輸送隊を動員するなどの処置が取られてもよかった。また、自衛隊の宿舎は定員削減でガラガラだ。国民を暖房の効かない体育館で寝泊りさせないで、自衛隊の駐屯地に収容するなど、この「有事」に自衛隊をもっと活用しても良かったのではないだろうか。

日本政府が福島原発の放射能漏れの情報を公開しないで、「心配しないでください。安心です。」と言っておきながら、「10km以内は危険区域なので避難すべし。」とやり、ついでこれを20kmに拡大、最後には30kmまで拡大するのは、一貫性のあるものではなく、住民だけでなくじっと日本の原発事故を見つめている諸外国にも、いい印象を与えなかった。勿論、国民がパニックになるのを避けたい日本政府の気持ち、又、東京電力から十分な情報が得られない事も理解できるが、災害時は正確な情報に欠けるものと決まっている。原発の事故が明らかになった時点で、政府は独自の調査官を派遣して、独立した情報源を確保すべきでった。この情報源がないため政府は電力会社の情報に頼るしかなく、情報に欠ける事となった。折角、救済支援で成田空港まで飛んだのに、放射能汚染の危険の為、何もしないで帰国した救済チームが多かったのは残念だ。被災地で活動する事ができれば、救われた生命もあっただろうに。さらに原発の事故は国内だけの問題だけではなく、外国にも放射能汚染が広がる可能性があるので、世界的な問題である。だから諸外国は日本政府からの正確な情報を期待したが、これには大きく裏切られる形となり、非難の声が大きくなり始めた。日本人にしてみれば、「第二次大戦後、最大の危機と戦っているのに、非難をするなんてひどい!」という気持ちになるかもしれない。しかし北朝鮮の原発が事故を起こして、日本に放射能に汚染された塵が舞ってくれば、日本政府は、「原発事故の情報を公開せよ。」とやるだろうから、諸外国の非難は決して不当なものではない。

理解できないのは、ドイツ人がドイツ国内の核汚染を心配して放射能測定器を買ったり、ヨード錠を買い求めている事。幾ら政府が、「ドイツまで放射能汚染は届かない。」と言っているのに、チェルノブイリ原発事故の記憶があるドイツ人は不安に襲われた。これまでは300ユーロで買えた放射能測定器の値段が文字通り倍になり、それでも売り切れで、在庫がない状況は、ドイツ人の心配振りをよく現している。さらにドイツのテレビ会社はレポーターを、東京から大阪に非難させた。在東京ドイツ領事館は休止となり、要員は大阪に移動、しまいにはルフトハンザが東京行きの便を休止すると、東京に住むドイツ人はパニックに陥った。沈みかけたタイタニック号上で逃げ惑う乗客のように、名古屋、大阪からドイツに飛ぶルフトハンザの便に殺到、「今が商売のチャンス!」と見たルフトハンザはドイツまでの片道切符、最後の救出ボートの席を7000ユーロ(エコノミークラス。)で売り、ドイツのメデイアの非難を受けた。ルフトハンザはこれに対して、「値段は需要と供給により決まるもので、現況では状況に適した値段である。」と、冷ややかに正当性を主張した。こうして東京や被災地でレポートをしているのは米国のCNNか英国のBBCのレポーターばかり。ドイツのレポーターは大阪の「安全な」ホテルの一室から原発の状況や東京の現況を報道するという有様で、あまり切迫感がなく、時として的外れの報道をしている。情けないぞ、ドイツ人!
          

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ドイツ原発反対ムードは最高潮に達した。



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