盟友 (13.04.2011)

戦争の火蓋を切る最初の戦闘行為は、攻撃を開始する側に利点が大きい、明け方、それも週末に始まる事が多い。第二次大戦中、ドイツはいつも日曜日に戦闘を開始した。この為、ソビエトでは「今週末に攻撃があるぞ。」と、市民でさえ予測していたのに、6月22日の明け方に始まった奇襲攻撃は、大きな成果を上げた。イスラエルがドイツの戦略をコピーして第三次中東戦争で大成功すると、第四次中東戦闘ではナサド大統領率いるエジプト軍が週末にイスラエルに奇襲攻撃かける事に成功、緒戦で多大な成果を挙げた。このように日曜日の明け方に攻撃を開始するのは、いつも成功するので、戦略の定石となっている。3月11日にアフリカ同盟がリビアの空爆(No-Fly-Zone)に賛成すると、この懸案は国連に持ち込まれて、3月18日の金曜日、この案が決議された。当然、「今週末は、未明から空爆が始まるぞ。」と思っていたら、フランス軍はすでに金曜日の午後から空爆を開始、進撃中のガダフィ大佐の矛先を叩きのめした。米軍は定石通り、未明にお得意のステルス爆撃機と巡航ミサイルで攻撃を開始した。

フランスが真っ先に、それも戦略の定石に反して攻撃を開始したのは、勿論、理由があっての事。すでにここで紹介した通り、フランスは原発大国で、原子力発電所の輸出に余念がない。そのフランスのお得様は、独裁者。原発の運営開始、1日前にイスラエルが空爆、破壊したイラクの原発もフランス製であったが、フランスはリビアのガダフィ大佐に原発を7基も売りつけた。そのお得意様を攻撃するのは一見、矛盾のように思えるが、リビア空爆が決定された時点でフランスはガダフィ大佐を見切ったようだ。フランスの至上課題は、原発売買契約をどうにかして救う事。それにはガダフィ大佐の後にやってくる政府に、恩を売る必要がある。そこでリビアへの制裁が決定された時点で直ちにフランス空軍に攻撃命令を下し、戦略上、異例の午後の空爆開始となった。

この機会にフランスは柳の下の二匹目の泥鰌も狙っていた。フランスは最新鋭戦闘機をガダフィ大佐に売りつけるべく工作していたが、ロシアに契約を取られてしまった。こうしてリビアにはロシア製の戦車と戦闘機が(引き続き)納入される事になったわけだが、フランス製の戦闘機がこれを撃墜すれば、「フランス製の戦闘機の方が優れている。」という印象を与える事ができる。よりによって、目の前で撃墜された戦闘機を買おう!と、思う人は多くない。誰だって活躍した武器(戦闘機)を欲しがるものだ。フランスの戦闘機が活躍すれば、後続政府に売りつける事が可能になるかもしれない。さらにはフランス製の武器のイメージアップにつながり、世界中の武器見本市で大ヒット商品になる。フォークランド紛争にてアルゼンチン軍は、フランス製の巡航ミサイル エグザスをイギリスの駆逐艦に向けて発射、見事に2隻を大破、沈没させてしまったが、その後、このミサイルは最適な防御武器として世界中の軍隊から注文が殺到した。こうした魂胆があって、フランス政府が真っ先に攻撃を開始したわけである。逆に、攻撃目標になっている戦車、戦闘機を納入しているロシア政府が、この攻撃を非難しているもの納得できる事である。

ドイツ政府の行動は、そのフランス政府の行動とは全く逆のものだった。まずリビアへの軍事介入を主権侵害になるとして警告。ドイツの警告にも関わらず、国連でこれが採択される事態に発展すると、投票を棄権した。ドイツの外務大臣は、「他の諸外国同様に、慎重な対応を必要と考える為。」と声明を出したが、その諸外国とは中国、ロシアであり、現代版の三国同盟である。過去2回も試してうまくいかなかったのに、またしてもドイツは英国、米国などのアングロサクソン国家とは逆の側についたわけだが、これは大きな間違いではなかったのか。国連の常任理事国の席を要求しているドイツが、肝心の場面で投票を棄権して、ロシア、中国と同盟するようでは、かっての連合軍の信用を得る事にはならず、「やっぱりドイツは信用できない。」という事になりかねない。では何故、ドイツは執拗に軍事介入を拒否したのだろう。よく勘違いされているように、ドイツがとりわけ平和を重視しているわけではなく、フランス同様にドイツの利害を守るための決定であった。

ドイツは石油の総輸入量の13%をリビアから輸入に頼っている。これは元宗主国のイタリアに次ぎ、2番目である。しかもリビアの原油は、サウジアラビアの原油よりも質がよく、精製に手間と金がかからなくて済む。又、地理的にもドイツに近い。このため、リビアが戦場になっってしまうと、他国から石油を輸入する事になり、その費用はリビアの原油に比べて高くなってしまう。さらにはドイツの電力会社は前首相の仲介で、ガダフィ大佐から石油採掘の権利を得ており、これが戦争でぽしゃってしまうと、えらい損害になる。かって日本の財閥がイランで石油採掘、精製を行ったが、イラン革命でこれがぽしゃってしまい、日本の経済史上(90年代のバブル崩壊を除き)、最大の損失を出している。この大事な時期に戦争なんぞ起こされたらたまったものではない。さらにはロシアからのガスの輸入依存を奪回するため、ドイツはガダフィ大佐とガスの供給について合意に達したばかりである。その肝心要のガダフィ大佐がいなくなると、またしてもロシアからのガスの供給に依存してしまう。さらにはアメリカの空爆からガダフィ大佐の命を救った防空壕は 、ドイツ製である。そのドイツ製の防空壕が破壊されると、今後の輸出に影響を与えかねない。又、すでにここで紹介したように(参 アルバイト)リビアの警察、兵士はドイツ軍が教育を行い、性能の優れているドイツ製の小火器で武装されている。戦争は空爆だけでは勝てない事は、先のイラク戦争からのわかる通りである。一度、軍事介入すると地上軍の派遣となる可能性が高い。そうなった場合、ドイツ軍は、ドイツ軍が教育を施して、ドイツの武器で武装されている「兄弟軍」と戦う事になる。つまりドイツにとっては、ガダフィ大佐が権力の座に留まってくれた方が全然ありがたいわけで、ドイツは現時介入に消極的であった。

どのくらいドイツとリビア、すなわちガダフィ大佐と仲がいいか、いい例がある。ガダフィ大佐の息子は、イタリア、フランス、イギリスではなく、よりのよってドイツのミュンヘン大学に留学しており、学生寮に住む代わりに瀟洒なマンションを購入、豪華絢爛な留学生活を送っている。 又、ガダフィ大佐の息子(の一人)はよりによってドイツ人女性と結婚している。

又、ガダフィ大佐は欧州政府の急所を握っている。それは経済難民である。アフリカ、主にチュニジアからの経済難民が欧州に押し寄せるのを食い止めるべく、欧州共同体は50億ユーロを独裁者に払い、経済難民をひっとらえて本国に送り返す旨、協定を結んでいた。ガダフィ大佐が居なくなれば、数十万もの経済難民が欧州に押し寄せて、欧州経済は大きなダメージを受けてしまう。しかし、表向きは民主主義を標榜して、いつも中国に対して人権問題で非難している欧州が、まさか難民を送り返すわけにもいかない。しかし、人権無視の独裁者がこれをする分には、一向に構わない。そこでガダフィ大佐に大金を払って、汚い仕事の処理を頼んでいたわけだ。そしてガダフィ大佐は、この面ではよく約束を守った。ブルガリアからリビアに派遣されてきた看護婦を「エイズを移した。」と非難、次々に死刑判決を下す国である。海を渡っている難民がリビア海軍に捕まると、欧州共同体から「OK」が出ているだけに、「やりたい放題」である。これを恐れて、経済難民は欧州への脱出を考え直す事になり、この協定はよく機能していた。

この為、リビアへの軍事介入が決まるとガダフィ大佐は、「欧州には、アフリカからの難民が押し寄せる事になるだろう。」と、警告を発した。そしてこの警告は、現実のものとなった。イタリアには黒山のようにチュニジアからの移民が押し寄せて、イタリア政府は悲鳴を上げて、欧州共同体に助けを求めた。しかし欧州共同体はイタリアの要請を却下した。「これはイタリアの問題だから、自分で解決しなさい。」というわけだ。怒ったイタリア政府は、「移民にシェンゲンビザを交付して、EU全域に送り込む」と発表。この脅しは効いた。スイス、オーストリアそしてドイツは、「国境検査を再度導入して、移民の入国を拒否する。」と、今度は欧州内で移民の押し付け合いが起こっている。いつもは人権云々と立派な事を言っている欧州政府だが、肝心の場面になるとこの様である。欧州政府の言う人権には、欧州内と中国内では、明らかに別の尺度が用いられている。
          

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盟友。




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