"Cholera oder Pest" (21.06.2011)

3ヶ月前、日本の原発事故が巻き起こしたドイツ国内での議論についてここで紹介したが、ドイツ人とドイツ政府の反応はパニックに近いものだった。首相の一存で(古い)原発を何の法的根拠もなく休止させた為、原発を運営している電力会社は政府を法律違反で訴え、損害賠償を求める結果となった。この同じ政府が原発の運営延長を決定、法律化したばかりであるから、こ れ程政策の誤りを象徴する行為はない。あれから3ヶ月経って少し冷静に議論ができるようになった今、ドイツ政府はようやく原発廃止案をまとめて国会に提出したので、今回はドイツにおける原発の将来について報告してみたい。

まず日本の原発事故の直後に首相の独断で運営休止に追い込まれた比較的古い原発だが、政府はこれを再度稼動させると、最低を記録した支持率がさらに新記録を更新すると判断、「合法的」にこれを廃止する方法を画策した。その結果生まれたのがEthikkommission(倫理委員会)で、この委員会は、退役した政治家、労働組合員長、経済研究所長、学者、それに教会の司祭など、17名の構成員から成る。この倫理委員会がドイツの原発の将来を検討して政府に報告する事になったのだが、原子力発電という複雑なテーマを、労働組合や教会の司祭が決定するという事実に違和感を持ったのは著者だけではあるまい。つまる所、構成員の顔ぶれをみれば、政府が期待する報告書が書かれるようにメンバーを選定したことがよくわかる。肝心の原子力発電の経営者、あるいは原子力発電が提供する安い電気に頼っているドイツの産業界からは、誰も構成員に選ばれなかった事を見れば、この委員会が出す決定は、社会のムードを反映するだろうが、経済性は無視されたものになると予測された。

そしてこの期待は、裏切られなかった。倫理委員会は今後10年以内の原子力からの離脱を推奨、(電力会社に尋ねもしないで)「休止中の7がつの原子力発電所は再稼動しなくても、十分な電力の確保ができる。」と報告、政府はこれをありがたく受け入れた。この「お墨付き」がなければ、「この前は原子力発電の稼動期間の延長を決定したのに、今度は短縮か。」と、野党、国民に突っ込まれる事になったろうが、この お墨付きのお陰で、「委員会が薦めるから。」と、立派な言い訳を作ることができた。それどころか忘れ易い国民には、「野党ではなく、現政権が原発の廃止を実行する。」と、その政策決定を威張る事ができた。当然、野党は手柄を横取りされて怒っているが、この政府の豹変振りに対して、どう反応すべきか迷っている。政府が提出した原発廃止案に反対投票をすると、「原発推進党」と焼印を押されるので、これに同意するしか選択肢がない。しかし賛成するとよりによって原発廃止案を廃止した現政権を、「鬼の首を取った者。」としてその功績を認める事になる。原発廃止のオリジナル政党であった緑の党のジレンマは、さらに大きい。これまでは口を開ける度に、「原発廃止」を唱えてきたが、これは現政権がこれに反対していたので、その甲斐があった。ところがこのキャッチフレーズを政府が横取りした為、原発が本当に廃止されてしまうと、緑の党の「看板」がなくなる事になる。元来、経済性などを無視、環境だけを最優先してきた政党だけに、看板がなくなると党の存在意義自体が失われる危険が出てきた。実際、シュレーダー政権に連立野党として参加、原発廃止案を国会で通してから、緑の党は急速に支持率を落とし、政権を明け渡す結果となっている。

このドイツ政府の決定は、近隣諸国にも影響を及ぼしている。まず7つの原子力発電所運営休止により、ドイツ国内は電気不足に陥った。これを補うため、チェコやフランスから電気を輸入することになったが、両国は原子力発電大国である。すなわちドイツ国内では「危ないから。」と言って、原子力発電を休止させておきながら、チェコとフランス では同じように古い原子力発電所が稼動、ドイツはこの原発が発電した電気を買っているわけである。「それでは意味がない。」と、思われる方も多いだろうが、元々、この決定は政治的なものであったので、その点、意味はあった。ドイツ国内で古い原発を廃止すれば、政府は世論調査で点数を稼げるからだ。実際、政権の支持率は下降をストップ、少し支持率を取り戻してきた。このツケを払ったのは、チェコとフランス国民だ。ドイツが両国から安い原発の電気を大量に買い入れた為、両国で電気代が上昇した。この為、「ドイツはいつも自分勝手な政策を取る。」と、欧州内で人気を落としたが、ドイツ政府にとっては「十分に元が取れた」決定であった。

さて、政府の案では2022年に最後の原子力発電所が廃止される。つまりそれまでに原子力発電で補っている発電量を、替わりになる発電で補う必要があるが、風力発電や電気発電では到底足りない。幾ら風力発電 や太陽発電を推奨しても、これまで原発運営延長で計画を立てていた為、高圧送電線が足りないのである。無人島で億万長者になっているのと同じで、幾ら発電しても、家庭に送ることができなれけば意味がない。ドイツ国内の新しい高圧電線網を張り巡らすまでに数年はかかる上、数億ユーロかかる。さらに風力発電、太陽発電で生み出した電力を蓄える施設が必要だが、これがほぼ完全に欠如している。この為、この先数年は慢性的な電力不足に悩まされることになり、さらにはドイツの電気代は、設備投資の為に継続的に上昇することになる。すでにドイツの電気代は欧州で2番目に高いことを考えると、 今後、首位の座を獲得するのは夢ではない。ここでリバイバルしてきたのが、石炭発電である。

これまでは環境を破壊する"Dreckschleuder"として非難され、運営休止に追い込まれていた石炭発電所が21世紀になって、復活する事になったから皮肉だ。ドイツ人は抜け道のない状況に陥ると、"Cholera oder Pest"「コレラがいいか、ペストがいいか。」と言うが、まさにその通りで、「原子力発電か石炭発電か」という状況に追い込まれ、ドイツはペスト(石炭発電)に決定した。これに我慢ならないのがドイツの産業界だ。元来、ドイツにおける原子力発電は、石炭及びガス発電による高い電気代の替わりになる安いエネルギー源として導入された。その安いエネルギー源が、政府の人気取り政策のためにまだ準備もできない内に廃止され、費用がべらぼうに高い太陽発電が大々的に導入されると電気代がさらに上昇、採算が取れなくなる。実際に、ドイツ政府の新しいエネルギー政策が発表されると、欧州最大の製銅会社のAurubisは、今後は(電気代の安い)海外でのみ投資する。」と発表、生産拠点としてのドイツ(ハンブルク)を放棄する事を明らかにした。元々、人件費が高く、役所の制限が多く人気のない生産拠点としてのドイツだが、今後、益々魅力を無く して、ドイツ企業はますます海外に逃亡していくだろう。
          
このドイツのエネルギー政策の転換の原因となった日本では、今後、原子力発電所の廃止は遅かれ遠かれ、避けられないだろう。その際、ドイツが犯している間違いを犯さず、緩和なエネルギー政策の転換が必要である。現政権は太陽発電を推奨していく事に熱心だが、費用対効果がいいのは風力発電である。四方を海に囲まれている日本ほど、風力発電に適している国はない。さらには平べったいドイツと違い、山岳地形の日本では貯水池を作ることが容易に可能だ。風が強い日に発電した電力で水を貯水池にくみ上げ、風が弱い日にこの貯めた水で発電すれば、ドイツが羨むような効果的な風力発電が可能になる。それには現政権が党内の派閥争いを収め、国の再建に向けて長期的視野で日本のエネルギー政策を決定する事だ必要だ。しかるに毎年首相が変わっているようでは、ドイツのエネルギー政策と同じで、効果的な政策など望むべくもない。実に歯がゆい状況である。


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21世紀になってリバイバルした褐色石炭は、


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採掘の際に自然を破壊して、


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発電の際には、二酸化炭素を大量に放出する。



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