"Nein, Danke" (09.07.2011)

ドイツの最新事情ではドイツ(人)のあまり威張れない面を書くことが多く、初めて読まれた方から、「ドイツってそんなものですか。」と、ガッカリした感想をいただくことが少なくない。何故か日本ではドイツ関にして好意的な報道をされる事が多く、これを元にして好意的な「ドイツ像」をいだいているのが原因だ。しかし日本で信じられているような、夢のようなドイツの姿は最初から存在していない。しかし逆に批判的な報道すると、「ドイツはもう終わってる。」と、結論されることもあるが、これも正しくない。日本の政治、経済だって同じように批判的な目を見れば、同じような、あるいはもっとひどい現状が見えてくる。これが見えてこないのは、日本のマスコミには、政府(政治)の批判、コントロール機能という本来の職務を忘れて、販売部数を伸ばすために、大衆の興味に迎合する報道ばかりに集中している為だ。ドイツにも大衆の趣向に合わせて、レベルの低い報道ばかりする新聞社も多いが、政治の報道(批判)に関しては、日本のマスコミとは比べ物にならない水準を持っている。多分、これが原因でドイツの政治、あるいは民主主義の成熟度は、日本よりもはるかに高い。これこそ日本で報道されるべきなのに、日本では全く報道されないので、今回はその一例を挙げてみようと思う。

2年前の選挙で夢のような得票率、14.6%を獲得したFDPだが、スキャンダルが続き支持率を4%まで落とした。ドイツでは5%未満の得票率では議会の議席をもらえないから、4%という支持率は政党として存在の意味がなくなる危険な値である。これに加えFDPは原発推進党だった。日本の原発事故の後に行われた地方選挙では予想通り惨敗を喫し、5%も獲得できず、地方議会から姿を消した。惨敗する前から党内から批判されていた党首は、党内からの不満を抑えきれず、党首の座から退いた。これに伴いFDPの党首に就任したのが、ベトナム戦争の難民でドイツで育ったベトナム系ドイツ人のRoessler氏である。氏はドイツ軍の軍医であった為、保険大臣に就任していたが、「もっと拍の付く省がいいだろう。」という事で、経済大臣に就任する事になった。その新党首のレスラー氏、カリスマがない。スマートな身なりで頭脳もスマートであるに違いないが、如何せん、ライト(軽い)なのである。その発言に重みがない。前党首はカリスマがあり、演説も上手かったが、レスラー氏の発言は機知に欠けて説得力がない。FDPの建て直しという重責を果たして遂行する事ができるかどうか、茨の道となりそうだ。

これを察したのかレスラー氏、いきなり「減税を実施する時期だ。」と、言い出した。先日、2011年6月の失業率が発表されたが、ドイツ統合後、失業率は初めて7%を割り込み、失業者の数も再び300万人を割り込んだ。つまりドイツではかってない好景気に沸いており、失業保険、健康保険、年金、税金を払い込む人の数が増える一方で、失業保険(つまり税金)の支給額が減り、国は予想を大幅に超える税収入を期待している。通常、景気が上向くと政権を担当している政党への支持率も上昇するものだが、今回ばかりはその反対。野党、特に原発反対のオリジナル政党、緑の党がガンガンと支持率を伸ばし、ついに第二党だったSPDを抜き、ドイツの第二党に成長してしまった。今、参議院選挙が行われるなら、緑の党とSPDで過半数を獲得、衆議院でも過半数を占めているので、完璧な政権交代が可能な縮図となっている。さらに次期の首相はこのまま行けば、一体誰が予想し得たただろう、緑の党から出る事になる。ところがFDPは依然として5%を切る支持率で、党首の挿げ替えをしたくらいえは、国民の支持は得られていない。この窮地を見たレスラー氏は、必ず国民受ける補償付きのカード、減税策を出してきた。

「景気のいい時に増税をして国家財政を建て直し、景気が悪くなったら減税して景気を活性化させる。」というのは、政権を担当する政府の基本中の基本だ。ところが、政治家というものはこの基本を無視、西欧、東洋の違いを問わず、選挙が近づくと、あるは支持率が低下すると、減税を提唱する。2年前の大不況で財政赤字がかってない額に上昇しているのに、又、ギリシャへの経済支援で今後、大幅な財政負担が予想されるのに、少し、景気が良くなると減税を提唱する政治家の思慮のなさには、開いた口がふさがない。

FDP同様に支持率の低下が続く政府与党(CDU/CSU)は、このレスラー氏の提案に、支持率回復のチャンスを見た。特に2年後の総選挙でかってのコール首相の成し遂げた3期連続政権を目指すメルケル首相は、この案に政権維持の唯一の可能性を見た。こうして「減税は決定した事実。問題はどの次期に実施するか。」という話になってきた。当初は「2011年夏前に実施。」という話しだったが、「2013年の総選挙前に実施した方が効果的。」という事になった。これに抵抗しているのが、政府与党内で唯一、まともな思考ができているように思える大蔵大臣のショイブレ氏だ。「国家財政の建て手直しも済んでいないどころか、まだこれに着手もしていない現時点で、減税を行う余地などない。」と、レスラー氏の提案を蹴った。政府の人気取り政策で地方税を削られて、赤字経営に悩む州も、「減税なんてとんでもない。」と、政府の提案を上院にて否決すると脅している。

そして何よりもこの政府の減税提案は、国民に受けなかった。世論調査ではなんと53%の市民が"Nein, Danke."と減税に反対で、「まずは国家税制を立て直すべき。」といい、わずかに38%が政府の減税に賛成しているに過ぎない。これが日本だったら、全く逆の数字になっていただろう。政府の減税に過半数が反対する国民が、個人の利益よりも国の財政立て直しを優先する国民が、世界の何処に居るだろう。ここがドイツ人と日本人の異なる点だ。これは何もドイツ人が物分かりがいい為ではない。ドイツではほぼ毎日、あちこちのテレビ番組、ニュースで増大する国家の財政赤字問題が取り上げられて、(ドイツらしい事に)討議されており、一般のドイツ人でさえ、この由々しき事態を肌で感じている。日本のテレビ番組はここ5年ばかり見たことがないが、日本のテレビ番組で日本の絶望的な財政赤字が、日々討議されているだろうか。又、平均的な日本人が、ギリシャの財政赤字が健全に思えてくる日本の財政赤字を、どれだけ意識しているだろう。
          
ドイツのマスコミは、国の現状を好意的に解釈せず、批判的に解釈して、全く容赦がない。だからここでドイツの実情を紹介すると、「ドイツってそんなものですか。」と、(日本では)ガッカリした感想を抱くことになるかもしれない。しかしこれは何もドイツの事情がひどいのではなく、マスコミが現状をオブラートに包まず、批判的に報道しているが故である。これがよく現れてるのが、戦後処理。ドイツ人は、「英国、フランス、ロシアに包囲されて、経済圏を確立するには仕方がなかった。」という都合のいい見方はしない。ドイツでは「どうしてあのような過ちを犯したのか。」と、批判的にとらえて、その原因を究明する努力をする。これもマスコミが批判的な報道をするが故の結果であり、マスコミは国民を啓蒙する役割を果たしている。悲しいかな、どうして日本ではこのような報道ができないのだろう。

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「馬」が合わない首相とレスラー氏。


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