Rausschmiss (04.08.2008)

この人間離れした異様な視線の持ち主、ここでも何度か取り上げたのでご存知の方もおられるかもしれないが、かってのシュレーダー政権下でSuper Ministerとして大いに期待されて経済大臣に就任したWolfgang Clement氏だ。氏は周囲からの期待とは裏腹に、(景気が悪かった為)経済大臣としてめぼしい功績を挙げることができず、大臣の任期が過ぎると「これ幸い」とばかり政界から引退、現役時代に面倒を見たドイツ第二の電力会社RWEの取締役に納まり(高級を得て)、悠々自適の生活を送っている。当然の事ながら氏の一番の感心事は、RWEが今後も(他社3社と一緒に)ドイツ電力市場を寡占して、安く発電した電気を法外な値段で国民に売りつけて、会社の儲けを増やし、ひいては自分の懐を暖かくする事。しかし、この目的を追求していると、(まだ)所属している党の方針と一致しないことが多く、党の方針か、それとも自分の懐か、の選択を迫られることとなった。ここでは、Clement氏の選択と、その後の展開について紹介してみよう。

さて、そのSPDだが、原発及び石炭発電反対をその選挙プログラムに挙げて、90年代にドイツにおける原発の廃止を国会で通して、(おそらく)先進国で一番最初に、原発のない電気供給を国の方針とした。もっとも、ドイツの周辺国は原発発電に依存しており、ドイツの国境からわずか数十kmには原発が林立している。さらに、ドイツはこれからの国から原発で発電される安い電気を購入しているので、ドイツだけ原発を廃止して、どれだけ意味があるかどうかはここでは敢えて問わない。何はともあれ、多くのドイツ人は原発に対してアレルギー症状を示すので、ドイツ国内で原発が廃止されれば「後は野となれ山となれ。」なのかもしれない。しかし、それだけでは気がすまないようで(ドイツ人らしいことに)今度は原発で電気を発電している諸外国を「エネルギー後進国」として非難するまでになった。そればかりではない。今度は、(ドイツで特に多い)石炭発電をDreckschleuder(環境汚染の元)として非難を始めた。

おりしも(以前ここでも紹介した通り)Hessen州では選挙戦の真っ最中。当初は原発及び石炭発電*を擁護しているCDUのKoch氏が優勢にたっていたのだが、思慮のない発言を繰り返した為、人気がどんどん落ちてきて、野党のSPDとほぼ互角の争いとなった。これを見た、(まだSPDの)クレメント氏は「このままではSPDが勝利して、新しい石炭発電所の建造計画も反故にされてしまう。」と心配になり、記者会見で(SPD党候補の)Ypsilanti女史を選ばないように呼びかけた。SPDの幹部が、SPD候補に投票しないように呼びかけたのだから、これは大きな波紋を引き起こした。SPD内部では「選挙前のこの時期に、これ以上のスキャンダルは避けるべき。」と判断、この件に関しては波風が収まるまで無視する事にした。

波風が収まった7月31日、クレメント氏が党員として登録しているNRW州のSPDで党内委員会が開かれ、氏のRausschmiss(追い出し)が決定された。「クレメント氏、党から追い出される。」とテレビ、ラジオ、新聞のトップニュースで報道された。これに驚いたのは、クレメント氏は言うに及ばず、SPDの党首Beck氏だ。来年の総選挙を前に、党の支持率が過去最低を更新し続けている今、一番欲しくないのは新たな党内紛争だ。これによりベック氏が、党を掌握していないので、各支部が勝手に行動していることが外部に見えてしまう。案の定、翌日には「SPDは党内紛争の真っ最中。」と報道される始末。火に油を注ぐように、SPDの幹部で、現大蔵大臣のSteinbrueck氏、かっての内務大臣で弁護士のSchily氏、現外務大臣のSteinmeier氏などの大幹部が揃ってクレメント氏を擁護した。現環境大臣のGabriel氏などは、さらにその一歩上を行って、„Wenn wir jeden, der bei uns mal Bloedsinn erzaehlt oder uns Probleme macht, ausschliessen, dann wird‘s auf die Dauer einsam.”(意訳/間抜けな発言をした人間、問題をおこした人間を片っ端から党から除外していると、その内、誰も居なくなる。)と、寛容の精神(?)を説いた。挙句の果てには、FDPから「是非、FDPに移ってもらいたい。」と、公式の招待まで届く始末。

事ここに至れり、やっと(クレメント氏の除外に熱心だった党内左派に行動の自由を奪われていた)Beck氏が(状況不利と見て)介入。NRW州SPDの決定に対して、クレメント氏が抗議を入れると、ベック氏が調停委員会を提案して、ここで処罰が討議されることになった。党の幹部の擁護のお陰で、氏の党籍抹消は次回までお預け、今回は懲戒処分となった。

*原発及び石炭発電。
ドイツの(まだ稼動している)原発はHessen、Baden-Wuerttemberg州に多いが、これは歴史的(地理的)な背景がある。これらの州には、工作機械、車産業などの工業が伝統的に多い地域だが、工場では大量に電気を消費する。逆に言えば電気の安定した供給が、州(工業)の発展に不可欠なのである。以前は、石炭発電が主流だったので、ハンブルクの港から発電所まで水路を利用して石炭を運んで運んできていたが、その輸送料はオーストラリアからハンブルクまでの輸送料よりも高くついた。これでは電気代が高くなり、高い電気で生産した商品は値段が高くなり、競争力を失ってしまう。そこで輸送料に左右されないで、安価に電気を安定して提供できるようにと、原発の建設を進めていった経緯がある。代わりの電気供給源を用意することなく、原発が嫌いだからという理由で原発廃止が決まったので、これらの州の政治家は当然、石炭発電廃止に反対である。又、原発ばかりか新規の石炭発電も停止してしまうと、一体どうやって工業が必要とする電力を提供するのだろう。折からの原油高も手伝って、ドイツでは今、原発の是非を巡ってあたらに討論が始まっている。

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21世紀の錬金術師Dr.Faustこと、Clement氏。


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