醜いドイツ人 (14.04.2009)

ドイツ人が相手に最大限の侮辱を与えたい時、ナチスとの比較を好んで用いる。以前、コール首相が国会議長を非難して「ゲーリングに引けを取らないひどい議長だ。」とやった。これに国会議長は激怒して謝罪を求めたが、コール首相は無視した。この方法は、第三帝国の要人と比較する所まではきわどいが「OK」とされている。逆に「OK」とされていないのが、ユダヤ人迫害と比較する事。ある国会議員が、「ユダヤの星のように、人を差別するのはよくない。」とやった。演説の内容はもっともな内容だったが、ユダヤ人迫害はドイツ社会ではNG(ご法度)なので、この国会議員は翌日謝罪する羽目になった。きわどい(灰色)なのは、外国人がドイツ人をユダヤ人迫害に関連づけて非難するケース。以前、イタリアの(ユーモアのセンスのない)ベルスコーニ首相が、EU議会でドイツ人のEU議員に非難されたのに腹を立て、「今、イタリアではアウシュビッツのドラマが収録されているが、あなたにぴったりの役割、すなわちKapo(収容所内での囚人の監視役。冷酷な仕打ちで特に嫌われた。)の役を提供したい。」とやった。言うまでもなくこの議員は激怒して、一時、独伊関係は冷却した。このように、ドイツ人を最大限に侮辱したいときは、ドイツ人をナチスを比較するのが一番効果的で、ドイツ人には一番応える。ただそのような比較(非難)は、「大人のすることでない。」とみなされており、これまで政治家や経済人が(ベルスコーニ首相を除いて)このような非難をした例はほとんどなかった。ところが今、あのおとなしいスイス人が、ドイツ人を「ナチ!」と呼んでとても怒っている。今回は、その原因について紹介してみようと思う。

ちょうど1年前にここで紹介したリヒテンシュタイン節税方法は、口座の内容が銀行員に盗まれて、ドイツの税務署に売り込まれる可能性が高いことを否応なしに示した。そこでリヒテンシュタインやスイスに口座を持っていたドイツ人は、別の安全な銀行口座を探す必要に迫られた。お金持ちを客に持ってる(ドイツの)銀行にしてみれば、これは実においしい商売である。たかが数千ユーロの収入しかないサラリーマンを1000人獲得するよりも、お金持ちを一人獲得すれば、最低限の労力で最大限の利益を生み出すことができる。そこで大事な顧客に安全な口座を紹介する事になったのだが、リヒテンシュタインやスイスに変わって人気を博しているのだドゥバイやシンガポール(あるいはフィリピン)などの銀行口座。これらの国の銀行は、スイスやリヒテンシュタインと異なり、ドイツ政府から脱税調査の正式依頼が来ても、「そんな者は知らん。」と突っぱねる。この為、これらの国々は安全な節税天国として人気を博し、ドイツからの新しい顧客を獲得することができて大喜びしている。(ドイツの)銀行もこうした「安全な」銀行口座の仲介で2000~2500ドルも稼いで大喜び。

逆に全く嬉しくないのが、節税天国と槍玉に挙げらたリヒテンシュタインやスイスだ。国のイメージは下がるし、銀行客は逃げていく一方。実際のところ、スイス政府はドイツ政府からの脱税調査の依頼があった場合、ドゥバイやシンガポールと違って、調査への協力を約束している。しかし、ドイツ政府が過去3年間にスイス政府に問い合わせた脱税調査はたったの1回。つまりドイツの税務署は自ら脱税を解明しようとする努力は一切放棄する一方で、スイスやリヒテンシュタインを脱税を補助していると非難している。特にドイツの財務大臣のシュタインブリュック氏は、有名なビスマルクの言葉を用いて、「甘い汁を吸っているこれらの国に対して、今度は鞭を使用すべきだ。」と言い出して、スイス人の怒りを買った。

実はこのシュタインブリュック氏のスイス攻撃の裏には、別の企図も隠されていた。政府の監視を受けないで、株式市場を操作して大儲けするヘッジ フォンドほど危険なものはく、ドイツ政府は前政権の時からヘッジ フォンドの監視を要求していた。ところが自由経済主義の旗手で多くのヘッジ フォンドの本拠地となっていた米国(ブッシュ政権)と英国(ブレア政権)は、資本の流出を恐れて、これを拒否した。その後の顛末は、今、世界中で猛威を奮っている世界不況である。こうした経緯があってドイツ政府は、4月に開催されるG20の会議で、このヘッジ フォンドを政府の監視下に置くことを最優先課題としていた。「それが何で、スイスと関係あるの?」と言われる方の為に説明しておくと、ヘッジ フォンドの本拠は英国や米国にあるが、会社の登録は税率の低い、あるいは全くないバハマ諸島やパナマ、イギリス領域の小さな島々、モナコ、ドゥバイ、シンガポール、そしてスイス、リヒテンシュタインなどになっている。そこでヘッジ フォンドの監視の可能にする為、スイスを槍玉に挙げて、銀行口座の情報を公開するように求めたわけである。もっともただ単に求めるだけでは(これまでのように)拒否されるのは目縫に見えているので、シュタインブリュック氏は情報提供に協力しない国をブラックリストに載せると脅かした。

これでもまだ脅しが不十分と感じたのかシュタインブリュック氏は、G20会議の前にテレビ出演、スイスをインディアンと比較して、「ユマの要塞から第七騎馬隊を(インディアン征伐に)出征させる事もできる。肝心なのは実際に出征しなくても、インディアン(スイス)は、騎馬隊(ブラックリスト)が近く駐屯している事を知っている事だ。」と、傲慢な態度でスイスを恐喝した。これにはあのおとなしいスイス人も流石に怒った。スイスでは「醜いドイツ人」というタイトルでシュタインブリュック氏がトップを飾った。中にはドイツをナチスと比較する新聞も出ており、どれだけスイス人が怒っているか、よくわかると思う。この一件によりスイスにおけるドイツのイメージは(昔からよくなかったのに)、かなり落ち込んだ。

尚、肝心のG20だが、シュタインブリュック氏の脅しが効いたのか、それとも深刻な世界不況を目の辺りにしてヘッジ フォンドの危険性をやっと理解したのか、米国、英国政府が折れて、ヘッジ フォンド(及び企業の信用ランキングを発表する会社)の監視が同意されるに至った。その他にも、脱税調査に協力しない国をブラックリストとして挙げる事にも同意され、脱税調査に協力を申し出た(スイスやリヒテンシュタインなどの)国家はブラックリストではなく、「灰色のリスト」に載せられることになった。つまる所、ドイツ政府(シュタインブリュック氏)が会議前に要求していたことがほとんど同意されたわけで、ドイツ政府(シュタインブリュック氏)は、スイスとリヒテンシュタインを犠牲にして、点数を稼ぐことができた。その他にもこの会議では(予想外に)多くの項目で同意に達し、会議の決議が発表されると世界中で株価が上昇した。

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スイスで紙面を飾るSteibrueck氏。

 
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雑誌のタイトル「醜いドイツ人」



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