den Spiess umgedeht! (逆襲!) (14.05.2009)

今年の1月にここで紹介したが、ドイツを代表するスポーツカーメーカーのポルシェが、トヨタ、フォードに次ぐ世界第三の車の販売数を誇るフォルクスワーゲン社(以下VWと略)の買収に乗り出している。元々、VWは(当時の)ドイツ車業界があの伝説的なエンジニア、フェルディナント ポルシェが設計した車(フォルクスワーゲン)を製造するのを拒否した為、国が作った国営の車メーカーだ。買収に乗り出したポルシェ一族にしてみれば、「VWはポルシェの物。」という考えがあったのかもしれない。しかし会社の規模、車の売り上げを見る限り、VWとポルシェは比べ物にならない。敢えて日本の車メーカーで比べれば、トヨタとスズキみたいなもの。そのスズキ(ポルシェ)が、トヨタ(VW)の買収に乗り出したのだから、それは大きなニュースになった。

偶然、VWの取締役会長にはポルシェ一族で、ポルシェの創始者の孫にあたるFerdinand Piëch氏が就任している。VWを買収するには、これ以上都合のいい機会はないように思われた。そこでポルシェ一族が会合して、両社の統合を話し合いでまとめようとしたが、実力でVWの最高責任者まで出世したピエヒ氏は、VWよりもはるかに小さな車メーカーの軍門に下る事を拒否した。話し合いで解決できないなら、実力行使、ポルシェ一族は株式買収によるVWの敵対買収に乗り出した。VW買収の陣頭指揮を取るのは、ポルシェの社長であるWiedeking氏。ピエヒ氏にしてみれば、ヴィディキン氏は(名門ポルシェに属しない)ただの成り上がり者。その成り上がり者が、ポルシェ一族のピエヒ氏を追い出して、VWとポルシェの両方の会社の社長に納まろうと画策したのだから、ピエヒ氏にはこの買収は下克上以外の何物でもなく、許しがたい。しかしポルシェはヴィディキン氏の指揮下、飛ぶ鳥を追い落とす勢い、溢れる資金を保持しており打つ手がない。そこでピエヒ氏は政府に助けを求めた。

VWはその創立の歴史からして、政府が会社の株主である。以前はナチスドイツ政府だったが、今は会社の本社のあるニーダーザクセン州が、会社の大株主。そこでピエヒ氏は州知事に「VWが買収されると、本社はニーダーザクセン州のからヴァーデン ヴルテンブルク州に移動して、ニーダーザクセン州では失業者が増える(つまり、企業が納める税金が減って、州財政が激減する。)だろう。」と入れ知恵。選挙民が失業すると、折角SPDから勝ち取った政権を失うことを恐れた州知事のWulff氏は、ポルシェのVW買収を非難、買収に徹底抗戦すると言い出した。これが気に入らないのが、ヴァーデン ヴルテンべルク州知事のOettinger氏だ。ポルシェがVWを買収すれば、ポルシェの儲けは飛躍的に拡大して、州政府は税収入で潤う。そこでこのVW買収は、政治劇にも発展して、それぞれの州知事が、買収及び買収反対に大いに力を入れる事態になった。

これを見て、ヴィディキン氏はVW買収に時間をかけると不利になると判断、一気に勝負に出た。銀行から融資を受けると、「いざ、鎌倉!」と市場に出ているVWの株を買いまくった。これに驚いたのがヘッジファンド。大不況によりVWの株価の下落を画策、株を空売りして、大儲けを企てた。ところがVWの株価は下落するどころか上昇した為、放出した株価を急いで買い戻どす必要に迫られた。この結果、市場に出ているVW株の数が激減したが、買い注文が殺到した為、株価は異常な上昇を見せて、2日間で株価が5倍(一株1000ユーロ!)も上昇した。これを見たヴィディキン氏は、株の買収を一時棚上げして、これまで買った株を売却、巨額の富を得た。この騒動が治まって1月には株価が300ユーロまで落ちてくると、ヴィディキン氏は再び、VW株の買収に出た。ところが買収に時間をかけ過ぎた。銀行から借りたお金の、その返済期限が迫ってきたが、経済不況で車が売れず財政状況が悪化、借入額の90億ユーロが払えなくなった。勿論、買い入れた株を売ればいいのだが、株価が200ユーロまで暴落しており、株を売れない状況に陥った。これが新聞で報道されると、今度はポルシェの株価が暴落する事となった。これを見た古狸のピエヒ氏は逆襲に出て、ポルシェの買収を画策、買収する側と買収される側の立場が180度変わってしまった。

ここでこれ以上身内の争いを公にしたくないポルシェ一族は再び会合したが、今回はピエヒ氏の交渉立場が強い。会合の結果、VWとポルシェは買収ではなく、企業統合という形を取る事となり、ポルシェとVWの本社は現在のそれぞれの場所に留まる事になった。統合されるVWポルシェ社の最高責任者にはピエヒ氏が、そして社長にはVWの(現在の社長の)Winterkornが就任する事に決まってしまった。又、ピエヒ氏は現在ポルシェが抱えている巨額の負債に関して「ポルシェの問題なので、ポルシェで解決すべきだ。」ときっぱり発言、両社の統合により借金をVWに負ってもらおうというポルシェの希望の芽が育たないうちに踏み潰した。ピエヒ氏は「ヴィディキン氏の将来は。」と問聞かれると、「これまでよりも、ずっと低い責任を任される事になるだろう。」と凄みを利かせた発言をしており、ヴィディキン氏の将来には陰りが出てきた。この一件は、華麗な出世を遂げたヴィディキン氏をもってしても、たった一度のエラーでこれまでのキャリアが水泡のに帰す可能性がある事を、又、小さな会社が大きな会社を買収するには大きな危険が伴う事を如実に物語っている。


205.jpg
ドイツ自動車業界の大御所Piëch氏


206.jpg
Piëch氏の信頼厚いWinterkorn氏。


207.jpg
ポルシェでVWを追い越そうとしてPiëch氏に睨まれたWiedeking氏。



スポンサーサイト

0 Comments

Post a comment