徴兵制度の終わり? (18.08.2010)

日本の防衛体制について、考えた事がありますか。言わずもがな、日本は英国同様、島国です。つまり防衛に必要なのはまず空軍、そして海軍です。これは第二次大戦中、欧州を占領して地上戦で圧倒的優位を誇るドイツ軍が、イギリス空軍の抵抗に遭い、ちっぽけな島国であるイギリスへの上陸作戦を実行できなかった事実からも明白です。こうしてイギリスは圧倒的に劣勢ながら戦い続ける事ができ、絶望的に見えた戦局を、(ドイツの誤った戦略と)ソビエトと米国の助けで、逆転する事に成功しました。ならば「専守防衛」というからには、日本の防衛体制も空軍と海軍に集中している筈。ところが日本の防衛力の主力は陸軍に置かれています。何故でしょう。

例えば通常軍120万人を擁する北朝鮮が、鳥取あたりに上陸してきたら、日本はどうやって防衛するんでしょう。岡山にある16両の戦車部隊(それも74式戦車で)で、長続きする防衛ができるようにも思えません。陸軍の主力を北海道から持ってくるにも輸送船に欠ける上、時間がかかり過ぎ。援軍が上陸する頃には中国地方は占領されてしまっています。それよりは空軍基地から迎撃機を飛ばして、敵の上陸部隊を海の上で叩くのが効果的。すでに上陸した部隊にしても、弾薬、食料の補給がなければ戦闘が続けられませんから、日本(空軍、海軍)は北朝鮮から下って来る輸送船を迎撃すれば、すでに上陸した敵軍はガダルカナル状態で、これを掃討するのは比較的小さな陸軍部隊で可能。にもかかわらず、どうして日本は主力を陸軍に置いているんでしょう。「また中国や韓国に派兵する事を考えているんじゃなかろうか?」と、日本政府の本心を疑いたくなります。

話は変わって、ドイツ。隣国と陸続きのドイツでは、防衛に必要なのは、海軍よりも陸軍です。ドイツの歴史上、敵がドイツに上陸作戦を敢行した例はありませんから(第二次大戦のノルマンデイー上陸作戦でも、連合軍はフランスに上陸。)空軍と陸軍が防衛の要。海軍の任務はドイツ海軍の中庭である北海の防衛くらい。この為、空軍に次いで陸軍に主眼が置かれています。実際ドイツ空軍の人員は4.1万人、陸軍は9.4万人、そして海軍は1.8万人と、ドイツ人らしい合理的な構成になっています。これに比して日本では空軍4.3万人、陸軍は14万人、海軍は4.2万人と、陸軍の規模は「専守防衛」にしては多すぎ、空軍と海軍の人員の数が少ないのが特徴。本当に専守防衛なら、日本国土の特長を考慮しても、陸軍は9万人程度で十分だ。ここまではあくまでも仮定の話。現実に戻って国土防衛について考察してみると、ドイツが国境を接している国、フランス、ベルギー、オランダ、ルクセンブルク、スイス、イタリア、オーストリア、そしてポーランドから侵攻軍がやってくる可能性はほとんどない。こうした国々とドイツは深い経済関係にあるので、ドイツにしても、ドイツの周辺国にしても、ちっぽけな領土(失地)の為に侵攻作戦をして、これを回復した場合の長所(経済的効果)よりも、短所の方が大きい為だ。ドイツの宿敵だったあのロシアだって、ドイツがロシアのガスの最大の顧客なので、ドイツの元首相をガス会社の取締役に迎えている程。金払いのいい顧客に向けて、ロシアが軍を派遣する事は有り得ない。

こうした状況に鑑みて合理的なドイツ人は、「今時、徴兵制(つまりそれほど大きな規模の軍隊)は、必要ないだろう。」と、言い出した。しかし、徴兵制はドイツ(プロイセン)建国、統合の「象徴」であった為、これに反対する議員が少なくなく、又、日本と異なり元軍人の政治家が多いため、徴兵制はなんだかんだと言われながらも維持されてきた。しかしその徴兵期間は今年からたったの6ヶ月となり、あまり意味のないものとなっていた。それでも徴兵制を維持しているのは2つの理由がある。例えば兵隊になるのを嫌う若者は、軍役の代わりにZivildienstをする事ができる。これは病院や老人ホームあるいはゲーテなどの語学学校での奉仕活動をするもの。この「無料」の労働力に、病院、老人ホームなどが頼っているため、徴兵制がなくなるとZivildienstもなくなり、代わりに人員を雇わなければならない。しかしドイツでは人件費が高いので、無料の労働力がなくなると病院、老人ホームなどでは大きな経済負担になる。この為、「徴兵制度」の廃止に反対する人が少なくない。もうひとつの理由は、徴兵制を維持していれば、「万が一」の際、徴兵を厳格に採用するだけで十分な数の兵士を調達する事ができる。もし徴兵制を廃止してしまうと、再導入の際、国民の大反対に遭う。だから、大きな意味はなくても徴兵制度を維持しようとする意見が多かった。

ところが増大する財政赤字を目前にして、そんな贅沢をしている余裕がなくなってきた。新兵(Rekruten)の教育には、数万ユーロの金がかかるが、6ヶ月で辞めていかれるのでは、栓のないお風呂に湯を張るようなもの。この平和で財政赤字がとめどなく悪化している時代にそんな贅沢をしている余裕はない。そこで職業軍人制度に移行すべきだという声が大きくなってきた。職業軍人と聞くとお金がかかりそうだが、どうせ半年で辞めていく人員(定員)を最初から減らして、職業軍人だけの軍隊にした方が、実際には安くあがる。しかし、「徴兵制度の廃止」と言うと、上述の理由でこれに反対する輩が出てくる。ここで(元軍人の)国防大臣が名案を出してきた。それによるとドイツ軍全体を4万人程度にまで削減、基本的に徴兵はしないが、「ドイツ軍に入りたい!」と、本当に希望する「志願兵」に限って7000人程度受け入れて、半年程度、教育を施すというもの。つまり外見では徴兵制度は残るが、一般徴兵はせず、志願者だけの徴兵にするというもの。

この案では、無料の人員を望む経済界からの要求を満たす事が可能になり、又、形だけだが徴兵制度は残るので、「いざ鎌倉。」となれば、一般徴兵に変更も容易だ。そして本当にプロフェッショナルな軍人で構成されるため、人員は減っても海外派遣などの任務をこなすことができる。そして一番大事な事に、毎年10億ユーロも節約できる。今の時代に合わせた合理的、かつ理性的な案だが、よりによって党内から反対の声があがっている。その代表はメルケル首相。(子供がいないからか)首相は、徴兵制度維持派。しかし軍務の経験がないため、6ヶ月程度の軍役ではあまり意味がない事がわかっていない。逆にドイツ軍はこの徴兵制度の「廃止」に賛成している。又、連合政権内では外務大臣(兼副首相)のヴェスターヴェレ氏も廃止案に賛成しており、野党からも賛成のラブコールが送られている。つまり多数は徴兵制の廃止に賛成しているが、首相が反対している為、現状では廃止案が国会に提出される可能性はそれほど高くはない。それでも毎年10億ユーロの予算削減が可能となると、首相も気が変わるかもしれない。いずれにしても現職の国防大臣が、徴兵制度の廃止を提案するのはこれまでになかった事で、これが「(徴兵制度の)終わりの始まり。」になる可能性は高い。

補足。当初、徴兵制を支持していた首相だが、国民の間で徴兵制廃止案への賛成の声が高まると、与党が世論調査でかってない最低記録を更新していただけに、首相はこれまでの意見を変え、徴兵制の廃止に同意した。首相が翻意すると、野党は最初からこの案に賛成していた為、徴兵制度の廃止は加速されて12月15日の閣議で正式に決定された。この結果、2011年に最後の「新兵」が徴兵されることになり、又、徴兵制の廃止の際に問題になっていたZivildienstも廃止される運びとなった。こうしてドイツ軍は現在の24万人体制から18万5千人へと減らされることになり、日本の自衛隊同様、純粋な職業軍人からなる軍隊になる。


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徴兵制度の廃止を考える


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国防大臣。

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