平和維持活動 (18.09.2009)

戦前の日本のように国民を扇動して、「最後の一人まで国土防衛」などとスローガンを唄っていると、国民がその気になってしまい、本当は降伏したいのに、国民の手前、降伏できないというジレンマに陥る。逆に戦後のドイツのように、「戦争は悪いもの。二度と同じ間違いを繰り返してはならない。」と、このスローガンを繰り返していると国民がその気になってしまい、軍隊を海外に派遣する際、国民から大反対をくらうというジレンマがある。ドイツが戦後、始めて軍隊を他国に派遣したのは、よりによってドイツが第二大戦中に残忍な占領政策を行ったユーゴスラビア(コソボ紛争)だから、国内での反対は大きかった。ユーゴで戦った経験のあるシュミット(元)首相は、当時のこのシュレーダー首相の決断を「軍隊を送るのは容易いが、そこから出て行くのは難しい。もっと慎重な決断をするべき。」とやんわりと非難した。あれから10年以上経ったが、ドイツ軍は未だにコソボに進駐しており、未だに兵を引き上げられる状態にない。これで懲りたと思いきや、今度はアフガニスタンにドイツ軍を派遣して、これが今度の選挙の行方を決めかねない「大事」になっている。

日本に限らずドイツでも、戦争目的で他国に軍隊を派遣する事は憲法で禁止されている。例外は、コソボ紛争のように国連から「お墨付き」(UNO-Mandat)をもらった場合。あるいは攻撃目的でなく、平和維持(Peacekeeping Force)目的の場合は、軍隊の派遣が可能になっている。アフガニスタンにドイツ軍を派遣する際は、前者のケースで「お墨付き」をもらってドイツ軍の派遣、しかも戦闘任務ではなく平和維持(Friedensmission)という条件で国会を通過したが、反対が大きく、かろうじて2票差で過半数を得た経緯がある。米国、英国軍を主力とする連合軍がタリバンを主要都市から駆逐後、ドイツ軍は北部、Kundusに進駐して平和維持活動を開始した。ところがアフガニスタンの現状は悪化する一方で、比較的安全と見られていた北部においてもタリバンとの交戦状態に入った。政府は現状の装備では状況に対応できないとして、レオパルド戦車や空中探索機(AWACS)を派遣する事を決定したが、これだけの戦争機材、主力戦車まで、を投入して「平和維持活動」というのは少し無理がある。しかし戦闘任務ではなく、「平和維持」という名目で国会を通したので、政府にとって「戦争」という言葉はタブーだ。この為、ドイツ軍はすでにアフガンだけで10人を超える死人を出しているが、国防大臣はお悔やみの言葉で「殺された」とか「命を落とした。」という言葉を使い、「戦死した/gefallen」という言葉を使わないように、細心の注意を払っている。こうした防衛大臣の言動には批判が集まっているが、「自衛隊」を軍隊と呼ばず、戦車を「装機車」と呼び、砲兵を特科と呼ぶ日本人なら、このジレンマはよく理解できる。

面白い事に、このアフガニスタンのドイツ軍の「平和維持活動」は、実質、憲法違反なのに、これまで選挙戦のテーマになっていなかった。まず連立与党を組んでいる「二大政党」がこの任務に積極的だったことに加え、第三の政治勢力に成長したFDPも肯定的、第四の政治勢力に下落した緑りの党は文句を言いながらも、しぶしぶ承認するという立場を取っていたので、これを頭から非難する政党がなかった。例外は左翼政党。左翼政党はドイツ軍の海外派遣を頭から否定して、「米国のオイル源へのアクセスを目的とした侵略戦争に、ドイツの若者が命を捧げる事があってはならないと。」誰にでも理解できる明確な言葉でドイツ軍の撤兵を要求していた。ただし、左翼政党は614議席の国会(下院)でたったの54議席しか占めてていなかった為、「砂漠で唱える説法」のように、耳を傾ける人の数は少なかった。ところが折からの経済危機で資本主義の欠陥が露呈すると、左翼政党を支持する層が拡大してきた。その結果が、先の地方選挙での左翼政党の大勝利である。

「上り調子」になると、都合のいい事件が起こるもの。アフガニスタンでタリバン掃討作戦を展開していたドイツ軍&アフガン混成軍が、給油トラックをタリバンに奪取されてしまう。「タリバン掃討のチャンス!」と見たのか、ドイツ軍を指揮していた大佐が米軍に爆撃を要請、砂糖に群がる蟻のように、「ただで給油ができる。」と大喜びで給油車の周囲に原住民が押し寄せている中、250Kg爆弾が給油車を直撃した。爆弾とガソリンが大爆発して一面、焼きの原となった。現場に焼き焦げて、ばらばらになった遺体が散在していたが、死者の数を特定するのは不可能で推定90人以上が死亡、数十名が大やけどを負ったが生き延びた。

これまで米軍はかなり頻繁に爆撃(誤爆)を行い、結婚式に参列している一団の真ん中で炸裂するなどして、タリバンとは関係のない民間人の被害(ドイツ語ではkollateralschaden)を出してきた。この反省から、「爆撃は、敵の攻撃にあって、直接の危険にさらされているときにのみ要請するべし。」と命令が出ていた。こうした背景があった為、「ドイツ軍は直接、敵の攻撃に遭って危険にさらされていた。」と国防大臣は爆撃を正当化したが、給油車の盗難を、「直接の危険」と言うには少し無理があった。さらに大臣は、「民間人の被害なし。」と空爆を評価、野党の「民間人の被害者が居たんじゃないのか。」との疑惑を否定した。しかしアフガニスタンのテレビ局が、病院に収容された怪我人を報道すると、明らかに子供も混じっていたので、「殺されたのは全部タリバンだった。」と主張するのは難しくなってきた。白黒はっきりさせるため、アフガンに進駐している連合軍の司令官(米軍)が現場の視察に出かけようとすると、「現場はタリバンの勢力区域であり、司令官が出向くのは危険。」と、視察を妨げようとしたのもいい印象を与えなかった。

現場視察の結果、民間人の死者が出た事実が発表されると、国防大臣の言動に対して非難が集中したが、それでも国防大臣は頑張って、「民間人の被害はなかった。」とやったのは、あまり賢くなかった。これにより国防大臣が現場の状況を全く把握していないか、それともわざとこれを無視しているかのどちらかである事が明白になった。事実がどっちらの場合でも、大臣としてあるべき姿ではない。大臣のJung氏だが、これまでもあまりぱっとしなかった。ドイツ軍の国内での出動は法律で禁止されているのに、大臣の一存でドイツ軍を国内治安維持に派遣して、その判断能力に?が付けられていた。この空爆事件の結果、ドイツではまた「反戦争ムード」が一気に高まってきたが、ほとんどの政党はドイツ軍の平和維持活動に賛成していた為、左翼政党に人気が集中した。空気を読むのがうまい左翼政党のGysi議員は、「民間人の殺害は、許されない行為。ドイツ軍は直ちに、アフガニスタンから撤退せよ。」と、まさにドイツ国民が考えていることを要求して、ポイントを獲得した。

現時点では左翼政党はまだ第五の政治勢力に過ぎないが、この爆撃事件後の世論調査では、過去最高の14%の支持率を記録して、FDPと並んで、緑の党を追い越した。この数字を見れば、いかにドイツ人が戦争、軍隊の派遣を嫌っているか、よくわかる。事件の今後の発展次第では、次回の総選挙に大いに影響を与えることになるかもしれない。


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爆撃で大破した給油車。


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国防大臣のJung氏。大臣の椅子は今回限り?


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