Tip, Top, Flop! (21.12.2009)

Boeing社の新しい旅客機787、通称、Dreamlinerがやっと初回飛行を果たした。親米の日本ではどのように報道されていたか興味のある所だが、ドイツのメデイアは概ね、炭素繊維で製造された飛行機が始めて飛んだという「お祝いムード」よりも、「予定よりも2年も遅れている。」と、Boeing社の仕事振りを嘲るニュアンスで報道されていた。飛行機が離陸する前に(設計の段階で)、800機もの注文を受けてすでに「ベストセラー製品」になっているのが、ドイツ人には気に入らなかったのかもしれない。中には「Boeing社は生産コストを下げるため、日本などに機体の製作を依頼したが、この下請企業が欠陥製品を届けた為、さらに初回飛行が遅れる事になった。」と、あながち間違いでもない指摘もあったが、ドイツ(とフランス)の合同作であるA380は2年半も遅れて納入された事実は都合よく忘れられた。実際の所、EADS(エアバスの親会社)の「仕事振り」は、決して威張れるものではない。ここでも数回に渡ってその醜態を紹介してきたが、また紹介するに足る事例が幾つか集まったので、ここでまとめて紹介してみたい。

まずはA380から。Airbus社はルフトハンザなどの「放っておいても飛行機を買う国内の航空会社」よりも、シンガポール航空やエミレーツ航空など、「海外のお得意様」を最優先してきた。というのも計画では毎年18機のA380を納入できる筈だったのだが、製造ライン上の欠陥で14機に減らされたが、それでもAirbus社は約束を守ることができず、今度は13機に減らした為、納入先に優先順位をつける必要が生じた。こうした事情があり、先月やっとのことで後回しにされていたエア フランスに最初の一機、欧州の航空会社としては最初の一機が、納入された。エア フランスはこの新型旅客機をコンコルドの廃止で「目玉商品」のなくなったパリ-ニューヨーク間のドル箱路線に投入する目論見だった。フランス国内では「欧州初のA380でニューヨークまで!」と大宣伝、ほぼ満席のA380は11月30日はニューヨークへ向けて飛び立つ筈だった。そして実際に飛び立ったが、ニューヨークまで「持たなかった」。機器の故障でA380はUターン、パリに引き返す羽目になった。エアフランスの宣伝に乗って、A380に乗ってニューヨークに飛ぶことを期待していた乗客は、大きな幻滅を味わうことになった。エアバス社は最初のA380を納入してから1年半も経つのに、未だにまともな飛行機を作る事ができないでいる。

さらに業界アナリストの分析によると、エアバス社は納入遅延の為、各航空会社に罰金を払っているが、このA380事業で黒字になるためには470機もの飛行機を販売しなくてはならない。毎年13機のペースだと実に36年もかかる「計算」になり、実に気の長い計画だ。ちなみに現在では、147機の注文が入っているに過ぎず、果たしてこれで採算が取れるのだろうか。

その次は、すでに初回飛行が(Boeing社同様に)2年も遅れ、製造費用が200億ユーロから224億ユーロに膨らんだ為、会社の開発予算が空っぽになり、「飛行機の費用の一部を前払いしてくれないと、このプロジェクトは続けられない。」と、各国政府に脅しの手紙を送り、「もう飛行機が飛ぶ事はありえない。」と関係者から絶望視されていたA400M、軍事輸送機だ。そのA400Mが(Dreamlinerの初飛行の1週間前、12月11日に)本当に飛んで、墜落する事なくちゃんと着陸した、墜落する事なくちゃんと着陸した。ドイツの報道機関は、「これで有事には兵隊や装甲車などを空路輸送する事ができ、画期的な技術革新だ。」と、(初飛行がBoeing同様に2年以上遅れている事を忘れて)自画自賛に余念がなかった。しかし、この初飛行の裏には、ドイツ人がよく言う、"Haken"(決定的な欠陥。)があった。

この輸送機の製作が遅れていた原因は、そのエンジンにある。ドイツ軍は自衛隊と同じく米国産のC-130を輸送機として採用しているが、この輸送機は50年代に開発された輸送機(当時はプロペラ)で、いささか古くなってきた。ドイツ軍の新しい装甲車、Pumaは「軽装」でも32tもあり、C-130の積載能力を超えるため、空輸できない。又、有事に暢気に輸送船で装甲車を送るわけにも行かない。そこで新しい装甲車を空輸できるように、又、世界中の軍隊に新型輸送機を売り込んで大儲けをすべくEADSに新型輸送機を注文した。戦地には往々として舗装された滑走路がなく、あっても短いので、「原っぱ」や短い滑走路でも「離着陸」できる性能、さらには装甲車の積載が可能である事を要求したが、ちょっと欲張りすぎた。もっとも、その責任はEADSにあった。EADSは契約を取りたい一心で、文字通り「机上の空論」の段階にあるA400の性能を、誇張してしまった。これに乗せられた各国政府からオーダーをもらって製作に入ったが、離着陸を容易にする為に推進装置にプロペラエンジンを採用した。が、これでは十分な推進力が得られないことが、実際に作ってみてやっとわかった。これでは積載能力が半減されるので、なんとかエンジン性能を向上させるべく研究を重ね、初飛行は延々と伸ばされた。ところがいくら研究を進めても、プロペラ推進では限界があり、32tもある装甲車を積載するのは不可能と判断された。しかし、これを正直に言うとA400Mのプロジェクトは水泡の泡、これまで開発に費やした200億ユーロを取り返すことはできなくなり、EADSの命運は尽きてしまう。そこでEADSのマネージャーは名案を思いついた。

装甲車のように「一つの重い塊」を飛行機に乗せるとバランスが悪くなり、離陸は不可能だが、例えば弾薬や糧食をパレットで積めば飛行機のバランスが保たれて37tまでの積載が可能になる。だからA400Mの最大積載能力は契約の際に約束した37tのままにして、マニュアルには、「単品での積載能力は29.5tまで。」と書いて誤魔化すことにした。こうして今回A400Mの初飛行が可能になったわけだが、ドイツ政府はこのトリックを知っておきながら、初飛行に際して「祝辞」を送るなどして、「ミザル、キカザル」で通している。結局の所、国営企業であるEADSの新型輸送機が「ボツ」になると、その「ツケ」は、ドイツ、フランス両国政府に回ってくる。この「政治的解決」のツケを払うのは、我々納税者と前線勤務の兵隊である。今後、テスト飛行がうまく行って登録許可が下りたとしても、装甲車を積む前に、装甲を外して「車」を軽くする必要があり、「現場で」、これを組み立てることが必要になる。組み立てるといってもタミヤのプラモデルではないから、特別な装備が必要になる。さらには分解した装甲車は2機目の輸送機で別途運ぶ必要が生じるので、これは兵站上の悪夢である。本来は一つの輸送機で済む筈だったのに、一つの任務に2機の輸送機が必要になり、その経費(燃料、人員、整備)は文字通り倍になる。どうせ分解して2機に分けて装甲車を輸送するなら、高い輸送機を買わなくても、今の輸送機でもできた事である。

さらにはEADSが開発したEurofighter(オイロファイター)の問題も深刻だ。当時は一機7千万ユーロだった飛行機が、今は一機8千5百万ユーロに値上がりしたが、とりわけめぼしい機能があるわけでもなく、人気がない。又、一見すると米国のF-22よりも安く見えるが、これはEADSが「プリンター政策」を取っている為。プリンターを製造する会社は印刷機の値段を安くして購入意欲を促進しているが、その分、インクに法外な値段を付けてプリンターの販売で逃した儲けを取り戻している。これと同じく、EADSはこの「純正部品」に法外な値段をつけてここで儲けを倍増している。プリンターなら、他社の製品を買うこともできるが、戦闘機はそうはいかない。どうしても高い純正部品を買う必要がある。また軍需品、特に戦闘機などは飛行の度に整備をして部品を取り替える必要があるから、プリンターよりも「効率」がいい。一度、オイロファイターを納入させしてしまえば、今後20年はおいしい純正部品の注文が自動的に入ってくる。こうして結局は、安く買って、「高い買い物」をする事になるのだが、この「悪い噂」が広まったのか、この戦闘機あまり売れていない(Flop)。過去5年間で683機の注文があったので、この数はまずまずの満足行くものだが、サウジアラビアからの大量注文(72機)を最後に、今後、注文が入ってくる見込みがなくなった。危機と言えば経済危機を思い浮かべるこの時期、高価な買い物をする余裕のある国がなくなってきたのもその原因だ。こうしてオイロファイターすでに5年目にして製造中止の瀬戸際に立っている

こうした山積する問題に懲りず、EADSはBoeing787の向こうを張ってA350を(設計もしないで)立ち上げた。初回飛行は2012年に、最初の1期の納入は2013年に計画されているが、これまでのAirbus社の実績を見ても、到底守れる日程ではない。幸い、注文もほとんど入っていないようなので(煮え湯を度々飲まされた航空会社も馬鹿ではない)、1~2年遅れたって問題はないかもしれないが、初回飛行に至るまで、たくさんの話題を提供してくれそうで今から興味津々。


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冥機A400Mの前でポーズを取る社長のEnders氏。


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