手抜き工事 (25.02.2010)

去年、お客さんをフランクフルト空港でピックアップして、ケルン市内の滞在先に向かっていると、大渋滞に遭遇。市内に向かう分岐路は高速道路を下りる前から長打の列が発生しており、すでに6時間も車を運転していたので、この光景にげっそり。ケルンは大都市なので、渋滞は珍しくもないものの、この渋滞は「大物」。ケルン市内に入ってから、滞在先にたどり着くまでに1時間もかかって、やっと到着。任務を完遂すると気が抜けて、眠い目をこすりながらデュッセルドルフ(自宅)に向かっていると、ラジオで「ケルン市内でStadtarchiv(町の歴史資料館)が倒壊。付近の道路は封鎖されています。」と、ニュースが流れてきた。これで大渋滞の原因はわかったが、資料館の倒壊の原因がわかるまで、さらに1年も経過することになった。

ドイツで家を建てる日本人は少ないと思いますが、家を建てる際、建築現場の監査人を雇う必要があります(義務ではありません)。これは通常、過去、建築現場で働いた経験のある専門家で、Baugutachter などと呼ばれています。この専門家、ドイツなのでその経費は安くないですが、雇う価値はあります。建築会社も、慈善事業をしているわけではないので、お金を稼がなければなりません。しかし競争が激しいため、工事価格をぎりぎりの予算で計算しており、利鞘が低い。この為、手っ取り早く儲けるには、手抜き工事が一番。だから見えない所では、手抜き工事をします。これはどんなに信用のある大手に頼んでも同じなので、「きっと私達は大丈夫。」と、運を天に任せない方が賢明です。一番人気のある手抜き工事は、家が建ってしまえば見えない地下室の湿気遮断を安い素材で行うか、全く行わない方法。前者の場合、家に住んで5~6年したら、後者の場合は2~3年したら壁に黒い斑点が発生してきます。これは健康に有害なSchimmel(カビ)なので、直ちに除去しないと、住人の健康が損なわれてしまいます。そうなってから監査人を雇って家を調査すると、湿気の遮断がいい加減だった為と判断されます。もし、湿気の遮断措置を全くしていない場合、家の基礎工事からやり直すことになるので、マイホームの夢は監査人の費用を削ったばかりに、トランプで作った家のように倒壊していきます。

倒壊するのは、何もマイホームだけではありません。ケルン市は冒頭で述べた交通渋滞を解消するために、路面電車を地下に閉じ込めて、これまで路面電車に使用されていたレーンを車に開放、車の流れを改善しようと計画。入札の結果、この工事はドイツ第二の規模を誇るマンハイムの建築会社、Bilfinger Berger が受注しました。ところが工事中に地下で「壁崩れ」が発生、地表にぽっかり穴が開き、たまたまその上に建っていた住居と資料館がこの穴に倒壊してしまった。事故の時点で住居に滞在していた市民2人が死亡したが、それでも不幸中の幸い。事故が起きたのが夕方だったので、住人の多くは留守で人命の損失は「最小限」に抑えられた。又、資料館で働いていた人が「ミシミシ、、。」と建物が崩壊する音が聞こえてきたので、間一髪間に合って避難した。こうしてこれだけの「大事件」にもかかわらず、死傷者の数は少なかった。しかし、貴重な人命と過去の資料(の一部)は永久に失われてしまった。*

地下鉄の工事で難しいのは、地下水の流入を止める事。この目的に鉄板で壁を覆って、地下水の浸入を食い止める。勿論、全部、食い止めることはできないので、浸透してきた地下水はポンプでくみ出すことになる。この為、事故が起こった直後は、「ポンプで水を汲み取りすぎて、地下水のレベルが低下、地盤沈下を招いたんじゃないのか?」と、憶測された。ところが「蓋」を開けてみると、壁を支えるべき鉄板の数が欠けていた。不審に思ったケルン市が他の工事現場を調査すると、本来使用されるべき鉄板の(平均)17%しか使用されておらず、すべての工事現場で鉄板が欠けていた。その後の調査では、工事現場の作業員がグルになって、この鉄板を鉄屑として廃品業者に売却していた事が明らかになったが、何トンという鉄板を簡単に盗めるわけもなく、これを積むトラックやクレーンなども手配した大掛かりな組織的詐欺行為であった。ケルン市は直ちに不足する鉄板を工事現場に打ち込むように建築会社に要求すると同時に、作業中、付近住民には一時避難を勧告した。

ドイツ第二の規模を誇る大手の建築会社でこの有様なんだから、他の小さい建築会社の仕事振りは推して知るべし。ドイツでマイホームを建てる際は、お金はかかってもちゃんとした検査人を雇っておこう。尚、洞察の鋭い人なら、「マイホームで監査人が要るなら、公共工事なら工事をチェックする監査人が要るのでは?」と、お尋ねされる事だろう。全くその通りで、公共事業の場合、3人の監査人が居る。工事を請け負う建築会社、その下請け業者などから合計3人の監査人が出て、工事を監督している筈だ。数トンもの鉄板をクレーンを使って盗むのが、この監査人の目に見えないはずもなく、当然、皆、グルになっていた。日本でも建築工事の手抜きなどは日常茶飯事で、これは何もドイツだけの現象ではないが、ドイツの怖いところは、検査官が賄賂に弱いこと。世界の汚職度を調査するTransparencyという組織によると、ドイツの汚職度は14番目で、汚職度の最も低い上位三国、ニュージーランド、デンマーク、シンガポールに比べると、まだまだ改善の余地有り。と、書くと「ドイツは汚職だらけ。」と誤解されるかもしれない。そこで他の例も挙げておくと、日本は17位で、さらに汚職度は高い。

さて、この手抜き工事が公になって驚いたのが、デュッセルドルフ市。(必要もないのに)路面電車を地下に封じ込めるべく、市内ではここ1年半、地下鉄の工事現場の嵐。言うまでもなく、この工事を請け負っているのは、Bilfinger Berger だから、この事件は対岸の火事ではない。ケルンであれだけ手抜き工事をして、「デュッセルドルフではちゃんと工事をしている。」と、思う人はいないだろう。デュッセルドルフ市が、地下鉄の工事現場の調査をさせるとやっぱりここでも手抜き工事されていることが明らかになった。この建築会社への信用を失ったデュッセルドルフ市は、この会社が過去40年間に行ったNRW州全域の工事現場を調査させることにした。又、Bilfinger Bergerは何も地下鉄だけでなく、高速道路、電車の路線工事なども行う、総合建築会社。今、ドイツだけでも、複数の高速道路及び線路を建築中だが、これらの工事をBilfinger Berger に受注した地方自治体は不安になってきた。そこで早速、市は独自の賄賂の効かない監査人を送って調査させてみると、手抜き工事が出てくるわ、出てくるわ。ミュンヘン-ニュルンベルク間のICE路線。時速300km/hの電車の路線で手抜き工事は、しゃれにならない。

さらにはこの建築会社、海外で高速道路などを敷設している。一番身近な例が、タイ。バンコクの高速道路、地下鉄など、タイ国内での工事は日本企業を押しのけるほど、強いパイプを政府上層部に持っています。しかし、汚職の「メッカ」であるタイで、まともな工事の監査をしている筈もなく、どこでどれだけ手抜き工事をしているのか想像するしかない。地震などあったら、一発で崩壊しそうだ。Bilfinger Berger 社はここまで事態が発展してから、つまりケルンでの事故から1年経って、建築現場の責任者と監査人の3人を首にしたが、明らかに対応が遅れており、バレなければ、そのまま詐欺を続ける姿勢が見えてくる。この汚職が会社のどの分野で計画されていたのか知る由もないが、イメージアップの為、取締役会は新しい社長探しを始めている。しかし現在の社長は、敏腕を発揮して会社の業績を大幅に改善した(株価は3倍になった)実績の持ち主で、株主は現社長の解任をあまり歓迎していない。この結果、Bilfinger Bergerの株価は新社長探しのニュースが報じられると、上昇しないで続落を続けている。

* 当初、警察は3名の行方が確認できなかったので、まさかこの事故を生き延びれる筈もなく、しばらくは死者3名との想定で、事故現場で遺体の捜索を開始した。ところがこの3人目の市民、奇跡的にこの事故を生き延びた。事故が起こった際、彼はオーストラリアに滞在中で、現地で大火事に見舞われ、命からがら脱出、「とんでもない目に遭った。」と、ドイツに帰ってきました。ところが崩壊したアパートを見て唖然。「旅行中に死にかけたが、もし、旅行に行かなかったら、間違いなく死んでいた。」とテレビカメラに向かって語っていた。人生、塞翁が馬、何がいいか最後までわからないものである。



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手抜き工事で、


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爆撃に遭ったように、


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倒壊した建物。


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