留学生。 (24.03.2010)

英国が第二次大戦で国の財源を使い果たし、太陽の沈まぬ大帝国から、ただの島国に衰退したように、米国もベトナム戦争で多額の税金を無駄使いして、その栄華に始めて陰りが見えてきた。しかし、ある人によると、「確かに米国は膨大な戦費を浪費したが、80年代からのベトナム戦争映画ブームで、その費用はとっくに取り返している。」という意見もある。これを確かめるデータがないのが残念だが、観点としてはとても面白い。と言うのも、映画の最大の(悪の)ヒーローは、今も昔もナチス ドイツ。ナチスの悪玉が登場する映画の数はベトナム戦争のそれよりも多く、その経済効果は計り難い。

例えば戦争が終結して65年も経過して、実際にナチスを見たことのある人は少数派だが、未だに数え切れないほどの戦争映画が製作され、ドイツでは毎晩ナチスがテレビの画面に登場、ヒトラーが演説している様が、まるで当時のように毎日報道され、週刊誌では毎週欠かさずにナチスが紙面を飾り、ナチス ドイツの記憶が薄れるどころか、ますます強くなっている。これには理由が幾つかある。例えばナチス物の報道は再放送なので金がからないが、いつもいい視聴率を獲得できるので、いい商売になる。ちなみにドイツがこれまで獲得したアカデミー賞は、すべて戦争がらみという、ドイツ人にとってあまり指摘されたくないジンクスがある。これが原因で、ドイツの映画界は未だにアカデミー賞の受賞を狙って、戦争映画を作りに余念がない。

しかし、なんといっても世界中で観客を集めることができる戦争映画の本場はハリウッド。最後はいつも勝利する米軍が、フィルムの中盤で苦戦するほど、映画を見た人の脳裏にはドイツ兵器の優秀性が焼きつく。お陰でドイツのタイガー戦車の名前を聞いたことのない陸軍の司令官はこの世に存在していないし、ドイツの潜水艦の活躍を知らない海軍司令官はこの世にはいない。こうして新しい戦争映画が上映される度にドイツの兵器産業に注文が来るので、笑いが止まらない。これはドイツ政府も同じ。ハリウッドのお陰で数万人の雇用が確保され、企業の納める税金で国(州)は大いに潤っている。こうして賢いドイツ人は、ドイツは過去の戦費を、ハリウッドが製作する映画のお陰で回収する事が可能になっている。
          
話は少し本題から逸れてしまうが、第二次大戦中、フィンランドは日本同様にドイツの側に立って戦った(数少ない)国のひとつである。もっともフィンランドが宣戦布告をしたのはソビエト政府に対してだけで、米国とは直接の戦争状態は避けた。さて、その第二次大戦で敗北したフィンランドは、多額の戦争賠償をソビエトに対して支払うことになった。この賠償はフィンランドからの木材や工業製品提供の形で、数十年に渡たって支払われた。面白いのは、ソビエト内ではこのフィンランドからの「無償の部品供給」に慣れてしまい、自国の産業を育成しなかった。ただでもらえるのに、何で自分で金を払って製造する必要がある?という理論である。しかし、数十年後にはフィンランドからの賠償支払いは終了したが、ソビエト経済は過去数十年間にフィンランドからの部品供給に依存していた為、自分で部品を作る能力も工場もないことに、賠償支払い期間が終了して始めて気づいた。こうして、賠償支払いが終了すると、ソビエト政府は金を払って、フィンランドからの工業製品を買うことを余儀なくされた。そしてこれは今日でもそのまま続いている。経済面から見ると戦争に負けるのは一見、すべてマイナスのように思えてしまうが、思ってもない商売のチャンスが潜んでいるのは面白い。

ドイツも同様で、戦争には負けたが、ドイツ製の武器の優秀性は世界各国の憧れの的になった。もっとも戦後しばらくは、ドイツ国内での兵器の製造が禁止されていたので、かなり長い間、辛抱しなければならかった。この為、1955年のドイツ再武装の際は主に米国製の武器で武装されたが、60年代以降、冷たい戦争のお陰で、ドイツ国内で大型兵器の製造が始めて可能になった。こうしてドイツ国防軍は次第にドイツ製の兵器で武装され始めたが、ドイツの戦争産業にとって悩みの種は、ドイツ国防軍は比較的規模が小さいので、大砲にせよ、戦車にせよ、単価が高くなってしまう割りにあまり儲からない事。転機点となったのは、きしくもソビエト連邦崩壊。ソビエト崩壊により、ドイツの兵器産業はNatoの武器輸出の制限かたら開放されて小さなドイツ国内市場だけでなく、世界の武器市場にてドイツ製の武器を販売することが可能になった。これにより販売、製造数が増えたので、単価が下げることが可能になり、ハリウッドの映画による宣伝も手伝って、ドイツの兵器専業は、90年代になって「ルネッサンス」を迎えた。もっとも文化ではなく兵器文化の開花だったが。

世界の兵器市場では、米国、ロシア、英国、フランス及びドイツ、そして最近では中国がその市場占有率を巡って、しのぎを削っている。その中でもドイツの武器輸出の増加はめざましく、2000年~2004年の武器輸出高に比較して、 2005年~2009年の武器出高は、経済危機にもかかわらず文字通り2倍になり、ドイツは世界第三位の武器輸出国に昇進した。人気があるのは言うまでもなく、ドイツ製の戦車と潜水艦である。さらにドイツの武器産業は、世界の情勢を卓越に利用している。例えばトルコとギリシャは仲が悪く、次の紛争ではハリウッドの映画のように、敵国の戦車、輸送船を撃破することを夢見ている。この為、トルコもギリシャもドイツ製の武器が、文字通り、「喉から手が出る」程、欲しい。こうしてドイツ製の戦車の大半はトルコに、潜水艦の多くはギリシャに輸出されている。さらには犬猿の仲で有名なインドとパキスタンの双方に武器を輸出しようと懸命である。というのも、どちらか一方にドイツ製の武器を納入する事に成功すれば、もう一方は、これの防御としてドイツ製の武器を(放っていても)買い付けに来るからである。こうしてインドには戦闘機とヘリコプターを売り込むべく、政治家がインド参りまでしている。これをみたパキスタン政府は、優秀なドイツの潜水艦を買うべく、交渉を開始しており、ドイツ政府と兵器産業の息が合った行動には感嘆するばかり。

ちなみに、これを指摘するのはドイツではタブーだが、イスラエル海軍に納入されている潜水艦の大半は、ドイツ製である。しかもその製造費用の半分は、ドイツ政府が補助金を出しており(税金で支払われており)、イスラエルには半額の特価でドイツ製の潜水艦を納入している。又、イスラエル建国時にイスラエルが所有していた武器、小銃から戦闘機まで、の大半は連合軍がドイツで欧州したドイツ製の武器であり、イスラエルは建国時から、ドイツ製の(優れた)武器を使用して、アラブ諸国との戦いに連戦連勝している。つまりナチスドイツがユダヤ人種の絶滅に使用した兵器が、イスラエルの建国に貢献しているのだから、これは歴史の皮肉だ。

さらにドイツ政府は、武器輸出のために、奇抜な方法を採用している。いくら最新の武器を提供しても、使い方が間違っていると、効果を発揮しない上、ドイツ製の武器の評判を下げかねない。そこでドイツ政府は、発展途上国から民間人や軍人をドイツ軍の大学や将校参謀過程に受け入れると、無料(税金)で軍事教育を施している。こうしてドイツで教育を受けたエリートが故国に帰り、重要なポジションについて、使い慣れたドイツ製の武器を買ってくれることを期待しているが、この期待は滅多に裏切られる事がない。このシステムの問題は、「ドイツ帰り」の将校が、既存の権力下で命令に従うのは馬鹿馬鹿しいと考え、クーデターを起こす事。軍事作戦については定評のあるドイツ参謀本部の教育を受けているのだから、こうした軍の幹部が数人集まれば、一国を掌握できる。西アフリカのギニアという国をご存知だろうか。2008年にはこの国でドイツ帰りの将校がクーデターを起こして政権を握り、恐怖政治を行い、自国の民衆を虐待している。このような戦争犯罪人の育成をドイツ政府が国費で行ったばかりでなく、未だにギニアからの留学生を受け入れている事を知っている人は(ドイツでも)あまり多くない。ドイツ政府にしても悪事の手助けをしている事を告知するのは避けたいので、事実の公表を避けているが、この例などは「ドイツ製の武器を買ってくれれば、他のことには目をつぶる。」という、ドイツ政府の方針がよくわかる。

これに比して、日本には武器の輸出を禁止している、世界に例を見ないすばらしい法律があるが、誰もこれを認知していないように思われる。日本の政治家は国際舞台で、この点を大いに宣伝、武器の輸出の禁止を呼びかけるべきだ。これで武器の輸出に歯止めがかかることはないだろうが、日本が軍隊の派遣を拒否した際、国際社会の責任を果たしてないという非難をこれにより十分にかわすことができるからだ。「紛争は、紛争の原因を生み出している国で解決していただきたい。」と、声明を出して日本の武器輸出禁止を世界に知らしめてもらいたいものだ。


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輸出の目玉商品はドイツ製のU-Boot。5億ユーロなり。


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