Wo bleibt Gerechtigkeit? (24.11.2010)

タイに行かれた事があるならご存知の通り、バンコクには自転車なんか走っていません。おまけに車のドライバーのマナーは最悪。歩行者優先なんて頭の片隅にもなく、横断歩道で歩行者を見ても、無視してスピードを増していきます。もっとひどいのは事故に遭った時。どんなに自分に責任がなくても、タイの警察にかかると事故を起こした責任は、外国人に課せられます。そのタイに、知人のドイツ人が一体何を考えたんだか、タイまで自転車を運んで、自転車旅行に出かけました。「自転車は危ないよ。」とか、「英語は通じないから大変だよ。」とか、折角、親身になってアドバイスしているのに、「タイ人は皆、英語を上手に話すし、マナーがいいので心配要らない。」と、自分の意見だけ信じて、旅行に出かけてしまいました。しばらく姿を見ませんでしたが、2ヶ月振りに遭うと、足に包帯を巻いています。「どうしたの?」と聞くと、「タイで車に跳ねられた。」との事。「治療費はタイ人が出したの?」と聞けば、「英語が通じない相手に、何を言っても無駄だろう。」と、怒っています。どうも医療費は自腹だったようです。不幸中の幸いは、ドイツ人らしく海外旅行保険に入っていた事。これで全部、治療費が出ました。

これに比べれば、ドイツのドライバーは歩行者優先をちゃんと教習所で習っているので、運転のマナーが悪い人は居ますが、タイに比べれば、かなり安全。その証拠にドイツでの交通事故の死者数はわずか4000人。(ちなみにドイツ人の死亡原因Nr.1は心臓発作で、その100倍、40万近くの人が毎年、死亡している。)タイの交通事故の死者の数はなんとドイツの3倍で、更に交通事故に遭って怪我で済まずに死亡する確立、"death rate"、は20%なので、タイ旅行に旅行保険は必修品。逆にドイツに短期留学、あるいは海外旅行される方に海外旅行保険の必要性を説得するのは、事故が少ない為か、かなり困難。でも、どんなに安全運転をしても事故が避けられない場合があります。例えば今年の夏にオーストリアの高速道路で起きた事件。ガソリンスタンドに車が猛スピードで突っ込んで大爆発。欧州では自殺の手段として車が大人気で、高速道路を逆走して対向車と正面衝突、罪のない市民が巻き添えを食います。オーストリアの事件では、自殺志願者がガソリンスタンドに突っ込んで爆死を遂げたわけですが、迷惑なことにガソリン給油中の日本人観光客が巻き添えを食いました。ここで問題になるのが遺族への慰謝料、重症を負って生き延びた日本人の治療費。というのも保険会社は故意に起こした事故では、保険金の支払いを拒否します。事故を起こした張本人は死亡している為、損害賠償を請求することもできません。この為、役に立つのは唯一、旅行前にかけておいた旅行保険だけです。かけていればの話ですが、、。

もっとひどいのが、10年前にオーストリアのKaprunで起きたケーブルカー火災事故。ケーブルカーの後部車両で火災が発生、乗客の多くはパニックに陥り本能的に「上」に向かって逃げたため、煙にまかれて死亡。その数なんと155人。乗客全員死亡とならなかったのは、パニックに陥らないドイツ人がいたお陰。このドイツ人が、「上に逃げちゃ駄目だ。下に逃げなきゃ!」と、よりによって火の元に向かって数人を誘導、このドイツ人の言う事に耳を傾ける余裕のあった12人のドイツ人が生き延びただけ。他の車両に乗っていたのか、それともドイツ語を理解できなかった10人の日本人と8名の米国人は死亡。オーストリア政府はこの事故により国のイメージが悪化、観光客が減るのを恐れて、謝意を表明。ケーブルカーの運営会社は事故の直後はお悔やみを述べたが、裁判になると責任を断固として拒否。この為、遺族はオーストリア政府、ケーブルカー運営会社を相手に、10年以上も損害賠償裁判を闘う事を強いられた。

オーストリア政府は、この国の面子がかかっている裁判 の準備に余念がなかった。まずあらゆる口実を作って可能な限り裁判の始まりを遅らせた。事故から2年も経ってようやく裁判が始まったが、この時点ではオーストリア政府は万全の準備を済ませていた。肝心要の裁判官には、オーストリア政府公認の観光ガイドとして働いている人物を指定。事故の原因を究明する鑑定家には、ケーブルカー会社からいつも仕事をもらっている鑑定事務所を指定した。鑑定家はまるで頼まれたかのように、「火災の原因は、ケーブルカーに設置された(ドイツ製の)暖房機の欠陥にある。」と証言した。この鑑定を元に裁判官は2004年、被告人のケーブルカー運営会社 、及びお抱えの技師に無罪判決を下した。

オーストリア検察は、「これで万事、めでたし、めでたし。」と思ったのかもしれないが、ドイツの検察を計算に入れていなかった。事故の原因がドイツの会社のせいにされたので、オーストリア検察から書類送検を受けたハイルブロンの検察が、暖房機の調査に乗り出した。するとくだんの暖房機の取り扱い説明書に、「車両への設置には向いていない。」と、唄ってある事がわかった。さらには、 ケーブル会社は車両設置用に作られていない暖房機を車両に備え付けるため、この暖房機を勝手に改造している事が、オーストリアの警察が事故の直後、現場で撮った写真で確認された。この違法な改造 の結果、高温になる発熱機の横をケーブルカーのブレーキの油圧ホースが通るようになっていた。この改造は、ストーブの横に発火し易い油を置いておくようなもので、発火するのは時間の問題だった。つまる所、この違法改造により、もしこの暖房機が車両への備え付け可であったとしても、暖房機の製造元は一切責任がない。

この新しい証拠を持って遺族団が控訴したが、裁判所に証拠として持ち込まれた暖房機からは、改造の箇所が綺麗に取り去られていた。オーストリア警察が事故の直後に撮った写真には、この改造がはっきり見えるのに、オーストリアの高等裁判所は、証拠不十分して、被告16名に対して再度、無罪判決を下した。ドイツの検察が明らかにした証拠に ついて尋ねられたオーストリア政府は、「オーストリア検察が、証拠の隠滅なんかする筈ない。馬鹿馬鹿しい。」と、頭から暖房機が改造された事実を否認した。このオーストリア政府の周到な計画により、155人もの死者を出した事件の責任はうやむやにされ、事件発生後10年目を迎える2010年3月 、この事故は時効となった。現時点では日本人犠牲者の遺族により民事裁判の控訴審が協議されているが、オーストリアの検察が証拠をもみ消しているので、どれだけ勝算があるだろうか。又、今後、米国の遺族が米国で訴訟を起こして勝訴しても、オーストリアではケーブル会社の責任者、暖房機を改造して備え付けた技師が、その責任を負わされることはなくなった。見事なオーストリア政府とオーストリア検察の連携作戦である。


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違法に取り付けた暖房機が原因で発火した


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ケーブルカーの火災で、


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155人が死亡した。


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