Tiger ohne Zaehne * (12.12.2010)

今回は年末らしく、ほがらかなテーマを紹介することにします。微笑みをさそうテーマを提供してるのは、ここでも「常連」のEADS。いい機会だから同社の起源について少し紹介してみよう。20世紀末、米国のボーイング社は欧州の軍事及び航空事業に対して、圧倒的な優位を保持していた。これに対抗する為、欧州政府は米国の軍産複合体をモデルにして、各国に散在している企業を統合、ふんだんに政府の援助金をつぎ込んで欧州の軍産複合体を作り上げた。これは主にドイツ(ダイムラーベンツ)の宇宙飛行事業にフランスの軍需事業、それにスペインの民間飛行機事業が統合されたもの。統合後はこの内の2分野、すなわち宇宙飛行及び軍需産業をEADS(European Aeronautic Defence and Space Company)が担当、民間航空機事業は子会社、エアバスを創設して、ここで担当することにした。

そのエアバス社の開発、製造したA380の活躍振りは、ここで再三にわたって紹介しているので、読者の方にもきっと御馴染みの事だと思う。最近では飛行中にエンジンが爆発した事件で、同社の知名度をさらに上げた。この危うく墜落事故は、油圧ホースから漏れ出た油がエンジン内で発火、これがエンジン自体の爆発を引き起こしたのが原因。ルフトハンザもロールスロイスエンジンを搭載したA380を飛ばしているので、ドイツに留学予定の方がこの記事読まれると、「そんな飛行機には乗りたくない。」と、思われるかもしれない。しかし、心配は無用。何故ならロールスロイスはこのエンジンの欠陥を知っていたようで、今年に納入した飛行機には、改良を加えたエンジンが搭載されているからだ。ルフトハンザには今年になってA380が納入されているので、改良を加えたエンジンが搭載されている。もっとも最初に納入されたA380、"Frankfurt"には、初期のエンジンが搭載されていたが、欠陥エンジンは取り替えられているので、心配するには及ばない。運が悪かったのはクアンタスやシンガポール航空など、すでに去年、A380を納入した航空会社。構造上の欠陥をしっておきながらロールスロイスは欠陥を航空会社に連絡せず、そのまま爆発するまで3年間も乗客を乗せて実験飛行を行っていた。この為、クアンタスはロールスロイスを訴える準備をしている。

この事件は、ロールスロイスエンジンの欠陥であるから、直接にはエアバス社の責任ではないが、それにしても故障の多い飛行機だ。先日はルフトハンザで使用しているA380が日本に向けて飛び立つ前、車輪の故障が発覚、乗客は乗ったばかりの飛行機から降りる事を余儀なくされた。その数、およそ400人。急いで他の飛行機を用意するにも、400名もの乗客を乗せるには、2機必要だ。一体、どこから急遽2機の機材を、どれだけの費用を払って用意したのか、個人的に興味のある所だが、乗客はかなり待ったに違いない。フライトが大幅に遅れると、その後の日本発の便にも影響が出て、スケジュール通りの運行に戻るまで2日ほどかかる。ルフトハンザにしてみればかなりの赤字運営だったに違いない。

このエアバスの上を行くのが、宇宙飛行及び軍需産業のEADSだ。同社の命運をかけた軍事輸送機A400Mは、欧州政府にとって悪夢となっている(参 Tip, Top, Flop!)が、EADSの迷人劇は、同社が80年代から開発を続けているEurocopter(オイロコプター)だ。まだソビエト連邦が西ドイツの存在を脅かしていた頃、ワルシャワ条約機構の通常装備はNato軍のそれをはるかに上回り、ソビエト軍は48時間でドイツを席巻してライン河を渡河、フランスに侵攻する能力を持っていた。これに対抗するため、ソビエト軍地上軍の主力、すなわち戦車部隊を叩く能力を持つ戦闘ヘリコプターの装備が決まった。当初は米国のアパッチヘリコプターの導入が検討されたが、間の悪い事にこのヘリコプター、ボーイング社の製品であった(正確を期せば、ボーイング社がアパッチの製造会社を買収した)。ボーイング社の独占を嫌う時のドイツの戦争大臣、もとい、防衛大臣がアパッチの導入に反対、「Made in Germanyの戦闘ヘリコプターを作って、世界中に売りまくろう!」という話になった。この机上の空論のヘリコプターには、ドイツ人に心地のいい響きのあるTigerの異名が付けられ、タイガー戦車同様、タイガーヘリコプターがドイツを象徴するヒット商品になる筈だった。

その後、タイガーヘリコプターの開発はEADSに移管されて、フランス人が怒らないようにその正式名称は、オイロコプターとなった。1997年に上映された007の映画、ゴールデンアイにはこのタイガーヘリコプターが登場して、ものすごい新兵器が開発されたような扱いだったが、実は問題が山積して開発は一向に進んでおらず、映画に登場したのは歯のない虎(Tiger ohne Zaehne)だった。その問題はドイツ人らしく、完璧なヘリコプターを目指して、アパッチよりも優れた装備を要求した事が原因。例えばアパッチには1編隊に1機の割合で、レーダー装備のアパッチが配備(あるいはレーダー装備の観測機が配備)されているが、ドイツ人はすべてのヘリにこれを要求した。ヘリ自体は木陰に隠れたまま、レーダーでソビエト軍の戦車を探知、敵に気づかれないうちに敵の戦車を叩く思想があった為だ。お陰で複雑な回線の配置が必要になり、電気系統のトラブルに悩まされて続けた。さらにこの問題を悪化させているのが、装備の違い。フランス軍はアパッチのように口径の大きな機関銃を鼻先に装備、翼に小型ロケット、必要とあれば対戦車ロケットを装備する比較的容易な構造を望んだ。これに対してドイツ軍は鼻先(下)に対戦車ロケットを装備、機関銃は翼の下か機体に取り付ける形を望んだ。こうした装備の違いが、開発を大幅に遅らせた。

そうこうするうちにソビエト連邦が崩壊したが、にもかかわらずドイツ軍は相変わらず対戦車ロケット装備を要求し続けた。その結果、複雑な照準装置の設計に大半の時間を費やした挙句、ケーブルが擦り切れて使い物にならなかったりと、研究開発が始まって30年も経っているのに、未だに実戦配備するに至っていない。そのツケを払っているのは、アフガニスタンで苦戦しているドイツ軍だ。パトロールに出かけるたびにタリバンの攻撃に遭っているが、攻撃に遭うたびに米軍に空の援助を要請しなくてはならない。その間、罠にはまったドイツ軍は孤立無援である。30年前にアパッチを導入していれば、今、アフガニスタンで殺されているドイツ兵士の何人かは死なずに済んだ事だろう。

ドイツ軍がタイガーヘリコプターの配備を待っている一方で、フランス陸軍にはすでにオイロコプターが配備されている。さらにはフランス型のオイロコプターはオーストラリア陸軍にも納入されており、EADSはインド政府に、次回の印パ戦争に備えて、オイロコプターを買うように熱心にセールスしたが、少し、派手にやりすぎた。ところが肝心の「製造元」のドイツ陸軍への配備は2014年予定というから、気の長い話だ。2014年にはドイツ軍はアフガニスタンから撤退しており、ドイツ国内では、対戦車ロケットを装備した戦闘ヘリコプターの使い道などない。ドイツ軍兵士が日々危険に遭っているのに、ドイツ軍上層部はどうして現実を見て、フランス軍に配備されている実践投入可能なヘリコプターを導入しないのか。その理由は、誰にもわからない。第二次大戦中、怒涛のように押し寄せるソビエト軍に対して打つ手がなっかった経験が、トラウマになっているかもしれない。

* 日本語では外見だけ立派で、中身のないものは「張子の虎」というが、ドイツ語では「歯のない虎」という。ちなみに、日本語では暢気な名前の「タンポポ」は、ドイツ語ではLoewenzahn(ライオンの歯)という。


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オーストラリア陸軍に輸出されたオイロコプター「フランス型」


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鼻の下の対戦車ロケット、ローター上部のレーダー装置が目印。オイロコプター「ドイツ型」


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