遅かれ早かれ (17.01.2011)

ドイツでは食料品の値段が欧州内で最も安い。これは何も良い事ばかりではない。値段が安いと利鞘が薄いので、食料品の生産業者は食料品を安く生産する必要に迫られている。その結果ドイツでは、腐ったチーズが高級チーズとして販売された(そして食された)チーズスキャンダル、腐って変色した肉をミンチ肉に加工、着色料と調味料をふんだんに加えてドイツ人の大好きなトルコ料理になった腐敗肉スキャンダル、賞味期限の過ぎたミンチ肉の賞味期限を毎日延長、納豆のように糸が挽くミンチ肉を販売していたドイツの大手スーパーRealの賞味期限スキャンダルと、定期的に食料品に関するスキャンダルが登場する。そして今度は、ダイオキシン スキャンダルが登場した。

ダイオキシン スキャンダルの発信源になったのは、二ーダーザクセン州にあるHarles & Jentzschという家畜飼料、及び工業用の油脂販売会社だ。その業務は使用済みの工業用油脂を購入して、これを消費者(この場合は製紙産業)のニーズに合わせて販売する業務を行なっていた。ところがいつの頃からか、家畜飼料に脂肪を混ぜてこれを販売する新しい商売分野を開拓した。最初の頃は、工業用油脂と飼料用の脂肪を区別していたが、工業用の油脂を飼料に混入すると、儲けが飛躍的に拡大することを発見した。この会社の作った飼料は、その値段の安さで大人気を博し、いつの頃からか、家畜飼料会社として有名になり、工業用油脂の販売業務は会社のホームページからも姿を消してしまった。というのも、工業油脂の販売業務が残っていれば、「工業油脂を飼料に混ぜているんじゃないか?」と疑いを招きかねないからだ。このスキャンダル発生後、証拠隠滅のため、この会社のホームページがサーバーから落とされてしまっており、残念ながら証拠の実演ができない。

ダイオキシンは油を加熱する際に「自然に」発生するので、使用済みの油から製造する油脂にダイオキシンが含まれているのは、mehr oder weniger(多かれ、少なかれ)、仕方がない。おまけに工業用油脂は、かなり薄められて使用される上、又、食用ではないので、人体には影響がなく、ダイオキシンが含まれていても問題ない。問題なのは、ドイツでは工業用油脂と飼料用の脂肪を、同じ工場で生産している事。そんな事が許されていれば、中国の汚染ミルクスキャンダルからもわかるように、遅かれ早かれ、「儲けを飛躍的に増大する方法。」に経営者が気づく事になる。されにドイツの法律では、官僚の管理を嫌う農業団体や家畜飼料製造会社の抗議で、飼料の品質検査はこれを製造する会社に一任されている。つまる所、工業用油脂を飼料に混ぜている会社に、飼料の品質管理を一任したのだから、このシステムは全く機能していなかった。さらには会社の独自の検査で汚染が発見された場合でも、これを官庁に届け出る義務さえもなかったから、ドイツでは家畜飼料製造会社の天国で、「好きな事をやり放題。」であった。そう考えれば、遅かれ早かれ("frueher oder spaeter")今回のようなスキャンダルが起こるのは、時間の問題だっただろう。

洞察力のするどい読者は、「じゃ、今回のスキャンダルはどうやって発覚したの?」と、不思議に思われるに違いない。この事件の発端は、12月23日にキールにある農産業庁に「飼料からダイオキシンが検出された。」との電話から始まった。奇妙なことに、そして誰も説明できない事に、この電話は、この汚染飼料を製造していた会社からあった。さらに不可解な事に、この重要な知らせは、ちょうどクリスマス休暇だった事もあり、農産業庁に「保管」されたままになり、クリスマス休暇を終えて出勤してきた官僚が、12月27日になって関連機関及び各省庁に連絡を行なった。重い腰をやっとあげた検察がこの会社の書類を押収した結果、この会社内の独自の検査でダイオキシンが検出されたが、報告義務がないので、農産業庁に報告していなかった事が確認された。さらに間の悪いことに、この会社からのサンプルが2010年3月19日に農産業庁に届けられていたが、これまた大切に保管されたままになっていた事も発覚した。いかにも官庁らしい緩慢な対応である。さらにはこの会社、家畜飼料生産の業務申請を行なわず、数年にわたって闇営業をしていた事まで明るみに出た。誰もこの会社が営業許可を受けているかどうか、調べることをしなかったわけである。官僚の怠慢、及び事実上の飼料の品質検査機能の欠如が、この会社が汚染された飼料を長期間に渡って販売することを可能にした。

スキャンダルが発覚後、ダイオキシンに汚染された飼料が届けれた農家は販売を禁止されて、農産物の監査が始まった。その結果、汚染された飼料を与えられた鶏の卵からは、許可されている4倍ものダイオキシンが検出された。汚染された飼料自体からは、認可されている量の77倍ものダイオキシンが検出されてたから、無理もない。こうしてダイオキシンスキャンダルは日々拡大、4700もの農家が、農産物の販売禁止を受ける事態に発展した。外国でこのニュースが広まると、まずはスロバキアと韓国が、次いで中国がドイツからの鶏肉及び豚肉の輸入を禁止すると、ドイツ国内の農家では売り物にならない鶏、卵、豚を抱えて倒産の危機に直面することとなった。話は本題から逸れるが、ドイツがあの物価の安い中国や韓国に豚肉や鶏肉を輸出している、つまり、ドイツ産の農産物が、中国や韓国で生産される鶏肉や豚肉よりも安いという事実が、ドイツ国内の農家の実情、「農家は国からの補助金漬け。」、がよくわかった事件でもある。

当初、このスキャンダルが公になった時点で、滅多に注目を浴びることのない農産省のアイグナー大臣は勇んで記者会見を行い、「検査機能に問題は無い。問題は検査機能をちゃんと実施しない側にある。」と、省の方針を弁護した。大臣は農家の多いバイエルン州の出身であり、官庁による飼料の検査を導入すると、「裏切り者」として人気を落とし、次の選挙で大敗することを恐れたのである。ところが4700もの農家(バイエルン州の農家を含む)が農産物の販売を禁止され、諸外国がドイツからのダイオキシンと補助金に漬かった農産物の輸入を禁止すると、大臣の態度、「コントロール機能に問題は無い。」に非難が集中した。問題がないなら、どうしてここまで汚染事件が発展する事になったのか。大臣の声明は説得力を欠いた。落ち目のメルケル首相から、「これ以上、スキャンダルを広げないようにしないさい。」と渇を入れられた大臣は、これまでの態度をコロリと変えて、「消費者保護の10ヶ条。」を発表、官庁による飼料検査を導入した。さらには工業油脂と脂肪の両天秤を禁止、社内の検査で汚染が発覚した場合、これを官庁に報告することを義務化した。

「これで首が繋がった。」と、大臣が安堵のため息を漏らしていた1月15日、ニーダーザクセン州の農産庁が、「うっかり、この問題の飼料を購入した農家の報告を忘れていました。」とやったので、大臣は怒り狂った。新たに934もの農家に販売禁止令が出されると、「今日の夕方までに完璧な報告書を届けるべし。出せない場合は、辞表を出すべし。」と、公にニーダーザクセン州の担当大臣の首を要求した。この辺りに次第に忍耐を失っていく大臣の姿と、事件がこれだけ広まっても、検査機能を強化するなどの自発的に行動をしないで、通常の勤務を続けるドイツの官僚システムの姿がよく見て取れる。

毎日ダイオキシン汚染のテーマがテレビで流れ出すと、通常はドイツ事情に疎い日本人社会でも、「怖くて卵が食べれません。」と、嘆く声が聞かれるようになった。「日本人はパニックに陥りやすい国民。」という前評判がここでも証明されたが、心配はご無用である。まず汚染された飼料が届けられた農家は上述の通り、販売禁止になったので、今、店頭で売られている卵、豚肉、鶏肉は、(ほとんど)問題がなかった農家の製品である。さらには、汚染された卵、鶏肉などはすでに食された後なので、今、食べるのを辞めてもあまり意味が無い。「毒を食らわば皿までも。」ではないが、今出回っているのは、安全性が確認された農産物なので、これを避ける必要はない。大体、ダイオキシン汚染は今回が始めてではなく、定期的に発覚する事件である。1999年のはベルギーでこれまで最大規模のダイオキシン汚染スキャンダルがあったが、以後も絶え間なく発生している。最近の例では、2010年5月にはドイツ国内で安全性が高い筈のBio-Eierから、ダイオキシンが検出されている。つまる所、ドイツで長期生活していれば、frueher oder spaeter、ダイオキシン入りの卵を食べている事になる。今更、あせって卵を食べるのを辞めても、「すでに時遅し」である。


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ダイオキシン汚染で、


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人気を落としたアイグナー女史。




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