Heiliger Gral (15.08.2011)

8月はここで紹介できるテーマが少ない時期。理由は簡単。政治家が夏休みで居ないので、スキャンダルがないのがその理由。製造業などでも生産ラインを止めて従業員を休暇に送り出すので、8月は経済成長率が「鈍る」時期。ドイツ人はこの時期を"Sommerloch"(夏の穴)と読んでいる。そして何故かこの時期になると、よせばいいのに落ち目の政治家がおかしな提案をする。これは"Sommerloch-Thema"(暇つぶしの話題)と呼ばれて、9月になると忘れ去れてしまう短命のテーマである。

今年のSommerloch-Themaは、人気が低迷中のFDPが提唱した高速道路の有料化。7年前にここで紹介(Mautdesaster)した通り、ドイツの高速道路はトラックのみ有料で、俗にPkwと呼ばれる自家用車は無料のままだ。しかしドイツの周辺諸国、フランス、スイス、オーストリアでは自家用車でも有料だ。この為、ドイツ人ドライバーは、スイス、オーストリア、フランスで使用料を払っているのに、スイス人、オーストリア人、フランス人はドイツの高速道路をただで使用できるという「不公平」が発生している。

これに加えて一見無料に見えるドイツの高速料金は、ガソリン税に上乗せされて徴収されている。当然、ドイツのガソリンスタンドで売られているガソリンは、高速使用料が上乗せされていないオーストリア、フランスよりも高い。この為、トラックなどはドイツ国内に戻る前に「外国」で満タンにして「帰国」する。さらに国境付近に住むドイツ人は、隣国まで出かけて給油するので、国境沿いにあるガソリンスタンド(ドイツ国境側)は、軒並み倒産している。この不公平を解消するには、ドイツ国内でも高速道路の利用を有料化する事だ。そうすればドイツ国内でのガソリン価格が下がり、ガソリンの売り上げがあがり、税収入も改善する。これに加えてドイツを通過する外国人からも高速道路の使用料徴収でき、ガソリン税で高速道路の使用料を取るよりも全然、効率がいい。にもかかわらずドイツでは、Pkw-Maut(自家用車の使用料金導入)は異端視されている。普段は論理的なドイツ人なのに、このテーマに限ってはドイツ人らしくない非論理的な考え方である。

どの国にも「侵すべからず。」というタブー、あるいは神聖なテーマがあるもの。日本では憲法9条。明らかに軍隊を保有しているのに、これを自衛隊と呼び、最高裁判所までこのおかしな事態に満足している。さらには戦後、何度も自衛隊を軍隊と改名する試みがあったが、悉く失敗している。これほどおかしな事はないのだが、これは日本のHeiliger Gral(聖杯)だから、仕方がない。何度、法の改正、名前の改正試みても、成功する事はないだろう。これと全く同じなのが、ドイツにおける高速道路。"Autobahn"という誰でも知っているドイツ語を発明した国民なので、ドイツ人にとって高速道路はHeiliger Gral、その変更は許されない神聖なもの。勿論、有料化することが論理的で効果的なのだが、日本人が法律を改正できないように、ドイツ人はPkw-Mautを拒否している。

この提案に対する最初の反応は、長く待つ必要がなかった。連立与党の内務大臣が、「成功する見込みはない。」と、議論が始まる前に終止符を打った。注目すべきなのは野党、あるいは政府与党の交通大臣がこの提案にコメントしないで、内務大臣がこの提案に声明を出した事。これは厚生大臣が軍隊の派遣に口を出すようなもので、明らかに「管轄外」である。しかしこれには理由があった。2013年はドイツでは総選挙の年である。Heiliger Gralを冒涜するに等しいPkw-Mautなど国民に受け入れられるわけがなく、ただでも支持率を落としている政府与党は、その議論をするだけでもその代償を支払うことになるだろう。これを察した老練な内務大臣が、政治家として器の小さい交通大臣が「おかしなコメント」を出して問題がさらに大きくなる前に、このテーマを闇に葬ったわけである。
         
早々にPkw-Mautを闇に葬られてしまい、これ以上注目を浴びることができないと判断したFDPは、支持率が未だに4%と存続の危機にあるだけに、新しい話題を見つけてきた。今回FDPの目標になったのは、失業保険。ドイツでは失業すると12ヶ月は失業保険が支給されるが、その後は社会保障費がこれにとってかわる。つまりもし銀行に預金があった場合は、これを使い果たすまでは社会保障費が下りないのである(これを避ける為、失業すると同時に預金を解約、自宅で箪笥貯金するといい。)しかし50歳代の失業者が、そんなに簡単に仕事が見つかるわけではない。そこで50代になって失業した場合、最高2年まで失業保険が降りるように法を改正した。FDPの幹事長、リントナー氏はこれを「元に戻せば年間15億ユーロ節約できる。」と、言い出しだ。ホテルのチェーン店から政治献金をもらい、ホテルの税金を19%から7%に下げた政党だけに、政治献金を当てにできない層には冷たい。幸い、この案も野党だけではなく、与党内からも非難されており、まともな政治提案として国会で議論されることはなさそうだ。

「溺れる者、わらをも掴む。」というが、FDP、最後のStrohhalm(藁)も掴み損ねたようだ。次回の総選挙では溺死する確立がかなり高くなってきた。自業自得だろうか?


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Sommerloch-Thema



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