関税(局)   (24.04.2011)

ドイツで生活を始めてしばらくすると、日本から食料品などを送ってもらうことがある。首を長くして到着を待っていると、これが自宅まで届かず市内の関税局に止められて、「身分証明書を持って引き取りに来られたし。」という手紙が届くようになる。「なんだ面倒だな。ちゃんと届けてくれればいいのに。」と愚痴ながら取りに行くと、「請求書を出してください。」などと言われて面食らってしまう。「そんなものありません。」と言えば、送付の際に日本の両親が記入した輸送品目の額面に合わせて、関税が課せられて、さらにその額面に19%の消費税が加算、請求される。結局、ドイツで買っても変わらない値段になってしまい、「ドイツの関税はひどい!」という話になるわけだが、ドイツの関税はその名前の通り関税を取るのが仕事だから、関税は悪くない。どうしても非難をするなら、関税をあらかじめ調べてないで、外国から品物を送ってもらった側にある。

と書くと、「でも日本で米国に○○を注文したら、関税を取られないでちゃんと届きました!」と反論されるかもしれないが、アジアでは関税に関してかなり緩い解釈をしている。以前、ドイツ人の 日本への団体旅行に添乗員として同乗した際、ビール樽を持参していた。この団体旅行を企画した会社が、「歓迎会で樽明けをするので、持ってきて。」というので、わざわざ日本までビール樽を持参したわけだが、心配なのは酒税。20リットルの樽なので、まじめに申告すると、かなり高くなりそうだ。しかし、このでかい樽を隠して密輸するなど無理。そこで日本の関税にて申告すると、「誰が飲むの?」との事。ドイツ人グループを指差して、「歓迎会で飲みます。」と言うと笑いながら、「じゃ、行っていいよ。」と、フリーパス。ドイツでは有り得ない考え方である。

しかし、日本人は日本の慣習に慣れているために、「日本式」が当たり前で、市民の当然の義務である関税を払わされると、「損をした。」と感じる人が少なくない。そこで弊社に「日本から送ってもらうと、やっぱり関税を取られるんでしょうか。」と、ご相談をいただくわけだが、「はい。」としか返事のしようがない。例外は、贈り物。(送料を含まず)45ユーロ未満の価値の贈り物には関税はかからない。すると、「じゃ、日本からノートパソコンを送ってもらう際、品目にGeschenkeと書いて、価値を44ユーロと書けばいいの?」と、考えるのは日本人。関税に日本からの包みが届くと中身をチェックされて、45ユーロを越える価値がある品物が入っていれば、価格表示が44ユーロでも、しっかり関税+消費税を取られてしまう。「贈り物」と書けば、「ああ、これは贈り物だから、ノーチェックね。」と、関税を騙す事ができると思われたのかもしれないが、ドイツの関税は甘くない。大体、そんなことが可能なら、Geschenkと書くだけで、麻薬の密輸が簡単に可能になってしまう。

「大脱走」という映画をご存知だろうか。ドイツ軍の捕虜収容所を脱走した連合軍兵を、ドイツ軍が追い詰める映画である。この映画に出てくるドイツ人秘密警察(Gestapo)、腹が立つくらい効率がいい。この映画に出てくる秘密警察と、同じくらい効率のいいドイツ人が、ドイツの関税である。偽の中身表示で、騙せる相手ではない。その効率の良さを肌で実感しているのが、日本の駐在員。見本などを鞄に隠して関税を抜けようとしているが、いつも見事に捕まっている。この為、ドイツの関税は日本の駐在員には評判が悪いが、非があるのは駐在員だと言わざるを得ない。関税局のホームページでも、「商品の見本はその量と数を問わず、申告すべし。」と書かれている。「ドイツ語は読めない!」という方の為に、英語も用意されている。だから、「ドイツの関税はひどい!」という非難は当たらない。駐在員なら、ドイツの関税法を自分で調べるか、会社で調べておくべきであろう。又、「知らなかった。」という理屈は、ドイツでは通じないので、最初から使わない方がいい。「知らないお前が馬鹿だ。」と言われて、侮辱を受けるだけ。泣いても駄目。脱走した米兵をひっとらえて、SSの処刑部隊に引き渡すドイツ人である。情け容赦は期待できない。どのくらいドイツの関税の効率がいいか、これを実証する例があるので紹介しよう。

欧州中央銀行は破損したユーロ硬貨を「鉄屑」として、中国に売っていた。人件費の安い中国は、人海戦術を展開。このばらばらになったユーロ通貨を1枚、1枚と組み立てていった。組み立てが終わったユーロ通貨は、ルフトハンザのスチュワーデスに賄賂を払って、フランクフルトまで空輸してもらった。スチュワーデスはノーチェックなので、まんまと関税を通過、そのままフランクフルトの中央銀行に向かうと、この組み立てた通貨を新品と交換した。こうして中央銀行に破損した硬貨が貯まると、ばらばらにして中国に売却。中国でまたこれを組み立てて、ルフトハンザのスチュワーデスが欧州銀行に持ち込み新品と交換する、完璧な循環システムが出来上がっていた。普通なら、このシステムがばれることはなかったろう。欧州中央銀行の職員は、紙幣、硬貨の交換をするのが仕事である。だから何も考えず、不審を抱かず、毎回届く壊れた通貨を新品と交換していた。ところが、ドイツの関税はそこまで甘くはなかった。

通関の祭、ルフトハンザのスチュワーデスが重そうにトローリーを押しているのを見て、関税局の職員は「化粧品と着替えがそんなに重いわけがない。」と、不審に思った。他の国なら、スチュワーデスのトローリーに興味などは見せないだろうが、ドイツの関税はかっての秘密警察並みのするどい嗅覚を持っており、この動作が目に付いた。関税を抜けようとしたスチュワーデスを止めて、鞄の中を見てみると、中国で見事に組み立てられたユーロ硬貨が山のように入っていた。その場でスチュワーデス(3名)は身柄を拘束されて、警察に引き渡された。その後の警察の調べでは、この密輸は2007年から行われており、中央銀行で交換された硬貨は29トン、被害総額2000万ユーロと推定された。これだけの通貨を交換して、不審をいだかなかった中央銀行の職員の怠慢さにもあきれるが、中国人の職人芸にも感心した事件であった。

又、ドイツの関税は有名人に対しても容赦がない。ヨレヨレのTシャツで旅行している旅行者よりも、お金に困らない有名人を調査した方が、貴重品 が見つける、すなわち関税を取れる確立が高い。そのいい例が、オリバー カーン。ドゥバイまでお買い物に出かけて、高級品のスーツを数点購入、関税で申告しないでそのまま通り抜けようとした。が、ドイツの関税は甘くなった。緑の出口を抜けようとして呼び止められ、スーツケースの中身を検査すると新品のスーツ、6700ユーロ相当が「発見」された。真面目に申告しておけばたったの2000ユーロ(カーンの1回分のテレビ出演料で楽に払えてしまう。)で済んだのに、密輸で書類送検されてしまった。700ユーロを超える価値のある品物を申告しないで密輸入しようとすると、ドイツの法律ではOrdnungswidrigkeit(駐車違反などの軽度の過失。)ではなく、密輸入として軽犯罪の分野に入り、前科として登録されてしまう。その際の罰金は、お給料に比例するのだが、高給取りのカーンだけに罰金も高く12万5千ユーロ(法貨で1千5百万円程度)という法外な罰金判決が下った。それだけの金があれば、ミュンヘンの高級ブテイックで好きなだけ、買うことができだだろう。

「他人の振り見て我が振り直せ。」というありがたい故事がある。日本の慣習に執着しないで、「所変われば品変わる。」である。日本から見本、高価な品物を持ち込むときは、赤い出口に向かおう。たかがタバコでも2カートン持っていると、1カートン多すぎる。見つかってから関税を払うと、関税と同額が罰金として課されるので、1カートンで70ユーロばかり支払うことになる。「宝石、貴重品は身に着けておけば大丈夫。」という神話もあるが、これも誤解である。ドイツにて住民届けをしていると、ドイツで関税を支払う義務があり、「この宝石は、すでに日本で税金を払った。」などと言っても、ドイツで関税を払っていない事を告白するだけの事で、書類送検されてしまう。ドイツの関税は優秀、かつ、情け容赦を知らないので、甘く見ないように。過去、何も知らないで密輸してしまった貴重品があれば、これは自宅に残しておき、海外旅行では身に付けないのが得策である。
          

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erwischt!


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