Gastarbeiter (09.03.08)

ドイツ語は(合理的なドイツ人にふさわしく)合理的な言葉だ。新しい概念、製品が出現して、これに適応する言葉がない場合、既存の言葉を組み合わせて新しい言葉を作り出してしまう。有名なところではニーチェの造語のUebermensch。日本語では超人と訳されているが、従来の人間(Mensch)の範疇を超える(ueber)新しい人間の出現を予言して、ニーチェが用いた言葉だ。あまりに優れた造語なので、他の言語に訳され、その国の辞書に載っているくらいだ。もっとも英語に訳されて、Supermanになると、ちょっと違ったイメージになるが。これまでにない概念を表現する場合、原語をそのまま取り入れるべきか、それとも自国語に翻訳するか、言語学者の間で意見の分かれる所。

前置きはそのくらいにして、今回のテーマはGastarbeier。客(Gast)と労働者(Arbeiter)を組み合わせた造語だが、元来、異なる次元の言葉を組み合わせた為に、Uebermenschに比べ、この言葉だけでは正確な意味は掴みにくい。Gastという言葉は、上品な待遇を想起させるが、Arbeiterは厳しい肉体労働を想起させる。このような組み合わせでは、マイナスのイメージのある単語を上品な言葉で包み込んで、わざと意味をぼかす為に使われる事が多い。この言葉の意味は、そのまま訳すと外国人労働者という意味だ。だが、この言葉にはもっと多くの意味合いが含まれている。

戦後のドイツでは、すでに50年代に経済が奇跡の復興を果たし、(多くの男性が戦死した為)労働者不足に陥った。景気の停滞を恐れた政府は、ベルトコンベアーの流れ作業、道路の敷設、ごみの収集など、何の資格も要らない肉体労働に外国人労働者を使用する事にした。何の資格もない外国人肉体労働者(ungebildete auslaendeische Arbeiter)という言葉はまずいので、Gastという上品な響きのある言葉に包んで、外国人単純労働者をGastarbeiterと呼ぶことにした。当初はイタリア、スペイン、ユーゴスラビアからの労働者を受け入れ、それでも労働者が足らないので、60年代にはギリシャ、トルコ、ポルトガルからの労働者も受け入れた。言うまでもなく、こうした外国人労働者のドイツ社会におけるステータスは低い。ドイツは日本と違って上流、中流、下級階級にしっかり分けれている社会だが、上流階級には医師、弁護士、税理士などの高給取りが君臨する。その次に来るのが、会社に勤める平均的なドイツ人である。そして最下層は(言うまでもなく)外国人だ。

ところが時代は変わるもので、かって労働者不足を叫んでいたドイツは、失業者の数が減らず、悲鳴を上げるようになった。90年代には高い失業率に苦しんで、「もう将来の見込みはない。」と思えたオランダやデンマークは大胆な経済改革を行い、21世紀になって完全雇用を果たした。逆にかっての優等生ドイツは、「世界に冠たるドイツ」と、誇りだけ妙に高くて、大胆な改革をする能力がなく、高い失業率を維持。そこで、ドイツで仕事を見つけられないドイツ人が、オランダ、デンマーク、オーストリア、スイスに仕事を求めて移住を始めた。特にスイスとオーストリアではドイツ人にとって言葉の問題がないので、ドイツ人労働者に人気のある移住先となった。すると、かってドイツ国内でGastarbeiterが差別されていたように、ドイツ人Gastarbeiterは、スイスやオーストリアで「俺達の仕事を取る外国人」として差別されるようになった。特にスイスでは歴史的な背景もあり、ドイツ人Gastarbeiterに対する感情は非常に冷めたもの。ドイツ人は戦前、戦後を通してこれまで外国人を差別するのに慣れており、自身が差別の対象になる事はなかったので、この待遇に憤懣やる方ない様子。しかし、これはドイツ人にとっていい教訓だ。差別がどんなに悪い(根拠のない)のものか、差別する側からではわからない。これを理解するには、まず自身が差別されてみる必要がある。スイス、オーストリアで差別を見にしみて体験したドイツ人はこれに懲りて、ドイツに帰国後、外国人を肌の色の違いで差別する事はなくなるだろう。


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ドイツで人気のある芸能人。ドイツでは肌が黒いと(珍しいので)人気が出る。 この女性はインドとハンガリーの混血。

 


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