東西社会保障事情比較 (23.03.2009)

今日は、他に取り上げる適当なニュースもないので、ドイツと日本の社会保障の取り組み方の違いについて考察してみようと思う。言うまでも無く、社会保障制度は長い民主主義の歴史を持つ欧州のシステムの方が、憲法25条に書かれているだけで真面目に取られていない日本のそれよりも優れている事は間違いないが、だからと言って欧州のシステム、特にここで取り上げるドイツの社会保障システムにも欠点がないわけではない。

ドイツで社会保障を受けている人は、大雑把に言って、就労拒否万年失業者と就労意欲のある失業者、それに母子家庭及びお年寄りの4つのグループに分けられる。社会保障制度が充実すると、最初のグループだけが得をするように思われて、日本のようにアジア諸国では、「仕事をする気のない連中に、金など払う必要はない。」という意見が多い。しかし、これはごく一部の層にだけ当てはまる事実であり、不況や不運で仕事を失くした人や母子家庭などの「罪のない」国民まで、十把一絡げにして「社会保障を受ける必要のある人は自業自得。」という考え方は正しくない。長い人生の間、誰だって一度や二度は失敗を犯したり、不運で仕事を失くしたり、離婚により母子家庭になってしまうケースはある。肝心なのは、こうした人々がいずれは自立して、通常の生活に戻れるように国が補助をする事だ。これをしないで、補助(生活保護)を拒否、不運に見舞われた人を公園や橋の下で生活させる環境を作ってしまうと、こういう人々は永久に元の生活に戻る事ができず、ひいては国の負担が大きくなる。それよりは補助を出し、(早く)通常の生活に戻ってもらって、税金を払ってもらう方が国にははるかに安くあがる。大事なのは短期的な視点で見ないで、長期的な視点で見ることだ。

ドイツの社会保障だが、前政権の改革で(1年を超える)失業保険と生活保護が同じレベルに置かれて、Hartz4(よく間違ってハルツと書かれているが、正確にはハァーツと発音する。)と呼ばれる保護を受ける事になった。この保護を受けると成人の場合、351ユーロ/月の生活費及び最高で400ユーロまでの家賃(光熱費を含む)が支給される。又、ドイツの値段が高くて悪名高い健康保険の掛け金も労働局(失業局の方が正しい呼び方だろう。)が負担するので、病気になっても心配は要らない。必要なら、生活保護を受けている人だって国の費用で心臓移植だって受けることができる。さらに、ドイツの諸都市には低所得層専用の安いアパートがあるので、ここに住めば400ユーロも払えばかなり快適な生活ができる。それだけではない。アパートの内装、引越し費用、洗濯機、キッチン、流し台、冷蔵庫、そしてテレビまで労働局が費用を負担してくれるので、至れり尽くせり。母子家庭(あるいは夫婦の家庭に子供が居る)の場合は、子供が14歳までの場合211ユーロ/月、15~17歳までの場合281ユーロ支給され、学校で遠足があると、その費用まで労働局が払ってくれる。

この充実した社会保障はドイツ人だけでなく、ドイツに居住権のある外国人でも受ける事ができる。おまけに日本のように申請して断られることはない。生活保護は国民の権利なので、申請をすれば100%認可される。(ちなみに、「じゃ、ドイツに留学に行って、生活保護を申請すれば、留学費用はチャラ?」などという都合のいい勘定はできません。留学中にもらえるビザは滞在許可であり、一時的な滞在を許可したものです。ドイツで外国人が生活保護を受けるには、滞在許可ではなく、滞在権利(Berechtigung)を有しなければなりません。)このシステムの弊害は、あまりに保護が充実しているので、真面目に働くのが馬鹿馬鹿しく思えてしまい、勤労意欲を殺いでしまう事。実際、著者の知人に20年以上失業中の筋金の入ったドイツ人が居るが、こっそりアルバイトをして小銭を稼ぎ、毎年4週間もタイのパタヤーに休暇旅行に行っている。(ドイツ人が多い北パタヤは特に物価が安い。)日本なら真面目なサラリーマンは、せいぜい1~2週間の休暇が限度だろうから、ドイツの(万年)失業者の方がデラックスに休暇を過ごしている事になる。

それだけでない。ドイツで生活保護を受けていると、トラブルがあった(何か気に入らない)際の裁判費用は労働局が払ってくれるので、ドイツの法廷は失業者が出した訴えで一杯でその機能を失いつつある。これを象徴するのが、次に挙げる例。ある生活保護を受けてるカップルが「支給される生活保護の金額が少ない。」と(国の金で)ドイツ政府を訴え、なんと裁判に勝ってしまったのである。裁判で争点になったのは、法律で定められている子供の生活保護支給額。14歳までは大人の60%、17歳までは大人の80%と定められているが、「この額ではとても子供を養えない。」というのが訴えの原因であったが、ドイツの高等裁判所はこの訴えをほぼ認める判決を出し、ドイツで大きな話題になった。とても興味深いのが、この判決理由。高等裁判所は、国が定めた子供の生活保護額の計算論拠が欠けているのを指摘、「これを明らかにしない限り、支給額を勝手に大人の60%、80%と規定するのは違法。」と判決した。つまり支給額自体が問題なのではなく、支給額を決定するに至った計算方法を明確にしていない事が「違法」と判断されたわけである。流石ドイツ。日本なら考えられない裁定だ。

ドイツのように失業している外国人が多いと、「社会保障制度は怠け者の外国人を養うだけ。」という風潮があるのは、ある程度理解できる。しかし、社会保障の対象になるのがほぼ日本人だけなのに、苦境に陥った同胞を見捨てるようなシステムに固持しているようでは、到底、先進国とは言えない。日本に帰国して公園で野宿生活をしている人を見る度に、日本の制度の理不尽さを感じる。欧米の真似をして、うわべばかり取り入れて「先進国気取り」をするのではなく、その元になった精神構造、考え方も取り入れて欲しいものだ。

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低所得者層の子供は、人生を低所得者層で終える確立が高い。

 
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