THW (21.01.2010)

少し古い話になるが、ドイツに来る前は伊丹市広畑にある(射撃場近くの)古い官舎に住んでいた。建物はかなりひび割れが入っており、あきらかに年季の入った建築物。トイレは各部屋に完備されているものの、浴室はなしと言う自衛官向きの官舎。1年ほど住んだ後、6月に念願の退職、官舎を出て、7月にはドイツにて来て語学学校に通っていた。ある日、冴えない頭をはっきりさせようと休憩時間に付近を歩き回っていると、語学学校の廊下に捨てられていた新聞に目が留まった。そこには「大地震!」の大見出しで、どこかで見た事のある写真が載ってた。新聞を手にとってよくみると、それは倒壊した阪神高速道路であると判明。驚いて(自宅に帰ってから)テレビをつけると、当時は丈夫そうに見えていたJR伊丹駅まで崩壊しており、唖然。正直に告白すると、「皆、大丈夫なんだろうか?」という心配よりも、「辞めててよかった。」と、自分の運の強さに感心。倒壊する建物に押しつぶされて死ねたならまだいいが、倒壊した建物の隙間に挟まれて餓死するなんて、最悪の状況。実際、阪神・淡路大震災の際の救出作業の95%は家族、隣人によるもので、残りたった5%が消防などの防災機関によるもの。つまり建物の下敷きになって生き延びた場合、公の救助機関が助けに来てくれる望みは、余程の強運の持ち主でなければ、ない。

ドイツで感心するのは、そのような災害時に技術的援助救出作業を行うTechnisches Hilfswerk、略称THWという組織がある事。THWは消防署とは別の組織で、各自治体に存在しており、建物が崩壊した場合の市民の救出作業、災害で水道が壊れた場合は飲み水の供給を確保、洪水の際はポンプで排水したり、浸水した地域の市民の救出作業など、さまざまな技術的な支援を行う組織だ。日本ではどうにもならなくなると自衛隊を派遣するが、被災地に装甲車や兵隊を送っても意味がないので、ドイツではドイツ軍ではなくこのTHWが出動する。これには両国民の考え方の違いに起因している。日本では「自然災害なのでやむを得ない。」という考えが支配的で、市民が死んでも「仕方がない。」で済んじゃう事が多い。しかしドイツで自然災害が起こって人が死ぬと、「これは避けられたんじゃないのか?」と考える。だから次の自然災害に備えて、すでに戦後間もない1950年に今のTHWの元になる災害救援組織が生まれた。

さてこのTHW、何もドイツ国内の災害だけに投入されるものではなく、海外で災害が起こった際は24時間以内に装備を持って災害地に赴く準備が整っている。というのも、倒壊した建物の下敷きになって生き延びるのは、せいぜい3日間が限界なので、一刻を争う。この為、どこかで災害が起きると文字通り、「飛んでいく」準備が整っている。だから上述の阪神・淡路大震災の際、ドイツ政府は直ちに日本政府にTHWの派遣を申し出た。ところが日本政府はこの申し出に感謝しながらも、ドイツからの救助を拒否。こうして救われたかもしれない人命が、日本政府の決断で失われた。そんなことは内向型の日本のメデイアでは取り上げられなかったに違いない。しかし当時ドイツに留学していた著者には、「なんで日本政府は助けを断ったんだ?」と、ドイツ人から質問攻め。災害で苦しむ自国民をよそに、北朝鮮やミャンマーの軍事政権と同じ行動を取った日本政府の行動は、不可解だった。

別の例を挙げてみると、日航機の墜落事故。日本では、墜落後、「その他の者は即死、もしくはそれに近い状況であった。」と報道、「最善を尽くした。」というムード作った。しかし、そんなムード作りに関心のない欧米は、日本政府の対応の落ち度を指摘した。米軍の横田空軍基地では日航機が緊急救難信号を出してから墜落するまで、無線でのやりとりを追っており、墜落後、米空軍機を墜落現場に派遣した。しかし不可解なことにここで日本政府から、「任せて欲しい。」という要請が横田基地に届き、米軍機は墜落現場の手前でUターンを迫られた。ところがここで日本政府からの要請を得て、日の丸をしょって航空自衛隊や海上保安庁が救援に向かうが、肝心の墜落現場が見つけられないというていたらく。結局、日航機が墜落してから9時間も経ってようやく墜落現場を確定した。これで空路救助を送るかと思いきや、墜落現場を旋回しただけで、基地に帰還すると、地元の消防に救援を要請、こうして現地の消防隊は徒歩で墜落現場に向かい、墜落現場に着いたのは14時間後で、大方の負傷者は死亡してしまった後だった。

実際にこの墜落事故を生き延びた生存者が「墜落直後は、生存者が多く居た。」と証言しているのに、日本政府はこれを無視することに決定。遺体を解剖すれば、死亡時間、死亡原因が確定できるものだが、日本政府の要望ですべて墜落死とされ、解剖されなかった。その代わりに生存者の救出作業をテレビで全国放映、まるで手抜かりのない救出作業を展開しているように演出をすることに専念。救出作業の遅延に対して小さな非難が起きると、「夜間に救出作業を行える装備が揃っていなかった。」と言い訳。では、何故、第一に救出現場に向かった米軍機を追い返したのか?他の事ならともかく、米軍は世界で一番優れた装備(暗視装置を含めて)を持つ軍隊だ。その米軍の駐留費用を日本政府が(一部)肩代わりしてるのに、何故、米軍に救助を依頼しなかったのか?今回のハイチでの大地震の後、米軍がハイチの空港の管理を即座に掌握した例からもわかるように、米軍なら墜落後数時間で負傷者を救出することができた。我々日本人は、外国人に聞かれる前に、日本政府のこうした奇怪な状況判断を問題にすべきではないだろうか。

今回のハイチのような大震災が起きると、お金のある国は緊急援助として、実際に救済に人を派遣する代わりに、数億円の援助金を払って面子を保つ。時々、この援助金のデッドヒートが起こり、「どの国はどれだけ援助金を出した。」と意味のない競争が行われる。「そんなことを言っても、援助金は必要でしょ。」と言われるかもしれないが、それは正論で援助金を出すのは間違いじゃない。問題にしているのは、援助金の額で優位感を感じたり、援助金を出すことで「我が国は責任を果たした。」と、関心を失くすその姿勢だ。大震災の避難者にとって一番欲しいのは援助金ではなく、その場での救出作業及び援助だ。倒壊してビルの下敷きになって救出を待っている人に、「何処の政府が何億円出したぞ!頑張れ。」などと言っても、全然頑張れない。災害の後、飲み水が汚染され、災害は生き延びたがコレラに罹った病人に、「何処の政府は援助金を増額したぞ!頑張れ!」て言っても、安全な飲み水や薬がなくては、全然、頑張れない。

ドイツはこれをよっく知っているので、直ちに救援チームを派遣した。倒壊したビルの下敷きになっている人を探すべく、特別に訓練された犬とその指導者が派遣された。時を同じくして災害を生き延びた生存者が、コレラなどにかかる第二災害を防ぐため、浄水装置を空路輸送して、飲み水の確保に努めている。これが本当の援助であり、援助金を出すのは、往々にして現地の権力者のポケットに納まってしまうケースが多く、あまり助けにはならない。日本も是非、ドイツを見習って日本版THWを作って欲しい。使いもしない90式戦車1台に20億円も払う金があるなら、購入する戦車の数を2台ばかり減らして、その金でTHWを自衛隊の施設課に増設すればいい。地震大国の日本、戦車への投資と違って、この日本版THWへの投資が報われる日は必ずやってくる。           

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浸水の際に活躍するポンプや、


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水の浄化装置は、

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THWの通常装備。



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