小さいアドルフ。 (04.09.2010)

去年ここで取り上げたドイツ連邦銀行取締役員のSarrazin氏が、外国民をけちょんけちょんにけなす本を書いて、大きな話題になっている。ドイツ人がドイツに住む外国人に対して、どのような意見を持っているのか、その本心を露呈してくれているので、今回はこれをテーマに取り上げてみたい。

ザラジン氏は(特にトルコ人、アラブ人などの移民が多い)ベルリン市の財務官として7年間勤務した経験があり、現場の現状(惨状)を知っている現場の人間の一人だ。この当時の「経験」が、出世してドイツ連邦銀行取締役員になってからも氏を駆り立てており、アラブ人、トルコ人の生活様式の巧みな描写で、茶の間に話題を提供し続けている。あるインタビューでは「連中は(トルコ人、アラブ人を指す)何もしないで、国の金で1日中テレビを見ているだけ。偶にSchwarzarbeit(違法就労)に出かけてくれると、嬉しいくらいだった。」と、即興とは思えない見事な描写を披露。別の機会では、「(仕事をしないで)国の金で生活しておきながら、ドイツの社会に溶け込む努力を一切放棄、それどころかドイツの文化を拒否してる移民に対して、その(移民の)功績を認めるつもりはない。トルコ人の70%が、アラブ人の90%が、こうした移民だ。」と、正直に感情を吐露した。これはあのアドルフ以来、初めてドイツ人(高官)の口から聞かれる外国人非難である。

氏のトルコ人&アラブ人非難が、ドイツでお茶の間で話題になるのはその理由がある。例えば日本でも在日韓国人の悪口を言う人が居るが、非難の根拠、そしてその根拠を裏付けるデータが欠如しているので、良識や常識を備えている日本人の階層まで達しない。これといい比較をなしているのが、サラジン氏の非難だ。例えば、ドイツの平均失業率は7%程度だが、移民の失業率は12.4%にも昇る。トルコ移民に限ってみれば、その失業率は16.8%と、ドイツの平均失業率の倍以上である。又、生活保護で生活をしている割合はドイツ全土では4.3%だが、トルコ人は8.3%とドイツ人のほぼ倍の割合となっている。又、学校での成績でもドイツ人の場合は10.4%が終了試験にパスしないまま学校を終えてしまうが、トルコ人は25%もの高確率で、最低学歴させも終了する事ができていない。こうした数字を挙げて、トルコ人やアラブ人を非難するので、サラジン氏の非難は知識階層にも聞く耳を見出すことに成功している。勿論、非難の矛先になっているトルコ人、アラブ人は、「それは間違っている。」と頭から否定するが、その根拠になるデータを挙げのるは難しい。敢えて言えば、トルコ人は企業精神に旺盛で、ベルリンで新しく登録される企業家の1/4はポーランド人かトルコ人であり、ある程度、ベルリンの雇用状況の改善に貢献している。

サラジン氏はこうした(問題)発言だけでは不十分と感じたようで、氏の意見を一冊の本にまとめた。タイトルは、Deutschland schafft sich ab.日本語に訳し難いが、「(自ら)廃止するドイツ」という意味。氏の主張は、旧ユーゴスラビアに属していたコソボが、コソボ人の高い出産率で「原住民」を圧迫、国を人口で征服して独立国宣言した例を挙げ、ドイツが(トルコ人、アラブ人の高い出産率で)モスレム化してしまう危険を指摘している。さらにはモスレム系住民の知能指数も、「ドイツ人よりも低い。」と主張、それだけではまだ気がすまず、よせばいいのに、「ユダヤ人は特殊な遺伝子を共有している。」と、やった。まるでアドルフのような主張である。モスレム系住民の知能指数云々や、ユダヤ人が共有する遺伝子などは何の根拠もない主張であり、あまり知的な指摘ではない。日本ならそういう主張も受けるかもしれないが、ドイツでは受けない。さらにはドイツのタブー、ユダヤ人問題を取り上げた為に、ドイツでは賛同する声と同じくらいに非難の声が上がっている。果たして日本だったら、どれだけ非難する声があがっただろうか、興味のある所である。この結果、氏が属しているSPDは党籍抹消手続きを開始しており、氏が勤務しているドイツ連邦銀行では、「連邦銀行の取締役として適した人物かどうか」協議が始まっている。(9月2日になって氏の役員解雇要請を大統領に申請した。)

SPDにしてみれば、CDU/CSU/FDPの茶番激のお陰で過去最低の支持率から脱出中である。この大事な時期に、SPDの党員が外国人排斥を主張するのは都合がよろしくない。特にSPDは唯一、ナチスに抵抗した政党という過去の業績がある為、外国人排斥を訴える著名党員がいては、過去の功績が台無しになってしまう。ドイツ連邦銀行にしても思いは同じ。憎いフランス人が欧州中央銀行頭取に君臨しており(その前は憎いオランダ人)、欧州共同体で最も高い国民総生産高を誇り、もっとも多額の加盟金を納めているドイツ人には、ゆゆしき事態である。幸い、現在の頭取の任期は2011年に「満期」になる。ドイツ政府及びドイツ連邦銀行は「今度こそ」、ドイツ人が欧州中央銀行の頭取になる事を期待しており、その可能性は決して低くない。大きな問題がなければ、ドイツ連邦銀行総裁のAxel Weber氏が、欧州中央銀行の次期頭取に就任するだろう。大きな問題がなければ。この大事な時期に、取締役員がアドルフまがりの外国人非難、それもユダヤ人非難を含めて本を出版したのだから、Weber氏の胸中は推して知るべしだろう。ユダヤ非難は特に米国に受けないので、そんな非難を平気で行う人物を取締役員に迎えているWeber氏が欧州中央銀行の頭取になって、うまく米国と歩調を合わしてやっていけるか、問われかねない状況である。

こうして「サラジン下ろし」が始まった。賢い批評家は、「サラジンが主張する内容の是非を問うべきであり、氏がその意見をどのように述べたか、その表現方法を問う議論をすべきではない。」と警告を発しているが、SPDにしても、連邦銀行にしても、そのような良識ある警告に耳を貸す余裕はない。又、大きなテーマがないこの時期、サラジン氏はドイツのテレビ局にとって天の恵み。サラジン氏は本が出版される前から、連日、テレビ出演しており、出版から1週間以上たった今でも議論は収まるばかりが、さらにその波は高くなるばかり。これは本の販売に最高のセールスであり、来週にベストセラーリストが公開されると、氏の著作がベスト10に入っているのは間違いないだろう。理解できないのは、決して教養がないわけでないサラジン氏が、何故、このような大事な時期に著作の発表を行ったのか。発表を1年遅らせても、トルコ人がドイツから居なくなるわけではないし、アラブ人がいきなりお行儀よくなる事はない。つまり時間はたっぷりあるのだから、Weber氏が欧州中央銀行の頭取に就任してから本を出版すれば、職を失うことなく、まっとうに取締役員を勤め上げる事もできただろう。(まだ首になると決まったわけでない。)現状では、時期を誤ったばかりに、今後は本の印税だけで生活する事になりそうだ。

氏の主張、「モスレム系移民は知能指数が低く、その高い出産能力でドイツの平均知能指数を下げている。」は、勘違いもいい所だが、正直な所、心のどこかに賛同する部分があるのも否定できない。多分、これがドイツ人の潜在的アンチ外国人ムードに火をつけているようで、あまり教養の高くないドイツ人は、サラジン氏を英雄扱いしている。今後、氏がSPD党籍を抹消されて、連邦銀行を首になると、氏の人気はさらに高まるかかもしれない。


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サラジン氏、その将来は何処にありや?



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