ドイツ麻薬事情 (26.07.2011)

世界中のファンに30年以上に渡って愛されてきたオランダのコーヒーショップが、この夏にその終わりを告げそうだ。著者はタバコは吸わないし、「麻薬なんかよりも、もっと楽しいことがある。」ので、正直、どうでもいい。しかし世界中には頭を抱えて、「なんたる事だ!」と叫んでいる御仁も多いと思う。そこで今回はコーヒーショップ「廃止」の経緯と、ドイツの麻薬事情について紹介してみたい。

多少の弊害を承知で言えば、麻薬問題を抱えていない国はない。その問題の深刻度は国により違うが、麻薬問題は存在しており、この問題への取り組み方も異なっている。何も知らない日本人に、「ドイツではハシッシは合法なんだ。」とか、「所有してる分には、合法なんだ。」と、御伽噺を聞かせて共犯にしてしまうケースがあるが、ドイツではコカインやヘロインなどの「ハードな麻薬」だけでなく、「軽度の麻薬」の所有、販売は違法である。しかし、いちいちハシッシなどの軽度の麻薬を取り締まっていると、ハードな麻薬の取締りがおろそかになると判断したのが70年代のオランダ。そこでオランダではハシッシなどの麻薬の服用は、コーヒーショップでの服用、販売に限って合法とする事にした。これによりマフィアの資金源を奪うと共に、簡単に軽度の麻薬を服用できるなら、ハードな麻薬に手を出して、麻薬中毒になる市民の数が減るのではないかという憶測もあった。諸外国からは「あまりにもリベラル過ぎる。」と非難を受けたが、オランダの「画期的な」法律は、思わぬ効果を見せた。

まず路上でのハシッシの販売が、ほとんど姿を消した。路上での麻薬は利益第一。当然、不純物が多く含まれており、まともな「ブツ」ではなかった。そんな危ないハシッシを買わなくても、質のいいハシッシが合法的に買えることになれば、そんな危険を冒す必要がなくなったのが理由だ。これに加えて、コカイン、ヘロインなどに手を出して中毒になる市民の数が、欧州平均を下回るという結果が出た。さらには麻薬の合法な販売によりマフィアから資金源を奪い、麻薬販売の犯罪率が下がり、おまけに合法に販売する事で税収入が改善という「副作用」も出た。こうした結果を見て、オランダ政府は軽い麻薬の服用を30年以上に渡って合法化してきた。唯一の欠点は、オランダのコーヒーショップを目的に、世界中から「愛好者」が押し寄せて来た事。しかしこの「観光客」の落としていくお金は魅力的で、オランダ政府は法律を変えることができなかった。

ところが21世紀になって、オランダでは少し違う風が吹き始めた。国内で移民問題が悪化すると、これまでのリベラルな政治を批判する右翼政党が勢力を伸ばしてきた。この右翼政党と連立政権を組んだ現政府は、「オランダは麻薬天国」というイメージに我慢できず、外国人への麻薬の販売を禁止すべく法律の変更に着手した。コーヒーショップの経営者などは、「これは人種差別だ。」と欧州裁判所に訴えたが、「外国人への麻薬の販売を禁じるのは、差別にならない。」と、判決を下した。こうして悪いイメージが定着した名前、コーヒーショップを"Club"と改名、オランダの国籍を持つ会員だけに麻薬の販売を許可する法案を国会に提出した。うまくいえば(見方によればマズイ事になると)、この夏にもこの法案は国会で採択されて、法律となる可能性が出てきた。「愛好者」の最後の希望は、現政権が国会で過半数を占めていない事。野党からの賛成票が出てこない限り、この法案は国会で採択されない可能性もあるが、麻薬目当てにオランダに来る観光客に対していい印象を持っていない議員も野党に多く、この案が国会で採決される可能性は高い。(結果は後述します。)

ドイツでは、オランダのように軽度の麻薬の服用を許可する代わりに、麻薬中毒者に政府が麻薬を提供して、中毒者の社会復帰、及び犯罪を減らすという面白い対策が採られていた。この対策を聞いた市民の最初の反応は、「麻薬中毒者に政府が税金で麻薬を提供するなんて、とんでもない。」というもの。しかし中毒患者に、「麻薬をやめろ。」と言って辞めれるわけがなく、中毒死するまで麻薬を打ち続けることになる。日本では「自業自得だ。」という意見が支配的かもしれないが、問題は中毒患者の麻薬の調達。中毒患者がお金を工面する為に犯罪に走るケースが少なくない上、麻薬販売はマフィアなどの収入源になるので、麻薬中毒者の「副作用」が社会に悪影響を及ぼすことになる。具体的な例を出してみよう。以前、会社に出勤すると、会社の入り口で中毒患者が変死していたこともある。そこでまずは仕事の前に警察に電話して死体の回収をしてもらう事になり、社員の仕事意欲は目一杯下がった。また、そこら中に注射器が転がっており、危なくてろくに歩けない。出勤の際、これをうっかり踏んづけてしまって、エイズなどに感染してしまっては、目も当てられない。

しかし、市が麻薬、正確にはメタドンなどの麻薬の代用品だが、を提供すれば、中毒患者は犯罪を犯す必要がない。おまけに危ない注射器も駅のホームに転がっていないので、市民の安全性も上昇する。さらにちゃんと量が測られているので、ショック死する危険性も避けられる。こうして中毒者がある程度、社会的な生活を送る事が可能になる上、マフィアの収入源を奪う意味でも効果がある。中にはこのプログラムを利用して社会復帰、ちゃんと仕事もこないしている中毒患者まで居た。このプログラムがなければ、きっと路上で人生を終えていた事だろう。そう考えれば、この「麻薬対策」は十分意味がある。ただし、社会保障が発展しているドイツでもこのプログラムに対する理解度は高くなく、2010年にほとんどの地方自治体でこのプログラムが終了してしまった。麻薬中毒者を救っても選挙で得点できないのがプログラム廃止の大きな理由だが、やはり少し残念だ。麻薬を禁止していくら取り締まっても、いくら厳しい罰則を課しても、決してなくなる事がないのがこの麻薬問題だ。ならばその現実に合わせた対策が採られても、いいものではないだろうか。
         

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今ならまだ合法。


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