Flop! (17.05.2011)

まだ日本に居た頃、名古屋駅を歩いていると、「君、いい体格をしているね。自衛隊に入らんかね?」と、ちょくちょく声をかけられたものだった。「もう入っています。」と身分証明書を見せると、「ご苦労様です。」と名古屋駅構内でお互いに敬礼して別れる事が度々あった。当時の日本はバブル景気の真っ只中、誰でも仕事が見つかったので、「自衛隊に入ろう。」なんて物好きな人は少なく、自衛隊は定員不足に苦しんでいた。そんな状況で自衛隊に入るのは警察に捕まって、「刑務所か、自衛隊か。」と脅されて自衛隊を選んだ連中か、日本の社会風潮に抵抗をして、行き場所を探している連中ばかりだった。当然、新隊員のレベルはかなり低かった。その後、バブル経済が崩壊して10年も続く不景気になると、自衛隊の定員が減らされたことも手伝って、少ない募集に入隊希望者が列を成すようになった。

すでにここで紹介した通り、ドイツでは徴兵制度は名前だけ残る事となり、2011年7月からは志願兵のみ入隊できるようになった。米国などと違って、ドイツでは軍隊に人気がない。ちょうど日本の自衛隊に似た存在である。そこで日本の自衛隊のように「最低2年間の勤務」では嫌がられて志願兵が集まらないだろうとの配慮から、最初の勤務期間は12ヶ月、その後、本人が希望すれば23ヶ月まで延長できるということにした。関係者が期待して見守る中、7月1日からの最初の志願兵の入隊受付が始まったが、心配していた通り、反響は大きくなかった。3800名程度の志願兵を期待していたドイツ軍だが、実際に志願してきたのは1250名程度で、定員の1/3以下というバブル景気時の日本並みの募集率となった。その後の適応検査で落とされる者、基礎訓練でやる気をなくす兵隊を考えると、1000名残れば御の字だろう。

もっと悲惨なのは、これまでは兵役拒否者への逃げ道となっていた"Zivildienst"。ここでも志願者を募ったが、老人ホーム、病院、その他の公共の施設が要求する4000人の代わりに、志願してきたのは1000人足らずだった。つまり、軍務が嫌で志願兵が集まらないわけではなく、仕事に魅力がないのが原因だということになる。志願兵のお給料は(職種により)777ユーロ~最高1100ユーロまで(手取り)。これは著者が2等兵として、日本の自衛隊でいただいたお給料とほぼ同じ金額である。幾ら衣食住が無料とはいっても、このお給料では現代のドイツ人にはあまり魅力がないだろう。ドイツでは会社に就職する前に、2~3年かけて希望の職種にて、Ausbildung(職業訓練)を済まさなければならない。期間中、小額のお小遣いが支払われる程度なので、この時期は社会に出る前の試練と辛抱の時期である。なのに1年間も軍隊で浪費しては、社会に出て一人前の給料を稼ぐ時期がさらに遅れてしまう。さらにはアフガニスタンで次々に戦死しているドイツ兵の報道、ドイツ軍の数々のスキャンダルを見て、「軍に入れば、戦死とスキャンダルはつき物。」と寛大に考える人は多くはなかっただろう。

こうしてすでに辞任した国防大臣の発想による徴兵制の廃止は、その初っ端から大きな障害に衝突している。ドイツは日本同様に国連の常任理事国になる努力を惜しまないが、日本と違い、兵隊を海外に派遣することを厭わない。(ドイツの利益と衝突しない限り。)しかし、徴兵制の廃止により、国外任務に派遣できるドイツ兵の数が激減、今後、国連軍への派兵ができなくなる可能性が出てきた。常任理事国を目指すドイツにとっては、思わぬ障害である。そこで国防省は今後、宣伝に力を入れて必要な若者を軍役にひっぱり込もうとしているが、日本が同様な問題に直面して、景気が悪化するまで問題が解決しなかったように、経済の調子がいい時に志願兵を集めるのはかなり難しいだろう。特に困難なのが、これまた自衛隊同様に、将校適任者を探す事だ。大卒者は折からの好景気でひっぱりだこである。エンジニアともなれば、内定が3つも4つも届く上、エンジニア不足に悩む企業が、「エンジニア紹介すると4000ユーロ差し上げます!」という宣伝まで行う有様。将来ばら色の大卒者が、何を好んでドイツ軍などに志願するだろう。ドイツ文学部など、あまり使い道のない専攻を選んでしまった学生をターゲットにするしかあるまい。

前国防大臣の大きな置き土産は、それだけではない。ドイツでは個々の部隊が、別々に分かれて駐屯している為、経営の効率が悪い。日本の自衛隊なら、例えば著者がご奉公した伊丹駐屯地では、輸送態、武器態、普通科連隊などなど、さまざまな部隊が共同駐屯していた。ところがドイツでは部隊、部隊、別の駐屯地を持っているのである。兵隊が少なくなるので、人員の少ない駐屯地を閉鎖、大きな駐屯地に集めていく方針だが、地方政治家の猛反対にあっている。駐屯地は、地元民にとって職場であり、もっと大事なことに地元の店舗にとっては欠かせない購買力である。その駐屯地が閉鎖されてしまうと、選挙民が仕事を失い、さらには店舗は客を失い、従業員は解雇され、さらに失業率が増すが、駐屯地は田舎にあるため、そう簡単に次の仕事が見つかるものではない。多くの家族は、(まだ家を買っていなければ)引越しを迫られるだろう。こうした変化は選挙の際に不満となって現れて、人気を落とす。だから、地方政治家は、自分の選挙区にある駐屯地の廃止に猛反対している。

皮肉なことに、これまで経済発展から取り残されていた東ドイツでは、志願兵への感心が高い。この傾向がこのまま続くなら、駐屯地の閉鎖にあたり、志願兵の多い東ドイツの駐屯地ではなく、志願兵の少ないバイエルン州などの駐屯地が真っ先に候補にあがる。そうなれば、バイエルン州で長年政権を維持しているCSUは、政権を失いかねない。徴兵制の廃止を提唱した国防大臣が、バイエルン州の政治家だっただけに、もしグッテンベルク氏がスキャンダルで辞任していなければ、人気のない駐屯地の閉鎖のテーマをどうやって選挙民に説明するか、氏の政治手腕が問われただろう。抜群の人気を誇ったグッテンベルク氏がいない今、ただでもの人気が下り坂のCSUは、「お陰で」、大きな問題を抱えることとなった。
          
一見、解決策のないように思える今のドイツ軍の改革だが、案がないわけではない。当時、不良外国人に悩んだフランスは、外人部隊を創設、不良外人と国防問題を一気に解決した。ドイツにも不良外国人が多いので、同様の政策を取り、「4年間勤務すれば、ドイツ国籍が取れる。」とやれば、一石二鳥になるのではあるまいか。軍隊でドイツ語を習い、規則正しい生活を送っていれば、4年後に除隊する頃には立派なドイツ市民となっているだろう。残念ながら、ドイツではそのような考え方は、「異端」とされ、口にするのもタブーである。結果として、ドイツ軍の人員不足は、女性兵士の数を飛躍的に増やすか、次の大不況がやってくるまで解決しないだろう。


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女性兵増員で人員不足解決?


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