強制買収 (29.11.2004)

ドイツ国内ではここ数年不況の嵐が吹き荒れている。原因は、輸出を主体にしたドイツの産業体系にある。つまり米国や中国のように大きな国内市場を持たないドイツは、その工業製品を輸出する事にのってのみ、生存する事ができる。だから世界の景気が悪化したり、EURが高くなると国の産業は一気にそのあおりをくらう。ここ数年の世界的な不況に加え、ここ2年連独のEUR高で、ドイツの製品が売れない。売れてもろくな儲けがないという最悪の状況に陥っている。
これに対抗する為、ドイツ企業は、高い人件費を少しでも節約しようとこぞって東欧に生産拠点を移しつつある。結果として、多少、景気が回復してドイツ企業が儲かっても、労働市場は全くその恩恵を受けず、失業率は10%のラインにて停滞している。ところが、よりによって人件費が高く、労働組合がうるさいドイツに投資しようという動きがある。
大規模な投資を考えているのはフランスとドイツの合併会社Airbusだ。Airbusは2006年から最大客席数555席の世界最大の旅客機A380の就航を目指して組み立て工場を探している。候補地はドイツのハンブルクかフランスはトゥルーズのAirbus工場。この決定次第ではAirbusのみで4000を超える職場が提供される事になり、もしハンブルクでの組み立てが決まれば、一気に地域が活性化する上、政府の税収入も増大するから、なんとしてもこの取引を成功におさめたい。
ところが、これにはひとつ問題がある。肝心のハンブルク空港は地方空港であった為、滑走路が短くA380の離着陸には適していない。そこでハンブルク空港は滑走路の延長を市に申請、珍しくすばやく許可が下りた事からもハンブルク市当局の入れ込みようもわかるというもの。許可が下りればあとは、問題の土地の買収である。滑走路の予定地には、りんご畑と、教会の所有の野原があるだけなので、空港事業団もハンブルク市当局もすぐに買収が終わって滑走路の延長工事にかかれるものとばかり思っていた、、。
ところが、りんご畑を持つ農家が、「おらの畑を売る気はないだ。」と抵抗。おまけに教会は空港事業団との話し合いを打ち切ってしまったから、さあ大変。普通は、付近の住民も騒音反対でデモをしたりするのだが、今度ばかりは珍しく地域住民が滑走路延長賛成のデモをするものの、農家と教会は一向に交渉に応じようとしない。このAirbus工場建設を逃しては、もう二度と地域活性化のチャンスがないとわかっているハンブルク市当局は、地方裁判所に土地の強制買い上げを申請した。まるで日本の成田空港建設の時のような話である。でもここで問題になっているのはろくに利益のないリンゴ畑である。空港事業団は市価を上回る値段でこの畑を買い取るというのだから、農家が反対するのかよくわからない。教会の土地にいたっては、ただの空き地である。ドイツ人の頭の硬さには定評があるが、これはその典型的な例だろう。

編集後記。
ハンブルク市は結局、この土地を強制買収した。農家はこれを不服として裁判所に訴えたが、敗訴した。こうした市の努力にもかかわらず、エアバスA380の組み立てはフランスのトゥルーズに決まってしまったので、一体、何の為に強制買収したのかあまり意味がなかった。幸い、エアバスはハンブルクにて行われているA320の組み立ての数を増やす事にしたので、市の面子は救われた。もっとも小型のA320の組み立てには、古い、短い滑走路で十分であった。


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Hamburg空港と、


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右手に見えるのがAirbus組み立て工場



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