どん底 (20.07.2005)

欧州、少なくともドイツ、フランス、オランダなどの国ではEU統合の夢(興奮)から冷め切っている。ドイツを例にあげてみれば、ドイツにとってEU統合がもたらしたのは、手に負えない失業でしかなった。具体的な例を紹介しよう。

ドイツでは家畜の屠殺場で何人ものFleischer(肉を切り分ける人)を雇って、スーパーに届ける生肉を生産している。このFleischerの給料は2500EUR程度であるが、会社は社会保障費を負担するので会社の経費は、一人のFleischerあたり3400EUR程度。こうした高い人件費、社会保障費は、肉の料金に上乗せして市場に送られていた。ところがEUが統合されてしまったから、ドイツの市場にドイツの市場価格の1/3の値段のポーランド産の生肉が入って来るようになった。これに対抗する為、ドイツの屠殺場ではドイツ人の職人を首にして、ポーランドやウクライナからFleischerを雇い入れて作業をさせている。なんとポーランド人なら給与は800EURで済む上、ドイツ人ではないから社会保障費を払わなくていい 。つまりポーランド人は、ドイツ人を雇う金の1/4以下の値段なのである。こうしてドイツではドイツ人のFleischerは片っ端から職を失っている。これが肉屋業界だけにとどまらず、ドイツのあらゆる国内産業に広がっている。

例えば、ドイツの洋服メーカーBossの服。ドイツで生産するよりは、工場をポーランドに移してしまえば生産費用は1/3まで節約できる。携帯電話、テレビ、缶詰工場、とにかくなんでもドイツで生産するよりはポーランド、チェコに工場を移して生産したほうが安く生産できる。何もこれは生産業だけの問題ではない。例えば運送業。ドイツの運転手を使うと給料と社会保障費で最低一人当たり4000EURも経費がかかる。しかし会社をEUから優遇扱いされるキプロス島に置いて(登記するだけ。)地元の運転手をドイツに派遣して働いてもらう。その場合、給料は一人1000~1500EURだが、会社はその儲けに対して、ドイツで税金を払う必要がないのである。会社がキプロス島に登記されているからこういう抜け道が可能になる。こうして会社は会社の経費を半額も節約した上、法人税も大幅に節約できるから、笑いが止まらない。逆に涙が止まらないのは、ドイツの労働者と大蔵大臣だ。

ドイツ人労働者は何の分野であれ、次々と職を失い失業保険の給付を受けている。さらにドイツの会社が外国に移転してしまうから、法人税が激減する。その反面、失業保険の給付額が飛躍的に増加して、国は予算が不足するので国債を発行して一時しのぎ、、。さらには失業者は年金の掛け金を払えないから、若い人が払う年金をお年寄りに払っていたドイツの年金制度は破綻して、2005年9月には実質上、年金を払うお金がない事が判明した。国はまた国債を発行して年金の支払いにあてるという。まさに借金が借金を生むとはこの事である。果たしてドイツが復活することがあるのだろうか。

編集後記
全く予期できなかったことに、ドイツ経済はどん底から復活した。そのきっかけになったのはここで紹介したドイツの高い人件費。失業が広がるに比例して、ドイツの人件費は上昇を止めた。派遣なのど低賃金の仕事が増えだすと、ドイツにおける人件費は下がりだした。その一方でドイツの隣国ではお給料は上昇を続け、何時の日か、ドイツの人件費の方が安くなる逆転現象が生じた。この日からドイツの製品は市場競争力を増し、又、企業のコスト管理の努力も加わって、ドイツ経済は2007年~2008年にかけて完全に回復、2011年には過去20年以来もっとも低い失業率を記録した。

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ドイツ語では、豚のもも肉をSchinken(ハム)と言う。


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