三国同盟 (04.09.2011)

目標に到達する際にどうしても生じてしまう「副作用」をドイツ語で、"Kollateralschaden"という。例えばリビア政府軍の司令部を空爆すると、どんなに兵器が発達しても、"Kollateralschaden"、つまり民間人の被害は避けることができない。これは何も軍事作戦に限られない。「ドイツに留学しよう!」と決心したら、孤独、悪天候、ドイツ飯などの"Kollateralschaden"は避けられない。ちょうどリビアでは反乱軍(軍と言うよりは規律のない民兵の寄せ集め)が首都を陥落させて、勝敗の行方がやっと見えてきた。(勝敗の行方であって、戦争の終わりではない。)アラブ諸国の事情に詳しいドイツ人ジャーナリストは早くも、「第二のソマリアになる危険性がある。」と指摘している。リビアの旧政府は、かってのドイツのヒトラー政権ように、ガダフィ大佐に集約されていたので、早い時期にガダフィ大佐を(lebendig oder tot)捕らえることができるかどうかにより、終わることない内戦に沈没するか、それとも表面上は安定した政権が誕生するか、左右される事だろう。

その一方でリビア空爆に参加したフランス、イタリア、英国、そして米国などは、空爆の見返りに臨時政府から利権を獲得しようと熾烈な競争を繰り広げている。西側諸国は凍結していたフガダフィ政権の資産を、臨時政権に次々と明け渡しているが、政権が安定していない段階でそんな大金を自由にしてしまうと、カンボジアへの発展援助と同じで、お金の大半は政府の要人のポケットに消えてしまい、悪い前例を作ってしまう。これに味を占めると、利権を得るには賄賂を払うのが当たり前になり、結局はガダフィ大佐の代わりに腐敗したリビア政権が君臨するだけの結果になってしまう。これでは意味がない。腐敗した政権が出来上がってしまうと、「まだガダフィの頃の方が良かった。」と、国内に不安が充満して、元々多種族が住んでいる国だけに、再び内戦になる危険性がある。しかし西欧諸国には腐敗した政権ほど便利なものはない。ナイジェリアを見てみるといい。原油の採掘により自然は破壊し尽されているが、腐敗した政権は大金をもらっているだけに、厳しい採掘条件を要求するとか、汚染された地域の修復に罰金を課す事を見送り、石油の採掘会社から支払われる賄賂で私腹を肥やすことで満足している。

これを見て焦ったのはドイツ。ドイツはかっての三国同盟を髣髴とされる中国、ロシアと三国同盟を組んで、「空爆には参加しない。」とやった。ドイツで消費される14%の原油がリビアから来ており、ドイツ企業がリビアにて原油を採掘しているだけに、あまり賢い政策ではなかった。イラン革命で日本の財閥は、これまで投資した石油採掘及び精製施設を失い倒産した。リビアでも新政府が、旧政府を支持したドイツへの制裁として同様の処置を取るかもしれないし、運が良くても、今後の石油採掘権はフランス、イギリス、イタリア、米国に優先して与えられるだろう。この不利な状況を察したのか、ドイツの外務大臣、「ドイツの経済制裁は、リビアに置ける政権交代に決定的な役割を果たした。」とやってしまった。他人の功績には言及しないで、自分の手柄のみ褒め称えるのはドイツ人の得意技だが、Natoの空爆に言及しないで、よりによって効果のなかったドイツの経済制裁が政権転覆に貢献したように語るのは、ドイツの三国同盟政策で非難が集まっているだけに、少しまずかった。

野党は言うに及ばず、政権内からも外務大臣の「手前味噌発言」に非難が集中した。ついこの前、FDPの党首の座を明け渡する事を余儀なくされた外務大臣に対して、「あの時、外務大臣の席も明け渡すべきだった。」という声があちこちで聞かれた。しかし、外相の発言で一番気を悪くしたのは首相と、外相の後釜としてFDPの党首に就任した(ベトナム移民の)レスラー氏だったろう。9月の初旬には大事な地方選挙があり、FDPは文字通り生死の分かれ目の5%に達すべくあえいでいる。その選挙の前に元党首のこの問題発言が、FDPの得票を伸ばす助けにならないのは、党の顧問に助言されるまでもなかった。レスラー氏は外相の発言が報道されると、「リビアの独裁政権の転覆に、Natoは決定的な役割を果たした。」と声明を出し、被害を最小限度に納めようとした。メルケル首相も同様の発言をして、この一件では外相とは異なる見解である事を明確にした。多分、首相と党首の両方からお叱りを受けたのだろう、外相は「軍事介入の助けもあって、ガダフィ政権の打破に成功した。」と、少しばかり氏の意見を修正した

これでドイツ政府の"Kollateralschaden"は終焉したかと思えた矢先、トリポリ攻防戦で自衛隊員の羨望の的、ドイツ製の最新鋭小銃、G36で政府軍と攻防を繰り広げている反乱軍兵士の姿が報道された。G36はドイツの有名な兵器産業、ヘックラー&コッホ社の誇る最新鋭の小銃で、ドイツ軍に採用されている小銃、G3の後続モデルである。口径5.56ミリのNato標準弾を使用するので、古い7.62mm弾頭に比べて装備が軽くて済む。口径は小さいが、初速が920m/sと極めて速く、運動エネルギーは1/2mv2であるから、破壊力は初速の遅い7,62mm弾よりも高い。最も大きな特徴は、M16や日本の自衛隊の小銃のようにガスが銃内に充満しない仕組み(銃身に取り付けられたシリンダーに燃焼ガスが送られて、これが射撃の度に後退して次の弾薬を装填する。)で、故障が少なく汚れに強い。米軍はベトナム戦争時にM16を新装備したが、火薬の燃焼ガスが銃内に充満する仕組みだった為、射撃中に頻繁に装填不良を起こして、多くの戦死者、負傷者を出した。ヘックラー&コッホ社のG36はこの欠点を改善したので、埃や泥にまみれた悪天下、銃を分解して掃除できない状況でも、安心して戦闘に使用できる。ちなみに軍事マニアの間で人気のソビエト製の小銃、AK47は、ドイツが第二次大戦中に開発して大きな効果を発揮したSturmgewehr 44、通称、G44をソビエトが(違法)コピーした物である。

マズイ事にドイツには、「紛争係争国、及び反イスラエル政策を取っている国には兵器は輸出しない。」という法律があり、リビアへの兵器の輸出は禁止されていた。つまりリビアには存在していない筈のドイツ製の兵器が内戦で、しかもテレビカメラの前で使用されてしまった為、ヘックラー&コッホ社は説明を求められる事になった。さらに、タイミングの悪いことにガダフィ大佐の息子がG36を抱えてテレビに登場した後、「リビア空爆には参加しない。」とドイツ政府が発表した為、「ドイツはガダフィに兵器を輸出しているから、ロシアと同盟を組んだんじゃないか。」と、連合国側におけるドイツのイメージが悪くなった。しかしながら当時は、「小銃1丁程度でドイツを非難するのは、大人気ない。」とされ、大きな話題にはならなかった。ガダフィの息子なら金に物を言わせて、「個人の使用目的」でこれを何処からか調達したのかもしれないからだ。ところがトリポリ陥落後、政府軍の武器庫から大量のG36、及び弾薬が見つかってしまう。反乱軍も一目でドイツ製の小銃が気に入ったようで、これを有り難く頂戴、早速、戦闘に使用する事にした。反乱軍の「標準装備」であるAK47を肩にかけたまま、G36で射撃している反乱軍兵士の姿を見れば、兵士の好みがどちらの銃にあるか、一目瞭然だ。

ヘックラー&コッホ社は、「リビアにG36を輸出した事実はない。」と言い訳したが、「では何故、大量のG36がリビアにあるのか。」の説明は、賢い事に避けた。とは言っても事実は「公の秘密」であり、目新しいものではない。ドイツ製の小火器は頑丈、精密、実用性に優れているため、第二次大戦中から同盟国軍の間で需要が高かったが、戦後もこれは変わっていない。当然、世界中の軍隊、警察から「ヘックラー&コッホ社の小銃、拳銃を装備したい。」という問い合わせが入ってくるが、ヘックラー&コッホ社は法律の束縛で自由に武器を輸出できないで苦心している。ここで登場してくるのが、武器商人だ。武器商人は、「オランダ軍への納入用に」1万丁の小銃を注文する。これはすんなりと政府から輸出許可が下りる。ところが実際にオランダ軍に納入されるのは、7~8千丁。残りは武器商人が、一番高い金を払ってくれる独裁国家に売る。ヘックラー&コッホ社にとっても、この輸出方法は都合がいい。今回のように悪事がばれても、悪いのはヘックラー&コッホ社を騙した武器商人という事になる。そしてこの武器商人が、実はヘックラー&コッホ社の人間で、ベルギーにオフィスを置くトンネル会社だったりするから、ドイツ人は本当に頭がいい。

同様の賢い方法で、ドイツ企業はベトナム戦争時、枯葉作戦に使われるエージェント オレンジを製造、輸出したし、まだサダムフセインがアメリカの同盟国だった頃、ドイツはドイツで発明された毒ガス、タブンとサリンの生産に必要な化学品をイラクに輸出、サダムはこれを民間人に投入して、クルド人を虐殺した。ガダフィは今、スカッドロケット(言うまでもなくオリジナルはドイツ製のV2)など、これまでは使用しなかった兵器を導入しているが、リビアはマスタードガス(ドイツ語でSenfgas)を大量に貯蔵しており、これを不利な状況を挽回する為に使用するのではないかと危惧されている。マスタードガスが投入されて、これがドイツが輸出した化学薬品から製造されていれば、ドイツは世界中から非難されるだろう。ドイツがリビア空爆を拒否したのも、実はこれが原因ではないかと疑いなくなる。それ以外に、ドイツが中国、ロシアと三国同盟を組む理由が他にあっただろうか。西側は概ね軍事介入の目的を果たしたが、この介入によるドイツの"Kollateralschaden"は、広がるばかりである。


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ドイツ製の最新鋭小銃G36で射撃する反乱軍兵士。


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