補助金  (19.01.2008)

「1月は出来事が少ない月。」と思っていたら、出来事が相次いだ。今度は携帯電話メーカーNokiaがNRW(Nordrhein-Westfalen)州、Bochum市にある工場を閉鎖すると発表した。数年前には自動車メーカーOpelが市内の工場閉鎖が、ただでさえ失業率の高い街に大きな衝撃を与えたばかりだった。そして今度はNokiaである。これにより2300人が職を失うことになる。この結果、職を失う従業員の扶養家族だけでなく、付近のレストラン、スーパーなど町全体がこの影響を受けてしまう。それだけでも大きなニュースになったのだが、実はこの失業率が高い町にノキアの工場を誘致する為、国と州政府合わせて8千8百万ユーロもの補助金が支払われた経緯があった。ところがこの補助金が全額支払われてしまうと、もうノキアは興味を失くしたようで、工場の閉鎖を発表した。

それだけならまだ「補助金の無駄使い」で終わってしまうかもしれないが、軒はドイツで工場を閉鎖する代わりに、労働賃金の安いルーマニアに工場を移転、そこで携帯電話を制作すると発表したので、ドイツ国内は一気に反ノキアムードに染まったノキアはルーマニア工場の施設整備のために、今度はEUから補助金をせしめる計画であるが、EUの予算は加盟国の「持参金」でまかなわれている。その予算の一番大きな負担をしているのは、ドイツなのである。つまりドイツ政府は、ご丁寧にもドイツの税金を使って、ボッフム工場が閉鎖できるように、ルーマニア工場の設備投資を補助したことになるのである。これでは職を失う労働者だけでなく、政治家が怒るのも無理もない。

このニュースが報道された翌日、(よせばいいのに)次回の選挙に向けて得点を稼ぎたいNRW州の主知事Ruettgers氏が、先方に確認もしないで工場に出向いて、ノキア側との工場存続の交渉を要求した。ところが冷たいフィンランド人は、「会う理由がない。」として、州知事からの会見の申し込みを蹴った。せめて会見の場を作ってくれていたなら、「努力した。」として、Ruettgers氏は市民から「よく頑張りましたで賞」をもらって引き下がる事ができだろうが、門前払いを食ったので面子が丸つぶれた。その日のニュースでは怒ったRuettgers氏が、工場の前でメガホンを使ってノキアの悪口を言っている姿が見られた。

党本部に戻ってきたRuettgers氏は(頭のいい側近の入れ千恵で)、ノキアにすでに支払われた補助金の返却を求めるという対抗策を発表。これは流石に冷たいフィンランド人にも応えたらしい。会見の用意があることを伝えてきた。ところがその条件が「工場閉鎖は決まった事実なので、その方法、時期についてのみ交渉してもよい。」という傲慢なものだった。再び恥をさらしたくないRuettgers氏は会見を諦め、補助金を取り戻す為、工場誘致の際に交わされた契約書の緻密な調査を弁護士に依頼した。するとめざとい弁護士が当時、ノキアは補助金と引き換えに2600~2800人の職を提供することを約束していたことが明らかになった。しかし、実際にはそれだけの従業員が雇われることは一度もなかったのである。これを武器にRuettgers氏は、補助金の返却を要求しているが、例えそのような事態になっても、工場閉鎖の事態には変わりない。これを機にドイツでは、(政治家が煽って)ノキアの不買運動が始まっている。果たしてどこまでこの運動が盛り上がるか、それによりノキアを再考させることができるか、あるいは1月後には、誰ももうそんなことがあったことさえ覚えていないか、興味のある所だ。

編集後記
当時は、「世界に冠たるノキア」だったが、今やアップルやサムスンに市場占有率を奪われて、その規模は縮小する一方である。その理由は、これまでの会社の成功に陶酔しきって「おのぼりさん」になり、競争相手を見下した事にある。この傲慢さ故に新製品、スマートフォンの開発を怠った。同じことが業種が違うが任天堂などの日本企業にも当てはまる。かってはゲーム業界の虎だったのに、今では製造代金を割って製品を提供しても、十分な数のゲーム機が売れないという張子の虎になってしまった。会社の成績が良かった時、あまりに製品がよく売れるので、オンラインゲームなどの新分野を開発するなり、他社を買収して別の分野で製品を提供するなどの処置を必要と考えなかった事が原因だ。ノキアは今、マイクロソフトと組んで舞い返しを計っているが、まだ間に合うだろうか。果たして任天堂にturn around(巻き返し)をするだけの余力が残っているか、それともブラックバリーを生産しているRIM社、携帯電話の先駆者モトローラ社のように凋落して二束三文で他社に買い取られていくのだろうか。
          

328.jpg
門前払いをくらったRuettgers氏。




スポンサーサイト

0 Comments

Post a comment