大バーゲン (20.07.2008)

今、株が猛烈に安くなっている。もう1年以上も続く米国を発信源とした金融危機がまだ収まっていない不安定な時期に、原油価格が爆発。去年のこの時期70ドル/樽(バレル)程度で買えた原油が146ドルまで上昇した。その結果、ガソリンの値段は言うに及ばず、食料品、電気代、交通費とほとんどの面で価格が高騰。消費者は出費がかさむので、購入を控え始めた。すると商品が売れないので、企業の売り上げが悪化した。企業の成績が悪化すると、株価にも影響が出る。今年始めの株価暴落をやっと回復しかけた矢先の2008年5月末、世界中で株価の(再)暴落が始まった。この落下は7月中旬まで7週間も続き、とうとう2年振りの最安値を更新してしまった。

どれだけ株価が暴落したのか、わかりやすいように幾つか例を挙げてみよう。金融危機なので、当然、銀行株は暴落が激しい。ドイツ銀行は、金融危機の前は1株120ユーロに迫ったが、今週頭には50ユーロまで下落。会社の価値が半分以下になった。もっと悲惨なのはドイツ第二の規模を誇る航空会社Air Berlinだ。去年は20ユーロもした株価が今週頭には3.80ユーロまで下落。もうこれで底値と思っていたら、あるアナリストが「Air Berlin、コース目標0ユーロ。」と発表。つまり会社が潰れると予言。株価はさらにこの「底値」から10%も下落した。(翌日には21%も回復したが。)

金融危機発信源の米国では、もっとシビアだ。米国最大の銀行Citi グループは中東から多額の金を借りたが、未だに金庫は空。そこでドイツにあるCiti Bankを売っぱらう事に決定。ドイツの金融市場を独占したいドイツ銀行も興味を示したが、「競札」でフランス第二の規模を誇るCrédit Mutuelに負けて、「油揚げ」を口に入れる前にかっさらわれる形となった。目が当てられないのは、ドイツ第3の規模を誇ったDresner Bankだ。数年前、政界で一番大きい保険会社Allianzに買収されたこの銀行は、米国の銀行が絶対安全として販売した債権を大量に購入したが、実はこれがほとんど不良債権だった。Deutsche Bankなど先見の明のある銀行は、こうした債権を紙くず同然になる前に損を承知で売った。しかしDresner Bankは金融危機が頂点に達するまで不良債権の処理を怠り、不良債権は紙くずと化した。Dresner Bankの大赤字を処理する為に、会社の儲けの大半をつぎ込むことを余儀なくされたAllianzは、この役立たずの子会社を売却すべくドイツ第二の規模の銀行、Commerzbankと交渉中だ。

こうしてドイツの大企業の大バーゲンが始まった。一番顕著な例は、DAX(ドイツでトップ30の株式会社)に上場されているContinentalのSchaeffler一家による敵対買収だ。Continentalは日本のブリジストンのようなタイヤメーカーのイメージが強いが、実は、タイヤ、車の電子部品の他に、医療器械も生産している会社だ。去年は109ユーロもした株価だが、原油の高騰で車が売れなくなり、車および車の部品メーカーの株価が暴落、たったの54ユーロになった。これを見たバイエルン州の家族経営の車部品メーカーSchaeffler-Gruppeが「今が買い時!」と、Continentalの買収に乗り出した。あらかじめ説明しておくと、会社の規模、売り上げ、資本金ではSchaeffler-GruppeはContinentalの足元にも及ばない。はるかに規模の小さい会社が、ドイツの大企業の敵対買収を企てたのだから、相応の戦略が必要だ。ドイツでは特定の会社の株式を3%保有すると、株式取引委員会にその旨報告しなくてはならないが、そんなことをしたら買収に必要な株式を手中に収める前に、こちらの企図がばれてしまう。そこでSchaeffler-Gruppeは銀行と画策、銀行の保有株として2.9%まで株式をあちこちの銀行に買わせて十分な数の株を確保すると、Continental(以後、Contiと略)に正式に買収を申し入れた。(買収額は100億ユーロ)

このニュースが報道されるとContiの株価が爆発。昨日まで54ユーロの株価が33%も上昇して、72ユーロを超えた。(これまで眠れぬ夜を過ごしていた)Contiの株主は笑いが止まらなかったろうが、笑うどころではないのがContiだ。去年なら200億ユーロの価値があった会社だが、買収の申し出があった時点ではたったの90億ユーロの価値しかないのである。Contiは去年、車の部品製造会社を110億ユーロで買収したのだが、なんと今度は自分自身が100億ユーロで買収される羽目になったのだからこれほど皮肉な話もない。Contiはこの敵対買収に徹底抗戦すると記者会見にて発表したが、企業買収の後だけに金がない。敵対買収に抗戦する為、自社の株を買えば一番いいのだが、その金がない実情で、まさに一番不適切な時期の買収劇と言わざるを得ない。この為、アナリストはConti買収は時間の問題と見ている。

ちなみにこの見事な企業買収をしかけたのは、シェフラーグループのやり手の女社長、Maria-Elisabeth Schaeffler女史だ(正確には未亡人)。もしこの買収が成功すれば、世界で3番目に大きい自動車部品メーカーが誕生することになる。(世界一はドイツ企業のBosch、第二位は日本のデンソーだ。)現在の株価では、Contiの他にも買収されるドイツ企業が出てきそうだ。そうなれば、また株価が爆発するので、一儲けのチャンス。と、書いた翌日、工作機械を製作しているGildemeisterがロシアの投資家のターゲットになったと報道された。翌日の月曜日にはGildemeisterの株が15%も上昇した。次にターゲットになるのはどの会社だろうか。

編集後記
この時点ですでに底値を超えたと思われた株価は、9月のリーマンの経営破綻で暴落を加速、やっと2009年2月になって本当の底値に達した。この記事を書いた当時、「ドイツ銀行株50ユーロ。大暴落。」と書いたが、実際には16ユーロまで落ちた。なんと120ユーロから、16ユーロである。底値に達してから3年経ったが、未だにドイツ銀行の株価は32ユーロ前後である。

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Conti買収で見事な手腕を見せたSchaeffler女史。


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