AUA! *(27.08.2008)

ドイツから休暇に行く際、LTUというドイツの航空会社をよく使用する。(エコノミーの)席の前後の広さ(狭さ)77cmとドイツのエアラインではで一番狭く(ルフトハンザは81cm)、機内サービスはドイツ一般並み、アルコールの飲み物、機内放送を聴く為の(10分もすると耳が痛くて外す事になる。)イヤホンは有料、毛布は向こう側が透けて見えるほど薄々、枕はなし、機内食は空港のケータリング サービスが提供するメニューで一番安い物(食べれたものではない。)のだが、毎回使ってしまう。なんといってもデュッセルドルフが本拠なので、フライトはデュッセルドルフ発、休暇先まで乗り換えのない直行便だ。値段もルフトハンザより2割ほど安いとなれば、多少の不便には目を瞑ってしまう。又、この会社、創立以来ほとんど黒字を計上した事がない赤字経営でも有名でもある。いつ倒産するかわらないので、飛行機に乗れるかどうかスリルも味わえる。

航空事業というのは、営業がとても難しい。スイスやベルギーのような小さな国では、国内線の需要が極端に少ない。そこで国際線で儲ける必要があるのだが、国際線となると他のエアラインとの競争にさらされて、思うように儲からない。この為、ベルギーのサベナ航空は一番先に倒産した。スイス航空は、スイス企業への売り込みに成功、又、空港での航空機の整備事業、ケータリング サービス業などを受注して、小さい国の航空会社ながら黒字を出していた貴重な例でもあった。そのまま会社の運営を堅実に続けていればいいものを、新しい社長が会社拡大政策を取ったのが運の尽き。倒産したサベナに続きLTUを買収して、これらの会社の赤字をスイスエアーが負担する事になった。日に日に増していく赤字支払いを可能にする為、UBS(スイスで一番大きい銀行)からクレジットを受けて支払を行っていたが、一向に改善しないスイスエアーの経済事情に不安を感じたUBSがクレジットを止めてしまう。UBSからのクレジットを当てにしていたスイス航空は、数日の内に支払い不能に陥いり、飛行機は離陸できずにgrounding(地上待機)する事になった。航空業界でこれをやると、もう終わりである。二度と通常の運営に戻る事はできない。この瞬間は、スイス人にとって(スイス エアーはSwatchとNestleに並ぶスイスを代表す企業だっただけに)大ショックだった。このスイスエアーの破綻については、多くの本が書かれているので、興味のある方は読まれているといいと思う。一流企業がいかにして、短い期間に破綻する事が可能か、たくさんの教訓を提供してくれる。

スイス航空は紆余曲折(スイス政府による延命措置)の末、2005年に3,1億ユーロのschnaeppchen(大バーゲン)で、ルフトハンザに買収された。スイス航空が数年前にLTUの株を取得するのに、5億ユーロ近い金を払った事を考えれば、ミイラ取りがミイラになった感がある。ルフトハンザは買収後、スイス航空の命取りとなったLTUとサベナを処理する**と、スイス航空は2007年には黒字を出すまでに回復した。と言うのは簡単だが、赤字倒産に追い込まれた会社をわずか1年ほどで黒字を出す会社に再生したルフトハンザの社長のMayrhuber氏の凄腕が発揮されたいい例だ。

欧州にはいつ破産してもいい航空会社が他にもある。まずはアリタリア航空。国の税金を投入する事でかろうじて生き延びている。随分前から売りに出ているが、誰も買い手が見つからないほど悲惨な状況で、いつgroundingしてもおかしくない航空会社だ。一度、ルフトハンザが買収?と新聞のニュースになった翌日、ルフトハンザの株が急降下。その後、「アリタリア航空の買収に興味なし。」とルフトハンザから声明が出て、翌日には株価は回復したが。イベリア航空も破産候補だったが、英国航空に買収されて、破産の憂き目を見る事はなかった。そして最後の破産候補が、オーストリア航空だ。

オーストリア航空、正式名称は何故か英語でAustrian Airline、オーストリア人は愛情を込めてAUAと呼ぶ。会社の運営自体は堅実そのものだったのだが、如何せん、国内マーケットが小さすぎた。国からの支援で赤字操業を続けてきたが、折からの原油高***で赤字額が膨大になり、国がさじを投げた。AUAは正式に売りに出され、購入希望者を募る事となった。これに応募してきたのは、中華航空、S7というロシアの航空会社、トルコ航空、KLM-Air Franceグループ。(日本のANAがオファーを出したとも伝えられている。)正直なところ、オーストリア人にとって、ナショナルキャリアが中華航空やトルコ航空の傘下に入る事に喜びを見出す事ができなかったので、唯一我慢できるのは、KLM-Air Franceグループの傘下に下る事だったろう。あるいは(話が本当なら)ANAも選択肢に入っていた事だろう。

ところが8月25日になってルフトハンザが正式に買収に興味があると意思を表明。このニュースが報道されただけで(オファーはまだ届いていない)、AUAの株価は9.7%も上昇した。この株価の動きからわかるようにAUAの株主(オーストリア政府)は、ルフトハンザを理想的な買い手と考えている。(中華航空やトルコ航空からのオファーがあっても株価は変動しなかった。)もっともこのルフトハンザの慎重な態度からわかるように、ルフトハンザにとってAUA買収にかける意気込みはそれほど大きくない。理由は簡単。AUAを買収すると、また労働組合が増えてストに脅される事になる。又、スイス航空のケースと異なって、簡単に赤字部門を切り離す事ができないので、会社の建て直しが難航する恐れがある。つまり最小限度の利益に対して、最大限のリスクが含まれているのである。ルフトハンザにしてみれば、AUAはすでにStar Allianceのメンバーなので、買収するよりも、今のままの状況がいちばん都合がいい。あるいはANAがAUAを買収して、Star Allianceのメンバーに残ってくれるのが理想的な解決だろう。それにも関わらず、今回買収への意思表示をしたのには訳がある。

もしルフトハンザがオファーをしない場合、AUAがKLM-Air Franceグループの傘下に入ってしまう。そうなるとルフトハンザの勢力圏(ドイツ語圏)に、ライバル会社が運行するようになり、これによりルフトハンザの乗客数が減る事を懸念したのである。別の言い方をすればANAのカードに賭ける(他力本願)のは危険大と判断、万全を期す為、今回の買収の意思表示となった。今後、ルフトハンザが正式に買収のオファーをすれば、(ルフトハンザの社長もオーストリア人だし。)ルフトハンザが買収に成功する確率は高い。そこでルフトハンザはしばらく様子を静観して、ANAに買収のチャンスがないと見えてきた時点で、真面目に買収オファーを出してくる事になるだろう。

*AUA
ドイツに来たら、ドイツ人の頭(腕でもどこでもいいですが)を叩いてみてると、Aua!「痛い!」って言います。

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サベナは買い手が見つからず、消滅した。LTUはデュッセルドルフ市が税金をつぎ込んで延命措置を続けていたが、2007年、ドイツで第二の規模を誇るエア ベルリンが買収した。その後のエア ベルリンが何度も破産する、あるいはエア ベルリン自体が買収されるという噂が後を絶たない。

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原油高。ルフトハンザは、チケットの販売値段を決める前に、燃料を固定費で1年分買い置きする。これにはかなりのお金が必要だが、原油の値段の上下に関係なく利益を上げる事ができる。逆にこの方法では、原油の値段が下がった場合手に泡の儲けをみずみすと逃す事になるので、ほとんどの航空会社はこのような方法を採用しないで、四半期置きに燃料を買い付けている。これが幾つかの航空会社には命取りとなった。この辺にもルフトハンザの社長のMayrhuber氏の優れたマネージメントが見て取れる。


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groundingしたスイス航空は、

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映画にもなりました。

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機内サービスはLTU並みでした。AUA!


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今は亡きサベナ航空。
          
          
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