ドイツの銀行事情  (04.09.2008)

日本では90年代のバブル経済の崩壊後、銀行が幾つか破綻して、整理統合されたものの、まだまだ地方銀行が数多く存在している。例えば著者の田舎には中国銀行なる名前の銀行があり、これを英語に直すとBank of Chinaになるので 中国の資本かと思ったが、どうも違うものらしい。前置きが長くなりそうなので、話をドイツに持ってこよう。ドイツでは銀行がかなり整理統合されて、一般消費者にはDeutche Bank, Commerz Bank, Dresdner Bank, Sparkasse, Post Bank, Citi Bankの6つしか選択肢がない。勿論、その他にもBankhaus Metzlerのような(本当の)お金持ちだけを取引先とする銀行や、Landes Bankと呼ばれる地方自治体経営の銀行があるが、一般ピープルには縁がない。銀行の規模で言えば、Deutsche Bankは第二のCommerz Bankと、第三のDresnder Bankを合わせた以上に大きく、ドイツ唯一のグローバル プレイヤーと呼ぶ事ができる銀行だ。逆の見方をすれば、他の銀行は規模が小さいので買収されてしまう危険性がある。特にCommerz Bankは常に買収の第一候補(der ewige Uebernahmekandidat)として噂が絶えず、買収(つまり株価が上がる)を期待してCommerz Bankの株主になる投資家は少なくなかった。ところが2001年にドイツで最大の規模を誇る保険会社Allianzが、よりによってDresdner Bankを210億ユーロで買収すると、Dresdner Bankの株主は(株価が上昇して)大喜びして、Commerz Bankの株主はがっかりした。

しかしこれは、Commerz Bankの株主の苦慮の始まりでしかなかった。折りしも2007年の春、米国の不動産市場が破綻する。米国の消費者が不動産を買う際に利用したクレジット(ローン)は、世界中の銀行に、「絶対信用の置ける投資」として売られていたので、米国の不動産市場の破綻は、世界中に金融(銀行)危機となって広がっていった。ドイツも勿論、例外ではない。大手の銀行でこれに深くはまってしまったのが、Commerz BankとDresnder Bankで、Commerz Bankの株価は38ユーロから17ユーロまで、55%も落ち込んだ。(Dresnder BankはAllianzに吸収されたので、株式市場ではもう取引されていない。)あわよく一儲けを期待してCommerz Bankの株主になった多くの投資家の夢は、投資家の悪夢となった。しかし、金融危機の余波をもろにくらったドイツの銀行は、この2行だけではなかった。

ドイツ特有の銀行システムであるLandes Bankは、存在性の必要がないのに存在している銀行だ。州政府は税金を国民から(絞り)取ったり、公共事業として税金を支払いに使ったりするので、銀行が必要だ。世界の標準から言えば、民間の銀行を通して、支払いを行うものだろう。しかし、ドイツの州政府は、「民間の銀行を利用して(少ない)利子を稼ぐよりも、独自の銀行を作ってここでお金(税金)の流れを管理、運営すれば一儲けできる。」と考えた。そこで州政府経営の銀行、Landes Bank(LB)が誕生した。いくつか例を挙げてみると、NRW州にはWestLBというLBがあり、バーデン ヴュルテンベルク州にはLBBWと呼ばれるLBがある。このLBの目的は、国民のお金(税金)の管理だから、投機的な(一発大儲けを狙った危険な)投資をするのはLBの仕事ではない。ところが銀行の本来の仕事を忘れて、LBは国民の税金を米国の不動産に投資してしまった。米国で不動産市場が破綻すると、当然、ドイツのLBも破綻した。一番悲惨な例はザクセン州のSachsen LBだった。金曜日に支払不能の陥り、政治家が日曜出勤して、その日の内にLBBWに売り飛ばされた。銀行が1日で持ち主を変えたのだから、どれだけ悲惨な状況だったか、推して知るべしだ。その他にもWestLBは銀行の金庫に大穴を明けてしまい、1500人の行員を路頭に送り、他の銀行からお金を借りてなんとか一命と取り留めている。

米国の銀行から腐ったクレジットを買って、経営が行き詰まったのはLBだけではない。一番悲惨な例は、IKBと呼ばれる中小企業への企業融資を行っている(べきだった)銀行だ。この銀行はこれまでに明らかになっただけでも9億ユーロもの損出を計上した。通常、このような天文学的な赤字を出すと銀行は潰れるものだが、ドイツではおそらく世界で唯一の稀な法令があり、銀行客のお金(預金)は、銀行倒産の際、国が補償する。この為、ドイツ政府の銀行(KfW)は(倒産してから預金額を補償するよりは、税金をつぎ込んで倒産させない方が安くあがるので)、湯水のようにIKBに税金をつぎ込んだ。この甲斐あって、IKBは倒産を免れたわけだが、IKBの頭取は今回の経営破綻で責任を問われた際、「私に責任、落ち度あったがとは思えない。」と(ドイツ的な)発言をして、国民の怒りを買った。この辺、銀行が倒産して、記者会見で平に謝っている日本の銀行の頭取といい対象をなしている。IKBはその後売りに出されたものの、全く買い手が付かなかった。そこでドイツ政府が(つまり納税者が)、「今後さらに発生する不良債権の責任を引き受ける」というお墨付きの条件を出して、なんと100万ユーロのSchnaeppchenで米国の投資家グループに売却された

中には今回の不動産&金融危機でほとんど損害を出さなかった銀行もある。PostBankだ。その名の通り、郵便局の銀行なのだが、その生い立ちからして業務の中心は国民(預金者)の財産管理だったので、投機的な投資をほとんど行っていなかった。危機の前では、銀行は投資で金を稼ぐもので、銀行の投資部門はエリート部門、個人客を扱う部門は、「金にならないが、提供しないわけにはいかない必要悪。」と考えられていた。この為、留学生などが大手の銀行に口座を開こうとすると、あからさまに嫌な対応をされて、「口座を開設してもいいですけど、半年くらいかかりますよ。それでもいいですか。(つまり、他に行け!)」と言われる事が少なくなった。そんな風潮があったから、Post Bankは金にならない(金がない)客ばかり扱っている三流銀行と、大手の銀行から笑われていた。ところが今回の金融危機で状況が一気に変った。エリート部門であるはずの投資部門は天文学的な損失を計上して、銀行のお荷物となり、逆に個人客部門は堅実な商売分野としてみられるようになった。これがきっかけで、個人客の争奪戦が始まった。これまでは口座の維持料が必要だったのだが、口座の維持料が相次いで無料になった。またお給料などを振り込む当座口座(Girokonto)にはほとんと利子が付かなかったのだが、銀行は4%まで利子が付くTagesgeldkontoを導入した。この競争の勝者は、よりによってこれまでの笑い者になっていたPost Bankだった。

これまで客を差別する事なく口座を提供してきたPost Bankは、個人客の数が一番多い。勿論、個々の客の預金高は少ないが、「塵も積もれば山」の原理で、堅実な銀行(投資)業務を行い大手の銀行が四半期ごとに赤字を出す中、堅実に黒字を出していった。そんな個人客獲得競争の中、Post Bankの親会社Deutsche Postが、「(一番多くのお金を提供する銀行に)Post Bankを売却します。」と発表したので、ドイツ国内(Deutche BankとCommerz Bank)だけに限らず、諸外国からも買収のオファーが届いて、Post Bankの株は50%近くも上昇、70EUR直前にまで迫った。ここでPostは大きなミスをする。高値が付いた瞬間にさっさと売っておればいいものを、「もうちょっと待てば、もっと高く売れる。」と判断、決断を先に延ばしてしまった。

そうこうしているうちにが金融危機がますます悪化、米国で大手の銀行が倒産をすると、まずドイツ国内にあるCiti Bankが売りに出され、これにDresdner Bankが続いた。Post Bankだけが売りに出ていたなら、売り手市場だったが、同時に3つもの大きな銀行が売りに出されると、供給が需要を上回り、銀行の値段が下がってきた。まずCiti Bankはおフランスの銀行に売却され、Dresdner BankはCommerz Bankに買収された。この結果、Post Bankを買う余裕のある銀行は、Citi Bankを買い損ねたDeutche Bankのみになってしまった。Deutche Bankは、「他に競争相手が居ないのなら、そんなに高い金をオファーしなくてもいいだろう。」と判断、当初出していた買収のオファーを取り下げたことを発表すると、PostBankの株価は50%近く暴落して、40ユーロにまで値が落ちてしまった。結局、今になってもPost Bankの売り先が決まっていない。株価が70ユーロに迫ったときに売っていれば、高く売れたものを。欲の皮が突っ張ると、損をする見本のような例だった。今後、Post BankはDeutsche Bankに買収されることになるだろうが、おそらくDeutsche Bankは(一株あたり)70ユーロのオファーを出すことはないだろう。

編集後記
Post Bankは結局、25ユーロ/株でドイツ銀行に買収された。ここで「17ユーロにまで暴落した。」と書いたCommerz Bankの株価は、銀行が国有化されるととの噂が広まった為、2011年に1ユーロ20セントまで暴落した。ギリシャの国債を大量に保有していたのが、痛かった。


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最後の最後まで責任を取る事を拒否した取締役達。


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今年中には売られる予定のPost Bank。買い手はDeutche Bankになるだろう。


        
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