欧州航空業界再編成。  (29.09.2008)

米国にWalMartというデイスカウント スーパーがある。このスーパーは不景気になる度に経営困難に陥ったスーパーを買収して、市場の占有率を広げていった。幾つかの経済危機を経験した21世紀には、WalMartは米国で最大のスーパーになった。(多分、世界で一番の売り上げを誇るスーパーだろう。)このように不景気は、ある企業にとって致命的なダメージとなりえるが、別の企業にとっては競争相手を買収して、市場の独占率を高めていくチャンスでもある。折からの不景気で、航空業界は大赤字。これをきっかけに、生き残りをかけて航空会社間の争いが激化している。

欧州航空業界の覇権争いをくり広げているのは、KLM&エア フランスグループと、ルフトハンザだ。覇権争いの行方を決めるのは、搭乗客(ドル箱路線)をどれだけ多く獲得するかに集約される。搭乗客数を手っ取り早く増やすには、他社を買収すればいい。勿論、他社を買収しないで、自社で新しく路線を開設する方法も理論上は可能だが、実際には実行は難しい。まず空港に乗り入れ申請をして、離着陸できるようになるまでに、かなりの時間と大金を投資しなくてはならないが、そうして苦労して開設した路線は、早々から既存の路線に対して客の奪い合いを展開する事になる。しかし、往々にして特定の路線を飛ぶ客の数は決まっていているので、新しい路線を開設すると供給過多になり、結果として値崩れが起こる。こうして新しい路線は往々にして赤字路線となり、採算が取れないケースが多い。ましてや、離着陸許可が下りない場合もある。そんな危険を冒すよりは、経営困難に陥った航空会社を買収すれば、空港の離発着権に顧客もついてくるので、一石二鳥。あとは赤字路線を切り捨てて、黒字路線に集中すれば、会社の収益率は向上する。この為、両グループの間では、経営困難に陥った航空会社の買い取り合戦が展開されている。

この競争で一歩リードしていたのはKLM&AFグループだった。ところがここでルフトハンザが反撃に出た。まずはスイス航空を格安の値段で買収すると、今年の9月、大方の予想に反してブリュッセル航空を買収した。これはまたしてもルフトハンザのMeister Stueck(離れ業)だった。ブリュッセル航空は、ベルギー史上最大の会社倒産劇となったサベナ航空の倒産後、ベルギー政府の指導で、サベナの残存部分がVirgin Expressの助けを借りて2007年に誕生した航空会社である。名前が変わっても、かってのサベナを倒産に導いた諸環境はそれほど変わっていない。そこでブリュッセル航空は会社の創設時から、パートナー探し(売却先)を探してきたが、KLM&AFグループに売却されるのは確実と思われていた。

ベルギーは大きくわけて二つの民族が共存する国家である。北部には(日本ではフランダースの犬で有名になった)オランダ語を話すFlamenが住んで、貧しい南部から独立するか、オランダに併合されることを望んでいる。南部にはフランス語を話すWallonenが住み、一日も早くベルギー国家を解体して、フランスに併合されることを望んでいる。だからオランダ航空とフランス航空のグループに買収されるのは、AUAがルフトハンザに買収されるのと同様、当然の事と思われていた。ところが実際に蓋を開けてみると、ブリュッセル航空はルフトハンザに売却されたので、KLM&AFは鼻先から油揚げを掻っ攫われた気持ちだったに違いない。

欧州で売りに出ていたのはスイス航空、AUA、ブリュッセル航空、イベリア航空、それにアリタリア航空である。スイス航空とブリュッセル航空がルフトハンザに買収され、今後、AUAもルフトハンザに買収さる確立が高い。過去数百年に渡ってフランス、ドイツ両国と戦争をしてきた英国にとって、この両国の軍門に下るのは彼らの誇りが許さなかったのか、あるいは(日本航空のように)競争を寝過ごした結果か、英国航空は独自の道を模索、(ルフトハンザがさじを投げた)イベリア航空買収という手段に出た。(スイス航空の二の舞にならなければいいが。)この結果、残ったのは誰も欲しくないアリタリア航空のみとなったので、KLM&AFは、欧州での覇権をルフトハンザに明け渡したくなければ、アリタリアを買収するしかない。もしKLM&AFがブリュッセル航空を買収していれば、ルフトハンザにアリタリア航空を押し付ける事ができただけに、今回のルフトハンザのブリュッセル航空買収は戦術的に大きな意義を持つ。

ちなみに誰も欲しくないババ扱いされているアリタリア航空は、ベルスコーニ首相の発言に見て取れるように、ルフトハンザに買収してもらいたくて仕方がない。しかし肝心のルフトハンザは「イタリアとの同盟は二度と御免こうむる。」という立場なので、この可能性は低い。それにアリタリア航空でおしいしい部分は、北部のミラノ発着の便だけ。他の路線はほぼ完璧な赤字路線だ。ルフトハンザがAUA,スイス航空、ブリュッセル航空を買収した暁には、ミラノ発、ミュンヘン、フランクフルト、チューリヒ、ウイーン、リンツ、ブリュッセル行きのドル箱路線を押さえてしまっているので、わざわざミラノ発着便だけの為に、大赤字を抱えるアリタリアを買う必要性はない。アリタリア航空はおそらくKLM&AFグループあるいは、英国航空に買収されることになるだろうが、どこの会社がこれを買うにしても、イタリアのストの頻繁度を考えると、アリタリア買収は茨の道となる事だろう。

編集後記
案の定、アリタリアはKLM&AFグループに売却された。そして案の定、大赤字に陥って、社長を解任した。あまりに読みやすい展開であった。
          

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ルフトハンザに買収されたブリュッセル航空。


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北部には港湾の発展で裕福になったFlamenが住み、南部には経済発展か ら取り残されたWallonenが住む。



        
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