Verzockt! (10.01.2009)

ドイツ人から(首相在任中は大反対デモを連日して首相の座から蹴り落としたのに、今になって)とても敬愛されているかってのシュミット首相が、今の経済危機が起きる数年前に演説、あるいはその著者の中で、「以前は株式は株式で、株価が上がれば上がった分お金が儲かったし、株価が下がれば下がった分、お金を失った。しかし今日では、株価が下がっても金を儲けることができるし、その儲けを数倍にする事ができる。そのようなシステム下では、株式は株式ではなくなり、証券という名前に変わってしまった。果たしてどれだけの市民が、あるいは政治家が、このシステムが秘める危険を認識しているだろうか。」と金融システムに対して警告を発していた。ますます深刻さを増す金融危機を目のあたりにして、氏の先見の明に改めて感心させられる。

猛威を振るう金融危機のアップデートだが、AllianzからDresdner Bankを買収したCommerz Bankは、Dresdner Bankの抱える巨額の負債で倒産の危機に直面、再度国に財政援助を求めていた事が1月8日になって明らかになった。国はCommerz Bankを救う為、銀行の25%の株式と引き換えに100億ユーロの財政支援(以前に80億ユーロの援助を受けているので、合計180億ユーロ。)を行うと発表、事実上、ドイツ第二の規模を誇る大銀行を(一部)国有化した。このニュースが伝わると株価は大暴落して、Commerz Bankの株価で計算した市場価値は50億ユーロにまで減額した。この額はDresdner Bank買収に払う金額よりも低い額である。まさにミイラ取りがミイラになった感がある。逆にDresdner Bankを売却することに成功したAllianzは安堵のため息をもらした事だろう。今ならただでも貰い手がみつからなかっただろう厄介者を(価値が無くなる前に)売却することができたのだから。このニュース発表と同時にAllianzの株は急上昇した。

株式取引では、あらゆる方法で株式取引をしてお金を儲ける(あるいは失う)ことができる。自分の好きな会社に限定して投資をしてもいいし、自分の好きな業界(銀行、車産業、原材料)に絞ってもいいし、米国、東南アジア、中国、インド、アフリカの株式市場の動きに投資してもいいし、石油やコーヒー豆は言うに及ばず、豚肉にまで投資できてしまう。そうかと思えば、投資の対象だけでなく、投資する期間を限定して、その期間に値段が上昇するか、下降するかに賭けてもいい。それでも足りないなら、儲けが数倍になるHebelzertifikatという証券に投資してもいい。値段が予想通りに推移すると、(株式の知識は何もなくても)短期間で少ない元手で大金持ちになることも可能だ。(勿論、短期間で破産することも可能だ。)こうした証券がどんな仕組みになっているのか、興味が尽きないところだが、株価が落ちても金を儲ける方法について簡単に説明してみよう。

まずヘッジファンドは銀行など、株式を大量に保有している金融機関から株式を大量に借りる、例を出すとわかり易いので、株を30ユーロ/株で10万株借りてくる事にしよう。この株を一気に売りに出せば、株価は下落して25ユーロになる。ここで売却した株をこっそり買い戻す。こんな簡単な方法で、5ユーロ/株、つまり50万ユーロも儲かってしまう。その後、借りた株式を銀行に手数料を払って返却する。こうした証券取引をLeerverkauf(空売り)と言うが、物を右から左に移すだけで50万ユーロも儲かってしまうのだから、ヘッジファンドが暗躍するのも無理はない。それまでは真面目な銀行業務をしていた銀行も、銀行内の投資部門でヘッジファンド同様の仕事を始めた。これに熱心だったがスイスで一番でかい銀行USBだ。しかし折からの金融危機で銀行は大やけどを負って、銀行は倒産寸前まで経営が傾いた。「あのスイス人」がこのようなミスをするのだから、米国の投資銀行が次々と破綻していったのも無理はない。

話は(脈絡もなく)いきなり70年前にさかのぼるが、VWはあの有名なポルシェがヒトラーの依頼で設計した自動車を製造する為に作られた会社だ。2002年からVWの社長に納まっているピエヒ氏はあのポルシェの孫にあたり、ポルシェ一族とVWの関係は今日まで深い。これとは別に高級スポーツカーを製造しているポルシェがあるが、Wiedeking氏が社長に就任以来、会社を破産の憂き目から救ったばかりではなく、トヨタでさえもうらやむような企業効率のいい会社に変身させた。この会社(ポルシェ)は言うまでもなくポルシェ一族の支配下にあるのだが、会社の調子があまりにいいので、VWを買収してポルシェの支配下に収めようと画策している。以来、VW株は休みなく上昇を続け2008年の初めには株価が150ユーロを超えた。今回の金融危機で大方の株価が半減する中、VWの株だけは何故か急上昇、誰かがどさくさにまぎれてこっそり株を買い占めているのが明らかだった。VWの株価がついに200ユーロを超えると、ヘッジファンドは「この金融危機の時期、これ以上株価が上がることはあるまい。」と判断、空売りをして株価を下げようとした。ところが、ヘッジファンドはポルシェの企図を計算に入れていなかった。突然、VWの株が大量に市場に出て株価が下がると、ポルシェは「濡れ手に粟」でVWの株を買い捲った。すると下落するはずの株価が上昇して350ユーロになってしまった。これに驚いたのがヘッジファンドだ。200ユーロで売った株が350ユーロになったのだから、大損である。しかし借りた株は返さなければならない。この為、350ユーロという値段にもかかわらずヘッジファンドは放出した株を買い戻すべく、買いオーダーを出した。すると市場にはVWの株は全発行部数の6~7%のみ残存する状況になり、この株をめぐってさらに買い注文が殺到、株価はなんと1000ユーロを越えてしまった

普通、株価がこのような異常な変動をすると、株式取引が中止されるものだが、ドイツの株式市場にはそのような取り決めがない。さらには、ドイツの株式市場を経営している会社は、株が売られる(あるいは買われる)際の手数料が会社の収入減だから、これを自ら断つなど愚の骨頂。政府から「VW株式の取引を中止せよ。」との警告が来ると、「政府は自由経済に介入すべきでない。」と回答、政府の要求を蹴った。

今回のVW株の大騒動で大儲けをしたのはポルシェ。以前100~200で買っていた株価が1000ユーロになったのを見ると、これを売りまくった。逆に大損をしたのはヘッジファンド。200ユーロで株を空売りした株が1000ユーロになって、これを生き延びれるヘッジファンドはない。しかし、実際には他にも著名な被害者が居た。

ドイツでトップ5の金持ちで、3つの大企業を所有するMerckle氏は、金融危機に続いた経済危機で会社の成績が悪化、大きな赤字(160億ユーロ)を抱えていた。会社の資金を調達する、氏はVWの株、よりによってHebelzertifikatに手を出してしまう。下落する株に賭けた氏の財産はVW株大騒動の3日間で消散、さらに10億ユーロもの負債を抱えてしまう。窮地に陥った氏は、会社の支払能力を保持するべく銀行と融資の交渉に入るが、金融、経済危機のいまどき、160+10億ユーロのも負債を抱えるMerckle氏に融資しようとする銀行はなかった。それだけではない、氏が両親から受け継いで大企業に育てた薬品会社を、借金の形に売るように圧力をかけてきた。自分の腕で築き上げた帝国が、VW株への投資失敗で崩壊して行く様を見て、氏は生きる希望を失くし自殺してしまう。氏の自殺が明らかになると、これまで融資を渋っていた銀行も(非難を恐れて)融資を承諾した。

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最初のVWに試乗する総統とフェルディナント ポルシェ。ちなみに車は公式にはKdF-Wagenと呼ばれた。

 
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