Currywurst mit Mayo – ohne Pommes (16.01.2009)

まずい兵法のひとつに、ドイツ人がよく言うサラミ戦術(Salamitaktik)というのがある。サラミのように兵力が消耗したら、新しい一切れを投入するという方法だ。典型的な戦例はベトナム戦争。米国は特殊部隊だけでベトコンに対処できると敵を過小評価、正規軍の投入をどうにもならない事態になるまで引き伸ばした。その後も敵を過小評価していた為、常に小規模の正規軍を投入、最後は大軍を投入したがすでに戦局の流れを変える事はできなかった。メルケル首相の不況に対する戦略もこれとよく似ている。まずは効果のない小規模の景気対策を実施、欧州共同体が大規模な景気対策を行おうとすると、拒否権を発動してこれを拒否して、「まずはどんな展開になるか様子を見る。」事にした。それから2ヵ月後、不況は収まるどころか、ますますその勢いを増し「総崩れ」の概観を呈してきた。そこで今回、第二段の景気対策(正規軍)を発表(投入)ということになった。あるドイツの経済政治評論家がこのMerkel首相の立ち振る舞いを、「メルケル首相は、不況に対処する必要性よりも、選挙前に失敗をしない必要性に動かされている。」と、コメントしていたが、言い得て妙、見事に首相の心境を描写している。

さて、話を閣議決定された景気対策にもってこよう。額面は総額で500億ユーロ。その内訳は、320億ユーロはさまざまな(意味のない)減税で、180億ユーロはインフラへの投資になる。この前までは大蔵大臣が減税に猛反対していたのに、2ヵ月後にはただの減税ではなく、大型減税が決定されたという事自体、政府首脳の誤算を如実に示しているが、まずは減税の中身を見てみよう。まず古い車(生産から9年以上経過)をスクラップにして、新しい車を買うと、国から2500ユーロのボーナスが支給される。例えばAudiのA4は9年前のモデルでも2800ユーロの市場価値があるので、誰だって車をスクラップにしないで、車を売却するだろう。逆に9年前のトヨタのカローラなら2000ユーロ以下の価値なので、車をスクラップにするだろう。ここで問題なのは、カローラをスクラップにする人は、元からAudi(ドイツの車)を買うだけの財力がない事。そんな人にスクラップボーナスの2500ユーロを支給して、運良く新しい車を買う事になっても、買われるのはまた日本車か、もっと安いフランスか韓国産の車だ。つまり不況に悩むドイツの自動車業界には、何の助けにもならない。

次に所得税も減税になる。と聞けば嬉しくなるが、平均的なサラリーマンの取得税が1%減額されるだけ。月当たり8~10EUR程度財布に多く残る事になるが、あまりに額が少ないので、これに気づく事はないだろう。これに加えて(7月以降)、この前の景気対策で値上げになった健康保険料が、値上げになった分、値下げになる。コメントは必要ないだろう。最後に子供の居る家庭には一人に付き100ユーロ(一回きり)支払われるが、2009年に初頭に暖房費の追徴金請求が届けば600~700ユーロ支払うことになるので、何も残らない。ちなみにこの政府の減税を国民一人頭で計算すると、一人頭3ユーロ10セントになる。これで内需の活性化を期待するのは、かなり無理がある。野党FDP党首のWesterwelle氏は、この政府の減税対策を„eine Currywurst mit Mayo – ohne Pommes“(焼きソーセージにマヨネーズは付いても、フライドポテトは無理。)と表現(非難)、国民の賛同を受けた。*

それでは政府の景気対策は全く効果がないのか?と言うとそうでもなく、景気対策のもう一方の柱、180億ユーロのインフラ設備への投資に期待が寄せられている。投資の対象になるのはボロボロになっているドイツの道路、学校、大学など。残りは病院などの公的施設に投資され、2010年は線路、水道網に投資される。実際、ドイツの線路網はボロボロで、路線をよく見るとReichsbahn(帝国鉄道)などど刻印が押されており、30年代の大不況時、ナチス ドイツが不況対策の為に敷いた路線を今でも使っている。学校や大学は雨が降ると、雨漏りするのでバケツで臨時処置をしている様だし、コンクリートの壁や天井がもろくなっているので網を張っている。道路はまるで地雷が炸裂したような穴が開いているので、制限速度は30Km/hに制限されている。こうしたインフラ設備に投資するのは「未来」への投資で、景気がよくなれば、経済の効率化に寄与する。又、仕事の受注減に苦しむ企業を助ける事にもなる。それでもやはり問題もある。

こうしたインフラ設備は国ではなく、地方自治体に属している。ドイツの法律では、自治体の設備修理に国が資金を出す場合、自治体がその半分の資金を出すように定められている。しかしルール工業地帯の諸都市では町は衰退する一方で、失業率が高く外国人ゲットーと成り果てデユーイスブルクやゲルゼンキルチェンなどの街にはそんな金はない。この為、国が(例えば)100万ユーロの金を補助金を出しても、この金はインフラの整理に使われることなく、地方自治体の定期預金に振り込まれて終わりになる。その前に、こうしたインフラ設備の受注を受ける建築業界は、ドイツでは米国、スペインのような不動産ブームがなかったので、不況に見舞われてない。不況に悩むのは鉄鋼、自動車、化学業界だが、この分野へは直接投資されないので、不況に悩む業界から、この景気対策は「的外れ」との意見も聞かれる。

実際の所、今のドイツ経済に欠けているのは、銀行の融資である。ここでも何度か紹介した通り、ドイツ政府は銀行救済法の適用に厳しい罰則を科している。この為、多くの銀行はこの救済法の適用を申請する代わりに、企業への融資を断ることにより銀行の自己資産比率を高めようとしている。これにより、この不況時に受注があっても、企業は投資ができず、さらに不況は深刻さを増すという悪循環になっている。世界最大の化学品会社BASFの社長は、「500億ユーロもの金を、その効果のあやふやな目的に費やすよりも、銀行救済法を改正して、罰則なしに銀行が金を借りれるようにすべきだ。」と的を得た「景気対策」を提唱している。

しかし、ドイツ政府は本当に兵力(金)を必要とする場所に兵力(金)を派遣(注入)せず、選挙運動に向け、まずは国民に得点をすることを優先した。だから上述のFDP党首のWesterwelle氏がこの景気対策を、「税金で支援された、かってない規模の大型選挙戦」と非難するのももっともな話だ。尚、政府は銀行に融資を断られて自殺した企業家の悲運を見て、財政難にある会社への支援金として1000億ユーロの資金を用意したが、これは銀行の仕事であり、国の仕事ではない。BASFの社長が言う通り、政府が人気のない銀行救済法にこだわらないで、これを改正すればそれで済むことなのである。

今回の景気対策は全くの無駄ではないが、効果は薄いだろう。ドイツ政府は未だに自体の深刻さに気づいておらず、サラミ戦略でこの不況を乗り越えようとしている。過去、この戦略でうまく行った例がほとんどないので、今回もその確立が高い。また2~3ヶ月して、政府が景気対策案Nr.3として、人気のない銀行救済法を改正するのも十分有り得る事だ。

*Currywurstはドイツ人の大好きなスナック。通常は、これまたドイツ人の大好きなフライド ポテトにマヨネーズと一緒に注文する。つまりフライド ポテトのないCurrywurstとは、蛸の入っていないたこ焼きと同じで、「がっかりする内容」という意味になる。


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減税により国民一人あたりに支給されるボーナス。ただしPommesなし。


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