Das war nicht das erste Mal,, (25.01.2009)

ドイツで働いて税金を払っていると、ドイツのシステムを批判的な目で見る事が多くなる。こうした事例をここで紹介していると、「ドイツって全然駄目じゃん。」と思われる事が多い。しかし冷静になって日本とドイツを比べてみると、ドイツのシステム、つまりドイツ人の考え方の方が、日本のシステム、つまり日本人の考え方よりも優れている点も決して少なくない。ただそのような事例は、ここで紹介される事が少ない。そこで、たまにはドイツ(人)のいい所も書いてみよう。

ロシアは世界最大のガス産出国。ドイツのガス市場に占めるロシア産のガスの割合は35~40%。ロシア産のガスは、右図にあるように、2本のパイプラインを通してドイツに送られてくる。一本はポーランド経由、そしてもう一本がウクライナを通っている。日本でも報道されていたと思うが、ロシアとウクライナの間でガスの値上げ交渉が決裂、ロシアがウクライナへのガスの供給をストップした*。これによりドイツもとばっちりを受け、唯一、ポーランド経由でのみロシアのガスが供給される事になり、ガス不足が生じた。ウクライナ経由のパイプラインに依存している東ヨーロッパは、もっと悲惨。ちょうど20年ぶりの寒波が来てドイツでもマイナス30℃まで気温が下がった時だけに、凍死者を出す事になった。当然、欧州内ではこの問題は最優先課題となり、欧州議会から仲介人が両国に派遣されたが、仲裁は難航した。

日本では寒くなるとストーブで部屋を暖かくすることが多い。しかし欧州は日本よりも冬が長く厳しいので、ストーブでは間に合わない。それに快適さを重視する欧州では、ストーブのような点の解決方式は歓迎されない。そこでアパートは(東ドイツなどの一部の例外を除き)、セントラル ヒーテイングが完備されている。これにはガスか軽油を使用する。日本ではガスを台所で使うことが多いが、なんとプロパンガスのタンクが自宅まで届けられる。これは人件費の安い(あるいはサービス過剰な)国で見られる現象であり、ドイツでは有り得ない。そんなことをしたら、ガス料金よりも、配達料金の方が高くなる(と言うのは誇張だが、ガス料金がべらぼうに高くなる。)そこでドイツでは水道同様に、地下にはガスのパイプラインが毛細血管のように巡らされており、ガスの産出国からアパートのキッチンまで延々とパイプラインで送られてくるのである。

実の所、すでに2年前に、全く同じ状況でロシアからのガス供給が不安定になったことがある。そこでドイツ政府はなんとかロシアのガスの市場占有率を下げる為、アゼルバイジャン産のガスをグルジアを通して(つまりロシアを迂回して)ドイツに届ける世界で一番長いパイプラインの敷設を始めた。しかし、ロシア人も馬鹿ではない。目の前で金の鳥(ドイツのガス市場)が逃げていく様を黙って見守るような事はしない。以前なら軍隊を送ってこの地方を軍事占領しただろうが、今回はもっと賢く対応、このパイプライン会社の株式を取得、大株主になってしまった。これにより、ロシア産のガスがこのパイプラインを通して流れることになり、ドイツ政府の目論見は見事に潰された。ロシアからのガス供給に依存することを恐れたドイツ政府は、今度は東からのガス供給ではなく、南からのガス供給に注目、アフリカの大産油国、リビアの独裁者カダフィ大佐とガス供給の交渉に入る。しかし、ロシア人も馬鹿ではない。目の前で金の鳥(ドイツのガス市場)が逃げていく様を黙って見守るような事はしない。以前なら軍事援助を送ってこの国を共産圏に取り入れただろうが、今回はもっと賢く対応、リビアで算出されるガスをすべて買い取る契約を結んでしまった。これにより、リビアからのガスでも、結局はロシアから買う事になり、ドイツ政府の目論見は見事に潰された。唯一、北(ノルウエー)からのガス供給だけが、ロシアの締め付けを逃れる供給先となったが、パイプラインは一本だけでとても欧州の需要を満たすことはできず、ドイツ、ひいては欧州は、ロシア産のガスに依存することになった。

この八方塞りの状況を見たドイツのガス会社は、地下に巨大なガス貯蔵施設の建設を始めた。この貯蔵施設は2007年に完成、ドイツで一ヶ月に使用される膨大な量のガスを貯蔵することが可能になった。そして今回、恐れた(予測できた)事態が発生、ロシア産のガスの供給が(一部)止まり、東ヨーロッパは凍え上がることになった。しかし、ドイツはガス貯蔵施設のお陰で、凍えることがなかった。それだけではない、ドイツを通してロシアのガス供給を受けているオーストリア、スイスは、ドイツの貯蔵施設からガスの供給を受けることができ、ロシアのガス供給ストップの影響を最小限度に抑えることができた。(スイスでもオーストリアでもそのようなガス貯蔵施設は建設されていなかった。)ちなみに、ドイツで石油を販売する会社には、有事に備えて90日間の供給を可能にする貯蔵施設の建設が義務になっている。しかし、ガス会社には、そのような制約、義務はない。にもかかわらずドイツのガス会社が大金を投入して貯蔵施設を建設したのは、欧州では(著者の知る限り)他に例を見ず、賢い措置だった。この一件を有名なドイツ人テレビ司会者が、" Das war nicht das erste Mal, dass Russen im Mitten eines Winters uns Aerger machten."「ロシア人が真冬に厄介ごとを引き起こしたのは、今回が始めてではない。」と的確に指摘していた。結局の所、ドイツ人のロシア人に対する不信感は、スイス人やオーストリア人のそれよりも根強く、これが幸いした。

さて、肝心のガス供給ストップ問題だが、(上述の)ウクライナの首相が果敢にも単独、敵地に乗り込み、供給開始に向けて交渉を行った。テイモシェンコ首相に勝ち目はあるとは思ってもいなかったが、流石は大学で経済学を専攻、その後、家族経営で石油会社を設立した才女、あのロシア首脳陣を相手に一晩でこの問題に決着をつけてしまった。その妥協案によるとウクライナはロシアの要求するガス料金20%アップを呑む。その代わり、ウクライナは領土を通過するガスにこれまでよりも高い「通過料金」を貸してもよい事となった。早い話が、ウクライナがロシアのガスに払う金は(ほぼ)これまで通りの値段で済むことになった。この裏には経済不況だけでなく、オイルの値段が下落して国の経済状況がどん底にあるロシアの状況があった。ロシア政府首脳は、石油とガスの資源にばかり頼って、他の産業の育成を完璧に怠った。この為、石油とガスによる売り上げを削除すると、ロシアの国内総生産高はデンマークほどの経済力しかないのである。折りからの経済不況で原油、ガス価格が暴落すると、ロシア経済は、ドイツや日本よりもはるかに厳しい不況に陥った。こ台所事情の厳しいこの時期に、今回のガス供給ストップである。本来はウクライナを罰する(脅す)目的であったのに、自ら始めたガス供給ストップで国の収入はさらに激減、毎日億単位の損を出し始め、自分の首を絞め始めた。これをよく理解していたのが、石油会社経営の経験のあるテイモシェンコ首相だ。日本の政治家ならロシア人の脅しに負けて譲歩しただろうが、一向に動じず、見事にウクライナの要求を突き通したばかりでなく、ロシア政府の面子も救う妥協案にこぎつけた。あっぱれである。

* ロシア政府はガス供給の値段交渉(脅迫とも言う。)が思惑通りに進むように、交渉の時期を真冬にしている。真冬にガス供給を止めれば、真夏にストップするよりはるかに効果がある。
          

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ロシアの国営ガス会社Gazpromはウクライナを迂回するパイプラインを計画中(赤線)。

 
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