東西不況比べ (06.03.2009)

今回の不況の影響をもろに受けたのは車産業。ドイツ、米国、日本、何処でもこれには変わりはないが、米国の車産業は他の国の車産業に比して特に被害甚大、クライスラーとGMは破産寸前で、国からの巨額の財政支援でかろうじて生き延びている。米国ではガソリンが日本や欧州に比べて安価だったので、又、アメリカ人もでかい車が好きなので、ガソリンを大量に消費する車ばかり生産していた。フォードなどは欧州で生産、販売しているフォードの小型車を米国市場で売ることを「会社の沽券に関わる。」として拒否した。GMは傘下にあるドイツのオペル、日本のスバルなどの小型車を米国で販売することを禁止した。ところが原油価格の上昇で、でかい車が一向に売れなくなった。これに続く経済不況でガソリンは安くなっても、1~2年でまた高騰するのは目に見えているので、市民はでかい車を避けるようになり、又、車を買う金を節約して貯金し始めた。こうして米国の車産業は売れない車を大量に抱えて、着実に破滅へと向かい始めた。

米国の車市場が低迷すると、大型高級車を生産しているBMWやメルセデスのようなドイツの車メーカーもこの影響を受けたが、一番悲惨なのはオペル。親会社のGMが倒産間際なので、万年赤字の子会社のオペルにお金を送金できなくなったのである。オペルが倒産すると何万人もの失業者が出るので、又、今年は選挙もあるのでこれを何としても避けたい政府だが、連立与党CDUは米国の共和党に似た政策を取っており、苦境に陥った企業を政府が公的資金を導入して救う事に反対している。しかしよりによってCDUの政権下にある州(Hessen, NRW,Tueringen)にオペルの工場が集中しているのである。早い話、党の方針を守ってオペルを助けないで倒産させると、政権を失ってしまうので、しぶしぶ救済安を検討している。一番手っ取り早いのは、日本のスバルのように、他の車メーカーがオペルを買う事だが、BMWやメルセデス、VWは自分が生き延びるのに必死で、そんな興味(金)はない。そこで結局は、(遅かれ、早かれ)政府が公的資金を導入してオペルを救うことになるだろう。

ところがドイツ経済は車、及び車部品業界を除けば、大不況にもかかわらず意外にも堅調。市民はそれほどこの不況を実感しておらず、一般市民の消費はこの不況にもかかわらず上昇している。問題の車産業も、政府の景気対策(車をスクラップして新車を買うと2500ユーロ支給される。)で、小型車の売り上げが急上昇、ほとんど在庫がなくなり、(小型)車不足に悩んでいるほどだ。もっともBMWやメルセデスは一向にこの景気対策の恩恵を受けていない上、工作機械、車部品、、鉄鋼、化学品メーカーなどは「空前の不況ぶり」でかなり苦しんでいるが、その他の分野では不況はそれほど深刻化しておらず、ドイツ経済は今回の不況をなんとか克服できそうな見通しだ。

この機会に、欧州全域の不況状況について簡素に解釈しておくと、「先進国」ではスペインとアイルランドが一番ひどい。スペインは日本の80年代後半のバブル景気のように、土地の価格が高騰、空前の建築ブームに沸いていただけに、バブル経済の崩壊と経済不況のダブルショックで、真っ暗な長いトンネルに突入しており、出口が全く見えていない。フランス、オランダ、ドイツなどでは不況は深刻だが、経済の根幹がしっかりしていたので、自力でなんとかこの不況を乗り越えられそうだ。逆に助けがないと国家破算しそうなのが、東ヨーロッパ諸国。ハンガリー、リトアニア、ウクライナなどは国家破産の淵に立っている。こうした東欧諸国に大規模に投資していたのが、かってのオーストリア、ハンガリー帝国のゆかりのあるオーストリアであるが、投資した資金は文字通り凍死して、オーストリアが国家倒産する可能性も出てきた。オーストリアが倒産すれば、これを助けるのはドイツであるから、「またAnschluss(独墺合邦)になるのでは?」とまで(冗談半分に)言われている。

中には今回の経済不況を「何処吹く風」と涼しい顔で、「高みの見物」をしている国がある。欧州第二の産油大国ノルウエーである。賢いノルウエー人は、長年の原油とガスの輸出で稼いだ金を、ロシア人のように特権階級の贅沢な生活に使ってしまわないで、オイル基金を創設してここに利益を払い込み、その額面は巨大な3500億ユーロに達した。ノルウエーは人口500百万にも満たない小国であるから、オイルやガスの値段が下がっても、この基金で景気が回復するまで必要なだけ経済対策を実施することができる。この賢い政治のお陰で、ノルウエーでは経済不況の影響は最低限度に抑えられている。

何も賢い政治を行ってきたのはノルウエーだけではない。よりによって(表無向きは)共産主義政権の中国は、経済発展で得た黒字を国が管理、経済危機に備えてこれを貯めてきた。この甲斐あって、今回の経済危機では日本が羨む規模の経済活性化対策を実施する事が可能になった。そしてよりによってこれまで「でかい顔」をしてきた日本は、政治的にも財政的にも、大規模の景気対策を実施することができず、自国の景気の回復を、米国や中国の景気対策の成功に期待している。

日本の現在の苦境は、日本の政治家、経済専門家が主張しているように、経済が輸出に依存している事だけが原因ではない。もし輸出依存型の経済が不況の主因であるなら、日本経済よりもはるかに輸出に依存しているドイツ経済の方がもっとひどい状態にあるはずだ。ところが、ドイツ経済は日本経済のような大不況に苦しんでいない。日本経済が今回の不況の影響をもろに受けた原因は、実は別のところにある。国家予算の建て直しを長年に渡って放置してきたのが本当の原因だ。国家財政が健全であれば、一時期的な負債の増大を甘受しても、(ノルウエーや中国のように大幅でなくてもドイツ程度の)景気対策の実行が可能だっただろうが、これを実施すればさらに経済状況が悪化するという、東ヨーロッパ諸国と同じ状況に陥っている。かっての経済大国の「なりの果て」としては、かなり寂しい。日本の経済の調子が良かった頃、支出を引き締め、増税で国家財政を立て直すべきだった。しかし日本政府(自民党)は、大衆迎合の政治を優先、景気が良ければ大型予算案を組み、また支出を拡大するという「その日暮らし」をやってきた。現在の日本の国家財政の破綻振りを見る限り、又、次回の選挙では民主党が勢力を伸ばしそうなので、日本経済の今後の見通しは、ドイツの経済見通しよりも、かなり暗い。

編集後記
この記事は3年前のものだが、当時、誰がこの予告を真剣に取った事だろうか。2012年の今、日本を代表する大企業が軒並み大赤字を出している。その横で日本のライバルである韓国メーカーは、将来を見通していた賢い政治家のお陰で、関税撤廃に成功、欧州市場、ついでは北米市場を席巻している。そしてよりによって韓国メーカーに市場占有を奪われているのは、日本のメーカーだ。相も変わらず茶番劇を続ける日本の政治を見る限り、この方面からの援護射撃は期待できない。日本企業にとって今後はしばらく、茨の道になるだろう。
          

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ミシンの製造で始まったオペルは、


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次に自転車を製造、
          

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19世紀の終わりに自動車の製造を始め、
          

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20世紀初頭には、ドイツで最大の自動車会社に成長した。

        
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