オペル救済。 (06.06.2009)

今回の大不況で車製造メーカー、製造機械メーカー、化学品メーカー、そして鉄鋼メーカーなどの「製造業種」は大不況に喘いでいるが、薬品業界は豚インフルエンザのワクチン発注などで売り上げは堅調で、不況の煽りをあまり受けていない。一部の食料品メーカー、例えば世界で一番でかいスイスのNestleは、不況にもかかわらず売り上げを伸ばしており、一言で経済不況といっても不況の影響振りは、業種によりさまざまだ。

ドイツで一番でかい鉄鋼製造メーカーはThyssen&Kruppだが、2006年~2008年中頃までは笑いが止まらなかった。中国からの大量の鉄鋼の注文をさばく為、世界中に溶鉱炉を建設、ブームに遅れまいと設備投資に余念がなかった。2008年に後半に景気が鈍ってきても、「待てば海路の日和あり。」と生産能力の削減をしなかった。ところが2009年に入っても需要が回復するどころか鉄鋼の需要は激減、ドイツでは50年代の鉄鋼生産量レベルまで需要が低迷した。ここで会社の首脳部はやっと会社の余剰生産能力を決定、溶鉱炉の火を消して、社員を休暇に送り出したが、対応が遅すぎた。会社の経営が傾きかけてきたので、数千人の社員の解雇を始めた。会社をマネージメントするからマネージャーと呼ばれて高給をもらっているのに、これではその給料の価値はない。

自動車業界の事情もこれに似ている。今、世界中の車メーカーを総合した生産能力は、好景気に乗って設備投資をした為、その需要を20%超えていると言われている。つまり、どこかの車メーカー、できればでかい会社が倒産してくれれば、余剰の20%がなくなり、車業界は自然と景気が回復することになる。しかし、どこの国の政府も、自国の車メーカーが倒産するのだけは避けたい。そこでさまざまな景気対策、特に車メーカーを救済する政策を導入して、自国の車産業の延命を図ったが、その裏には、「あわよくば、他の国の車メーカーが先に潰れてくれないかな。」という淡い希望があった。その希望がかなって、延命措置に一番金がかかったクライスラーとGMが先に倒産した。これで大いに得をするのは、唯一の米国車メーカーとして倒産を逃れたFordに加え、米国の車市場で大きなシェアを持っている日本とドイツの車メーカーだ。この隙間をうまく利用すれば、日本車とドイツ車は市場占有率を広げる事ができるだろう。

そう簡単に行かないのが欧州の車市場。クライスラーとGMは欧州で人気がなかったので、販売台数が少なすぎて市場から消えても十分な効果がない。スウェーデンのSaabにしても、あまりにもマニアックな車なので、販売台数は少なく、欧州車市場は相変わらず供給過剰の状態だ。しかしオペルが消えると、事情は異なる。オペルのドイツ市場の率は10%未満。これが消えると、クライスラー、GM&Saabと合わせて20%程度の供給をカットでき、ドイツの自動車市場における過剰供給は自然に改善される。そこでドイツの車メーカー、特にOpleと同じ客層を持つVWなどはOpelの救済に国が資金を出すのに反対した

ここで政治家が登場してくる。選挙戦で圧倒的に不利なSPDは「失う物は何もない。」ので国の財政支援を主張する。費やされるのは税金であるから、痛くも痒くもない。選挙戦を有利に展開していたので、無茶な公約をして票集めをする必要のなかったメルケル首相だが、2ヶ月連続で支持率が下落すると、「背に腹は変えられない。」と、やはり国の財政援助を約束する方策に出た。「オペルは(国の援助をあてにしないで)会社更生法の適用を申請すべきだ。」と(嫌われるのを承知で)堂々と国の支援に反対していたのは、2月に大臣に就任したばかりの経済大臣のZu Guttenberg氏だ。もっともこれには訳がある。Zu Guttenberg氏はバイエルン州の政治家なので、オペルの工場で働く選挙民を一人も持たないので、好きな事が言える。さらに氏の直属の上司である(古狸の)Seehofer氏は、党(CSU)の株を売るため、Zu Guttenberg氏にOKを出すばかりでなく、メルケル首相の機嫌を損ねるように背中を押していた。

こうして政治家が人気取りの一環としてスタートしたオペル救済案だが、GMが倒産を申告する前にオペルの売却先(投資家)を決めておく必要がある。さもないと親会社が倒産してしまうとお金が入ってこないので、社員の給与はおろか、部品メーカーへの支払いをすることも不可能になり、子会社もドミノ式に倒産してしまう。そこで肝心の売却先だが、オペル買収に興味を見せていたのは4社。イタリアの車メーカーのFiatに、カナダに移住したオーストリア人の経営する車部品メーカーMagna(ロシアの銀行の支援を受ける)、米国の投資化グループ、それに入札期限が切れてからオファーを申し入れてきた北京の自動車会社だった。

最初から人気があったのはマグナ。この会社は自社製の自動車を持たず、自動車部品を生産している会社であったので、マグナがオペルを買った暁には、社員の解雇は最低限度に限られると予想(期待)された。又、マグナを金銭的に支援するロシアの銀行は、オペル買収後、広大なロシア市場でオペルを販売して儲けようという目論みがあり、これはオペルの労働者及びドイツ政府に歓迎された。逆に人気がなかったのがFiatだ。両社共に似たようなクラスの車を生産しており、「オペル買収後には技術だけ盗んで、オペルの工場を閉鎖して、Fiatの車をドイツで売ろう。」という筋書きがよく読み取れた。この為、オペルの労働者、ドイツ政府にも米国の投資化グループ同様に人気がなかった。どう評価したらいいのかわからないのは中国の自動車会社。オペルの技術を盗むのが第一目的なのは明らかだが、親会社倒産後、オペルの経営に必要となる多額の資金を、北京の比較的無名な会社が用意できるのか、誰も知らなかった。

最終的にオペルの売却先を決めるのはGM、つまりは米国政府だったが、Fiatは米国であまり評判がよくないのが幸いした。GMはマグナへのオペルの売却に同意したので、ドイツ政府、米国政府の代表、そしてマグナの3者が集まって、月曜日に計画されているGMの倒産前に、最終的な細部の煮詰めに入った。ここで米国政府がこれまでの約束を反故にして、3億ユーロの現金払いを要求すると、マグナは「そんな話は聞いていない。」とオペル買収を棚上げしてしまう。その後も交渉は明け方まで続いたが合意に達せず座礁、オペルの破産は避けられないように見えた。ここで面子を失いかけた政治家が介入。この資金(合計15億ユーロ)を国(つまり納税者)が払うことをオファーして、金曜日の夜にようやく同意を見た。この同意で面白くないのは経済大臣のZu Guttenberg氏。大蔵大臣のSteinbrueck氏が「鬼の首を取った」ように自身の決断を記者団を前に自我自讃している横で、Guttenberg氏はいかにもつまらなそうな顔をしていた。氏は、「政府が手の内のカードを公開して、オペルを救う事を宣言していたので、米国政府は好きなように要求を押し通すことができた。オペル破産カードを隠し持っていれば、もっといい条件でオペルを救済する事ができただろう。」と言っていた。確かにそれもごもっともな話。

本当はここで記事が終わりになる筈だったのだが、この政府によるオペル救済劇を見た破産寸前のArcandorグループ(Karstadtデパートの他に、通販会社のQuelleや旅行部門のThomas Cookを抱える。)が、「税金を使ってオペルを救うなら、我が社も救援されるべし。」と政府に財政救援を求めた(ちなみに従業員は56000人)。選挙戦を不利に展開しているSPDは救援に二つ返事をしたが、首相はこれをブロック、「国に助けを求める前に、大金持ちのデパートの所有者が、自分の金を使って建て直しを図るべき。」と発言。今度はドイツ国民も「その通り。」と首相の見解に同意すると、SPDは逆風を感じ、「救済には条件がある。」と急にこれまでの態度を修正した。実際の所Arcandorグループのお財布は空っぽで、政府の援助がなければ6月12日には倒産するので、今後の発展が楽しみだ。

編集後記
2012年になってもオペルは赤字から抜け出せていない。それどころか赤字は拡大して、黒字を出している親会社の収支を悪化させている。一体、いつまで親会社の忍耐が続くだろうか。後から言うのは易しいが、やはり経済相の提案を受け入れて、会社更生法を適用、過去の負債を失くしてから、再スタートするべきだった。


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提案を受け入れられず、明らかに不満顔の経済相。


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