ゼロアワー。 (26.10.2009)

ドイツでは経営の行き詰った会社が会社更生法の適応を申請をすると、Insolvenz-Verwalterと呼ばれる「財産管理人」が、会社の立て直しを図る。しかし実際には、会社が再建されるケースはかなり稀だ。大体、経営が傾いた会社(日本の元国営航空会社のように)は、商品そのものよりも、その会社の経営体制、運営思想に問題がある場合が多く、財産管理人がいくら努力をしても、社員の抵抗に遭い、会社更生に成功する事は滅多にない。こうした潰れるべき会社が正式に倒産すると、まだ残っている会社の資産は売却され、そのお金は債務者に公平に分配されて、(元)会社の持ち主には何も残らない。これを避けるため、ドイツでは経営が行き詰った会社は、往々にして会社更生法の申請の前に持ち主が替わる。新しい持ち主は、オフィスビルなら会社に備え付けてあるコピー機やPC、机、椅子、救急箱まで売っ払って、工場なら機械を売って、会社が「正式に破産」するまでに会社の資産を現金に換えて、海外に持ち出すケースが多い。こうして持ち出された資金は、会社の所有者の海外口座に振り込まれ(あるいは現金で手渡され)る。こうして「もぬけの殻」になってから会社更生法の適用を申請するので、財産管理人が会社の倒産を事務処理しても、債務者には1銭も入ってこない。このように、ドイツには経営が傾いた会社を探してこれを買い取る「葬儀屋」、通称、Aasgeierが跋扈している。さらには葬儀屋は、財産管理人と「同じ穴の狢」であることが多く、ドイツである会社が会社更生法の適用を申請して、会社が立ち直るケースは滅多にない。

6月にここで取り上げたドイツ第一の規模を誇っていた小売業(百貨店)チェーンのArcandorグループの経営破綻(会社更生法の申請)の際は、運がいいことに良心的な財産管理人が会社の再建に尽力したが、会社の帳簿を見た後で、「すでに他の会社に渡っていない物が見つからなかった。こんなにひどい例は見たこともない。」とコメントをもらしたほどその内情はひどいものだった。それでもこの財産管理人は、Arcandorグループをそのまま買い取ってくれる投資家を探した。そして実際に興味を示した投資家も居たが、帳簿を見た途端、皆一目散に逃げ出した。上述の「葬儀屋」さえも、食指を伸ばさなかったくらいだから、会社更生の見込みは最初からなかった。こうして倒産が確定、Arcandorグループは、「ばら売り」される事になった。儲けを出している、あるいは一等地に立っている百貨店にはメトログループが、通販事業のごく一部は、同じ通販会社のライバルであったOtto Versandが興味を示している。こうしてまたしても数千人(4千人程度と見積もられている。)が職を失う事となった。

ちょうどいい(これが最後の)機会なので、Arcandorグループの歴史について紹介してみたい。この百貨店チェーンが前社長の意向でArcandorという覚えにくい名前に変わる前は、KarstadtQuelleという名前でKarstadtデパートと、Quelleを代表とする通信販売会社から成り立っていた。通販部門のQuelleは、Schickedanzという企業家が1927年にバイエル州の片田舎、Fuerthに築いた通信販売会社。その後、会社は急速に発展を遂げ、ナチスが政権を取ってからはユダヤ人の店舗を「買い取って」、一大帝国に発展した。ところが「兵どもが夢の跡」で、第二次大戦の敗戦ですべてを失い、さらに「ナチスの協力者」ということを職業禁止までくらってしまう。西ドイツ建国後、「都合の悪い昔の事は掘り返さない。」という風潮がドイツで起こる(なにせ90%以上の国民がナチスに賛同していたので、昔の事を掘り返されると都合が悪かった。)と、氏への職業禁止令が解かれ、その後、Fuerthの名誉市民、さらには(冗談でなく)バイエルン州からその功績に対して「勲章」をもらうまでになったから、「人は変わる。」ものである。

シケダンツ氏には生まれながらの企業家としての才能があったようで、Quelleを再建すると、Neckermann, Otto, Quelleというドイツの通信販売市場を支配する御三家のひとつになった。その後、KarstadtグループがNeckermannを(汚い方法で)買収すると、これに対抗すべく、会社を家族経営から株式会社に変えて、会社拡大に必要な資金調達を図った。(これを行なったのは、会社を受け継いだ娘。)1999年には「寄らば大樹の陰」との判断で、QuelleグループとKarstadグループが合併されて、KarstadtQuelle AGが誕生した。Quelleグループの経営を引き継いだMadeleine Schickedanz女史は、創設者と違い会社経営の才能に恵まれていなかったので、現状維持に努め、これまでのカタログ販売に専念した。こうして21世紀に発展を迎えたインターネット化の波に乗り過ごしてしまう。その後、Amazonに代表されるインターネットの通信販売業者が売り上げを着実に伸ばしていく中、KarstadQuelleグループは、売り上げが減っていく一方の百貨店と、カタログ販売を抱えて業績が悪化した。すでに2004年には会社存続の危機を迎えたので、遅くてもこの時点でこれまでの運営方針では「先がない。」事を悟っていい筈だった。

ところが(倒産する会社がよくやるように)、この危険信号も無視、会社の運営体制を変える代わりに、経営者の資産をさらに投入して、会社の存続を図った。この際に社長として迎えられたのが、KarstadtQuelleグループを骨までしゃぶりつくす事になるThomas Middelhoff氏だった。氏はドイツで最大のメデイア企業の社長に就任していたが、取締役との意見の食い違いでその職から辞任したばかりで、KarstadtQuelleグループを再建するには最適の人物と思われた。しかし、Middelhoff氏を知るかっての取締役は、「横暴で欲深いエリート。」とコメントしており、決して仏様のような人物ではなかったが、会社を再建してくれれば、性格などはどうでもよかったのかもしれない。実際、氏はグループの財産を売り払うことで「利益」を一時的に挙げると、そのツケが回ってくる前に、目のくらむような退職金をもらってArcandorグループを離れた。これから半年でグループが倒産したので、Middelhoff氏の「葬儀屋」としての腕前は疑いようがない。

これに加えて、Arcandorグループの銀行だったSal. Oppenheim銀行の過失も無視できない。2004年の時点でグループに将来がない事が何故、わからなかったのか?カタログ販売と、百貨店という20世紀の戦略では、21世紀を乗り切れないことは一目瞭然だった。ドイツの大富豪家族のひとつであったシケダンツ家は資産の大半を失い、Madeleine Schickedanz女史はArcandorグループ倒産のニュースを聞くと、そのショックで卒倒、病院に収容された女史を破産に追いやった銀行も、多額の負債を抱えて倒産寸前に追い込まれ、ドイツ銀行に吸収されてしまった

しかし、この三者(Middelhoff氏、シケダンツ女史、そしてSal. Oppenheim銀行)のさらに上を行く愚か者が居た。それはバイエルン州知事のSeehofer氏だ。Arcandorグループの倒産が誰の目にも明らかになってくると、Quelleのカタログを印刷していた印刷会社が、「印刷費用は前金で。」と言い出した。たかがカタログでも、電話帳のように分厚い(1400ページ)もので、すべてカラー印刷。5,6億部も刷るので、その費用はなんと5千万ユーロ。(この費用を見れば、カタログ商売が、アマゾンなどのインターネット販売に勝てないのは一目瞭然だ。)これまでのように先に印刷、納入してから請求書を送って、印刷費用が振り込まれるのを待っていると、その間にQuelleが倒産して支払不能になる。しかし、カタログ商売をしている会社が、カタログを印刷しないと、倒産はもっと早くなる。そこで、この前はドイツの自動車メーカー、オペルへの資金援助を拒否した同じバイエルン政府が、今度はQuelleのカタログの印刷費用に税金を使うと言い出した。言うまでもなく、バイエルン州にQuelleの会社があり、総選挙前に人気取りを狙った決定である。皮肉なのは、この人気取り政策にも関わらずバイエルン州のCSUは先の敗北から、さらに得票率を落とす大敗北を喫した事。さらに肝心のQuelleの倒産も確定して、州政府が保障した資金援助は、ちり紙交換にしか役に立たないカタログに浪費されてしまった。

日本政府は元国営航空会社再建に税金をつぎ込む姿勢を見せているが、税金の無駄使いにならないように、もっと慎重に状況を分析してもらいたい。この会社の経営破たんの責任は、会社の運営思想、社員の営業姿勢にある。怠慢な運営体勢を見直さないで、会社に資金を与えて一時しのぎをしても、会社の赤字体質は何も変わらないので、破綻は遅かれ早かれ、避けられない。それよりは、米国の航空会社、United Airlinesのように会社更生法を適用して、会社のOBなどへの無駄な資金の流出を断ち切り、旅行代理店、ホテル経営などの赤字部門は切り捨てて、本来の航空会社の姿に戻すべきだ。鳩山首相が、「税金の無駄使いをやめる。」と公約して政権を獲得したのだから、ここでその公約を守るいい機会である。


12時5分前。西欧では12時はゼロアワー、破綻という意味がある。
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買い手が見つからず、倒産決定。
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編集後記
日本政府は、日本航空へのさらなる財政支援を見送る決断を下した。この処置が正しかった事は、余計なバラストがなくなって、文字と折り機体が軽くなって巨額の黒字を出している日本航空の姿を見れば疑う人は居ないだろう。
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