悲劇の誕生。 (04.02.2010)

ここ数週間ユーロの下落が続いている。2010年に入って、再び1ユーロが130円を割ったが、まだまだ落ちそうだ。(この記事は1月30日に書いています。)今年留学をされる方には思わぬ吉報だが、これは決して対岸の火事ではない。いゆれは日本を襲う現象なので、今回はこの為替価格の変動の原因とその影響について紹介します。

ユーロ下落の下手人を確定するのは容易。主犯はギリシャで、共犯はポルトガルとスペインだ。大体、ギリシャはユーロ導入の際、その条件、ドイツ語ではEU-Konvergenzkriterien、「負債高(つまり国債の発行高)が、国民総生産の3%を超えてはならない。」を、守れていないことが誰の目にもあきらかだった。ところが欧州議会は、ギリシャ政府が提出した「二重帳簿」を見て、これを承認してしまった。その裏にはギリシャは数年のうちに国家財政を立て直して、いずれは本当に条件をクリアすることになるだろうという希望があった。つまり日本語で言う、典型的な見切り発進だった。ところがラテン系のあまり物事を真面目に考えない性格の為、政権の座に就いた左派の社会主義政党は次々と国営企業を作り上げて税金を浪費。その結果、財政赤字は減るどころか急上昇、2009年には国債発行高が、国民総生産の12,7%に達した。

この様を見ていると「ギリシャはどうしようもない落第国。」と思われるかもしれないが、ついこの前、21世紀の初頭までは、ギリシャの財政赤字高は国民総生産高の23%に過ぎなかった。以前紹介した通り、ドイツの財政赤字高は66%、日本は夢のような200%なので、この数字は優等生である。ところが社会主義政党が前後の見境もなく毎年、国債を発行した為、わずか8年のうちに80%にまで悪化した。その原因となったギリシャ政府の政策だが、日本と酷似している。採算の悪い企業の国営化、政権を維持する為に、選挙の度に財源もないのに減税の約束、そして政治家の天下りである。このお陰でギリシャで働く勤労者の1/4は公務員、あるいは準公務員という始末。政権にある政党がこうして選挙民から票を買い、政権に座に居座りつづける限り、こうした自転車操業が続いた。しかし、ドイツ人が好んで使う諺、"Der Krug geht solange zum Brunnen, bis er bricht."の通り、ついに悪事がばれるときがきた。それは2009年に悪化した金融危機である。

金融危機が深刻化すると、ギリシャの銀行は軒並み不良債権を抱えて「ドミノ倒し」になる危険が高まった。これを阻止するべく、ギリシャ政府は寛大に不良債権に対して保障を与え、同時に経済活性化の公共投資を次々に実施した。この結果、2010年の財政赤字はさらに悪化、現在の借金ヨーロッパチャンピオンのイタリアを王座から蹴落として、ギリシャが王座に君臨する「二階級特進」を果たした。その財政赤字高は、チャンピオンの名に恥じないもので、国民総生産の80%から125%に上昇すると予測されている。

ギリシャや日本の主要財源になっている国債だが、これは何も魔法の箱ではない。国債を購入する側は、この国債を保障をする為に、一種の保険に入る。そうしないと以前のロシア政府の国債のように「政権が交代」すると、「前政府が発行した国債は無効である。」なんて事になりかねない。この保険をCredit Default Swap(s)通称、CDSと言うが、保険料は車の保険料と同じように、「事故の具合」で保険料が決まっている。例えば無事故の模範ドライバーであるドイツはトリプルAの評価で、保険料は最も低い。ギリシャはこれまでA(シングルA)の評価だったが、あまりにも無造作に借金をした(事故を繰り返した)ので、BBB(トリプルB)に評価を落とされてしまった。ユーロ圏でAランクからBランクに落ちた国はギリシャがは初めてで、保険料は2倍になった。(ちなみにBBBはタイやロシアと同じ評価。日本はまだAA。)

ギリシャの国債に対して倍の保険料を支払うことになると、国債の人気が落ちてきた。危ない橋は渡りたくないから、これは当然の成り行きだ。英国政府は経済危機が最高潮に達した際、経済破綻を防ぐため、国債を買い戻して、人為的に国債の人気を確保したが、ギリシャ政府も同様の措置を迫られることになった。唯一、英国政府と違うのは、国債を買い戻す金がないので、また国債を発行して、国債を買い戻すというウルトラCを行わなくてはならない事。これを可能にするため、ギリシャ政府は大量の国債を欧州中央銀行(以下、EZBと略)に押し付けて、低金利で現金を確保した。この金で、このゼロ金利の事態に6.5%もの金利を出す新国債を発行、大人気を博した。勿論、こうした方法で問題が根本から解決できるわけではないが、こうしてギリシャはEZBにツケを支払わせて、危機を(一時的に)乗り切ろうとした。

しかしここでEZBが危なっかしい国債を押し付けられて、その引き換えに現金を払うことを、渋り始めた。「自分の借金は自分で払いなさい。」と言うのだ。EUにはユーロ導入の際の厳しい審査基準があるため、ユーロ導入国のひとつが破産寸前まで借金をする事態は考えられず、当然、そのような事態になった場合の対処(救済)方法が存在していない。だからギリシャがEZBにツケを支払わせる方法を認めてしまうと、前例を作ってしまいかねない。これをやってしまうと、次の破産候補のポルトガルが、「わが国にも同じ対処を求める権利がある。」と言い出しかねない。こうした背景があって、EZB、欧州共同体の加盟国(準破産国を除き)は、口を揃えてギリシャへの財政支援を拒んでいる。これが原因で、「ギリシャ倒産か?」とさかんに憶測され、ユーロの価値が下がる原因になっている。

ただし、遅かれ、早かれ、EZBはギリシャへの財政援助を公的にせよ、あるいは非公式にせよ、実施することになるだろう。ギリシャは放って置けば破産するほど切羽詰っている上に、中国がギリシャの国債に興味を見せている為だ。中国がギリシャ政府の国債の引き受け国となると、中国政府はギリシャ政府の決定に対して、影響力を行使することが可能になる。例えばEUにて中国からの輸入製品への罰金(や輸入禁止)などを審査する際、あるいは民主化運動の弾圧に対して非難決議をする際、ギリシャを使って拒否権を行使することが可能になる。これを欧州議会は(表には出さないで、こっそり)恐れている。これを避けるには、好む、好まざるに関係なく、ギリシャに助けの手を差し伸べなくてはならないだろう。

編集後記
今、2012年の時点でこの記事を読むのは面白い。2年前は「まだ」ギリシャへ財政援助をするかどうかで議論が交わされていたが、この議論がどれだけ的を得ていないものであったか、欧州のリーダーがどれだけ甘い現状判断を下していたか、よくわかる。今やギリシャを破産させるかどうかの議論に変わっているが、2年後にはこの議論も時代遅れになっているだろう。果たしてギリシャは救われるのだろうか。現況から判断する限り、ギリシャを破産させるしか危機脱却の道はないように思える。ただしそのケースでの余波があまりにも大きいため、欧州諸国がギリシャにお金をつぎ込んでいるに過ぎない。ギリシャ破産の余波が見通せるようになれば、欧州諸国はギリシャを破産させるだろう。


昔と
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今。
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