アリとキリギリス。 (02.05.2010)

ここでも2月に紹介していたギリシャの財政赤字が、4月になってますます悪化、ギリシャはついに自力では借金を払えない状態へと発展した。2月の時点で、「EUはギリシャへの財政援助を実施する事だろう。」と、予言していた通り、欧州はギリシャの財政援助を実施することにやっと同意した。ところが今度はその実施方法で揉めており、状況はますます悪化する一方だ。ドイツは当初からギリシャへの財政支援に消極的だったが、日本では「どうしてドイツは財政援助に消極的なの?」と問われる方が多い。欧州に住んでいないとやはり詳しい事情は伝わらないようだ。そこで今回は、ギリシャの危機の悪化に至る経過を紹介してみたい。

さて、どうしてドイツ政府がギリシャへの財政援助に消極的なのか、その理由は簡単。ギリシャはこれまで経営難に困った会社を次々と国営化したので、公務員の数が異常に上昇した。こうして「公務員」になったギリシャ人には、ドイツでは夢のようなばら色の人生が待っていた。遅刻しないで出勤すると褒章金(ボーナス)が出て、欠勤がないと皆勤賞(ボーナス)が出て、すでに58代で定年退職(勿論、早期退職も可能。)、3000ユーロもの年金を支給され、年金受給者が早めに死ぬと、子供がこれを相続するという夢のようなシステムを維持してきた。これで財政が悪化しないわけがないが、政治家は選挙での敗北を心配して、一向に財政赤字を改善する努力を行わなかった。それどころか米国の投資会社ゴールドマン サックスを利用して、欧州議会に偽の財政赤字の数字を報告するなど、詐欺行為を働いていた

その一方で、ドイツは消費税の値上げ、ガソリン税の値上げ、環境税の値上げ、年金への課税、年金受給年齢の67歳への引き上げ、健康保険の値上げなどを次々に実施、財政赤字を減らすことには成功しなかったが、これが大幅に悪化するのを避けてきた。もし欧州共同体でギリシャへの財政援助を行うなら、欧州共同体の加盟国で一番財力のあるドイツの負担が一番大きくなる。そのギリシャ救出案にドイツの政治家(首相)が同意しようものなら、国民(選挙民)からの怒りは避けられない。ドイツ人はアリのように真面目に高い税金を払ってきたのに、キリギリスのように享楽(詐欺)をしていたギリシャに、その税金を使用するのでは、ドイツ人が怒るのも無理は無い。ドイツでは「税金を、怠け者のギリシャ人にくれてやるなんてとんでもない。ギリシャはEUを離脱して、ドラクマを再導入せよ。」という人気だけを狙った要求が聞こえ始めた。中には、「ドイツに助けを求める前に、アクロポリスを売れ。」とか、「まずは島を売れ。」という半分冗談だが、決してすべて冗談ではない要求も聞かれた。一方ギリシャは「詐欺師」、「怠け者」呼ばわりに反撃、ドイツ-ギリシャ関係は一気に悪化した。

一番頻繁に聞かれる「EUはギリシャをユーロ圏から追い出せばいい。」という意見は、EU条約を読んだ事もなく、読む気もない人に人気がある。ギリシャがEUから離脱しても、次はポルトガル、スペイン、アイルランド、そしてイタリアと離脱候補が目白押しなのである。これらの国が離脱してしまえば、フランスとドイツしか残らず、EUの意味がなくなる。さらにはEU条約では、加盟国がユーロ圏離脱を自ら申請しない限り、他の国の所存で放り出す事はできない。お給料、ボーナスカットに憤慨してデモをしているギリシャ人だって、ギリシャがユーロ圏から離脱してしまえば、EUからの財政援助はあり得ず、国家が破産するのは時間の問題である事くらい承知している。だから、ギリシャが自ら離脱申請をすると考えることは非現実的だ。又、ギリシャを放っておいて破産させれば、火の粉は他のユーロ圏の経済状態の危うい国々に飛び火して大火になる危険性がある。だからギリシャを破産させるわけにもいかない。

事態をさらに難しくしたのは、5月に控えているドイツで一番大きな州、つまり一番大事な州での州選挙。政府与党は苦戦を強いられており、ギリシャへの財政支援を約束しようものなら、世論に逆行する事になり、選挙での敗北は避けられない。みなまで言えば、ここで政府与党が敗北すれば、国会での過半数も失いかねないほど、大事な選挙である。こうしてドイツ政府は、ギリシャの財政支援案にケチを付け続けた。多分、メルケル首相から「選挙が終わるまで公式な財政援助要請は慎むように。」と焼印(俗語でdicke Zigarre)を押されていたのだろう、ギリシャの首相もメルケル首相に合わせて、「ギリシャは財政援助を必要としていない。」と主張してきた。しかし幾ら二人があうんの呼吸で芝居を演じても、経済界、投資家はギリシャが5月に必要になる支払いを、自力で行えるとは信じてはいなかった。

こうしてギリシャの国債の信用度はますます落ちて、これにかける保険料は上昇を続けた。保険料が高いと国債を買ってもペイしないので、銀行が買取を渋り、国債が売れなくなる。国債で金が集められないと、ギリシャは支払不能に陥り、国家破産である。これを避けるため、欧州議会にてギリシャへの財政援助が再び討議されるが、メルケル首相はドイツの財政負担(選挙民の怒り)を少しでも軽くする為にIWFを船に引き入れて、一緒に財政援助を行う方針を提案した。(すでに大金をギリシャに貸し付けている)フランスなどは欧州内の「内輪の問題」に「部外の機関」に助けを求めるのを渋った。これによりEUは、内輪の問題でも自力で解決できない事が証明されるからだ。又、IWFを引き入れると、かなり厳しい緊縮財政を強いられる為、これにギリシャが反発、この会議は難航した。

しかし、最後には最も大きな財政負担をする国の発言が採択され、欧州共同体はIWFと一緒に450億ユーロの財政援助を行うことで同意した。ドイツが担当する財政負担は84億ユーロである。これでギリシャ危機は解決したかに見え、市場も沈静化に向かった。ところが大事な州選挙を控えるメルケル首相が、この土壇場になって、「まずはギリシャ政府が財政再建案を提示する事が条件だ。」と前言を翻した。これは金融市場にいい印象を与えなかった。たちまちギリシャの国債の保険額が急騰、状況は会議の前よりもさらに悪化した。こうして欧州議会で可決された筈の救済案が全然前に進まない4月27日に、ギリシャの信用度がいきなり2段階も格下げになり、国債はジャンク(紙くず)証券になった。

ある国の証券、国債がジャンクになると、これを中央銀行に預けて、お金を借り入れる事ができなくなる。さらには国債の保険額が急騰、誰もそんな危険な国債を買わなくなり、ギリシャは一夜にして、国際金融市場でお金を借り入れる事ができなくなった。これがきっかけとなり欧州、米国で株価が急落、翌日は日本でも株価が急落して、ギリシャの経済破綻は、世界の経済危機に発展しかねない状況になった。「棚から牡丹餅」の野党は、「メルケル首相は選挙の結果が心配で、事態を手をこまねいて看視するだけ。」「この無能無策で危機がさらに悪化した。」と、これまでの自分も財政支援に反対していた態度を都合よく忘れて非難した。ここまで来ると、援助をしても非難されるし、しないとさらに非難されるので、首相はやっと重い腰を上げて、来週には国会にギリシャへの財政支援案を国会に提出、週末(州選挙前)に国会を通して、ギリシャへの財政援助に"Go!"を出す予定だ。(EU加盟国への財政支援はEU条約で禁止されいる為、あらたな法律が必要になる。)これにより世界の金融市場は少し落ち着いたが、ギリシャ政府が信用に値する財政建て直し案を提示することを条件にしており、まだまだ波乱あるかもしれない。

余談ながら他に台所事情が苦しいにポルトガル、アイルランド、さらにはスペインにしても、ギリシャと共通する欠点がある。これらの国には主要産業が欠けている。スペイン製、ポルトガル製、あるいはギリシャ製の工業製品をどれだけ見つけることができるだろう。スペインの車メーカーのように見えるSeatにしても、実はVW。あとはスペインの生ハム、ワインしか思い浮かばない。ギリシャも同然でオリーブにピスタチオくらい。ポルトガルにしては、ポートワインに魚の干物くらいである。アイルランドに何があるのか、身近な欧州に住んでいても、全く聞かない。日本の財政赤字も目に当てられないが、幸い、日本には(まだ)産業がある。まだ産業があるうちに、財政赤字を解消しておかないと、日本も英国の二の舞になりかねない。19世紀には世界の工場だった英国の工業製品が、21世紀の今、どれだけ残っていることだろう。



険しい表情でギリシャの首相を見つめるメルケル首相。
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