Eurokrise (02.12.2010)

ドイツでは毎年、Unwort des Jahesという表彰がある。これはその年に流行った"Unwort"(おかしな言葉)を表彰するもの。2009年には、ドイツの大手ホームセンターのマネージャーが使用した、"betriebsratsverseucht"(労働組合に侵されている。)という言葉が第一位に選ばれた。2008年は金融危機の年らしく、"notleidende Banken"(困窮している銀行)という言葉だった。2010のUnwortの(個人的な)有力候補は、"Eurokrise"(ユーロ危機)。新しい言葉なので、まだ「正規」な書き方が決まっておらず、一語で"Eurokrise"と書くケースと、ハイフンで繋いで"Euro-Krise"と、表記するケースがある。(ハイフンで繋ぐ場合、名詞の頭文字を双方、大文字で書く点をドイツ語の学習者は注視されたし。)

今年の初め、米国の査定会社が高級取りの欧州議員が気持ちよく見逃していたギリシャの財政累積赤字を指摘、ギリシャの国債の信用性を下げ、ついで紙屑に査定してのをきっかけに、最初のユーロ危機が発生した。欧州議会長であるBarroso氏やフランスの大統領が、ユーロ支援の基金を設置しようと提言したが、国内選挙を控えるメルケル首相は、選挙で大敗を喫する恐れからこれを拒否(それでも結局、大敗した。)、ユーロ危機は一気に悪化、一時、1ユーロが1.18(米)ドルまで落下した。ユーロの崩壊を阻止するため、欧州各国から大蔵大臣が週末にブリュッセルに集まり、日本の市場が開く前に解決策を見つけるべく明け方まで協議した。その結果、欧州共同体は7500億ユーロもの救援基金を設置、その資金は、欧州共同体の加盟国が国内総生産高に応じて、「会費」を払い込むことになった。国内総生産高が一番高いドイツの負担金は1230億ユーロに上り、ドイツの赤字財政をさらに圧迫することとなった。メルケル首相が危機の初期の時点で対応していれば、ドイツの負担はその数十分の一で済んだ事だろう。先を見ない(見れない)政治家のいい例である。

その後、ユーロは次第に信頼を取り戻し、ドルに対して1.43まで、20%以上も上昇して、「1.50に達するのも時間の問題」と、思われていた矢先、誰かが「アイルランドが危ない。」と言い出した。日本ではアイルランドが留学先として人気だが、ドイツではアイルランドは「3Kの国」として知られてる(一部、偏見)。すなわち、"Kinder, Katholisch und Kartoffeln"(子沢山、カトリック、ジャガイモ)である。経済的には産業がほとんどなく、経済発展が遅れており、(観光と)農産物くらいしか提供するものがなかった。「これではいかん。」と政府が頭をひねった結果、スイスを真似して、法人税を大幅に下げて周辺諸国から高い税率に悩む大企業を誘致する事にした。これが大ヒット!他のEU諸国がうらやむような8~11%もの経済成長率を毎年記録、失業率は17%から4%に激減、欧州で2番目に裕福な国に変身、"keltischer Tiger"(ケルトの虎)の異名で呼ばれるまでになった。日本は80年代の最後の経済成長期にも寛大に赤字財政を膨らませたが、アイルランドは国家財政の建て直しに取り組み、国内総生産の95%を超えていた財政赤字をなんと25%までカット、まさに欧州の優等生であった。

日本の好景気時同様に、アイルランドでも不動産の価値はうなぎ上り。これを担保にして、新たにオフィスビルや住宅街を建設する建築ブームに沸いた。ここで経済不況がやってきた。それも80年に一度と言われるものすごい大不況が。米国で不動産の価値が下落したのに比例して、アイルランドでも不動産の価値が下落を始めた。さらに経済不況により、アイルランドに進出していた企業が撤退を始めると、オフィスビルだけでなく、住宅も"to Let"の看板が目白押しになり、不動産価格が暴落、アイルランドは深刻な危機に陥った。その余波をもろにくらったのは、日本のバブル崩壊時同様、銀行。不動産を担保に金を貸していたが、価値を大幅に落としてしまった為、競売にかけてもろくな値が付かず、アイルランドの銀行業界が軒並み支払い不能、つまり共倒れする危険が出てきた。ここでアイルランド政府は、「アイルランドの銀行の支払いは、すべて国が補償する。」とやってしまった。ドイツで同様に不動産に投資して破綻、国有化されたHREは、一行ながらドイツ政府から1000億ユーロにも上る保障を受けているが、アイルランドにはこのHREが幾つもあった。ドイツのような国内総生産高の高い国なら、HREの破綻はなんとか「消化」できたが、アイルランドでは金融危機、それもとんでもなく大きな危機に成長した。こうして国家財政赤字は国内総生産高の100%を超え(奇しくも日本と同じ。)、出業率は14%を超え、国家財政を立て直そうにも、肝心の収入に欠ける事となった。

これに政治家の誤判断が加わって、状況を悪化させた。今から思えば笑い話だが、今年の始めにギリシャへの財政支援が討議された際、アイルランドはギリシャへの財政支援案を非難、「他国のヘマにアイルランドが金を払うなんてとんでもない。」と、財政支援を拒否した。これが原因か、アイルランド政府は、「我が国はEU経済支援基金を必要としない。」と、援助を拒否した。多分に、「俺たちは欧州の優等生で、万年落ちこぼれのギリシャとは違う。」という自尊心も働いていたに違いない。しかし、自尊心で投資家を信用せさる事はできず、金融支援を断った為、アイルランドの国債は言うに及ばずスペイン、ポルトガルの国債の保険率(ドイツ語ではRisikoaufschlaege)が急上昇、法外な保険料を支払わない限り、国債を売る事が困難になってきた。同時にユーロの下落が加速を始めた為、欧州議会では緊急会議が開かれてアイルランドへの財政支援が準備されたが、肝心のアイルランドが、「そんなものは要らん。」というので、各国首脳は指をくわえてユーロが下落するのを見ているしかなかった。ここでアイルランドの首脳も事態の深刻さを悟ったようで、「救済案を断ったのではない、まだオファーを受けてないだけだ。」と、方向転換した。

実際の所、アイルランドは2011年の半ばに至るまで、国の支出をカバーできる資金を国債の販売で手にしており、この時点で救済を必要とはしていなかった。しかしギリシャの二の舞を恐れた投資家がアイルランドの国債を避けはじめ、さらに国債の利率が8%を超えると、国債の販売は激減、アイルランドは独力で資金の確保が難しくなり、財政支援の受け入れを決定した。これでユーロの下落が止まるかと安堵していると、下落はさらに続いた。これに貢献しているのはまたもや、メルケル首相である。首相は、「(アイルランドが破産したら)私企業(銀行、投資家)もその清算に加わるべきだ。」とやり、暗に「アイルランドの倒産は避けられない。」というイメージを強めてしまった。実際の所、アイルランドは一人頭の国内総生産高が世界で第6位の地位にあり(ドイツは16位、日本は17位)、ドイツ並みの高い税率を導入すれば、財政赤字を解消できる支払能力を持っている。ただ、病気でフラフラの時に、税率を上げてしまうと、病人の回復を早める事にはならない。又、アイルランドの経済発展の元になった低い法人税を上げてしまうと、外国企業がアイルランドから撤退してしまうので、ここでも慎重な対応が必要だ。そこでアイルランド政府は諸外国からの要請、「低い法人税を改正せよ。」を無視、法人税を据え置きする代わりに市民の税金を上げて財政赤字を埋める事にしたから、市民は怒った。

ダブリンでは大規模な反対デモが起こっているが、ギリシャの時のように放火をしたり、不埒な行動を働く者がおらず、デモは平和的に行われた。「俺たちはギリシャとは違う!」という、アイルランド人の誇りが感じられた。こうしたアイルランド人の反応、そしてアイルランドの経済状況を見ても、アイルランドが経済を立て直すことは、この先2~3年に新たな経済危機が起きない限り、十分に可能だろう。11月28日には欧州議会の緊急会議でアイルランドへの850億ユーロの財政支援が決議され、ドイツの大蔵大臣は、「これでユーロが安定するだろう。」と安堵感を漏らした。ところがここで誰かが、「次はポルトガルが危ない。」と言い出した。ポルトガルは一人頭の国内総生産高が、欧州共同体加盟国中最下位の33位。あのギリシャでさえ26位であるから、「欧州(共同体)の最貧国」だ。2010年の財政赤字は国内総生産高の80%が予想されており、アイルランドよりは赤字率が低いが、国内産業に欠け、一人頭の国内総生産高が低いため、状況はアイルランドよりも深刻だ。ポルトガル政府は、「ポルトガルは、EUからの財政支援を必要としない。」と声明を出したが、同じ文句の声明をアイルランド政府から聞いていた投資家は、これを信用しなかった。こうしてユーロは安定するどころか、さらに下落を続け、1.30ドルを切っても、一向に続落が止まる様子がない。

さらに間の悪いことに投資家はすでにポルトガルを通り越して、スペイン、イタリアの国債に目を付けている。これまでは比較的安定していたイタリアの国債の「保険料」が、上昇を始めた。現在の欧州議会の救援基金の額では、ポルトガルとスペインをまだかろうじて救済できるが、そこで終わりだ。スペインの国内総生産高は、ギリシャ、アイルランド、ポルトガルの3つを合わせたようもはるかに大きく、これが倒れると、次はイタリアに飛び火する。しかしイタリアは欧州内で第三の国内総生産高を誇るため、この国を財政支援できるだけの財源はない。イタリアが倒れると、ユーロの崩壊は避けられない。この為、欧州共同体はなんとしても、「ポルトガルまで退却しても、ここから以上は一歩も引かない。」という万全の防衛線を敷く事が必要だ。言ってみればスペインはユーロの最後の砦で、ここが落ちれば残るは最後の防衛線、イタリア戦線のみ。しかるにスペインはこれまで多額の投資をポルトガルに行っており、これがスペインの防御力を弱めている。この為、欧州共同体はスペインのお荷物になっているポルトガル政府に財政援助を求めるように要請しているが、ポルトガル政府はこれを頑固に拒んでいる。どんな国だって、ギリシャと同じレベルに置かれるのは国辱物。ポルトガル政府が、援助を拒むのは無理もない。こうして今、ユーロの下落が止まらない状況になっている。


政府の増税に反対するアイルランド市民。
390.jpg


ポルトガル首相、ソクラテス氏の話に険しい表情で耳を傾けるメルケル首相。
391.jpg

スポンサーサイト

COMMENT 0