パンドラの箱 (02.27.2011)

ドイツ人は優れた車(工業製品)を作り、日本人が優れた電気製品を作るように、ユダヤ人は金銭感覚に優れている事が少なくない。ローマ帝国に国を滅ぼされてから世界中を放浪、世界各国で偏見を受け、金貸しで生存するしか手段がなかったのが原因で、自然と金銭感覚や儲かる商売に敏感になったのかもしれない。例えばFacebookで億万長者になったZuckerberg氏。英語ではズッカーバーグと読むが、紛れもないドイツ語で、ツッカーベルク(砂糖山)、すなわちドイツ系ユダヤ人だ。その他にも、Pfefferberg(胡椒山)、有名な物理学者のEinstein(アインシュタイン)や、Morgensternなど(面白い名前は)典型的なドイツに住む(住んでいた)ユダヤ人の名前である。優れた金銭感覚で大金持ちになったもうひとりのユダヤ人(億万長者)は、George Soros氏。氏はハンガリー生まれのユダヤ人で、運よくドイツ軍のユダヤ人掃討作戦を逃れ、ソビエトが鉄のカーテンを閉めてしまう前にロンドンに脱出した。氏はロンドンで経済学を学ぶと、自身の投資会社を作り、持ち前の金銭感覚で巨額の富を築き上げた。

ソロース氏の得意技は為替操作。イギリスポンドを崩壊寸前まで追い込み、90年代のアジア危機を招いた張本人とされており、どちらの側につくかにより、大犯罪人あるいは天才と呼ばれている。そのソロース氏が2008年欧州を訪問、欧州政府に警告を発した。欧州諸国は共同の通貨を保有をしているが、共同の経済政策を実施する中央銀行を持っていない。欧州中央銀行とは名ばかりで、公定歩合を変更するしか能力をもたず、各国政府が勝手に経済政策を実施している。これでは烏合の衆であり、ユーロはソロース氏などを初めとするヘッジファンドに格好の攻撃目標を提供しているという。

わかりやすいように例を挙げて見よう”Eine Kette ist nur so stark wie ihr schwächstes Glied."とドイツ語で言う。意訳すると、「鎖の強さは、一番弱いつなぎ目に匹敵する。」という事。すなわち幾らドイツが国債の発行を抑制して国家財政を健全に立て直しても、ユーロ加盟国のひとつが、いい加減な国家財政のを実施、国家財政を破綻させると、健全な国家財政を誇っていたドイツも、同じ底なしの沼に引き込まれる。すなわち、ヘッジファンドは鎖の一番健個な部分、ドイツを攻撃する必要はなく、一番弱いギリシャを攻撃して、この国を破産させてしまえば、ドイツは言うまでもなく、ユーロ全体を始末する事ができる。

しかしソロース氏の警告はそれだけでは終わらず、欧州共同体に加わっているが、まだユーロを導入していない国、例えばハンガリーなどが経済破綻をすると、ユーロへの圧力がさらに高まり、ユーロ崩壊の引き金になりかねないと欧州の政府首脳人に警告した。ところがソロース氏の指摘とは裏腹に、当時は(まだ)ユーロは高値安定しているように見え、この為、この警告は真面目に取られなかった。ソロース氏の警告を理解したのは、皮肉にも過去、氏に痛い目に合わされた経験のある、しかしユーロを導入していない英国の首相、ブラウン(前)首相だった。氏の提唱で2008年パリに各国から大蔵大臣が集まって、欧州全体の安全システムの構築を討議したが、ドイツ政府の反対により、各国が自国の財政に責任を持つ、つまり誰かが沈みかかっても、助けに来ないという内容で同意してしまった。欧州全体の安全システムを構築するには、金がかかる。その費用は「会員」が人口に比例して支払うことになる。つまりドイツがまた最大の会費を払うことになり、これが国内政治に響き、世論調査で人気を落とす事になる。これを恐れたドイツ政府は、金のかからない方法、各政府が各自の財政に責任を持つ方法を好んだわけである。

この辺でソロース氏は、「ユーロは落ちる。」と、確信したようだ。当初はアイスランドやデンマークなど、ユーロ圏に入っていない国の経済破綻に注目が集まり、これらの国の国債は値上がりを続けたが、ギリシャやアイルランド(ポルトガル、スペイン、イタリア、ベルギー。)などの国債は比較的安定しており、「ユーロは安泰」と思われた。ところがここでパンドラの箱が開かれてしまった。皮肉にも神話の発生地、ギリシャの財政赤字の大嘘が、査定会社に暴露されてしまったのである。初陣を切ったのはゴールドマンサックス。この投資銀行がギリシャに噛み付くと、水は血で染まった。血をかぎつけたヘッジファンドは、次々にギリシャに襲い掛かった。ヘンジファンドがユーロの下落に賭けたため、ユーロの下落は加速した。もし2008年の時点で、欧州全体の安全システムが構築されていれば、安全措置が発効して悪化は止められただろうが、ダムが切れた今、洪水を止めるダムは(ドイツの反対のお陰で)存在していなかった。状況が悪化してからやっと、「欧州全体の安全システムを構築しよう!」という事になったが、またしてもドイツのメルケル首相がこれを拒否。翌月に行なわれる州選挙前に、「ギリシャを救うために税金を投入します。」と言う勇気に欠けた。結局、選挙に負けたメルケル首相がギリシャの救済案に同意する頃には、ユーロは崖っぷちを深淵に向けて転がり初めていた。

欧州政府は緊急会合して、まずはlichterloh(赤々と)燃えるギリシャを消火する為、1100億ユーロもの資金が投入されたが、そのくらいではユーロの下落に加速がついており、これを止める事ができなかった。そこで欧州各国の大蔵大臣が再度、週末に会合した。なんとしてもこの会合で合意に達し、月曜日に(東京で)マーケットが開くまでに、世界の投資家を説得できる対策を発表する必要があった。これに失敗するなら、ユーロの崩壊は避けられないと、今度ばかりはドイツの大蔵大臣にも(やっと)わかった。こうして巨額の7500億ユーロの救援基金が設置されたが、果たしてこれで世界の投資家の信用を取り戻す事ができるだろうか?ドイツとフランスの大蔵大臣は、夜中の2時過ぎまでホテルの一室でテレビの前に一緒に座って、東京で株式市場がオープンするのを見守っていた。これまで下落を続け、対ドルで1.18を記録したユーロがようやく上昇を始めて、大蔵大臣は安堵に胸をなでおろしたと、後のインタビューで語っていた。多くの市民はこれに気づきもしなかったが、この時はユーロ存続の最大の危機であった。この一件で、たかがドイツのヘッセン州程度の大きさしかない国(ギリシャ)が、ユーロ圏全体を破滅に追い込む事が可能な事、そして、現在の欧州中央銀行には政治的能力が欠けている事が明きからになった(筈だった)。

アイルランドがユーロ救済基金の適用を申請し、ポルトガルとスペインの国債の利率が8%を上に突破すると、ユーロ危機「冬の陣」がやってきた。去年のようなユーロ危機の再燃を恐れた(多分、欧州で一番敏腕な政治家の)ルクセンブルクのユンカース首相は、「ユーロ国債を発行すべきだ。」と、奇抜なアイデアを提唱したが、またしてもドイツ政府がこれに反対した。ユーロ国債を導入すると、ドイツの国債よりも利率が高くなるのは避けられず、ドイツの財政負担が増す。だからドイツはユーロ国債に大反対をした。ユンカース首相は、このメルケル首相の拒絶を、「ヨーロッパ的視野で物を見ない。」と公に非難、ルクセンブルク vs. ドイツの争いに発展した。

ドイツでは、「なんで俺たちが、ギリシャやアイルランドの為に、金を払う必要がある。」という国粋的なムードが支配的だった。日本人には理解しやすい感情だ。しかし、このドイツ人の考え方は視野が狭かった。ドイツは国内で生産した工業製品の半分以上を、欧州内に輸出して大儲けしている。ギリシャ海軍はドイツの潜水艦を製造しているTyssen&Krupp社のお得意様である。スペイン陸軍は、ドイツの戦車を製造しているKrauss-Maffei社のお得意様である。アイルランドはドイツの誇る軍需品製造会社、Rheinmetall社のお得意様である。その他、欧州各国の道路を走っているドイツ車の数を見れば、どれだけドイツが欧州内でいい商売をしているのか、一目でわかる。これからの国の経済が上向きになれば、真っ先に得をするのはドイツなのである。政治家は、「これからの国を援助する事は、我々自身の営利に繋がる事である。」と、国民を啓蒙すべきだった。残念ながらそれだけの視野の広さと説得力を持つ政治家がドイツに居なかった。テレビやラジオでも、「なんで詐欺を働いたギリシャを助ける必要がある。」という論理ばかりが繰り返され、世論でも圧倒的過半数がユーロ加盟国への援助を拒絶した

ドイツの強硬な反対でユーロ危機「冬の陣」に対応できない欧州共同体は、妥協策として中央銀行の資金をこれまでの50億ユーロから100億ユーロに倍増させる事で急場をしのいだ。つまりこの資金で、ギリシャ、アイルランド、ポルトガル、そしてスペインの国債を買い支え、1年前のような破局寸前の事態にまで悪化するのを避けたわけだが、100億ユーロではとても春先まで資金が持ちそうになかった。そこで再度、ユーロ危機が再燃する前に恒久的な解決策を出す必要があるのだが、どんなに知恵を絞っても、ユーロ国債以外に資金を安定して調達する方法がない事に、ドイツの政治家も次第にわかってきた。ところがこれまで国民を啓蒙しないで扇動してきたため、「やっぱりユーロ国際やります。」などと言った日には、非常にまずい事になる。面子を失わないで(国民にばれないで)、ユーロ国債を発行する手段はないものか?ここで誰かが、「ユーロ救済基金にまだ十分な残金がある。」と、言い出した。

7500億ユーロの救済基金のうち、これまで使用されたのはアイルランドへの援助の850億ユーロのみ。この残金の一部(2500億ユーロ!)を利用してユーロ国債を発行すれば、ドイツ政府が面子を失う事なく、又、信用度が高いので、安価に資金を調達できてしまう。こうして2011年1月25日にめでたく最初のユーロ国債が販売されたが、円高で悩む日本や、欧州に足場を築きたい中国の高い関心で、販売総額50億ユーロのユーロ国債に455億ユーロもの買い注文が殺到、大成功を収めた。これを見て、回転の遅いドイツの政治家にもユンカース氏の提案が正しかった事がやっと理解できた。こうしてユーロ救済基金を増額、ユーロ国債に充てる資金を2500億ユーロからその倍の5000億ユーロにする方向で調整中であり、3月の欧州会議で合意される見込みである。これによりしばらくはユーロが安定しそうな按配だ。ただし、欧州政府がギリシャに貸与した1100億ユーロは、到底返済の見込みがない。ギリシャ人には悪いが、この国は長年ぬるま湯に浸かってきた為、夢のような63歳の年金受給資格導入でゼネストを行う国である。経済アナリストは2013~2014年にギリシャの倒産を予想しており、それまでに欧州政府が加盟国が破産した場合の処理方法を考案している事を祈るばかりである。

補足。以前ここで紹介したUnwortについて。Euro-Kriseが2010年のUnwortになると予想していたのだが、表彰されたのはメルケル首相がユーロ救済基金導入の際に国会で使用した言葉、"alternativlos"であった。これまでユーロ救済基金に反対していただけに、この翻意を国会で説明(釈明)する言葉に欠け、「ユーロ救済基金には、他に選択肢がない。」とやり、民主主義の基本である議論を許さず、国民に既成事実を押し付けた事が原因で表彰される事になった。


同じドイツ語を話すのに、話が通じない両首相。
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