前門の虎、後門の狼。 (17.09.2011)

今回のテーマは破産国家、ギリシャ。すでに去年から何度も取り上げてきたテーマなので、「もう読み飽きた。」と言われるかもしれないが、未だに解決していない上、多分、解決する事はないと思われるので、少し視点を変えて、このテーマを取り上げてみたいと思う。それにこの問題は、他人事ではない。日本も膨大な負債を抱えており、負債高の国民総生産高比では、アフリカのどうしようもない独裁&破産国家のジンバブエに次ぎ、堂々、世界2位の地位にある。今、ギリシャ及び欧州に影を落としている危機は、遠からず日本を訪れる問題である。「他人の振り見て我が振り直せ。」の故事にもあるように、日本政府がギリシャの破産を見て、これから教訓を得る事を願って、ギリシャの問題の根源について解説してみよう。

かっては世界を2分したスペインやポルトガル、あるいは太陽が沈むことがないと言われた英国など、今ではその面影さえもない。その凋落の原因は幾つかあるが、どの国にも共通する原因のひとつに、植民地から搾り取った巨額の富を特権階級だけで山分けして、国民は得をする事がなかった事があげられる。幾ら交易で栄えているように見えても、中間層が育っていないから、戦で負けて植民地を失うと、特権階級はその収入源を失ってしまい、その国は坂を転げ落ちる様に凋落してしまった。「日本は戦争に負けて植民地を失ったのに、それでも国が発展した珍しい例。」と言われるが、日本は戦前に植民地から搾り取った利益の代わりに、戦後、中間層が育った為、経済発展を遂げることが出来た。第二次大戦後に目覚しい経済発展を遂げた国には、どこでもこの中間層があった。今、アジアで急成長を続ける国でも、中間層が国の発展に伴い育ってきた為に、7~8%もの経済成長率、中国においては二桁もの経済成長が可能になっている。もし特権階級が富を独占していたら、中間層がない為、国内需要がなく、経済成長率は4~5年で頭打ちになっていただろう。

つまり国の指導者たるもの、たかが1割を占めるその国の金持ち層ではなく、中間層を育成する政治を行わなければならない。が、実情は理想とは異なるのが現実で、裕福層は政治に影響力を持っており、又、政治家自身がこの裕福層から来ている場合が多く、自分の首を絞める政策よりも、自身と支持層に有利な政策を採ることが多い。残念なことにこれはどこの国でも見られる政策で、ある程度の不公平は、感受するしかないようだ。ただしこれをあまり前面に押し出すと、国の経済発展が止まってしまう危険性がある。

具体的な例を挙げてみよう。一国における人的資源は(中国のように無尽蔵の資源を持っていない限り)、限りがある。国が小さければ小さいほど、この資源は限られているので有効に使用する事が最優先課題である。それなのに、「大学教育は良家の出身者、あるいは推薦状保持者のみ。」などとやってしまうと、大きく育つ可能性のある種子を育てないで、捨ててしまう事になる。大学教育は(才能次第で誰でも就学できるように)解放されるべきであり、これを自費で払えない学生には国が補助金、奨学金を出すべきである。又、折角大学教育を施しても、「コネがないと就職できない。」などという風潮があっては、これまでの努力が全く無駄になる。さらには「女性は結婚後、仕事を辞めて家事に集中せよ。」などという19世紀の社会風潮が当たり前になっていると、貴重な資源の半分が無駄になってしまう。このような資源の無駄使いは、小国に限らず、日本のように比較的、人口の多い国でも行うべきではない。人的資源に限られている国が学者、技術者を誘致しており、日本の官僚的な風潮に愛想を尽かした学者が海外に流出、日本は日本の将来に必要な人的資源を海外に失っているからだ。

ギリシャの例を見てみよう。ギリシャの国内総生産高に一番貢献していたのは、なんと国、つまり「公務員」である。人口1100万人程度の小国ながら、公務員の数は110万人である。ちなみにドイツでは公務員の数が450万人で、人口に占める割合は5.5%である。つまりギリシャの公務員の割合は、人口比でほぼドイツの倍。ギリシャでは水道局や電力会社、空港、港湾、ホテル、カジノ、製油所まで国営(あるいは国が過半数の株式を所有)である。こうした国家公務員には年間1ヶ月の有給休暇を与え、毎月4000ユーロもの給料を払っていた。それだけでは足りないと、港の管理人から墓場の管理人など、次々と新しいポストを発案した。こうしたポストは「永久公務員」であり、その死後も家族がお給料の支払いを受けている。少しでも理性が残っていれば、「こんな事をしていては国がいつか破産する。」と危惧するものだろうが、典型的な南国のメンタリテーで、パーテイが終わる前にこれに参加しようと、次々に新しい公務員が採用されて、給料はうなぎ昇り。ギリシャ国民はかってない好景気に狂喜して、政府は高支持率を維持。ユーロ導入から10年間、ギリシャは保有してない金を出費し続けた。膨大な出費は国債を発行してカバー、これがばれるとお祭りが終わるので、「毒を食らわば、皿までも。」と、偽の発行額を欧州議会に報告した。EU議会内からも「この数字はおかしい。」という指摘があったが、ドイツは「重箱の隅をつつくような事はすべきではない。」と、緘口令を出した。

10年間に及ぶお祭り騒ぎは、査定会社によるギリシャ国債の冷酷なダウングレードであっけなく終わった。祭り騒ぎの後に残ったのは3270億ユーロギリシャの国民総生産高の140%を超える天文学的な財政赤字であった。ちなみに日本は2011年で国民総生産高の220%の財政赤字を抱え、2014年には246%に上昇する。ギリシャが破産国家なら、日本は超破産国家である。ギリシャの悲劇は、日本の国債が何も知らない善良な日本国民に将来の蓄えとして購入されてしまう一方で、ギリシャの国債を買うギリシャ国民はほとんど居ない事。膨大な数の公務員にお給料を払い、支払い不能を避けるには、投資家に国債を買ってもらう必要があるのだが、ギリシャの惨状を見て、投資家はギリシャの国債を遠回りし始めた。こうしてギリシャは支払い不能寸前に陥り、EUとIWFから1100億ユーロもの金を借りる必要に迫られた。

ギリシャの悲劇は、それだけでは済まなかった。これまで「親方日の丸」でやってきた為、国内産業が全く育っていないのである。ギリシャの生産物と言えば、ピスタチオ、オリーブオイルに山羊のチーズ。これで膨大な借金が返却できるわけがない。数少ない製造業でも、就職できるのは身内、あるいはコネのある者に限られており、大学を出ても就職先が見つからないため、若者の失業率が30%を越えている。さらにはギリシャの裕福層は海外に銀行口座を持っている為、一向にギリシャで所得税を納めていない。又、裕福層は税務署等にコネがあり、家を売ったり、買ったり、ボートを買っても税金を払わないで済むシステムが完璧に出来上がっており、税務署の小役人はドンキホーテと同じで、小さなボールペンでギリシャの完璧な汚職システムを向こうに戦わなくてはならないが、上層部が腐っているので、いくら頑張っても勝ち目がない。これに加えて、税務署一人の役人が25000人の納税者を担当する為、書類処理だけで手一杯で、脱税などの容疑を調査する時間も人材も存在していない。ギリシャの首相はまずこの納税システムの改善から始めるべきだったが、首相自身、裕福層の出身(ちなみに外国育ちで英語、スペイン語などを母国語以上にスマートに話す。)であるからか、それとも外国で育った為に、国の納税事情を把握していない為か、税務署の抜本的な改革を行わず、小手先の処置、消費税の値上げ、公務員の給料カット、年金需給年数の繰上げで対処した。この方策は穴の開いた網で漁をするに等しく、大きな魚(お金持ち)は穴から逃げ出して、網に残ったのは雑魚(中間層、及び下層階級)ばかりだった。この中間層、及び下層階級に大きな負担を要求する政策は、公民の猛烈な反対に遭った。

この荒治療によりギリシャの財政赤字は国内総生産高の12%から8.8%まで「改善」したが、その代償は高かった。まず銀行が買い手の見つからないギリシャ国債を抱えて、資金難に陥り、日本のバブル経済破綻時のように、生き延びることに専心、一向にクレジットを与えなくなった。ただでも競争力の低いギリシャの産業界は、設備投資が出来ず、全く停滞してしまった。又、消費税が21%に上昇する一方で、賃金カット、さらには所得税の上昇に伴い、市民には余計な出費する気力だけでなく、その金銭的余裕がなくなった。結果、ギリシャは大不況に見舞われてしまった。大不況にて税収入は減少する一方だが、膨大な数の公務員に給料を支払い続けなくてはならない。こうしてギリシャの財政赤字は、財政支援の条件として約束した7.6%に達しないことがわかってきた。ギリシャが目標に達しないという事は、当初決定された1100億ユーロの財政支援では足らないという事になる。この事態が明らかになると金融市場への波紋を恐れた欧州議会は、ギリシャへの財政支援第二段として600億ユーロの追加支援について討議を始めると、欧州各国で「もういい加減にしろ。」という意見が聞かれ始めた。

ギリシャが目標に達しない事がわかると、その原因探しが始まったが、その原因は明らかだった。ギリシャは、財政支援の代わりに港や空港の売却、民営化を約束したが、これは一向に進んでおらず(高級官僚の意図的仕業?)、未だに膨大な数の公務員を抱え、その給与の支払いは薄いギリシャの税収入にぽっかり大きな穴を開けていた。ギリシャの財政赤字をチェックする為にアテネに到着したTroika(IWF,欧州中央銀行、欧州議会員からなる)は、その数字を見て、わが目を疑った。民営化は全く進んでおらず、税収入は不況により停滞、この調子で行けばギリシャは2014年までに600億ユーロではなく、最低でもさらに900億ユーロの財政援助が必要になることがわかってしまった。ギリシャの惨状に驚いたTroikaは、ギリシャが必要とする財政支援の支払いを許可しないで、そのまま帰国してしまった。こうして時限爆弾が出来上がった。ギリシャは欧州議会とIWFに約束した民営化を達成しない限り、財政支援を受けることができず、10月中に支払い不能に陥る。欧州議会とIWFは、どう対処すべきか?「底なし沼」と化したギリシャに対して、約束された民営化が進んでいないのに、Blankoscheck(白紙の小切手)を出すべきか?これは猛烈に自国民に受けないだろう。しかしこれを拒絶するとギリシャは倒産、ユーロ圏が崩壊する危険がある。しかし、未来永劫に白紙小切手を出し続けるわけにもいかない。

これに米国の景気回復への懸念、中国の景気の鈍化への心配も加わって、金融市場で株価とユーロの暴落が始まった。メルケル首相は、「ギリシャは約束を守ると言明している。」と不安定になった金融市場を落ち着けようとしたが、副首相のレスラー氏が「ギリシャの破産も考慮すべきである。」とやって、首相の意図を台無しにした。政府と野党で意見が異なるならわかるが、政府内で意見、つまり政策が一致していない事を露呈したこの発言は、金融市場に大きな衝撃を与えて続落、2年ぶりの最安値を更新した。レスラー氏、すなわちFDPは先の地方選挙で2.5%という極めて低い得票率を記録した。これはどうしようもない極右政党の得票率の半分以下である。このままでは9月18日に行われるベルリンでの地方選挙でも同じ結果になってしまう。そこでマスコミの注目を集めるべく、レスラー氏は政府内野党の役割を演じて、ギリシャ支援に圧倒的多数で反対している国民からの「おこぼれ」に授かろうとしたわけである。レスラー氏は、「火に油を注ぐような発言は控えるべきだ。」とメルケル首相からお叱りを受けると、子供のようにこれに反抗、「意見の自由は守られるべきである。」とやった。ユーロ圏、ひいては欧州の運命よりも、党の得票率を優先するレスラー氏の発言は、氏の政治家としての器の大きさ(小ささ)をよく表している。

つまる所、典型的な「コレラがいいか、ペストがいいか?」という状況、中国の故事なら、「前門の虎、後門の狼。」の状況である。このまま白紙小切手を出し続けて時間を稼いでも、破局(倒産)を先延ばしするだけである。ギリシャは事実上、すでに倒産している。自力では呼吸もできない患者を延命装置(財政援助)に繋げて、無理やり延命しているに等しい。そしていよいよ破産すると、2000億ユーロもの介護費用が全くの無駄に終わる。なら、今、延命装置を外すべきではないのか。しかし、この10月にギリシャを破産させると、世界中で景気が悪化している現況では、2008年のリーマン破綻を上回る大恐慌に発展するだろう。たかが1つの投資銀行の倒産で、あの世界不況である。小さいとはいえ、ひとつの国家が破産するとその余波はもっと大きい。ギリシャの国債を大量に保有しているフランスの銀行、そしてドイツのCommerzbankは生き延びることができるだろうか(ドイツ銀行はこっそりとこの紙屑の大部分を処理済み。)。ギリシャ破産の余波は、世界の銀行システムを震撼させる事になるだろう。こうして欧州議会とIWFは、無駄使いと知りながら、今後もギリシャに財政支援を行うしか選択肢がない。
          
それでもギリシャは、まだ運が良かった。ギリシャが逝ってしまうとユーロ圏の崩壊に繋がりかねないので、欧州諸国は歯軋りしながらも、資金援助をするしかない。もし、日本が今のギリシャの状態に陥ると、誰も助けには来ないだろう。毎年、発行額を増大している日本の国債は、(毎年、信用度を落としている事も手伝って)いつかは供給が需要を増して、売れ残る事になる。国債が売れないと、国は公務員の給料、国債の利子が払えなくなる。そんな国債は急速に価値をなくして、日本はあっという間に支払い不能に陥いるだろう。この時点になってからIWFに泣きついて財政援助を申請、消費税を21%に上げても、ギリシャの例でわかるように、すでにとき遅しである。日本は、かって世界を二分したものの、今ではその面影も残っていないスペインやポルトガルのように、「アジアの経済大国。」などと過去の栄光に浸ることを辞めて、「アジアの借金大国」という事実を自覚して、もっと危機感を募らせるべきではないだろうか。
          
追記
9月18日に行われたベルリンの地方選挙で、レスラー氏の起死回生を賭けた必死の努力にもかかわらずFDPは1.8%という過去最低の得票率を記録して、州議会から消えた。2週間前の惨敗をさらに下回る快挙の手柄は党首、レスラー氏にある事は本人にもわかっている様子で、終始、下を向いて寡黙だった。この敗北をさらに哀れにしたのは、8.9%の得票率を獲得して始めて州議会に議席を確保したPiraten Partei(海賊党)だ。ユーロ危機について意見を尋ねられて、「よく知らない。」と堂々と答える本当の素人の集まりである。その党が、曲がりなりのも政府与党のFDPの4倍強の得票率を獲得するという事態が、市民の政府への憤り、失望、そしてベルリン市民のデカダンス的風潮をよく現している。

破産国家ギリシャ問題で、
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全く話がかみあわない政府首脳陣。
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